甘美なる報復の二重奏
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「ワッハッハ! 聞いてくれ、朗報だ。しかも二つもあるぞ」
高笑いと共に「対策課」の扉を蹴破らんばかりの勢いで入ってきたのは、理事長イングリッド・シンクレアだった。アテナたちの視線が一斉に彼女に集まる。
「さて、どちらから聞きたいかな?」
イングリッドは、まるで行商人がとっておきの商品を取り出すかのように、悪戯っぽく微笑んだ。
「どちらからでも構いませんわ。意地悪をなさらず、早くお聞かせくださいませ」
ソフィアが待ちきれない様子で先を促すと、イングリッドは「ははっ、そうだね」と頷き、表情を引き締めた。アテナ、ソフィア、アイリスの三人は、その唇からこぼれる言葉を逃すまいと、じっと理事長を見据える。
「まずは王太子だ。五大公爵家をはじめ、多くの貴族から廃嫡要求が突きつけられた。流石の国王も、これ以上は庇いきれんと判断したようだね」
イングリッドは一度言葉を切り、勝ち誇ったように告げた。
「正式に廃嫡が決定した。さら国外追放を兼ねた『留学』が命じられた。行き先は、サビーナ・アカデミーだ」
その名を聞いた瞬間、アテナの唇が吊り上がった。
「……あの、極寒の地にある。刑務所よりも刑務所らしいと噂の?」
「その通り。我が国のような常春の楽園とは真逆の、一年中雪と氷に閉ざされた監獄同然の学び舎だ。今頃、王子様は塔の中で半狂乱になって暴れているらしいよ」
「その地から逃げ出したりはしませんかしら?」
アイリスが懸念を口にすると、イングリッドは鼻で笑った。
「その時は即座に王籍剥奪。無断帰国が発覚すれば、今度こそ本物の石牢行きだ。この留学は、王族としての体裁を保つための最後の温情に過ぎない。裏切れば、国中の貴族が黙っていないさ」
「……随分と、シビアな裁定ですね」
アテナが呟くと、イングリッドは深く頷いた。
「これ以上甘やかしては、国王自身の首も危ういからね。幸い、王子や王女の替えはいくらでもいる。そのうちマシなのがうちの学園に入ってくるだろうさ。我々でしっかり『教育』してやろうじゃないか」
「あの方が未来の王でなくなる……それだけで、胸のつかえが取れましたわ」
「ああ、本当にね。この国が滅びる様を見るのは、寝覚めが悪い」
一同はしばし、訪れた静かな勝利の余韻に浸った。
「――それで、理事長。二つ目の朗報というのは?」
アテナが思い出したように尋ねると、イングリッドは「おっと、そうだった」と指を鳴らした。
「例の娘……あの子は何と言ったかな」
「カサンドラ様ですわ」
ソフィアが即答すると、イングリッドは冷ややかな笑みを浮かべた。
「そう、カサンドラだ。彼女の実家は国王の怒りを買い、領地を没収された。何とか理由をこじつけたようだが、庇う上位貴族もいなかったようだね。そして、すべての元凶となったカサンドラ本人は――実家を叩き出されたそうだ」
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連載はちょっとしんどいのですが、
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