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次なる標的の平和な夕食


 リュエルは食堂の細長いテーブルの席へ腰を下ろし、手を組んだ。

 すでに席へ着いている、息子のミュートと妻のヘイデルに視線を向ける。そして二人が同じように手を組んだのを見届けてから、夕食前のお祈りを済ませた。

 テーブルには、まるでパーティーでも始まるかのように豪華な、妻の手料理が並べられている。

 料理は召使いにでもお願いすればいいじゃないか。いつもそう提案しているんだが、妻はどうしても自分で作った料理を食べてもらいたい、と言って聞かないのだ。


「ねえねえ、お父様! またお仕事の話を聞かせてよ」


 日課のお祈りが終わるなり、ミュートが目を輝かせながら急かしてきた。


「うふふ。ミュートったら。でも、仕方ないわね。お父様のお仕事は、とても誇らしくて神聖なものなんだから。今のうちにたくさん教えてもらうのは、すごくいいことよね」


 ヘイデルが微笑みながら、息子の頭を撫でる。

 なんて幸福に満ちた光景だろうか。

 今夜も愛する妻と息子に囲まれ、一家団らんの時間を過ごせた。リュエルは心のそこから、神様に感謝した。


「そうだなぁ。それじゃあ、堕天一族の二人を清めたときの話でもしてみるか」

「あ! 堕天一族、知ってるよ! 光輝教団に逆らう、低俗で最低最悪の汚い属性を持った悪魔たちでしょ」


 フォークで肉を指しながら、息子が無邪気な笑顔を振りまく。

 その横で妻も、微笑みながらウンウンとうなずいた。


「そうよ、ミュート。でもお父様はしっかり彼らを抹消して、魂を清めてあげたの」

「すごーい! ねえねえ、どうやって殺したの?」

「はっはっは。殺しただなんて、物騒な言い方はよくない。抹消だよ、ミュート」


 まあ相手は堕天属性だから、殺したという表現を使ったとしても、抗議なんて起きないだろうがな。

 とにもかくにも、当時のことを思い返す。

 あの堕天の若造は、光輝教団にとって都合の悪い存在だということで、リュエルのところに連れてこられた。

 仲間の女もいたが、逃げてしまったのだ。そいつの居場所を吐かせるため、というのが任務内容だったな。

 薄汚い堕天の若造を椅子に固定し、様々な拷問道具で痛めつけたんだよなぁ。

 あとから知ったが、女は若造の恋人だったらしい。そして自分を犠牲にしながら、必死に恋人を逃がしたのが、あの若造だったことも知った。

 女のことを売れば、お前は助けてやる。そんな取引も持ちかけてみた(むろん、助ける気なんて毛頭なかったがな)。

 だが結局、若造は最後の事切れる瞬間まで、恋人を売ることはなかった。愛する者を想う気持ちだけは、薄汚い堕天の若造に、唯一共感できる部分だったな。

 だからこそ処刑する直前の若造には、楽しませてもらえた。おまえの恋人はすでに捕えている、そう教えてやった後の彼の反応は本当に最高だった。


『彼女を少しでも傷つけてみろ! 絶対に殺してやる! 俺が死んでも、絶対に呪い殺してやるからな!』


 いいねいいね最後の捨て台詞、痺れたね。

 憎しみに目を血走らせ、ボロンボロン涙を流していたっけ。あれだけ拷問されてなお、他人を想える強い心に、感動したよ。

 傷つけるなと言われても、時すでに遅しってやつで、色々とボロボロにしちゃってたんだよ。

 実は若造を拷問している最中に、女も掴まえて拘束していたのだ。だからもう尋問の必要もなかったんだが、手こずらせてくれた礼に、拷問を延長して二人とも殺した。おっと……殺したのではなく、抹消して清めたんだった、ははは。

 若造の処刑前に、恋人の悲鳴も聞かせてあげればよかったか。それだけが心残りかもしれん。

 さておき、死んだ彼はいつ、呪い殺しにくるのだろうな。


「はっはっは。私は今もこうして愛する妻と息子に囲まれ、幸せに生きているぞ」


 もう一度愉悦に浸るべく、リュエルは若造の最後の顔と言葉を思い浮かべた。


「ふふふ、どうしたの急に」


 妻のヘイデルが、優しい笑顔を向けながら首をかしげた。


「いやなに。堕天の二人を清めて、あの世へ送ったときのことを思い出してな。彼らは死の直前まで、さぞ苦しかっただろう」

「それは仕方ないじゃない。だって下劣で汚い魂の堕天でしょう。そんな人たちが苦しむのは当たり前だし、光輝教団の加護を得ている私たちは幸せになって当然なの」

「そうだよ、お父様! それで、そいつらをどんな風に苦しめてやったの?」


 英雄が魔王を倒す話をせがむように、息子が先を促してくる。

 激痛に叫ぶ彼らの表情は、本当に楽しめた。これまでの連中は割とすぐに秘密を吐くので、物足りないと思っていたところだったのだ。

 どこから話してあげようか。

 やはりお約束の冒頭部分、爪を剥がしたところからかな。もう少しインパクトのあるクライマックス部分から話してみるのも、楽しそうだ。

 そんな感じで会話の流れを頭の中で整理しながら、目の前の肉料理にナイフを差し込んだ。

 そのときだった。

 突然、辺りが真っ暗になった。


「なんだ? ランプの灯が消えたのか?」

「どうしたのかしら。何が起きたの?」

「おーい、召使いどもー! さっさとなんとかしてよー」


 妻と息子の声が、すぐ側から聞こえてくる。


「お食事の最中に失礼しまーす!」


 突然、聞き覚えのない子供の声が部屋にこだまし、リュエルは体がすくみ上った。

 外でピシャーン、と雷の轟音が鳴り響く。


「きゃーーーーー!」

「うわーーーーー!」


 妻と息子が、雷の音に悲鳴を上げる。

 だがリュエルは、別のものに恐怖していた。雷の青白い光によって、青年と幼女の二人組が照らし出されたのだ。

 部屋の隅に間違いなく、そいつらはいた。

 ついさっきまで妻と息子以外の者は、誰もいなかったはずなのに。

 いったいいつから、いつの間に……。


「拷問官リュエル。仲間たちの怨念を一身に受けた堕天使が、罰を与えにきてやったぞ」


 そのような青年の声が聞こえたあと、再び外で雷が鳴り響いた。黒い翼を広げた男の影が、部屋の壁いっぱいに映し出された。


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