戦力逆転
「ひひひ。せっかく生き返ったってのに、わざわざ生き地獄を味わいに来てくれて、ご苦労さ……」
ガツンッ!
しゃべり終える前に素早く間合いへと入り、振り下ろし気味のパンチを顔面へ叩きこんだ。床に後頭部を叩きつけられ、花火のように血が飛び散る。
「まずは一人……」
こいつの汚い血で汚れた拳を、連中に見せつけながらつぶやく。
堕天魔法の効力が薄いなら、直接ぶちのめすというやり方だってあるんだ。
「な!」
「バ、バカな!」
「い……一撃……だと?」
さっきまで余裕をかましていた十戒どもに、焦りと困惑の表情が浮かぶ。
むろん、これで楽にするつもりはない。だがお楽しみは、こいつら全員をひれ伏してからだ。
俺は挑発するように微笑んでから、さっきのヤツと同じ感じで、指をクイクイッとさせた。
「不意打ちのくせして、調子にのりやがってよぉ」
「このクソ卑怯もんが!」
思わず失笑してしまった。まさかこんな連中が、卑怯だの不意打ちだの言って避難してこようとは。
「わかった。なら、おまえらが仕掛けてくるまで、ここから動かないでいてやるよ」
「余裕こいて笑ってられんのも、今のうちだ。思い知らせてやるぜ」
次は俺が相手だ、とでも言わんばかりに、十戒の一人が指の骨を鳴らしだした。他の連中より高身長で手足が長い、スキンヘッドの男。こいつはティアの右足を押さえつけていた野郎だ。
そいつが前傾姿勢を取ったかと思うと、ノーモーションからフッと横へ飛び跳ねた。そして部屋中を高速で上下左右へ跳ね回り、こちらをかく乱してくる。
「ひゃっはー! きさまもずいぶんスピードに自信があるようだが、どうだ! 俺の動きについてこれるか?」
高速移動を続けながら、坊主のノッポ野郎が叫ぶ。
天属性を身に着けただけでは、この動きはできんな。おそらくこいつ自身がもともと持っている身体能力による戦法を、天属性でブーストさせているのだろう。
「うっひょー! すっげー動き!」
「神選の十戒の力、見せたれや」
「いたぶり殺せー!」
残り八人の十戒どもが、こぶしを振り上げて盛り上がる。
そんな中、俺は飛び回る男を目で追いかけていった。そしてヤツがこちらへ攻撃を仕掛けてくるタイミングに合わせて、手のひらを向けた。至近距離から、堕天の爆裂魔法を食らわせる。
猛スピードで突っ込んできたノッポ野郎が、爆発の反動で後方へ吹き飛ぶ。しかしヤツは空中で体制を整え、床へと着地した。
「ちっ! 効かねぇんだよ、薄汚ねぇ堕天の魔法なんて……」
「知っている。動きを止めただけだ」
ノッポ野郎が喚いてる隙に、間合いを詰めた。そして思いっきり水平に上げた右足を振り下ろして、踵をノッポの顔面にめり込ませる。
「ぐへぇあ!」
顔面に踵落としを食らい、ヤツがのけ反って倒れていく。俺はそいつの顔面にそのまま右足を乗せ、床へ叩きつけるように踏みつけた。
ノッポの後頭部が割れ、床が血しぶきで染まる。
「二人目……」
つぶやくと、部屋がシーンと静まり返った。
やがて、部屋の壁際でくつろいでいたやつらも、ゆらりと立ち上がった。
「次はどいつだ?」
俺がそう問いかけると、連中は漏れなく眉根を寄せて、こちらを睨みつけてきた。
そして残り八人となった十戒が、一か所に集まる。
「テメェのようなクソ野郎は、全員でボコるに決まってんだろ」
「一人相手に大人数とは、卑怯なやつらだな」
「バカが……。くっせぇ堕天野郎のくせして、まじめに相手してもらえると思ってんのか。おめでたいにもほどがあんだろ」
「くくく……バカはそっちだ。おまえらごときが一対一で勝てる相手じゃないってことに、ようやく気づけたんだからな」
「ヤロウ! 調子に乗りやがって!」
八人が各々剣を抜き、前傾姿勢をとって構えた。
ヤツらがしばらく身動きせず、こちらを睨みつける。突如、ヤツらのうちの一人がこちらに手のひらを向け、光を放ってきた。眩しさに思わず目を閉じる。
それが合図だったらしく、やつらが一斉に向かってくるのを気配で感じ取った。
目くらましとは、なかなかに姑息なことをしてくるじゃないか。
光属性の魔法弾らしきものが飛んでくるのもわかった。気配を頼りに、魔法弾を片手で弾き飛ばした。大司教の玉よりも全然軽い。
しかし右から左から、十戒の剣が飛び交ってくる。さすが十戒というだけあって、なかなかに見事な連携攻撃だ。
「なんだってんだコイツ!」
「全然当たんねぇぞ!」
「見えてんのか、このヤロウ」
「いや、八対一だぞ! 見えてても避けられねぇはずなのに」
分らんかな。おまえら全員、体から身に着けている武器防具に至るまで、天属性の魔力がみなぎってんだよ。おかげで目が見えずとも、立体的に気配が感じ取れているんだ。
もっとも、魔力を通わせていない鉄くずの剣では、俺の防御魔法を貫くことなどできん。
それに俺は最前線で魔王とやりあったんだ。四方八方から繰り出される魔王の魔法と触手による攻撃は、まだまだこんなもんじゃなかったぞ。ついでに堕天属性によるバフ魔法も使用している。
「視覚を奪うくらいじゃ、ハンデにもならんか?」
目を閉じた状態で連中の攻撃を避け続けながら、余裕を見せつける。
「ヤッロウ! ぶっ殺してやる!」
バカが一人、安い挑発に乗ったようだ。他との連携を無視した攻撃が、俺めがけて繰り出される。
それを紙一重でかわしながら、気配を頼りにカウンターの右ストレートを繰り出した。
「おーっと! あぶないあぶない」
向かってきた男が後ろへ下がり、放ったパンチを避けた。
「ほらほら、こっちだぜー!」
パンチを避けた男が、小ばかにしたような声を上げながら手を叩く。上手く避けたと言いたいところだが、今のパンチはもともと避けられる前提で放ったんだよな。ヤツの真後ろにいる、ノッポのほうへと誘導するために。
「な! なんだ? 誰だコラ!」
気配で分かるぞ。さっき倒した十戒のノッポ男が、ヤツを後ろから羽交い絞めにしているのが。
先に倒したあごひげ金髪と坊主のノッポは、すでに堕天の瘴気によってアンデッド化している。つまり俺の意志で動く、操り人形だ。
さあ、一人罠にかかって動きを止めたぞ。さらに不意打ちで食らった目くらましも薄れ、視界が開けてきた。
「お、おまえは! ガルムじゃねぇか! 生きてたのか。てか、離せって」
坊主のノッポは、ガルムって名前なのか。はは、どうでもいいけどな。
そしてガルムに後ろから羽交い絞めにされているのは、角刈りの厳つい男。俺の右足を剣で突き刺していた野郎だ。
異変に気付いたのか、他の十戒どもが動きを止める。
その一瞬のスキをついて、俺は角刈り野郎めがけて間合いを詰めた。
「ちょ! 待……」
「三人目」
角刈り野郎の言葉を待たず、俺はそいつの顔面に何発ものパンチを浴びせかけた。ボコボコに腫れあがった顔へ、フルスイングのストレートパンチをぶちかます。
その勢いで、角刈りとノッポが吹っ飛んで、床に転がった。
「マ、マジか……」
「俺たちゃ、十戒だぞ!」
「しかもこいつは堕天属性だぜ。天属性のほうが絶対に強ぇはずじゃねえのか?」
バカなやつらだな。
確かに堕天属性は天属性に弱いが、それはあくまでも得手不得手の問題。レベル1の天がレベル99の堕天に勝てるか?
「クソがー!」
慌てふためいた様子で、十戒の一人が俺めがけて突進してきた。こいつはティアの右手を押さえつけていた野郎。
「ば、ばか、やめろ! 連携しねぇとヤベェ!」
別の一人が止めようとするも、後の祭り。
俺に突っ込んできて剣を振り上げてきたヤツの顔面を、迎え撃つ形で殴りつける。カウンターがきれいに決まり、男が吹っ飛んでいった。
「四人目」
ふふ。堕天による攻撃魔法は確かにこいつらには効果が薄いようだが、バフ魔法なら効果絶大だな。もっとも、こいつらの天属性が成熟していたら、さすがにこうはいかんだろうけど。
どうもこの十戒どもは大司教とは違い、天属性を手に入れて日が浅いらしい。
そんなヤツらに、さらなる絶望を与えようじゃないか。
「俺はこの部屋へきたときからずっと、堕天の瘴気を放出し続けていた。死体をアンデッドにする猛毒だ。そして……」
そう言ってから俺は指をクイッと上げ、死体となった四人を起き上がらせた。
「アンデッドになったやつは、俺の操り人形になる」
さらに指をちょちょいと動かして、四人を俺の前に整列させた。どいつも普通のアンデッドからは想像もつかないほど、俊敏な動きだ。何せ筋肉組織が一切腐っていない、出来立てほやほやのゾンビどもだからな。
さらに言えば、生前と同様に意識もあるし感覚もある。そうでなければ、こいつらに相応の罰は与えられないからな。
俺の言葉と四人の動きを見て、その意味を理解したようだ。残り六人となった十戒どもが、一気に顔を青ざめさせる。
「おまえらの人数が減るほど、こちらの戦力が増す。さあこれで五対六だ。薄汚い堕天に、おまえらの力を思い知らせてくれるんだろ?」
せっかく安い挑発をしてやっているのに、連中が焦りの表情で後ずさりしてしまった。
新たな力を手に入れて舞い上がっていたようだが、これで勝負は見えたな。こっちは魔界の猛者どもとのバトルで鍛え上げた天属性が反転して生まれた堕天の力。もともと、自力が違うんだよ。




