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受神の聖儀


 神殿の台座の上で両手足を縛られて固定されたまま、クレアは考えていた。

 本当に光輝教団は、街のみんなが口にするような、正当な活動をする団体なのだろうか。

 堕天属性と言われていた村の人たちは、本当に魔人災害を引き起こして、民たちを混沌に貶めたのか。


 クレアは聖王都に住む、普通の娘だった。父はパン屋を営み、彼女はその手伝いをしていた。

 その店には、ときどき堕天属性の村の人も訪れていた。

 みんな、あんなにも差別されているというのに、とても心優しい人ばかりだった。

 うちのお店にお兄さんとよく買い出しに来ていたティアちゃんも、かわいくて本当にいい子だったな。すごく懐いてくれて、そんな妹を見つめるお兄さんの笑顔もステキだった。

 でも、お兄さんと仲良く話してたらティアちゃん、ちょっとヤキモチやいてたっけ。

 とても素朴で、心優しい兄妹だった。

 だから今でも、あの人たちが光輝教団の司祭様が言うような悪人だとは、とても信じられなかった。


 むしろクレアは、光輝教団の人たちのほうが怖かった。

 そして磔にされたあの人に、平気で石を投げていた聖王都の人たちも。特に聖王都の貴族やお金持ちの人たちは、堕天属性への扱いが酷かった。

 石を投げて暴言を吐いていたのはほとんどが、そういう上流階級か、上流階級に従う人たちだった。

 立場的に弱い一般市民や貧しい家柄の民たちは、あの異様な光景を怯えて見ていることしかできないでいた。

 クレアもそのひとりだった。

 あの人を助けたかった。でも、怖くて動けなかった。

 今から自分の身に起こることは、あのとき何もできなかった罰なのかもしれない。クレアはそう思った。


 広々とした神殿には、多くの参拝者が集まっている。基本的に光輝教団のイベントに集まるのは、多くのお布施を払っている上流階級の人たちだ。

 身動きの取れないクレアは、唯一動く首を少し動かし、横目で彼らを眺めた。

 広々とした神殿には、ものすごい数の参拝者が集まっていた。

 薄笑みを浮かべている、たくさんの顔。それって、いったいどういう表情なの?

 正面を向くと、目のほうだけくりぬかれた布をかぶっている司祭様が、クレアを見下ろしていた。

 目だけでも、イヤらしくニヤけているのがわかる。


「今ここに、主セレナリアの御名を讃え、受神の聖儀を厳かに執り行わん」


 司祭様が両手を広げて、声を張り上げた。

 受神の儀式。神の子を宿すための儀式らしいが、要は公衆の面前で司祭たちがクレアとの性行為を見せつけるというものだ。


 最初はもちろん抵抗した。クレアの父も、連れて行かれそうになった娘を必死に守ろうとしてくれた。だけど父は、神への冒涜と称して暴行を受けてしまったのだ。

 そういった経緯でクレアは抵抗をあきらめ、そして今に至る。

 もしあのまま光輝教団に歯向かっていたら、間違いなく父は殺されてしまっていただろう。

 父は今、光輝教団の牢に閉じ込められている。しかし儀式の役を努めれば、開放してもらえる約束だ。


 ちょっと我慢するだけ。ほんのちょっと。

 そう自分に言い聞かせていると、ふいにティアちゃんのお兄さんの笑顔が浮かんできた。

 彼の名はノア。そしてクレアの初恋の人だった。


(きっと、あの恋は実らなかっただろうな……。あの人はティアちゃんのことばかり気にかけて、他のことにはてんで鈍かったから。でも、だからって……。みんなが見ている前で私は……顔も見せない中年の人に……これが、こんなのが初めてなんて……)


 クレアの目から、涙があふれだした。

 そんな彼女の表情を楽しむように、司祭様の目じりの皺が増えて、目元がニュイッと曲がる。そしてクレアの股間へと、手を伸ばしてきた。

 そのときだった。

 突然、爆発音が鳴り響き、天井が破壊された。

 驚きのあまり、目をギュッと閉じる。


 しばらくして目を開くと、司祭様が煙を放ちながらビクビクと痙攣していた。

 光輝教団のシンボルである白銀の剣も、真っ二つになっている。

 神殿内が騒然とする。

 そんな中、穴の開いた天井から差し込む光に包まれながら、黒い羽根を生やした青年と白い羽根を生やした女の子が舞い降りてきた。

 まるで神様が降臨してきたような、神々しい光景だった。


「大当たりー! キモい避雷針おったててるからだよ、バーカ!」


 天使のようにあどけなく、それでいて小悪魔のような恰好をした女の子が、倒れた司祭を指さしてキャッキャと笑った。


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