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積み木遊びは、自分たちで作ってこそ


「ノア・エルグレイス……きさまは死んだはず!」


 この中じゃリーダー格っぽい司祭が、俺を指さして叫んだ。


「罰が必要なクソどもが野放しになってるってのに、神々がサボってるんでな。代わりに裁くため、わざわざ死の淵から舞い戻って来てやった」

「バ……バカな……」


 司祭たちがじりじりと後退しながら、額に大粒の汗を滲ませる。

 だがその中の一人が、突如として両手を俺に向けて叫んだ。


「喰らえッ! ファイアボルト!」


 手のひらから放たれた赤い火球が、まっすぐ俺へと放たれる。

 とりあえず、ハエを払うように手の甲で弾き飛ばしてやった。


「今だ! シールグラヴィス!」


 リーダー格の司祭がそう言って、地面に両手を突き立てる。

 魔法陣が俺の足元に展開され、そこから無数の光る鎖が飛び出してきた。そして俺の四肢を縛りあげる。

 鎖はキャロルにまで伸びていき、ついでにといった感じで拘束されてしまった。


「うわ! わわ! こ、このー! 僕は神の使いだぞ! 離せ、離せバカ!」


 あれだけ喚けるんなら、あいつは心配なさそうだな。


「なるほど、こっちが本命だったわけね。やるじゃん。仮にも光輝教団が誇る司祭ってわけだ」

「ぐふふふふ。強がって余裕ぶってる場合じゃないぞ、ノア・エルグレイス」


 司祭のリーダーの下品な笑い声に続き、他の司祭どももグフグフと笑い出した。


「殺しても復活するというなら、そうだなぁ。封印して貴様の魔力を吸収し、永久に光輝教団のエネルギーとして使ってやるか」

「へえ。そんなこともできるんだ、光輝教団は」


 だとすると、魔力の高い生物なり人間なりを、こいつらのエネルギーか何かに変換してそうだな。

 例えば……魔人とか。


「ぐふぐふふふふふ! せっかくぶち殺された堕天どものリベンジに、死にぞこなってもらったというのになぁ」

「そういえばおまえ、妹も殺されたそうだな? なのに仇も取れずにこのざまとは、惨めよのぉ」

「ザコの兵士どもを片づけたくらいで、調子に乗ってるからだ。この愚か者が」


 こちらが何もできないと踏んでか、ここぞとばかりに煽りちらしてくる。


「おまえらは、魔王と戦ったことないよな」

「はぁ? 何を言い出すかと思えば、この期に及んで自慢話か? 身動き取れないから、過去の栄光にすがるしかないというわけか」

「よくそんなに余裕でいられるな。魔王はこの程度の拘束、簡単に引き千切るぞ」


 せっかく忠告してやってるのに、そろってバカ笑いを始めたじゃないか。


「ぶひゃひゃひゃひゃ! なんだおまえ、魔王にでもなったつもりか?」

「なら、引きちぎって見せてくださいよー!」


 なんというか、いい感じに口が悪いな。こいつら本当に司祭か?

 俺はため息をついたあと、魔力を体外へ放出させた。縛り付けていた鎖が吹き飛ぶようにはがれて、粉々になる。


「は?」

「う……ウソ……」

「バ、バカな」


 はは。勝ち誇ったりビビったり、忙しいやつらだな。


「ぷはぁ! おまえら、よくも神の遣いを縛り付けたな! 主さま、こんなやつら、さっさと天罰ですよ」


 俺の手によって司祭の魔法が破られ、キャロルも無事に解放されたようだ。

 言われるまでもなく、お仕置き再開と行こうか。


「ひ、ひぃ!」


 睨みつけてやると、リーダー格の司祭が情けない悲鳴を上げた。

 さっきの勢いは何処へやら。


「た、助けてくれー!」


 俺が近づいてくるのを見て、ついには司祭どもが逃げ出した。そして建設現場に隣接した森のほうへと向かっていく。

 ちょうど森の入り口付近に、光輝教団の兵士が数名立っていた。

 ああ、あいつらか。

 先に向かわせておいたってのに、ようやく到着したらしいな。


「お、おい、おまえら! あいつを止めろ!」


 司祭の一人が、兵士の肩を掴んで揺する。

 しかしその兵士は掴んだ手を振り払い、逆に司祭の両肩をがっしりと掴んだ。


「へ?」


 間の抜けた声を上げたと同時に、兵士がそいつの首筋に噛みつく。

 あいつらは最初に森の中で始末して、アンデッド化しておいた兵士どもだ。

 しかも罪深いやつだけをターゲットにするよう、インプットしてある。

 さあ、噛まれたらアンデッドの仲間入りだぞ。


「うわぁあああああ! な、なんだきさまら!」

「ひぃぃぃいいいい!」

「に、逃げろー!」


 森のほうへ逃げようとした連中が、再び引き返してくる。

 しかし、アンデッドと化した兵士たちが、全力疾走で追いかけていった。


「きゃはははは! アンデッドなのに早い早いー!」

「通常のアンデッドと違って、生前の肉体を維持しているからな。ターゲットを見つけたら、あのとおりだ」


 しかも体力の限界を超え、肉体は常にフルパワーで動く。アンデッドのやつらは意識があるから、生前と同様、走り続ければ苦しくもなる。だが意識はあっても意思は奪われているので、目的を達成するまで止まることも休むことも許されない。


「ほらー! がんばれがんばれー! 捕まっちゃうぞー!」


 疲労から逃げる速度が落ちてきた司祭どもに、キャロルが檄を飛ばした。

 ついに連中が捕まって、あっちこっち噛まれだしたな。ゲームオーバーってやつだ。

 その様子を見ていたキャロルは、相変わらず腹を抱えてキャッキャと笑っている。

 こいつもやっぱり、心から楽しんでるように見えるな。ひょっとして神々は、天使ではなく悪魔でも遣わしたのか?


「あらかた片付いたか。キャロル、探索で状況を確認しろ」

「はーい、主さま!」


 例のごとく元気な返事をしてから、キャロルがくるくる回りながら宙を旋回した。

 そして空中でピタリと止まったあと、目を閉じる。

 しばらくして、彼女がまっすぐこちらへ向かってきたかと思うと、子供のように飛びついてきた。


「わ! こら、離れろ!」

「わーい、ごめんなさーい!」


 からかうようにそう言ってから、ぴょんっと離れる。

 まったく……監視役のクセして、勝手に懐きやがって。


「それで、どうだった?」

「生きた人間は、もういないですね。村人たちも全員、この場から逃げ出せたみたいです」


 本当だろうな……。

 念のため俺は、堕天使の翼を広げて空へと飛び上がった。

 周囲を見渡し、目視確認する。

 確かにもう、動いている者はアンデッドになった連中だけだ。神殿の建設現場の外も確認したが、特に逃げた兵士は見当たらない。森の中に逃げられたら面倒なので、そちら側は常に注意していたし。

 どうやら、嘘ではなさそうだな。

 確認を終えて、ふわりと地面へ降り立つ。


「ぶーぶー! 主さま、僕のこと疑ったー」

「おまえの力が本物か、改めて確認しただけだ」


 まだキャロルの力がどのくらいの精度なのかが分からんし、鵜呑みにするわけにもいかない。

 ゴミは残したくないからな。俺はきれい好きなんだ。


「さあて。罪人どもに、相応の罰を与えるとしようか」


 パチンと指を鳴らし、堕天の魔力を周囲にばらまく。そこら中で地面が割れ、ストーンゴーレムが次々に這い出てくる。

 そいつらが各々動き回り、光輝教団の兵士たちが落としていった鞭を拾い上げる。

 そして一斉に鞭を地面へ打ち付けた。

 ピシャーン!

 気持ちのいい音が、現場全体に響き渡った。

 それを合図に、死体となった兵士たちがのっそりと立ち上がった。もともとアンデッドだったやつらも、噛まれてアンデッドと化した司祭どもも、背筋を伸ばして制止する。


「積み木遊びは、自分たちで作ってこそだろ? そして遊び終えたら、自分たちで片づけること! それが終わったら、眠って良し!」


 そう言ってパンッと手を叩くと、ストーンゴーレムたちが再び鞭を打ち付けた。

 兵士たちがのっそり動き回る。ある者たちは岩を動かし、ある者は土砂を運ぶ。

 動きが鈍い兵士に、早速ゴーレムが鞭を打ち付けている。

 アンデッドとはいえ脳は正常だから、痛いんだよねアレ。


「神殿が完成して、そこから解体するのって、どのくらいかかるのかなー」

「鍛えられた兵士だし、リミッター外れたアンデッドだからな。まあ1、2年ってとこじゃないか? 知らんけど」


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