死んで楽になれると思うな
俺の堕天による電撃魔法が、光輝教団の兵士であろう男の一人を貫いた。
腰のベルトを緩める途中のポーズで体をビクビクッとさせてる様は、なんとも滑稽で笑える。
それにしてもキャロルの探索魔法のおかげで、早くも光輝教団から排出されたゴミどもを見つけ出せたな。
こいつはサポート役として、思った以上に使えそうだ。
しかも今まさに、罪のない女が危機一髪だったらしい。妹のティアと似たような状況だったこともあり、とりあえず助けることができてよかったと思う。
「主さま。こいつら、光輝教団の下っ端兵士みたいですよ。下っ端のくせに人の上に立った気でいる、哀れなやつらですー」
「ゴミどもに、上も下もないだろ」
俺たちがそんなやりとりをしていると、女を押さえつけていた男どもが彼女から手を離して立ち上がった。
「な、なんだテメェら! 何をしやがった?」
「爆裂系の魔法か? いきなり不意打ち決め込みやがってよぉ」
「俺らを光輝教団の兵士と知ってて、やりやがったのか? ああ?」
唾を飛ばしながら、ギャーギャーとわめき散らす。
さて、この連中がゴミなのは確定だとして……だ。
「キャロル。こいつらはいったい、どんなクズどもなんだ?」
「えっとー、今見ますねー」
キャロルが前かがみになって、過去を透視する天魔法を発動させる。
天使が使うのは天属性だ。俺も天属性だった頃にキャロルと同等の魔法が使えていたなら、光輝教団のヤツらに騙されることもなかっただろう。
もっとも、こういう魔法の存在を、光輝教団側が知っていたというのもあり得る。だとすると不都合な魔法を覚えさせないためというのも、俺たちに魔法を禁じてきた理由の一つだったのかもしれん。
「はい、出ました! 新しい神殿を立てるために、罪のない人たちを働かせているクソ人間ですね。うっわ! 笑いながら女子供も容赦なく鞭打ってる。他にも色々と……ひどすぎ。情状酌量の余地なしでーす!」
こいつらのこれまでの罪も把握できたし、これで気持ちよく罰を与えられる。
「クソ人間だぁ? そりゃテメェらだろ」
「光輝教団に逆らうってのが、どういうことか分かってんの? あ?」
「てか、俺たち光輝教団の兵士に勝てるつもりか? 不意打ちの癖に強い気でいる、勘違い野郎がよぉ」
ゴミ兵士どもが、眉根を寄せながら腰の剣を抜いてきた。
手に魔力を込めているヤツもいるな。魔法も多少は使えるらしい。
「ひゃっはっは! 死んで後悔しろやー!」
一人の兵士が、剣を振りかざして突進してきた。さらに別の兵士は、手のひらから火球を飛ばしてくる。
後悔しろ……か。とっくに死んで後悔した身なんだよ。
仲間たちを、妹を救えなかった後悔をな。
だからこそ俺は、みんなの無念を晴らすために舞い戻って来たんだ!
「復讐の化身となった堕天使が、きさまらにふさわしい罰を与えてやる」
宣言してから俺は、腕に堕天の魔力を込める。
そして向かってきた兵士の腹を、手刀で貫いた。
「ぐは!」
まず二人目。口から血を吐いて、地面に倒れる。
お次に飛んできた炎めがけて、こちらも漆黒の炎を放つ。黒い炎がヤツらの炎をかき消し、術者へと命中する。
「ぎいぃぃいいいやああぁぁあああああ!」
三人目を襲うは地獄の炎。簡単には死ねないし、気絶もさせない。死の瞬間まで苦しみ続けるのだ。
黒い炎に焼かれて苦しむ様子を見て、残りの二人が後ずさりしながら顔を青くさせる。
「え? ちょ、た、助けて……」
「お、おお……俺たちが悪かった! 助けてくれ!」
命乞いなんて無意味。それはきさまら光輝教団の連中に、嫌というほど教わったよ。
かつて味わった絶望と怒りを思い出しながら、残った二人にも堕天の炎をぶち込んでやった。
「「ぐぎゃぁぁぁぁああああああああああああ」」
黒い炎に焼かれた三人の兵士が、盛大な悲鳴を上げながら、のたうち回る。
苦しそうで何よりだ。
「ふふふ……。ははははは。はーっはっはっはははは!」
黒い炎は数分ほど燃えていたが、やがて煙を上げることもなくフッと消えた。
この炎は焼かれた痛みや苦しみを人間に与えはするが、実際には何も燃やさない。
よって、ショック死のような無傷の死体が三体、その場に転がることとなった。
ゴミ掃除の完了を見届けてから、俺は地面で腰を抜かしている女のもとへと歩み寄った。
そして無言で、手を差し伸べる。彼女は恐る恐るといった感じで、その手を握ってゆっくりと立ち上がった。
「た、助けてくれて、ありがとうございます! 本当にもう……駄目かと……うう……」
安心してか、女がボロボロと目から涙を流した。
ティアもあのとき、こうして助けることができたなら……。
消えることのない後悔に、胸が苦しくなる。それを深呼吸によって落ち着かせた。
「確か神殿の建設現場は、村から離れた場所にあるんだったな」
振り返ってキャロルに訪ねる。この辺一帯の状況は、事前に天使の力で探査済みだ。
「そーですよ。こいつらも、そこからやってきた兵士みたいですね。早速いっちゃいます?」
「その前に彼女を村まで送る。ヤツらを潰すのは、その後すぐだ」
「はーい、主さま!」
右手をピンと上げて、キャロルが元気よく返事をする。
こいつの子供っぽいしぐさを見ていると、ティアと重なるときがある。
だが天使は、神々の遣いであり監視役。利用はしても、決して気を許しはしない。
復讐の邪魔をするようなら、すぐさま神のいる天国とやらへ送り返してくれる。この俺の手でな……。
しかしまあ、使える奴だ。言うことを聞いてるうちは、側に置いてやる。
「あ、あの……。村に戻るのは……その……。村にもいるんです。光輝教団の兵士たちが……」
不意に女が、申し訳なさそうに声をかけてきた。
「大丈夫だ。すでに村のゴミ掃除は終えている」
「え?」
「俺たちはここへ来る前に、村を訪ねたんだ」
数人ほどだったが、村の子供たちを閉じ込めている見張りの兵士たちがいた。大人たちを従わせるための人質だったのだろうが、妙な洗脳教育を行っている風でもあったな。あのまま続けられたら、光輝教団の狂信者にされていたかもしれない。
兵士どもを片づけ、解放した子供たちから村の状況を聞いた。大人たちはみな、神殿の建設現場で働かされている。それを知り、建設現場へ向かう途中、この女を追う光輝教団の悪意を察知してここへ来たのだ。
「残りの光輝教団の連中は建設現場だろう。村は安全だ」
「主さまに感謝するんだぞ!」
キャロルが俺の前に立ち、女に向かって胸を張る。
女はまだ少し不安そうな顔をしているが、丁寧にお辞儀をした。まだ村の仲間たちが建設現場で囚われの身なわけだし、もろ手を挙げて喜ぶ気分でもないのだろう。
「キャロル。彼女を連れて、先に行ってくれ。俺は少しだけやることがある」
「わかりましたー! 主さまも、すぐに追いついてきてくださいね」
そう言うとキャロルは女を連れて、先に村の方へと向かっていった。
これから起きることをあの女が見たら、怖がって色々と面倒そうだからな。
さて……二人の背中もだいぶ小さくなったし、もういいか。
「立て。きさまらの罰は、まだ終わっていない。死んで楽になれると思うなよ」
俺はパチンと指を鳴らして、五人の死体を立ち上がらせた。
こいつらには堕天属性の瘴気を吸わせ、アンデッド状態にしている。
呂律も回らないし、俺の命令に背くこともできはしない。だが、脳への損傷は一切ないので、意識も痛覚もあるし、考えることもできる。
「とりあえず、きさまらは先に神殿の建設現場へ向かえ。そして同類だけをターゲットにするんだ。自分と同じ罪を背負う者のみに噛みつけ」
こいつらには、キャロルに引きずり出してもらった過去の罪のイメージを、そのまま脳に送り込んでやった。
そうすることで、同じかそれ以上の罪を背負った人間を、匂いで嗅ぎ分けられるようになるってわけだ。
「行け!」
俺の合図を受け、五人のリビングデッドがうめき声を上げながら、のそのそと歩きだした。




