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なかったことにする。魔人災害を止めたという事実を


 先ほどまでの騒ぎが徐々に鎮まり、ざわざわする程度に収まっていく。

 そんな中、ただ一人だけ残ったベルナードの分身が、不敵な笑みを浮かべて語りだした。


『魔人どもの力を光輝教団のものにするため、魔界への入り口を開けたが……。まさか制御不能で災害レベルに発展しようとは……』

「な!」


 自分の分身の言葉に、ベルナードが驚きの声を上げる。

 全員が困惑の表情を浮かべ、神殿内が奇妙な静けさに包まれた。

 分身はさらに続ける。


『しかし大司教様……。あの堕天属性の連中が、うまく魔人どもを片付けてくれましたなぁ。あとは魔人災害の原因を堕天属性どものせいだと言って処刑すれば、我々の邪魔になる者はいなくなります』


 しばらく静かだった参拝者どもが、再びざわめきだす。

 そう、これが真相だ。

 魔界への入り口を開けるには、天属性の魔力が必要だった。そのために拉致されたのが、親友のニースと恋人のエレーナだったのだ。

 おそらく二人の魔力を使って魔界への入り口を開けたあと、すぐに殺すつもりでいたのだろう。自分たちがとんでもないことをしていると、知れてしまったのだからな。

 しかしニースが必死にエレーナを逃がしたため、彼女を捕まえるために拷問した。

 その末路は、拷問官リュエルの罪によって暴かれた過去のとおりだ。


 いや、それだけじゃない。

 こいつらが俺たち一族を堕天とふれまわって、弾圧してきた理由も予想できる。

 天界で女神が言っていた。俺たちの一族が持つのは堕天ではなくて、神の力を受け継ぐ天属性だと。

 光輝教団の大司教や上層部の司祭は、このことを知っていたのだ。神の代弁者と言い放っている光輝教団にとって、真に神の力を持つ一族は邪魔でしかない。

 だから堕天だと嘘をついて、禁忌と定めた。

 そのくせ自業自得によって大量発生した魔人や魔王との闘いを、俺たちに任せてきた。魔界の生物唯一の弱点は、天属性の魔法だったからな。

 しかも魔人災害を鎮圧させたあと、その手柄を横取りしたうえ、自分らの悪行の罪は俺たちに擦り付けた。

 どんだけ非道コンボ決めるつもりだよ、こいつら。


「うそだーーー!」


 ベルナードが叫んだ。

 しかし分身は、自分の本音を口にする。それは先ほどの騒ぎで、この場の全員の共通認識となった。自らの分身の発言は認められずとも、他人の分身が真実を語っているのは認めざるを得まい。


「じゃ、じゃあ……魔人災害は、光輝教団が……」

「俺の息子は、魔人たちに殺された」

「私の母は……」


 口々に参拝者どもがつぶやき始める。

 その静かな声が次第に大きくなり、怒号へと変わっていった。


「全部、光輝教団のせいだったのか!」

「何が神の代弁者だ!」

「ふざっけんな! たんまりお布施取りやがって!」


 大勢の叫びが、神殿を震わせる。まるで嵐の中にいるようだ。

 今にも暴動が起きそうな事態に、司祭どもも慌てふためいている。だが、参拝者どもに処罰を任せるつもりはないぞ。

 参拝者どもも、何を被害者ぶっているのか。

 光輝教団の罪が暴かれたと同時に、きさまらの罪も明らかになったんだよ。

 自分たちを救ったはずの俺たちに罵声を浴びせ、石を投げた罪だ。

 知らなかったから、なんて言い訳は一切聞く耳持たん!

 もともとこの連中は、俺たち兄妹にも村の仲間たちにも、石を投げるような連中だった。


「はーい! これでわかっちゃったよね。ここにいるみーんなの罪!」


 キャロルの声が響き渡り、神殿内が一瞬静まり返る。

 そしてしばらくの間があった後、参拝者たちが口々に弁明しだした。


「俺たちゃ何も悪くねぇ!」

「悪いのは私たちを騙していた光輝教団じゃない!」

「そうだそうだ!」


 司祭に向かっていた怒号が、今度は俺とキャロルに向けられる。


「みなさん、そう言ってますけど。どうします、主さま」

「おまえらには、天罰を与えるつもりもない。ただ、なかったことにするだけだ。だっておまえらは、俺たちが処刑されることに大賛成だったわけだろ? だったら俺たちだって、助ける義理はないよな」


 参拝者たちの顔を見る限り、拡声された俺の言葉の意味がよくわかっていないようだ。

 それじゃあ、ちゃんと教えてあげようか。


「なかったことにするよ。魔人災害を止めたという事実をな」


 俺はそう言ってから、周囲に異次元の入り口を生成していった。その入り口から、魔界のモンスターや魔人たちが次々と飛び出していく。


「ぎゃああああ!」

「ま、魔獣だぁあああああああ!」

「助けてぇぇええええええ!」


 神殿中が、完全にパニックと化した。しかし司祭どもは、何が起きたか分かっていない様子で、おろおろと参拝者たちをただただ見ていた。

 魔界のモンスターや魔人たちは、あくまでも堕天魔法によって生み出した幻影だ。

 しかし見えている者にとっては、実物と変わらない感覚がある。噛みつかれれば、その通りの痛みもある。それも幻ではあるが、それでも死に至る攻撃を受ければ、そいつはショックで死ぬことになるだろう。

 キャロルによって罪が暴かれた者たちには、すでに魔力によるマーキングを済ませてある。

 幻影はマーキングされた者のうち、俺たちを差別し、蔑み、石を投げてきた連中にのみ、見えている。

 この場に集まった人間はマーキングされている者がほとんどだが、そうじゃない者もわずかにいるようだ。対象外の人間はパニックに巻き込まれないよう、ガード系の魔法が発動するようにしておいた。

 罪なき者には生き残ってもらい、ここで起きたことを外部へ伝えるメッセンジャーになってもらう。


「ふふふふ。はははは……はーっはっはっは!」


 これこれ!

 これが見たかったんだよ。

 天国へ行かなくて、本当によかった。そう思わせてくれるじゃないか!


「あーあ、残念残念。自分たちを助けてくれた恩人を、仇で返しちゃったばっかりに」


 肩をすくめながら、キャロルが言った。

 だがこれで終わりじゃない。お楽しみはまだまだ残っているぞ。

 大混乱となった神殿内を眺めながら、俺はふわりと床に降り立った。


「ノ、ノアさん……なの? いったい、何が起きてるの?」


 台座の上で手足を縛られたままのクレアが、問いかけてくる。罪なき彼女には、魔界のモンスターや魔人たちが目視できていないはずだ。何もないのに罪深き民たちが逃げ回り、勝手にバタバタ倒れているようにしか見えないだろう。

 俺は彼女を見ることなく、ただただうろたえている司祭どものほうへと歩き出した。


「ま、まて! 好き放題やりやがって!」


 ベルナードが突然走り出し、クレアの首にナイフをあてがう。


「きゃあああ!」


 他の司祭どももベルナードの行動に気づいてか、すかさず俺を取り囲んだ。


「くくく……。知ってるぞ、ノア。この女はおまえら堕天一族と、ずいぶん仲が良かったそうじゃないか。だからだ。だからこの女が選ばれた。つまり、おまえらのせいなんだよ」


 バカか、こいつ。

 そんなことを言って、俺が苦悩するとでも思っているのか。おまえらの罪は、すべておまえらのもんだよ。


「しかも、さいっこうに可愛い顔してやがるからよ。いつかヤッてやろうと狙ってたのさ。こうなったら、おまえに見せつけてやるぜ。おまえはそれを見ながらシコってな」


 もはや神聖さの演出も忘れて、自分の欲望を隠そうとすらしていない。

 俺はヤツの言葉に構うことなく、ベルナードのほうへと歩を進めた。囲んでいた司祭が、一斉に魔法で攻撃してくる。

 炎や水、風など、あらゆる属性の攻撃魔法が飛んでくる。

 そのすべてを無防備のまま受けてやった。


「はっはっは! バカが!」

「我らに逆らうから、こうなるんだよ!」

「クソが! 死ぬよりもつらい目に合わせて、後悔させてやる!」


 何やら騒いでいるが、まさかこの程度の魔法で俺をどうにかするつもりなのか?

 まったく効かないんだが。

 魔法によるホコリが晴れて、連中が俺の姿を視認する。


「バ……バカな」

「何なんだコイツ」


 はいはい。それ系のセリフはもう聞き飽きたよ。


「待て! この女がどうなってもいいのか?」


 ベルナードがクレアの首もとへ、ナイフを押し付ける。

 それでも俺は構わず、前進した。

 ヤツは焦った様子を見せながら、ついにはクレアの喉をナイフで斬りつけた。

 だが彼女は悲鳴すら上げない。首にも、かすり傷一つついていない。


「罪なき者にはすべて、俺の防御魔法がかけられている。そんなナイフ程度では、傷一つ付けられん。むろん、きさまら程度の攻撃魔法でもな」

「バ……バカな」

「またバカな……か。セリフは選んだ方がいいよ、あんたら。どれが人生最後の言葉になるか、分からないんだから」


 俺は右手の平を連中に向け、堕天の魔力を放出させた。


「「「「ぐわぁあああ!」」」」


 司祭どもが吹っ飛んで、後ろの壁や柱に激突する。

 光輝教団の幹部といっても、所詮はこの程度か。

 俺は台座のほうへと歩みより、クレアを縛っている縄を魔力の刃で切った。


「さっきも見たとおり、あんたにはしばらく防御魔法がかかっている。この混乱の中でも、無傷で外へ出られるはずだ。さっさとここから出ろ」

「え? で、でも……」


 いきなり逃げろと言われて、戸惑うのはわかる。だが、この人にこれ以上、ここにいられては困るな。

 これから楽しい楽しい、司祭どもへのお仕置きをしなければならないのだから。


「あんたの父も、すでに解放している。今は聖王都から少し離れたノトールの街の宿にいるはずだ」

「ノアさんは……どうするの?」

「あんたには関係ないだろ? さっさと行け。邪魔だ!」


 強めに言い切った。もうこの人のことを、これ以上見ていたくなかった。

 俺たち兄妹に良くしてくれた、数少ない人だから。

 嫌われたくないんじゃない。たとえ誰から忌み嫌われようと、それでも俺は残虐な復讐をやめる気はないから。

 嫌うならさっさと嫌って、俺の前からいなくなってほしいんだ。


「ノアさん。ごめんなさい。でも、生きていてくれて嬉しい。助けてくれて、ありがとう」


 クレアは震える声でそう言うと、後ろからそっと抱き寄せてきた。


「何のつもりだ」

「ごめん、ごめんなさい。うう……本当にごめんなさい! 私にはあなたを止める資格なんてないんだよね。あなたが邪魔だって言うなら、すぐ行くから。ただ、無事でいて……」


 それだけつぶやくと、クレアは俺から離れた。


「はーい、面会終了でーす! さっさと行ってくださーい」


 キャロルが割って入り、シッシッと追い返すそぶりを見せる。

 それを聞いてか、その場から走りさっていくのを気配で感じた。

 俺は一切、彼女のほうを振り返ったりはしなかった。


「おまえだったら、もっと早く止めに入ってくれると思ったんだけどな」


 すぐ側でふわふわ浮いている天使を、横目で睨みつけた。


「主さまの恩人みたいだったから、特別サービスです」


 いらん気を使いやがって。

 まあいい。

 次は民以上に罪深い連中に、罰を下す番だ。


「お、おのれ……許さん! 絶対に許さんぞ!」


 先ほど吹き飛ばしたベルナードが、わなわなと震えながら立ち上がった。

 そしてヤツが両手を組んで印を結び、魔力を高めだした。いや、高めているんじゃない。ヤツの魔力の属性が変わっていくのを感じる。

 あれは魔界のモンスターや魔人たちが持つ属性、魔属性だ。

 なるほど。キャロルの《ザンゲ・ルーム》で、すでに把握済みの悪事ではあったが。

 こいつらは魔人災害を引き起こした際、強力な魔人を捕えることに成功していたようだ。そしてその魔人から魔力を抽出し、自分たちの力として利用している。


「ぐふふふふふ。きさまのそのチンケな堕天とかいう属性も、我が光輝教団に捧げてやる。せいぜい後悔するがいい。光輝教団を敵に回したことをな!」


 ベルナードが両手の平を突き出して、魔属性の魔法弾を放ってきた。巨大な球体のエネルギーが、床や柱を削りながら向かってくる。

 直撃の寸前で俺は右手を突き出し、堕天の魔力を放出して受け止めた。

 確かにヤツの魔法弾は強力だった。

 だが、想像を超えてはいない。正直なところ、魔王の魔力を体験している俺からすると、まだまだ足りない。

 想像をはるかに上回ることがない限り、負ける気はしないな。

 俺はごみ箱にでも捨てるように手を振り上げ、受け止めた魔法弾を穴の開いた天井のほうへ反らした。


「な、な……なん……だと?」


 突き出した手を震わせながら、ベルナードが目を見開く。


「おまえらに与える罰を、先に教えといてやろうか。魔界のモンスターの中には、捕えた人間の体内に入り込み、卵を産み付けるヤツがいる」

「ひ……ひい!」


 どんなお仕置きなのか、想像できたようだな。


「ふーんだ! おまえらが人間の女にやろうとしていたことと一緒じゃん。少しは被害者の気持ちが分かるかもね」


 キャロルが頬を膨らませながら、腕を組む。

 卵が孵化したあとも、モンスターは体内を動き回りながら、ひなを育て続ける。そしてひなが充分に育ったところで、おなかを破って体外に出る。

 それは考えたくもないほどの恐怖と苦痛なのだろうな。

 もっともそのモンスターも堕天魔法による幻影だが、見えている者にとっては本物と変わらん。

 幻術を止めたければ、術者の魔力を絶つしかない。


「敵に回して後悔するのは、おまえらのほうだったな。地獄を見たくなければ、必死に抵抗するがいい」


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