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魔属性の聖騎士団


 神殿の中は、三から四千人くらいは優に収容できそうなほどの、ただっ広い空間だった。

 一歩踏み出すたびに、カツーンと足音が反響する。

 外の喧騒とは一変して、神殿の中はとても静かだ。まあ、隠せないほど醜悪なクソどもの気配は、間違いなく感じるけど。


「なんでこんなに静かなんですかねぇ。外の感じからすると、神殿の中に突入している兵士がいてもおかしくないと思うんですけど」

「おそらく聖王都は、俺と光輝教団の戦いは傍観するつもりなんじゃないか?」

「どういうことです?」

「外で暴れてる兵士どもは鎮圧せざるを得ないけど、聖王都もそれ以上の追及はする気がないってことだ」


 まあそのほうが、邪魔もなくて動きやすい。


「でも、主さまが冤罪かもしれないってことは、伝わっているんですよね。だったら魔人災害も本当は光輝教団が引き起こしたことだって、分かってるはずなのに」

「その辺は俺もよくわからん。ただ、光輝教団と聖王都は、裏でズブズブな関係だと俺は睨んでる。だから聖王都側も、光輝教団の裏の顔が外部に漏れるのは避けたいのかもしれん」

「うー! 聖王都も裏でコソコソと汚いですねー」


 それが大人の事情ってやつなんだろう。

 推測でしかないが、聖王都側もどうせ魔人災害の真相くらい、最初から知っていたんじゃないか?


「そんなことより、今は大司教どもだ」

「はい! 主さま」


 ひとまず見回した限りだと、上に向かう階段はあちこちに設置されている。上階は建物の外周に存在するが、天井ははるか高いところにあって吹き抜けになっていた。だが、俺たちの目当てのものは、上にはないな。


「外から見える建物はハリボテのようだ。本命はどうやら地下にあるらしい」

「ですね。邪悪な魔力は、地下から漏れ出てるみたいですから」

「いちいち隠し階段を探すのも面倒だ」


 俺はゆっくりと右腕を上げ、そして勢いよく振り下ろした。

 神殿の天井を突き破り、稲妻が床を破壊する。ぽっかり空いた床の下は、通路のようなものに繋がっていた。壁にはランプの類もないのに、全体が青白く光っていて、ほんのり明るい。


「探知魔法で探せるのにー。僕の出番を奪わないでくださいよー」


 ぶーたれるキャロルを無視して、床に空いた穴から下へと飛び降りた。背中の羽をパタパタさせながら、彼女もゆっくりと降りてくる。

 この明るさ、どうやら壁そのものが光を放っているようだ。床も含めて、全体に模様のような溝が存在する。その溝に魔力が流れ込み、その力で発光させているわけか。

 奥のほうに、地下へと続く階段が見える。どうやらあの先で、間違いなさそうだ。


「一応、おまえには防御魔法をかけておいたが、俺から離れるな。そのほうがやりやすい」

「あれー? 主さま、いつになく優しいですねー」

「置いてくぞ」

「わー! やだなぁ、冗談ですってば! それに僕も、戦いのサポートくらいはできますから。今度は、足手まといになりません!」


 どうだか……。

 俺は小さくため息を吐いてから、スタスタと先へ進んだ。


「待ってくださいよー」


 キャロルが慌てて追いかけてきて、横に並ぶ。

 階段を下りていくほど、魔力の瘴気が濃くなってくる。しかもこれは魔属性だ。

 だいぶ地下まで潜り、そして一直線の廊下にたどり着く。突き当りには、大きな扉のようなものがある。

 そしてその向こうに、間違いなくいるな。魔属性を帯びた人間の群れが。


「この扉、押しても引いてもビクともしませんよ」


 単にキャロルの腕力不足というわけでもなさそうだな。壁が魔力で光るというなら……。

 扉の中央に埋め込まれた巨大な宝玉に手を添えて、魔力を流し込んでみた。

 ズゴゴゴゴ……。

 岩石が引きずられるような地響きと共に、扉が左右へと割れていく。神殿の地下は、魔力で動く便利な設備がフル活用されているようだな。

 そして扉を開いた先には、やはりいた。憎き聖騎士団の鎧を装備したクソ虫どもが、うじゃうじゃと。


 それにしても、なんだここは。

 テーブルやバーカウンターがあって、神殿というより大衆酒場だ。しかも連中が談笑したり肉を食ったり酒を浴びたりしているじゃないか。

 外は戦場になっているというのに、こいつらは随分と余裕だな。

 どうやらこの部屋も魔導具のような類を活用することで、快適な空間へと仕上がっているようだ。


 聖騎士団の数は……ざっと見渡した感じ、百人ちょっとといったところか。しかしティアを襲って殺した連中はいない。別の場所にいるのか?

 部屋の向こう側に通路が見える。ただならぬ魔力が漏れ出ているのは、どうやらあの通路の奥のようだ。

 大司教も、あの先だろう。


「お! マジで来やがったぜ。死にぞこないの堕天野郎がよ」


 一人の聖騎士が、俺たちのほうへニヤけた顔を向けた。


「燃やされても死なねえとか、マジ神がかりじゃん」

「だからいいんだよ。大司教様の命令だ。こいつも永久機関として使ってやるぜ」


 こいつらの言いぐさから察するに、ここの施設に使われている魔力は、捉えた魔人から抽出したものか。

 そして聖騎士どもも司祭ベルナードと同様、魔属性の魔力を帯びてパワーアップしているな。これも魔人から抽出した魔力だろう。

 なるほどね。外で暴れている錯乱兵士どもも、魔属性を放っていた。

 おそらく大司教は俺との戦いに備え、聖騎士や兵士どもに魔人の魔力を与えたんだ。

 もしくは魔人の魔力が漏れたことで、聖王都側や他国からの追及もあり得る。そうなった場合に武力行使で乗り切ることも視野に入れ、戦力向上を図ったのかもしれん。

 だが精神力の弱い兵士たちは、その魔力に耐えられず、錯乱状態に陥ってしまったんだ。

 逆に耐えることができたのが、ここにいる聖騎士どもってわけか。


 くくく。では外の連中とどう違うのか、見せてもらおうか。

 俺は入り口から一番近いテーブルの席についていた三人の聖騎士へ手のひらを向け、魔力を放出した。


「「「ぐおぁああ!」」」


 三人がテーブルや椅子ごと吹き飛ぶ。

 さらに後ろ二つのテーブルと、そこに座る数名の騎士も仲良く吹き飛んでいった。

 飛んでいった者どもが、派手な音を立てて他のテーブルをもひっくり返していく。


「て、てめぇ! やりやがったな?」

「やっぱコイツは切り刻んで殺すしかねぇ」

「いや、もっと苦しめて、死ぬより辛い目に合わすしかないっしょ」


 神聖さのかけらもない口ぶりで、聖騎士団が喚き散らす。

 死ぬより辛い目に……ね。そこだけは気が合うじゃないか。


「ふふ……。魔人の力も得て、ずいぶんと威勢がいいな。ならば、おまえたちの力を試してやろう」


 俺は第三神殿のときと同様、自分の周りに異次元の入り口を生成していった。


「キャハハ! ここにいるみんなは、どこまで耐えられるかなー?」


 キャロルがぴょんっと俺の肩に飛びつきながら、陽気に笑う。

 それが合図だったかのように、異次元の入り口から魔界のモンスターたちが次々と飛び出す。例のごとく、ターゲットの聖騎士団にしか見えない幻影だが、見える者にとっては本物と変わらない。


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