ノエル王子のひとりごと
「やった、やった、やったぁぁ……っ!」
こらえきれない歓喜を爆発させ、ノエルは第二王子としてのいつもの気品も何処へやら、ピョンとベッドにダイブした。うつ伏せのまま、白いソックスを履いた足をパタパタと小刻みに跳ね上げる。
顎のラインで切り揃えられた、さらさらな金髪のおかっぱ頭。母親譲りの潤んだ青い瞳に、透き通るような白い肌。その可憐な「美少年」の口から漏れたのは、なんとも計算高い、楽しげな笑い声だった。
「えへ、えへへへ……っ」
ノエルは枕元にいた二つのぬいぐるみをぎゅっと抱き寄せた。淡い桜色と水色のクマ。兄の元婚約者、ソフィア・ローズウェルから贈られた彼の大切な宝物だ。
「ついに婚約破棄! 兄上とソフィアの縁が切れたんだ! あははは! うれしいな、本当に最高だね。おまけに、あの寒くて寂しい北の国へ追放だなんて。サビーナだっけ? もう、神様に感謝しちゃうよ」
すっかり上機嫌なノエルは、二つのクマを向かい合わせに座らせて、即興の一人芝居を始めた。
「ソフィア、いろいろあって大変だったね」
水色のクマが、ノエルの少し低めな、格好をつけた声で囁く。
「あら、何のことかしら?」
桜色のクマは、ノエルの可愛らしい高音で小首を傾げた。
「兄上のことだよ。その……例の、婚約破棄のお話……」
「あらノエル様。わたくし、なーんにも気にしておりませんのよ?」
「えっ、本当なの?」
「ええ。むしろ、とっても清々したわ」
「……そうだよね。あんなクズ男、ソフィアには全然似合ってなかったもん」
「あらノエル様、そんなことを言っちゃ、クズに失礼ですわ」
「「うふふ、あはははは!」」
一人二役のデレデレな笑い声が、豪華な寝室に響き渡る。
水色のクマが、桜色のクマの手をぎゅっと(もちろんノエルの手を借りて)握りしめた。
「ところでソフィア。君は今、婚約者がいないんだよね?」
「ええ、そうですわね……」
桜色のクマが、不安げにうつむく仕草をしてみせる。
「大丈夫、僕がついているよ。……僕にも婚約者はいないんだ。兄上の母上――第一王妃に、ことごとく邪魔をされてきたけど……今となっては、むしろ好都合だね」
クマの口を借りて、ノエルの本音がいきいきと零れ落ちる。
「というわけで。僕たち、婚約しちゃわない?」
「ノエル様……! まあ、嬉しい……っ!」
直後、二匹のクマは熱烈な口づけ(を模して、ノエルが勢いよく衝突させただけだが)を交わした。
満足したノエルは、用済みとばかりにクマを放り投げると、再びベッドで足をバタバタさせた。
「うん、イケるよ! 絶対に大丈夫!」
謎の自信に満ち溢れたキラキラの笑顔で、彼はさっさと毛布に潜り込んだ。
もちろん、部屋には控えていたメイドがいた。彼女は「何も聞いていません」という顔で、無表情に壁を見つめていた。美貌の王子が残念すぎるとは内心思ってはいたが。




