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万年Cランクのおっさん冒険者、伝説の成り上がり~がきんちょを拾っただけなのに……~  作者: 赤坂しぐれ
第三章 Cランクのおっさんと、収穫祭

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第五十八話 Cランクのおっさんと、物語の結末


 物語はサースフライ風の冒険者ギルド内から始まる。


 そこに領都からやって来た若き冒険者三人組。名前こそ歌劇にあった名前に変更されているが、どうみてもウェル達三人組だ。ウェルは名前をクロムウェルなんてお洒落な名前にされちゃっている。つうか、そう言えば元々の台本を知らんから、変更点とかわからんのだが?


 まぁ、いいか。話は進んで、街での人々とのやりとりがあり、三人が森に入るシーンだ。そこに現れたのは、サースフライで長年冒険者を勤めているCランクの中年冒険者二人組。その名も。


「いや、俺とクリフはそのまんまの名前なんかい」


 思わず声に出してツッコんでしまった。もちろん、迷惑にならんように小声ではあるが。いやぁ……楽しみにしてたのになぁ。俺の名前は劇だとどう変わってるのか。あぁ、でもそう言えば以前歌劇の俺を見て、自分の兄と勘違いしたアリスが名前はグレンだと言ってたか。祭りの三日目に会ったときにあいつらも今回歌劇を観に来るそうだが……ちゃんと入れたかな?

 つうか、あの俺役の俳優さん、イケメン過ぎんか……? 俺も別に不細工な顔ってわけじゃねえが、まぁ平々凡々なこの世界の男って顔だ。それをまぁ、あんなイケメンが演じてくれるたぁ……感無量だねえ。


 中年冒険者二人組は、大森林に慣れない三人組を率いて、森の中を探索していく。その道中で出会った頭脳明晰な新米学者・エミーや、森に生きる獣人の女の子・チルと合流し、話はメインの司教との戦いへと向かっていく。

 いやぁ……あれ誰ぇ? チル役の女の子がしっかり者過ぎて、もはやチルの面影は狸娘要素しか残っていない。まぁ、お話の都合上、四歳のちんちくりんを連れていく訳にもいかんしなぁ。とはいえ、ほんと誰です?あれ状態だ。


 つうか、やはりというか流石と言うか。王都でもっとも人を呼ぶ歌劇団とあって、芝居の動きもそうだが、歌がめちゃくちゃ上手い。伴奏のオーケストラもレベルが高く、場面ごとの情緒というか、表情というか。心を震えさせてくる。そんな素晴らしい歌劇を特等席で観ることが出来るなんて、こりゃあ本当に良い体験が出来てるわ。サンキュー、伯爵様。


 場面は変わり、遂に森の最奥とも呼ばれる場所へと足を踏み入れた。

 冒険者として言わせてもらえば、そんな所に不用心に足を踏み入れるなと言いたいが、ストーリー上で病気に掛かっているチルの親父の薬の材料を採りに行くために向かう必要があるそうな。その親父な、実はそこにいる中年冒険者の片割れだぞ? 多分、王都とかじゃわからんから大丈夫だが、サースフライじゃみんな頭の上に『?』が浮かんでいるぞ。


 伴奏の音楽も、森の奥深くを想い描かせるような、静かで、それでいて何処かおどろおどろしいというか……不気味な静けさを感じさせる。

 だが、それが金管楽器の炸裂する様な音によって破られることとなる。


 突如、樹上から現れた一体の影。長く太い腕に凶悪な赤面。いくらかマイルドにされているが、まさにボルティモアの司教を想わせるものだ。動きはやはり人間が演じているものなので、あの理不尽な動きまでは再現できていないがそれは仕方がないだろう。あんな動き人間がやれば、関節があっちこっちへ迷子になっちまう。


 そこからは台詞は全て歌に変わり、目まぐるしく戦闘が繰り広げられる。アスターと思わしき黒髪の剣士が大剣を振ったかと思えば、ポールの様な青年が魔術を放つ。ちなみに、あの魔術は演出上の光で構成されていて、本物じゃないそうだ。

 そしてウェルが矢を放ったかと思えば、ここで登場グレンさんが一刀のもとに司教を切り伏せ、はああぁああ!?


 いや、俺が切り伏せちゃいかんだろう!? 流石に、それは演出過多が過ぎるぞ!? つうかクリフなんもしてねえじゃねえかこれじゃあ……。


 と、思ったのも束の間。なんとここで司教は第二形態へ変化。更に凶悪な姿となって、一行を返り討ちにせんと迫り来る!!


 ……あの、これ本当に真実なんですかねぇ? 当の本人である俺が、まったく存じ上げない展開ばかりなんですが、あの……。

 が、そんな俺の心境とは裏腹に、物語はピークを迎える。今度こそ活躍の場を与えられたクリフが、手に持っている杖からなんかすっごい魔術を放つと、司教は見るからに弱って隙を見せる。そこに迫るはアスターの大剣。

 そして、その大剣は司教の肩口から袈裟斬りに振るわれ、司教は悲痛の叫びと共に、影の中に消えていった……。


 あのぅ……魔物って別にファンタジーの邪悪な者ってことじゃないんですけどねぇ。言ってしまえばただの生物。第二形態もなければ、死んで霞となる事もない。実際、死体は今回冒険者ギルドにて展示されているしな。

 まぁ、それも一つの演出ってやつだろう。あまりツッコむのも野暮ってもんだ。


 こうして森の脅威は冒険者達の手によって打ち払われた。一応、小耳に挟んだ話しにゃあ、これで物語は終わりだったはず。三人の戦いはこれからだエンドだ。続編とか作られそうだな?


 っと、そんな事を考えていると、また照明が暗くなり、再び舞台が照らされると今度は最初のサースフライの街の背景になっていた。

 恐らく、ここからも追加要素ってやつなのかな? まぁ、元々退場する予定だった俺たちはもう出番はないだろうけど。


 だが、俺の予想に反して舞台に現れたのは、死闘に傷ついたグレンだった。クリフは何処に行ったんだ……。


 ふらふらと片足を引きずり、満身創痍な様子で歩くグレン。そんなグレンのもとに駆け寄る一人の美女。あわや倒れる、と言ったところで、美女はグレンを抱き締めて涙を流す。


『あぁ、グレン……こんなに傷ついて』

『おぉ、ソアラ……私は約束の通り、無事にお前のもとへと帰ってきたぞ』

『グレン……!』

『ソアラ……!』


 その時、街の人々も帰ってきた英雄を讃えるように集まり、二人は幸せなキスをして終了。



 ……………………。


「おい、どうしたよグレン。いまにも膝から崩れ落ちそうな顔してるぞ?」


 ……………………。


「おとうしゃん、おとうしゃん! とっても、おもしろかったでしゅねぇ!!」


 ……………………。


「いやぁ、素晴らしい劇でしたな。私も王都に行った際に何度も観劇しましたが、今回のものが一番素晴らしかった! おや? グレン氏、どうかなされたのかな?」


 ……………………。はっ!? さ、流石に伯爵様を無視はいけねえ!


「あ、いや、その……なんか、私が人伝に聞いていた最後と違ったもので、少々困惑をしておりまして……」

「そうだろう、そうだろう。あの脚本が作られるにあたり、ウェル達も大分協力をしたと聞いているよ。そうだな、ウェル」

「はい。俺たちはかねてより、グレンさん達がまるで使い捨ての盾の様に、退場をさせられる内容に不満を持っていました。

 なので、全部が全部ではありませんが、本当はグレンさん達が活躍をしていたことや、街の人々はそれを誇りに思い、無事に生還したグレンさん達こそが英雄であるということを、脚本担当の方に抗議したのです」

「お前が原因か!?」

「街の人々も、快く協力していたと、代官である私の所にも話があがってきましたよ。もちろん、私も取材に応じさせていただきました」


 Oh……。オクレイマン男爵もグルかよ。えぇえ……? あんなラストで、いいのかなぁ……?


 そんな不安もなんのその。鳴り止まないカーテンコールの拍手と歓声は、劇の評価を表すには十分すぎるものだった。


 そして、この時に知ったのが、俺を演じてくれたイケメン俳優さんは、王都でも一位二位を争うほどに人気の、売れっ子俳優だったそうな。あからさまな優遇ぅ。

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