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堕天使降臨


 女を無事に村へ送り届け、他の村人が帰ってくるのを待つようにと伝えた。

 そして俺は今、岩山の高台から神殿の建設現場を眺めている。

 光輝教団の兵士と思われる男があちこちに点在し、鞭を地面に打ち鳴らしていた。

 村人と思われる人々はみな、貧相なぼろきれを身にまとっている。巨大な石を運ばされたり、土砂を運んだりしている彼らの顔には、もはや抵抗の意志を感じない。

 少し離れたテントでは、光輝教団の司祭であろうヤツらが、働かされている村人たちを見物しながら談笑していた。

 やってることがもう、悪の組織の典型だな。


「ここから見える範囲内にいる人間すべての、罪の数値を図れ」

「はい、主さま!」


 キャロルが前かがみになって、全体を眺めまわす。


「あー、これはもうアレですね。兵士の格好してるヤツらと、あっちの司祭みたいなヤツら、漏れなくクズでーす!」


 光輝教団関係者の中にも、マシな奴はいるかもしれん。そう思って、念のため確認させているわけだが。

 ふふふ、分かりやすくて助かるよ。

 それでこそ、こっちも心置きなく楽しめるというものだ。

 そして今まさに、疲労からか膝をついた女が、クズの一人に鞭で打たれようとしている。

 俺の見ている前で罪の上乗せとは、いい度胸だ!


「罪人に堕の天罰を!」


 鞭を振り下ろそうとした男に手のひらを向け、青黒い雷を空から落として直撃させた。

 この雷も地獄の炎と同様、破壊は一切発生しない。ただ食らった人間が、きれいな死体へと化すのみだ。

 雷を受けた男が、体を痙攣させてから倒れる。目の前にいた女は、何が起きたのか分からないといった様子で、倒れた男を凝視していた。

 周りにいた村人たちも、驚いた様子で仕事の手を止めた。


「な、なんだ! 何が起きた?」

「おい、きさまら! 説明しろ!」


 クソ兵士どもが、雷が落ちた場所へわらわらと集まってくる。

 ふふふ、慌てろ慌てろ。きさまらもすぐに、同じ目に合わせてやるぞ。


「主さま、楽しそうですね」


 隣にいたキャロルが、俺の顔を覗き込むように見上げている。

 無表情を決め込んでいたつもりだったが、どうやら口角が無意識に上がっていたらしいな。


「ああ、楽しいね。天国を拒否したのは、これを味わえないからだ。腐った連中が狼狽し、魂の底から苦痛に歪むのを観る。こんなにも愉快で楽しい娯楽はない」


 俺がそう答えると、キャロルは満面の笑みを返してきた。


「僕もです!」


 こいつはいったいなんなんだ。神から遣わされた天使のくせして、人間どもを狩る行為が楽しい?

 それは本心なのか。だが確かに、最初からこいつは復讐に賛同しているし、積極的に協力してくる。


「どうしたんですか、主さま?」


 不思議そうにこちらを見上げてくるキャロルに、目線だけを向けて見下ろす。

 なんだか、よくわからん奴だな。


「なんでもない。では、行くとしようか。連中に、相応の罰を与えにな」

「はい、主さま!」


 俺は堕天の魔力によって、背中に黒い翼を生成した。これで見た目も、完全に堕天使だな。

 高台から飛び降り、電を落とした男のもとへと舞い降りていく。その後ろからは、天使の翼を持ったキャロルがついてきた。

 俺たちの存在に気付いた者たちが、指をさしながらざわめきだす。


「か、神様?」


 先ほど鞭で打たれそうになっていた女が、ぽつりとつぶやく。


「な、何を言ってるか! 真の神は、我が光輝教団が崇めるセレナリア様のみ!」

「きさまら、何者だ!」

「みょ、妙な魔法で翼なんぞ生やしやがって。怪しい奴らめ!」


 兵士どもが怯えた表情を見せつつも、横柄な態度で凄んでくる。

 そいつらの前に降り立つと、後ろからキャロルが俺の肩に飛び乗るようにして抱きついてきた。馴れ馴れしいやつだな。


「えーっと、このクズは弱い者を踏みつけたり、色々とひどいことしてますね。あ、こいつは子供にまで容赦なく! あいつは女の人に、最低なこともたくさんしてますよ! もうみんなひどすぎて、ほんと引くわー」


 俺に抱きついたまま兵士を一人ずつ指さし、キャロルが罪状を上げていく。

 まあ、総じてクソってことだな。

 そんな兵士どもに、問答無用で地獄の炎を放つ。


「「「「ぎいぃぃぃやぁぁあああああああ!」」」」


 連中が黒い炎に焼かれて転げまわり、周囲の村人たちが慌てた様子で後ずさる。

 遠く離れた兵士どもも、異変に気付いたようだ。クソどもが四方八方から、こちらに向かって集まってくる。

 そいつらめがけて、地獄の炎を連発していく。

 あちこちで黒い炎が立ち上り、悲鳴の数が増えていく。


「大当たりー!」


 炎に包まれた兵士たちを観ながら、キャロルがぴょんぴょん跳ねてはしゃぎまわる。

 その様子に驚いてか恐怖してか、村人たちが俺から距離を取っていく。


「あんたにお願いがある」


 俺はいまだ地面で膝をついている女に声をかけた。

 彼女がビクッと肩をすくめる。

 まあターゲットの兵士どもがどんなやつだろうと、人間を燃やしまくる男は怖いよな。


「光輝教団の連中はこれから、己の罪により罰せられる。よって、この地はもうすぐ光輝教団の支配から解放されるだろう。だから罪なき村の者たちは、隙を見てこの場から離れ、村へ帰れ。みんなにそう伝えてくれないか」


 復讐したいだけの俺が、こんなことを言うのもおこがましい気はするけど。

 しかし虐げられる者たちを見ると、やはり死んでいった仲間たちと重なってしまう。だから助けたいというのも本心だった。

 俺の言葉に女は無言でコクコクとうなずき、立ち上がった。そして彼女は何を思ったのか、祈るように手を組んで頭を下げた。

 一応、感謝されたってことなのか。それはいいんだが、神様でも拝むようなポーズが気になる。


「俺は神様なんかじゃない。そういうのはやめてくれ」

「いえ! あなた様は私にとって、悪魔の手から救い出してくれた神様です!」


 その言葉に、思わずため息が漏れる。

 これから俺が実行していく残酷な復讐を知れば、この女も考えを改めるだろうな。


「ほらほら、邪魔だよ! あとは主さまに任せて、早く村に帰ってよね」


 キャロルが俺の前に立ちふさがり、しっしっと女を追い払う仕草をしてみせた。

 それに応じてか、女はペコリと頭を下げてから他の村人たちの元へと駆けていった。


「さあさ、主さま! 罪人たちへの裁きを進めましょ!」


 そう言ってキャロルが、俺の腕にしがみついて密着してくる。そういえばティアも、こうして抱きついたりくっついてきたりして甘えてきたな。

 こいつを見ていると、いちいち思い出して気持ちが落ちる。

 だが復讐心を忘れないという意味では、悪くないかもしれん。

 一回だけ大きく深呼吸してから、心を落ち着かせて正面へと顔を向ける。


 光輝教団の連中は、あとどれくらい残っているのか。

 周囲を見回した限りだと、あとは兵士が十数名。そしてテントあたりでくつろいでいた、数名の司祭か。

 それを確認してから、テントのあるほうへと歩を進めた。近づいてくる俺を見て、司祭どもが慌てた様子を見せる。

 歩きながら、ついでに残った兵士どもへ一発ずつ黒い炎をお見舞いしていく。

 叫び声とともに、燃えながら転げまわる兵士たち。その様子に他の兵士たちが震えあがり、ついには悲鳴をあげて逃げ出した。

 そいつらの背中に向かって、炎を次々と打ち込んでいく。誰一人、逃がす気はない!


「き、きさまは一体……いや! きさまは……まさか!」


 テントへ近づくと、司祭どもが驚きの表情を浮かべる。そういや俺も、こいつらの顔には見覚えがあるぞ。

 あの日、聖騎士団とともに俺の仲間たちを虐殺していった連中だ。


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