表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万年Cランクのおっさん冒険者、伝説の成り上がり~がきんちょを拾っただけなのに……~  作者: 赤坂しぐれ
第三章 Cランクのおっさんと、収穫祭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/65

第五十五話 Cランクのおっさん、予想する


 サースフライの収穫祭も、残すところあと三日となった。今日は五日目の街全体がコースとなる樽抱え競争が行われる日である。


 え? 三日目の騒動の答え? 無理無理! 責任とれんて。

 ソアラの事もベロニカの事も、大事な人カテゴリーには間違いなく入るが、だからといって彼女らの将来の面倒を見れるかと言われれば、そんな甲斐性はない! これは言い切れる。だって、三十八年惰性で生きているような男だぜ?

 まぁ、かといってハッキリとNOを突きつけられるほど、俺も心が強いわけじゃねえ。が、こればかりはもうお断りするしかねえなとも、流石に今回はそう思っている。なので、収穫祭が終わる日に二人にはやんわりと断ろうと思う。いや、そりゃあ一人の男としては惜しい話だよ? だからと言って、こんな老いぼれが若い娘らを誑かすなぞ、誠にけしからん話だ。


 だから、俺は潔く身を退かせてもらうぜ。チルもいることだしな。まぁ、当のチルは、『ショアラがおかあしゃんになってくれたらなぁ~』なんてチラチラこっちを見ながらプレッシャーを与えてくるが、そこは近所のお姉さん位で我慢してくれ。なんでも望んだものが手に入るとおもっちゃあ、人生辛くなるぜ?


 つうことで、今日は激走!樽抱え競争の日で、本来はクリフが参加する予定だったのだが……。


「流石に、ドクターストップがかかったわ」

「だろうな。首も足も治療院行きレベルで痛めて、参加許可する医者がいればそいつは多分ヤブだわ」


 初日に首を捻り治療院に。三日目に高所から飛び降りて足首を折って治療院に。何故こんな事になったかは、俺もわからんがまぁそういう星の巡りなんだろう。知らんけど。

 残念ながら、クリフが参加できなくなったので、見所さんはなくなってしまった。知り合いとしては、ロンドグレさんは今年も参加するそうだが、あの人だいたい毎年珍事を起こしてリタイアするから、投票できねえんだよなぁ……。


 樽抱え競争はこの街で一年に一度だけ、街公認で賭け事ができるイベントである。誰が優勝するかや、三着までの順位を当てたりと、基本的に前世の競馬に近い賭け方ができる。

 街公認とあって、皆この時だけは目の色を変えて手に汗を握る。金さえ払えるのであれば、子どもでも賭けることができる辺り、不健全の極みだがな。かつては裏路地で非合法ギャンブルとされていたそうだが、やはりトラブルや犯罪の温床になっちまったらしく、それならいっそのこと街の収益にもなるし街公認でやっちまえと、昔の領主が色々と動いた結果、年一の公営ギャンブルと相成ったそうな。


 ちなみに、俺は毎年トータル収支で負けてる。当たり券も買ってるには買ってるのだが、知り合いや大穴狙いの投票をしてしまい、結局トータルではマイナスとなるのだ。当たり配当はどうしてもオッズが低いからね。まぁ、負け額としてはたかが知れているがな。いいんだよ、こんなもんんは宝くじと一緒だ。夢を買うんだよ、夢を。


 ちなみに、昨年のロンドグレさんは障害物に躓いた拍子に何故か次々と衣服が脱げていき、三回転前回りをした頃には全裸となる汚ねえピタゴラスイッチを披露した。当然、そのまま衛兵につれていかれてしまい失格。なんでお前がラッキースケベられ枠なんだと、吐き気と共に叫んだのは懐かしい話だ。


 だが、楽しみな事もある。今年は合同訓練で街に訪れている騎士団の連中がいるため、数年に一度の番狂わせの年だ。

 例年だと、どうしても冒険者連中の勝つ場面が多い。この世界では身体強化の魔術は割りとポピュラーというか、冒険者でなくても使える者は多い。力仕事とか、配達業でも大活躍だ(街の中だと制限もあるが)。

 しかし、やはりこと体を動かして、障害物を乗り越えてとなると、冒険者をやっている連中の総合力ってやつだろうか、なかなか一般市民ランナーの方々では勝てないことが多い。まぁ、時々それでも優勝して、大穴をぶちこむ人もいるにはいるが。


 そんな中で、数年に一度の合同訓練で騎士団が来た年は、オッズが大荒れになる。誰が勝つのか、正直わからんからだ。

 冒険者は割りといつものメンバーであるのに対し、騎士団の人たちは前回街に来たときと面子が違うからだ。しかも、若手が多く参加するともあって、その実力が計り知れないのだ。良くも悪くも。

 なので、この時ばかりは皆頭を悩ませる。俺みたいに友人に投票する様なやつは悩まんですむが、このレースに人生を賭けているような落伍者は、まさに命懸けだ。多分、この瞬間だけ脳の活性率がやばそうだ。下手したら魔力器官でも生まれるんじゃねーの?


「まぁ、クリフがでれねーんなら、一応ロンドグレさんに賭けて……あ、今年は女性の部もあるんだっけか?」

「そうだな。おっ、モーリーのやつ出るみたいだぞ?」

「あぁ、じゃあそっちはモーリーに賭けるか。つうか、あの娘もいつまで冒険者やるんだろうなぁ……」


 参加者が集まっている中央広場のテントに、女性の部で出場するモーリーの姿があった。モーリーはこの街では割りと珍しい、女性の冒険者だ。

 冒険者というものは、肉体仕事である。それは前世で言う肉体を使ってやる仕事ではなく、まさに肉体を犠牲にして行う仕事だ。命が懸かる場面もある。なので、女性の冒険者というものは、かなり少ない。

 冒険者は身体強化が使えるのが前提としても、まず基礎的な肉体の部分でのハンデは、かなり大きいというところがある。もちろん、女性でしか出来ない依頼なんていうものあるにはあるが、それも一部の話であり、大多数が男性がこなせるものだ。

 そうなると、女性が活躍できる場面というのは少ない。これは別に女性差別とかではなく、区別というものだ。冒険者をやっていると、相方に自分の命を任せる場面はある。そんな時に、魔力が切れて怪我人を運べませんでは話にならないのだ。同じ力量の人間、同じ依頼金の人間を雇うなら、身体強化が出来なくてもある程度仕事のできる、体の丈夫で筋肉もある男性が優先されるのだ。


 女性の社会進出に関して、色々と意見はある。俺は前世の価値観のせいか、それには賛成派ではある。だが、冒険者に関しては、反対だ。そもそも、冒険者とは社会進出のカテゴリーに入れていいような職種ではないというのが一点。そして、やはりその性質上、女性は活躍するにはちとハンデが大きすぎるという部分がある。


 まぁ、モーリーとかシスター・アンナの様に、異能力があるなら話は別だが。


「相変わらず、モーリーの身体……すげえな」

「その発言、モーリー以外にすると完全にセクハラだな。まぁ、同意はするが」


 モーリーは生まれつき異能力がある。そして、その異能力故に異名を持つ。


筋肉に愛された女クイーン・オブ・マッスル


 モーリーは見た目こそ、普通の女性の様に華奢だ。しかし、その筋繊維の一つ一つが常人の数倍の密度を持ち、更に空気中の魔力を取り込んで自動的に維持と強化を行っている。この維持という部分が重要で、偉い学者先生の調べによると、本来の筋肉量を解放してしまうと、住宅一軒分を凌駕する筋肉が弾け飛ぶそうな。お前は何処のアンチェインかと。

 ただ、異能力によってそれは封じ込められており、最悪の結末は回避された為にいまを生きられているそうな。最悪の結末とは、胎児の段階で筋肉が解放し、母親の腹を破壊して共に死亡というものだ。胎児の段階から、筋肉の成長はあったらしい。


「しかし……女性の部に分けるのはいいが、それだとモーリー一強じゃねえか?」

「今年だけの方策だとよ。ほら、騎士団がいるだろ? あの連中と混ぜたら、いい勝負ができるんじゃねえかって」

「なるほどなぁ。で、クリフはどうするんだ?」

「モーリー一点買いだな。三連単もモーリー頭だ」

「そうなるよなぁ……」


 正直、モーリーが負ける未来が見えない。何故なら、今回女性の部に分けたのは、別に女性の為のハンデではないからだ。

 ハンデをもらっているのは、男の方だ。モーリーはここ数年、連続優勝を成している覇者だからだ。

 何故、そんなハンデが今年はあるかって? 馬鹿野郎! 騎士団の連中は次男や三男が多いとは言え、貴族の家系に連なるやつらだぞ。そんなやつらが、見た目ただの女性のモーリーにぶっちぎられてみろ。どんないちゃもんが飛んでくるかわからんぞ。


 情けない話ではあるが、今年は男性がハンデをもらっての戦いである。まぁ、これはこれで見ごたえありそうで、俺は楽しみなんだけどな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ