やるのはおまえ自身だ
『あのさ、ノア。俺、エレーナに告白しちった。オーケーだって。へへ』
俺の親友だったニースは、恥ずかしそうに頭を掻きながら、そう言った。
その数日後、ニースとエレーナは行方不明になった。魔人災害が起きる前の出来事だった。
何が起きて、どんな経緯で二人が殺されてしまったのかは、今のところ不明だ。
しかし今はそんなこと、どうだっていい。
想像を絶する苦しみののち、彼らは殺されてしまった。
それを命じた光輝教団の連中がのうのうと生きていて、嬉々として実行に移した拷問官が目の前にいる。そいつらに相応の罰を与えねばならない。ただ、それだけの話だ。
「拷問官リュエル。これからおまえに、裁きを下す」
「さ、裁きだと? きさま、何をするつもりだ……」
鉄製の頑丈な椅子に固定したリュエルが、額に汗をかきながら息を荒くさせた。
まあ、ここに連れてきた時点で、だいたいの予想はついてるだろう。
ここはリュエルの普段の仕事場ではなく、こいつのコレクションが飾られた趣味の部屋だ。
おそらく仕事で使い古したものであろう、数々の拷問器具が飾られている。リュエルを固定している椅子も、その一つである。
自分の家族にも内緒にしている隠し部屋らしいから、ここに閉じ込めておけば、誰かに発見されることもないだろう。
それを俺が知りえたのは、キャロルの魔法で、この部屋から溢れ出す罪を探知したからだった。
「俺の家族をあんな目に合わせておいて! きさまこそ、裁かれるべきだ!」
リュエルがわめきながら、鉄の椅子を揺らす。
「ばっかじゃないのー? 最後は自分で殺そうとしてたじゃん! しかも止めたのは主さまなんですけどー」
「きさまらがそう仕向けたからだ! こんなの、神様がお許しになるわけがない!」
「逆だよバーカ! あんたみたいな人間が野放しになってるから、主さまが裁きを下してるんだっての。しかも天使の僕が一緒だから、神様公認も同然なのです!」
キャロルがエッヘン、と胸をそらす。
まあ裁きだなんだと言ってはいるが、俺のやっていることは復讐だよ。
お許しになるならない以前に神々は基本、やられ損を受け入れろ、のスタンスだからな。
そんな神々の遣いがノリノリで協力してくれるのは、未だに謎なんだが。
さておき、その協力的な天使によって、今回もつつがなく復讐という名の裁きが実行できる。
「き、きさま……いったい、何を……」
「やるのは俺じゃない。おまえ自身だ」
「主さまは忙しいんです! あんたなんかに、これ以上構ってらんないんですよーだ」
固定されたリュエルに向かって、キャロルがビシッと指をさした。
天使のくせに、こいつは本当に楽しそうだな。もしかすると、何かしら人間に恨みがあるのかもしれない。
まあ、それは今考えることじゃないか。
それよりも、裁きを進めるとしよう。まだまだ罰を下さねばならない光輝教団の連中は、山ほどいる。キャロルの言うとおり、ダラダラやってる暇はないんだ。
俺は右手に魔力を込め、指をクイッと上げた。その動きに合わせるように、リュエルの影の中からぶよぶよした土色の物体が出現した。その物体が、人型へと変形していく。そしてリュエルとまったく同じ姿に変身した。
「な! なんなんだコイツは! わ、私なのか……私になった?」
「こいつは俺が召喚した魔界のモンスターで、変形した人間の記憶をたどるんだ。つまり、おまえがこれまでにしてきたことを、そっくりそのまま行うんだよ」
顔面を蒼白させたところを見ると、その言葉の意味が理解できたらしい。
しかもこの男の頭には、数多くの人間に行ってきた仕打ちが記憶されている。分身は、それらすべてを網羅しようとするだろう。それが達成されるまで、死へ逃げることを許しはしない。
食料なら屋敷の倉庫から、この部屋に持ち込んでおいた。延命処置を受けながら、たっぷりと楽しむがいい。
「ひ、ひぃぃぃいいいい! や、やめろ! やめてくれ!」
リュエルの分身がさっそく棚に飾られた器具の一つを取り出し、リュエルの右手人差し指にその器具をはめた。
まずは基本、爪か指関係のタイプか。
『光輝教団に忠誠を誓え』
分身のほうのリュエルが、口元に薄笑みを浮かべながら言った。
「誓う! 誓う誓う! てか、誓ってるって! 私は光輝教団の聖職者だぞ!」
『えー? 何だってぇ? 聞こえないなぁ。あーっはっはっは』
「や、やめろ! やめろーーーーーー!」
叫び声をあげるやつと、楽し気に笑うやつ。二人のリュエルの声が、室内に響き渡る。
『ひひひひ! セレナリア様、この汚らわしい魂を清めたまえ!』
「ぎゃぁぁあああああ! セレナリア様、お助けぇぇえええええ」
セレナリアというと、光輝教団が祀っている神の名だ。一方ではいたぶりながらその名を口にし、もう一方は助けを求めながらその名を叫ぶ。
滑稽だな。
ふと、妙に大人しくなったキャロルに目がいった。いつになく神妙な顔で、二人のリュエルを見つめていた。
「行くぞ」
彼女に声をかけてから、部屋の出口へと向かう。
後ろからキャロルが小走りでついてきて、俺にしがみついてきた。
「主さま……。この部屋、さすがに罪の空気が重すぎです……。早く次行きましょ、次」
くっついている彼女の体が、一瞬ブルッと震えた。
さっきまで笑顔を振りまいていたはずだが、意外にもやせ我慢だったのか?
「きついなら、おまえはここで降りろ」
そう言うとキャロルは、パッと俺から離れた。
「やです! 何を言われようと、主さまのお手伝いをしまーす!」
ふざけてるような軽い口ぶりだが、何か決意めいたものを感じる。
神々は俺の復讐を止めたがっていた。だから監視役を送ったのも、改心させるといった目的があってのことかと最初は思っていたが。
もしかすると神々の意思とは別に、キャロル自身の目的があるのかもしれない。
まあ、俺には関係ないがな。




