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見習い魔術師の100の呪文  作者: ユキカゴ
第一章 フォーミル
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裏第一話 エドワード

この物語は、ノエルが魔術師になる前の物語…。

ノエルの師、エドワードの物語です。

俺たちには、俺たちしかいなかった。

世界という言葉は、俺たちの事とばかり思っていた。

他者と触れ合うなんてことはなく、またそれに担う事もない。

そういう考えがあった。

俺、エドワード・フォートはそう思う。


「ああ…まだ降るのか、まったく…飽きやしないな…雨って野郎は」


「ふ、まあ、よいではないか、エドよ」


「そーそー、僕たちにとって、雨は母だぜ?母なる聖地、ここ【アルフェグラ】に生まれた聖子」


「それを、ただ汚すという事は許されるまい、リーダー」


「…そうだな、アルフェグラは、俺たちの聖地だ」


俺たちは、ここをアルフェグラ…大いなる楽園と呼んだ。

俺たちしか住んでおらず、廃墟ビルや腐った肉。

その他人工的に作られた施設なんかも崩壊している。

昔、大空襲によって、ここは崩壊した。

その際、俺には家族というものがあったが、皆空襲であの世に逝った。

俺は、自宅にいて、そこで空襲を受けたが、奇跡的に生き延びた。

母が、俺を土に埋めたからだ。

大きめの五右衛門風呂のようなものを、土を掘って入れて、そしてそれの中に俺を閉じ込めた。

しばらくして、母は紐をその中に入れた。

自力で抜け出すためのものだ。

母は、最期に何か言い残し、そして土に埋めた俺を置いて去った。

俺はその時、母の事が好きだった。

母は、俺の一番の理解者で、俺にとって、唯一の肉親。

父は早く亡くなった。

兄弟は、おらず、俺一人がそこにいた。

そして、俺は紐を引っ張る。

母に会うために。

そう、俺はこの時、母に捨てられたと思っていたんだ。

だから、待って、行かないで。と、そう言いたかった。

けれど…。

母は、去ったあと、俺の食事として、飴袋を持ってきていた。

飴袋の名前は、アルフェグラ。

キャラメルとかイチゴとか、とにかくバリエーション豊富な飴がたくさんあって、子供に大人気だった。

俺が土から出てきたのは、母が俺に飴袋を置こうとしたときで…。

その時、空襲が俺たちの家を襲った。

無論、家は全壊。

俺は、激しい音を聞いて、慌てて外に出ようと紐をひっぱった。

すると、土に被っていただろう蓋が、どんどんと土を押しのいて上へ上へと上がる。

どうやら、井戸か何かにひっかけていたようだ。

空襲が来ていても、なぜかこの紐が千切れなかったことは奇跡に近い出来事だった。


「お母さん…お母さん!」


俺は叫んで、そして…ようやく土を押しのけ終えたところで、かぶっていた土が五右衛門風呂へと侵入してくる。


「ぶっぐ・・・つ、土が目に…痛い…痛いよ…」


目に土が入って、出口のわからない俺は、とにかく上を目指した。

そして、俺は何かに捕まった。

…生暖かい感触。

どことなく、安心できる手触り。

人の肌の柔らかさだ。


「お母さん!そこにいるんだね!えへへ、僕やっと…」


腕を…握った、握って…それで…母と思われるそれが、妙に軽い物と思った。

最初は何も感じなかった。

母の顔を見る事が今幸せで、母の笑顔が…。


俺は、土から顔を出して、ようやく外に出た。

目を服で簡単に土を落とした手で何回かこすり、目の土を取る。

そして、俺は出てきた五右衛門風呂の埋められた所を見ると…そこには、

…人の腕が、無造作にあって、関節から肩までがもうなかった。

けれど…その腕の…先、手のひらには…。

俺の大好きな、アルフェグラがあった。

母がよく買ってきてくれたアルフェグラ。

いつも横で母とニコニコしながら…口にして、幸せを感じていた…飴袋。

そして、無残に家を破壊され、原型すらなく、柱一つ一つがもう崩れきっていたそれに、人らしきものがあった。


「え…、あ…あ…あぁあああぁぁああああぁあああああうわぁああああああああああぁあああああああああああ!!!!」


思わず叫んだ。

訳が分からない。

俺が、何を、母が何を…。

崩れた柱に、突き刺さった人の体。

それは、女体。

そして…それは、俺のよく知る人物。


「おかあ…さ…おかさぁあああああああああああああああああああああああああああああああぁあああああぁあああああああん!」


母は、もう、死んでいた。

それから、俺は…施設へと送られた。


母の形見。そう考えていつも片手にアルフェグラを握っていた。

施設では、俺よりも傷ついた子供が何人もいた。

けれど、数えられる程度。

ざっと30人ぐらい。

当時、俺は7歳で、母という存在の大きさを大いに感じて、俺は友達というものをつくったことがなかった。

だから、他者との慰めを見ても、なんとも思わない。

ただ、唯一を失われた絶望感が、俺を不快にさせるだけだった。

こんな所、早く出ていきたい。

そう、俺は思った。

………

……


「リーダー、そろそろ…始めるぞ」


「…ああ、アルフェグラ計画、スタートだ」


俺たちは、ここ、アルフェグラの領地拡大をするために、他国へ戦争を仕掛けるのだ。

それが、アルフェグラ計画。

俺たちの…国造りだ。


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