絶望の聖騎士団
「な、なんだ?」
「バカな! 魔界のモンスターだと?」
「うろたえるな! この程度のバケモノどもなど、我らの敵ではない!」
最初こそうろたえていたものの、聖騎士団が素早く陣形を取って構える。クズどものくせに、ずいぶんと素晴らしいチームワークだ。
「総員、突撃ー!」
聖騎士団の団長らしき男が、かざした剣を前に突き出す。と同時に、統制のとれた動きで、連中がモンスター目がけて突っ込んできた。
各々テーブルを乗り越え、椅子を避け、物が散乱しているのも気にかけず、機敏に前進してくる。
そして聖騎士どもとモンスターの集団が激突する。
ほう、さすがだな。生み出されたモンスターどもが、手も足も出ずに斬り捨てられていくではないか。
幻影なので、倒されたモンスターは次々と消滅していく。しかし斬られたときに噴出した血だけはイメージとして残り、酒場のような室内を赤く染め上げていった。
「では、こいつらはどうかな?」
異次元の入り口からモンスターと一緒に、魔人たちまで飛び出していく。姿かたちの気味悪さはモンスターに劣るが、こいつらは単純に強いぞ。
「なめんじゃねぇ!」
「死ねやコラ!」
聖騎士どもが剣と魔法による連携攻撃を駆使し、魔人どもでさえバッタバッタと倒していく。
魔王はともかく、この力があれば魔人災害も本当に止められたかもしれんな。
しかし魔人とモンスターは延々と飛び出していく。
「マ……マジかよ……」
「キリがねぇ」
「ざけんじゃねぇぞ、クソが!」
ヤツらは息を切らせながらも、魔人やモンスターを斬っていく。
「すっごーい! まだまだ元気そうだね! みんな、がんばえー!」
手を振り振り、キャロルがエールを送る。
やがて一人の聖騎士がモンスターを捌きながら、剣の間合いまで俺に接近してきた。
「テメェを殺せば止まるだろ!」
ご名答。
だが、俺なんかに構ってて大丈夫なのかな?
聖騎士の一人が剣を振り上げたと同時に、横から気味の悪いモンスターが八本の腕でそいつに抱きついた。
「ぎゃ! は、離せ! キモいんだよ、クソボケが!」
必死の形相で聖騎士が暴れるも、完全にホールド状態だ。捕まったら、自力ではがすのは難しいんだよね。
ガサガサガサッと10本の足で動き回り、モンスターは聖騎士を掴んだまま異次元の穴へと帰っていった。
「な、何が起きたんだ?」
「あいつはどうなった?」
「どこへ連れていかれたんだ?」
他の聖騎士団どもが、連れていかれた男のほうを目で追いながら、ざわつき始める。
俺は指をパチーンと鳴らし、モンスターと魔人の幻影をいったん消去した。異次元の入り口は残したままだ。
戦闘が一時中断となり、聖騎士たちが息を切らせながら膝に手をつく。
「魔界のモンスターに捕まったらどうなるか、教えてやるよ。ヤツらのヒナのエサにされるんだ。口の小さなヒナたちが、仲良くつつきあう。俺たちの仲間をいたぶりながら殺したきさまらには、お似合いの末路だろ」
さっきまで威勢のよかった聖騎士どもの顔が、みるみる青くなる。
「冗談じゃねぇ!」
「やられる前にテメェをぶっ殺してやる!」
「死ねや、ボケ!」
連中が束になって飛びかかってきた。
俺も駆け出し、迎え撃った。連中の剣による斬撃を軽いフットワークでよけながら、一人ずつ丁寧に、魔力を込めたパンチを腹へ叩き込んでいく。
腹パンを食らった連中が、次々と吹き飛ぶ。
それを見た別の聖騎士どもが、後方の通路へと逃げ出した。
「ぶへ!」
「な、なんだ? どうなってやがる」
バカが。逃走経路を残しておくわけないだろう。
この部屋はすでに、俺の魔力で結界を張ってるんだよ。この結界から抜けられるのは、俺に近い魔力か天属性の持ち主だけだ。きさまら程度の魔力じゃ、まあ不可能だな。
「無駄な体力は使わないほうがいいぞ。俺の魔力が尽きるか。それともきさまらの体力が底をつくのが先か。耐久戦といこうじゃないか」
床に転がって悶絶している聖騎士団どもを見下ろしながら、再びパチーンと指を鳴らした。
異次元の入り口から、ぬぅーっと頭を出してくるモンスターたち。
「ひ、ひいぃぃいいい!」
「いったい……いつまで戦えばいいんだ?」
聖騎士どもが、絶望めいた表情を浮かべる。
いつまでだって?
きさまらが死ぬまでに決まっている。俺の魔力は異次元の入り口や結界を維持し続けても、数日は切れることがないだろう。だが睡眠さえとれば魔力は回復する。
つまり俺が死なん限り、魔界のモンスターは半永久的に生み出されるってわけだ。
こいつらの行く末を見守っていたい気もするが、大司教がこの先で待っているんだよな。
俺はモンスターたちが飛び出してくる前に、スタスタと部屋の奥へ進んでいった。すると聖騎士どもが睨みつけながらも、道を開けていった。
「クソが! さっさと先へ行って、殺されてこいや」
「テメェなんかじゃ、この先にいる《神選の十戒》には絶対に勝てねぇ」
「あいつらがテメェを殺るまで、粘ればいいだけよ」
「テメェが死んだら、死体にしょんべんかけてやるぜ」
「そっちのガキもよぉ。切り刻んでやっからよぉ」
「てかそっちのガキ、十戒の連中が好きそうじゃね?」
「せいぜいおじちゃんたちに、可愛がってもらいなよ。ひひひ」
俺だけでなく、キャロルにまで薄笑みを浮かべながら、捨て台詞を吐いていく。
そうか……。つまり、この先にいるんだな?
ティアに手をかけたやつらが。それが《神選の十戒》とかいうやつらか。
俺とキャロルは聖騎士団どもの間を通り抜け、先の通路へと進んでいった。
部屋を抜けてしばらく通路を進んだあたりで、後ろから魔界のモンスターの金切り声と聖騎士団どもの雄叫びが響き渡った。




