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女神の真意


 気が付くと俺は、光り輝く靄の中にいた。

 ゆっくり起き上がり、あたりを見回す。

 空は黄金色に染まり、足元はぼんやり光を放つ靄が漂っている。綺麗だが、不気味な世界だ。


「気が済みましたか? 神の力を捨て、闇に堕ちし者よ」


 聞き覚えのある声がして振り向くと、そこには美しい顔をした女性が立っていた。

 俺が処刑されたときに出会った女神だ。確かキャロルを監視役に付けた、ノーヴェリエルという女神だったか。


「あんたがここにいるってことは、まさか俺は力を使い果たして死んだってオチか?」

「いいえ。あなたは一時的に気を失っているだけです。言ったでしょう。あなたの力は神をも脅かす。天界に受け入れることはできません」


 相変わらず無機質で淡々とした物言いだ。


「それじゃあ、何のために俺の前へ現れたんだ?」

「あなたを苦しめた者たちへの復讐は果たされたのでしょう。堕天の力を手放し、清き心を取り戻してはいかがですか? 今なら努力次第で、それも叶うかもしれません」


 じーっと俺を見つめながら、ノーヴェリエルが提案してくる。

 一度は神々に楯突いた俺を、受け入れようというのか。ずいぶんと広い心をお持ちだな。


「悪いが、それはできん。まだまだいるんだよ、復讐すべき連中はな」

「そうですか」


 彼女はそれだけをつぶやき、背を向けた。

 やけにあっさり引き下がるじゃないか。本当にただ、俺を説得するためだけに来たのか?


「頼みがある」


 そのまま去っていこうとするノーヴェリエルの背中へ向かって、声をかけた。彼女が歩みを止め、こちらを振り返る。


「キャロルは母親を助けたくて、俺に協力したにすぎない。それにまだ、直接手を汚してはいないんだ」


 だからあいつに罪はない。というには無理があるだろうか。俺の復讐に手を貸してきたのは事実だからな。


「つまり、あの子を天界へ受け入れてほしい。そういうことでしょうか」


 その言葉に俺は無言で答えた。沈黙があたりを包む。

 大司教を倒した今、キャロルの目的は達成される。これ以上、俺の旅についてくる意味もない。

 ここから先は、本当に俺のためだけの復讐が続くのみだ。


「あの子は監視役です。あなたがあの子の行く末を決めるのは、筋違いではありませんか?」

「あんたがキャロルを付けた本当の理由は、俺を監視させるためじゃない」


 俺が指摘すると、ノーヴェリエルがうっすらと微笑んだ。肯定とも否定ともとれる、どっちつかずなウソ臭い笑顔に感じる。だがそれが逆に、彼女が初めて見せた人間味のようなものにも思えた。神が相手なのに人間味というのも、変な話だが。


「あんなにも復讐に協力的なやつを送り込むなんて、おかしいと思ったんだ。あいつが天界で模範となるような天使だったとしても、母親を奪われたあいつが私情を挟まない保証なんてないからな」


 神々は下界への干渉を良しとしない。だからキャロルの母親が人間として下界へ落ちても、そのあと人間の男と結ばれて子を作ったことでさえ、すべてを放任していた。

 その結果、グレイザムに拉致されて利用されても、無干渉を決め込んでいたんだ。

 しかし目の前にいるノーヴェリエルだけは、他の神々とは違った。


「あんたは以前から、キャロルの母親を助け出したいと考えていたんだ。そして俺が堕天の力に目覚めたのを見たときに、思った。俺なら、キャロルの母親を救い出せるかもしれない……と」


 これなら復讐に加担しかねない天使を同行させたのも、理解できる。

 俺の話を黙って聞いていたノーヴェリエルが、笑みを解いてこちらを睨みつけてきた。その鋭さと威圧感は、大司教の比ではない。氷のように冷徹で、それでいて激しい激情が込められたような、鋭い眼光を宿しているように感じた。


「さあ、何のことでしょう?」


 そう言ってノーヴェリエルが鋭い目を向けたまま、うっすら微笑んだ。


「キャロルの母、セレナリアは私の姉です。しかし勝手に下界へ堕ちたあの者を、私が助ける義理はありません。ましてや神の立場の私が、復讐など望むわけもない」


 今までの無感情がウソのように、激しい怒りを帯びた目をしている。

 どうやら俺が復讐を誓うより前から、光輝教団の連中は女神の逆鱗に触れていたらしい。


「話がそれてしまいましたね。あの子が監視役を降りるというなら、天界はもちろん受け入れますよ。ですがそれを決めるのは、あの子自身です」


 その言葉を残して、ノーヴェリエルは去っていった。


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