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ノアの答え


 神選の十戒とかいうゴミどもがいた部屋から、さらに階段を下りていく。地上からいったいどれだけの深さまできたのか。さすがの大司教も、それだけヤバイものを隠し持っているという自覚があるのだろうな。

 地上に漏れ出ていた魔力はほんのわずかだと思わせるくらい、魔属性の気配も濃くなっていく。

 やがて、今まで以上に巨大な扉の前へとたどり着いた。扉の高さだけで、家屋の屋根5つ分はありそうだ。

 今回はたくさんの宝玉が、縦一列に並ぶようにして埋め込まれている。これくらいの巨大な扉を開くには、たくさんの宝玉が必要ということだろうか。


 残るは大司教ただ一人。ようやくゴミの掃除も節目にきたな。

 俺は宝玉へ手を添えて、魔力を流し込んだ。

 今までとは違い、扉はスーッと静かに左右へとスライドしていった。扉の中からまばゆい光が、薄暗いこちら側へと差し込んでくる。

 眩しさに、思わず目を細める。

 やがて扉が完全に開かれ、明るすぎる光にも慣れてきた。


 中はまるで、どこかの城か屋敷のディナーパーティーを思わす、豪華な食堂のようだった。聖騎士団どもがいた酒場のような部屋もなかなかのものだったが、この部屋はさらに群を抜いてすごいな。

 床には、いかにも高級そうな絨毯が敷き詰められている。奥には天井から流れる滝まであって、部屋の壁際は水路のような池になっている。部屋中が昼間のように明るくて、ここが地下であることを忘れてしまいそうだ。

 白いクロスが敷かれた細長いテーブルが中央に置かれていて、三十脚ほどの椅子が配置されている。

 そのテーブルの端に、大司教グレイザムが座っていた。

 俺が部屋の中へ入ると、扉が静かにスライドしながら閉じていった。

 大したもんだ。


「ようこそ。ノア・エルグレイス君」


 そう言ってグレイザムが、ワインに口を付ける。ゴミ風情が、優雅にラスボス感を出しやがる。


「そう睨むな。掛けたまえよ」


 テーブルのこっち側の席に、皿やワイングラス、フォークやナイフがきれいにセットされていた。

 ここまできて、今さらヤツを警戒する意味もない。

 俺は言われたとおり、席に着いた。


「その落ち着き、さすがだ。ワタシはな、おぬしを非常に高く評価しているのだ。我が光輝教団の猛者を次々と打ち破り、ここまでたどり着くとは。見事と言う他ない」

「ふん……まだおまえが残っている」

「まあそういきり立つな。ワタシは話がしたいだけなのだ」


 グレイザムはフッと笑みをこぼし、側にあるベルを取ってチリンチリンと鳴らした。

 部屋の横にあった扉が開き、メイド服を着た女がワインのボトルを持って入ってくる。気味が悪いくらいにニコニコした女だ。

 彼女は俺のところへ来ると、グラスにワインを注いだ。


「この女たちも、天属性の魔力にやられた口か?」

「ほう、さすがはノア君。気付いたか」

「ああ。笑顔が不自然で、まともな人間の心を感じん。天の魔力を当て続け、人の心から完全に毒気を抜いたのだろう」


 天と堕天は表裏一体。

 堕天にアンデット化があれば、天には浄化による盲信がある。負の力で操るか、正の力で操るか、それだけの違いだ。


「本題に入ろうか。我々はおぬしの仲間たちを奪ってしまった。その報復を受け、ワタシは手駒のほとんどをおぬしに奪われた。ここらで手打ちにするのが、お互いのためだと思わんか? いや、違うか。おぬしとの出会いを、手打ちだけで済ますのは惜しい。もったいない」


 グレイザムが肩をすくめながら笑みを浮かべ、ワイングラスを手に持った。そしてグラスを回したあと、ワインに口をつけた。


「ふふふ。キミも一杯やりたまえ。一般庶民が一生分の労働賃金を叩いても飲めないほど、超高級な代物だぞ」


 俺はヤツの言葉を無視し、ワインには一切口を付けなかった。


「はっはっは。毒など入っとりゃせんよ」

「御託はいい。話があるならさっさと進めろ。地獄へ送る前に、置き土産として聞いてやる」


 グレイザムは特に動揺を見せず、再びワインを喉へ流し込んだ。そして息を吐くと、顔の前で手を組み、視線をまっすぐ俺に向けた。


「ワタシと手を組まんか?」


 そう来たか。それを受ければ、世界の半分をやろう、とか言い出すんじゃないだろうな。

 広い部屋の中に、しばらくの静寂が流れる。


「フン。手駒が無くなったから、今度は俺を手駒にでもしようってのか?」

「違う違う。違うとも。確かに少々の痛手ではあったが、あんなものはいくらでも替えが効く。おぬしほどの男を、他の無能どもと同列に扱うわけなかろう。だからこそおぬしを歓迎し、対等な立場として話し合いの場をセッティングさせてもらったのだよ」


 敵意などない、とでも言うように、グレイザムが両手を広げてみせた。


「おまえらの悪事は、すでに聖王都側に漏れている。つまりおまえはただの罪人だ。そんなやつと手を組んで、得はあるのか?」

「分かってないな。重要なのは、力があるかどうかということだ。その程度のこと、ワタシにかかればどうとでもなる」


 実際、そうなんだろうな。

 俺たち堕天一族が長年押さえつけられていたのも、魔人災害の件で手柄を取られ、汚名を着せられたのも。すべては光輝教団という強大な権力にあらがう力が、俺たちになかったからだ。


「聖王都には第三神殿で起きたことや、この第七神殿から漏れてしまった魔力について、隠ぺい工作の根回しをさせてもらったよ。それに対し、聖王都側は条件を出してきた」


 人差し指を立てて、得意げにヤツが語る。そしてその人差し指をゆっくり倒していき、俺のほうへ向けてから言った。


「それが何なのか、キミに分かるかね?」


 ヤツが答えを待つように、気取った笑みを向けたまま固まった。


「俺を葬れ……。といったとこか」

「くくくく……はーっはっはっは! さすがだ、さすがだよノア・エルグレイス君! キミは自分の価値を理解している男だ。そう! 一国の王が、たった一人の男との戦いに勝利せよと、そう言ってきたのだよ。今やおぬしは、光輝教団だけでなく聖王都からも脅威の対象として、一目置かれた存在というわけだ」


 おだてるように、ヤツが手を叩く。

 なるほど。聖王都側はこの戦いの勝者と手を組む気でいるのだろう。

 俺が負ければ、第三神殿の事件で得た真実をもみ消し、今までどおり光輝教団と上手くやっていくつもりだな。

 そして俺が勝てば、光輝教団を悪者にして切り捨て、俺を祭り上げる算段か。


「どっちが勝つかで、世界の歴史が変わる。ワタシとおぬしの戦いは、そういう次元にまで来ているのだ。しかしワタシは、もう一つの道もあると思っている。みんなが幸せになれる道をな」

「それが、手を組むってやつか」

「そういうことだ」


 そうこうしているうちに、今度はメイドが前菜を乗せたワゴンを押して、部屋へと入ってきた。

 さらにスープが入っているであろう器を持った、別のメイドもやってくる。

 客人の俺へ先に料理が運ばれ、スープが皿に流し込まれた。そして彼女たちはグレイザムのほうへと向かい、ヤツのほうへも同じように料理を並べた。


「この条件からも察するとおり、聖王都は勝者側につく。だがそれでは何も生み出さない。ビジネスというのは、互いに利益があってこそ成立するのだ」

「ビジネス……だと?」

「そうだ。以前のおぬしには、手を組む価値がなかった。つまりパワーバランス的にも、互いに利益を与える関係になかったのだ。しかし今は違う。おぬしほどの力の持ち主であれば、こちらも手を組む意味が生まれる」

「俺には意味なんてないな」

「いいや、あるね」


 見透かしたような不敵な笑みを浮かべながら、グレイザムがつぶやく。


「おぬしも、既に気づいておろう。ワタシたち光輝教団は魔人の魔力をエネルギーに代え、様々な魔道具を産み出した。自動で開く扉、ランプなどより明るい光る壁、人力などなくても農作物を産み出す技術。しかしそれはほんの一部だ」

「不老……だな?」

「ほう、知っておったか」

「ああ。おまえが天属性を手に入れたのは85年ほど前。しかし、それにしては歳を感じない。つまり天属性で神の寿命をも手に入れたわけだ」

「そのとおり! ワタシはすでに100を超える年月を生きている。しかし肉体は衰えず元気溌剌。風邪の一つもひいたことないぞ。はっはっは!」


 手に持ったワイングラスを回しながら、ヤツが高らかに笑う。


「神の力は、命をも左右する。おぬしの大事な妹も、生き返らせてやろうじゃないか」


 俺はヤツの言葉に何も返さず、並べられた前菜をフォークで刺して口にした。そして無言のまま、スープをスプーンですくってすする。

 その様子を観ていたグレイザムが、ニヤリと笑みを浮かべた。


「はっはっは。極上の腕を持つ料理人が、高級な食材をふんだんに使って調理した一品だ。お気に召したようで何よりだよ、ノア君」


 そう言ってグレイザムも、料理に手を出し始めた。

 スープに口をつけてから、再びヤツがしゃべり始める。


「ではノア君。改めて問う。ワタシと手を組むか否か。ワタシたちが組めば、全部丸く収まる。我が光輝教団も聖王都も、おぬしも。すべてが幸せになれるのだ」


 俺はワイングラスを手に取り、しばらく黙ったままワインを見つめていた。

 その間、ヤツはコチラの答えを待つように、スープを飲み続けている。


「ぶ! ぶは!」


 不意にグレイザムが、飲んでいたスープを口から噴き出した。


「な! 何だコレは!」

「それが俺の答えだ、大司教」


 持っていたワイングラスに堕天の魔力を流し込み、青黒い炎で消滅させる。


「ゆ……指?」


 メイドが俺の皿にスープを注いでいるとき、スープの入った器に混入させておいたものだ。


「そいつは神選の十戒とかいうやつの指だ。十人のうちの誰のものかは知らんが、存分に味わったか?」


 鼻で笑ってやると、ヤツは激こうしたように料理を腕でなぎって床にぶちまけた。

 ははは。まさか本当に俺が、くだらん提案にのると思っていたのか。

 仲間たちを無残に殺し、ティアの首をはねた光輝教団ども。その根っこにいる元凶だぞ。

 復讐のメインディッシュを前にして、食らうこともせずに下げさせるなど、そんなもったいないことができるものか。


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