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だから何だってんだ


 聖王都の街へと降り立ち、第七神殿へ向かって歩き出す。

 街はお祭り騒ぎと言うより、戦場のようなありさまだった。

 上空から見下ろしていたときに聞こえてきた、街の騒がしさの正体はこれか。

 光輝教団の兵士どもが錯乱した様子で剣を振り回し、住民どもが襲われているのだ。その兵士を取り押さえようと、聖王都の警備兵たちが奮闘している。


「うっわー。なんだかすごいことになってますね」

「暴れている連中は、なぜああなっている? 読み解けるか?」

「うーん。なんだかあいつらの頭の中、ぐっちゃぐちゃになってて読めないです。でも暴れてるやつらは全員、魔属性の魔力を発していますよ」


 第七神殿から漏れ出ていた魔力と、関係がありそうだな。


「あぁぁあああああああひゃひゃひゃひゃ」

「ひぃぃいいい! 助けてくれー!」


 すぐそばで光輝教団の兵士が、一般人であろう一人の男に斬りかかろうとしていた。俺は兵士が剣を振り下ろす前に、そいつの腕を掴む。

 すると兵士はまるでアンデッドのように、噛みついて来ようとした。すかさず余らせていた左手に魔力を込め、手刀で首をはねる。

 首から上がなくなった体が、ビクッビクッと小刻みに動く。掴んでいた腕を離すと、その体は前のめりに倒れて、しばらく痙攣を続けてから動かなくなった。


「ひぃぃぃいいいいい!」


 襲われていた男が、その様子を見てさらに悲鳴を上げる。


「おい。これはどういう状況だ?」

「ひい! ひぃい! ひえぇええ!」


 男に問いかけたが、しりもちをついたまま悲鳴を上げ続けている。混乱しているようで、まったくお話にならない。

 とりあえず、第七神殿へ行けば何かわかるだろ。

 キャロルと二人並んで、一直線に伸びた舗装道を歩く。その道の先には、まるでどこかの王様の宮殿のような建物がそびえたっている。あれが第七神殿だ。

 権力を誇示したいという光輝教団どもの欲望を、そのまま形にしたようなデカさだな。

 そしてやはりというか、騒ぎの中心は第七神殿らしい。

 近づいていくにつれ、聖王都側の警備兵と光輝教団の錯乱兵士による小競り合いが見えてきた。


「ふえー! 間近で見ると、すっごく大きいですね」


 巨大な神殿を見上げながら、キャロルがポカンと口を開ける。

 周りの騒ぎよりも建物の大きさに興味が行くあたり、キャロルらしい。

 神殿の周りは池になっており、入り口に向かって一本の道が伸びている。本来なら絶景スポットなのかもしれないが、今は完全に血の池地獄だ。

 さてと……まずは状況からだな。

 手近なところで戦っている警備兵がいたので、すばやくそいつと錯乱兵士の間に割って入った。

 先ほどと同様、そのまま流れるように手刀で錯乱兵士の首をはねた。

 俺が振り返ると、警備兵の男はしばらく呆けていたが、ハッとした表情をしてから口を開いた。


「す、すまない……助かった」


 苦戦している様子だった警備兵の男が、お礼を言ってくる。しかし突然、驚いた様子で構える。


「な! き、きさまは!」


 ほう、処刑されてから三年も経つというのに、俺の顔を覚えているのか。


「い、いや……。あなた様は、死んだはずでは……」

「あなた様……だと?」


 俺たちが光輝教団の連中に処刑されたとき、聖王都の王家側は何も動いてはくれなかった。つまり堕天一族が禁忌を破り、魔人災害を引き起こしたという光輝教団側の主張を信じたということだ。


「俺は大罪人の烙印を押されて、処刑された人間だ。なのになぜ、あなた様なんて言葉を使う?」

「申し訳ありません。数日前の第三神殿で起きた事件の生き残りの証言により、あなた様と堕天一族の冤罪の可能性が浮上したとのことで」


 そういや数日前に受神の聖儀とかいうイベントを潰したとき、わずかにいた罪なき者をメッセンジャーとして残した。あの効果か。

 だがあれは、俺への疑いを晴らすためのものではなかった。神殿の中で起きた出来事を他の者にも伝えさせることで、罰を与えるべき者たちに同じ罪が下るという恐怖を植え付けさせるためのものだったのだ。

 そもそも第三神殿の生き残りから証言を得たのなら、そこで俺が行ったことも伝わってるはずだがな。過去の疑いが晴れたとしても、新たに多くの民の命を奪ったという事実がある。

 それなのに、冤罪の可能性が発覚しました、だと?


「ああ、なるほど。要するに聖王都の王や上層部にとって、そうするほうが得だと考えたわけか」

「え? それはいったい……」

「なんでもない。こっちのことだ」


 目の前にいるこいつは、上層部の与えられた情報に踊らされるだけの、聖王都の下っ端兵士だろう。


「それよりキャロル。この男の記憶から、今起きてることを探れ」

「もうやってまーす!」


 俺が指示すると、キャロルは手を後ろに組んで、得意げにそう答えた。


「うーん。その人はあんまり、事情が分かってはなさそうですね。なぜか光輝教団の兵士たちが暴れ出したんで、止めに入っているだけみたいです」


 つまり聖王都側はまだ、この第七神殿からあふれ出ている魔力を感知していないのか。まあ何にしても、この先にいるんだろ?

 許しがたい聖騎士団と大司教が。

 それだけ分かれば充分だ。

 俺は警備兵の男を置き去りにし、神殿の入口へと向かって歩き出した。キャロルもタタタッとついてくる。


「あ、あの!」


 後ろから呼び止められ、振り返ることなく歩みを止めた。


「魔人たちと戦って人類を救ってくれたのは、あなた方だったのですか?」


 ふふ、そうか。ついに疑いが晴れたんだ。無実が証明されたんだな……。


「だから何?」

「え?」


 だから何だってんだ?

 今さらそれが証明されたって、殺されていった仲間たちの無念は晴れない。ティアの魂は救われない。


「真実なんて、巨大な力の意志一つで吹き飛ぶ。だから今度は俺の力で、あいつらに罰を与えるだけだ」


 俺はそう言い残して、再び歩き出した。



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