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万年Cランクのおっさん冒険者、伝説の成り上がり~がきんちょを拾っただけなのに……~  作者: 赤坂しぐれ
第三章 Cランクのおっさんと、収穫祭

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第五十話 Cランクのおっさん、見物する


 サースフライの収穫祭も三日目。昨日はチルが初日に飯を食い過ぎて、ちょっぴり腹の調子が悪くなって動けなかったのでお休みしていた。何事も限度があるってもんだ。反省、反省。


 そして、今日はソアラとベロニカが参加する、ミス・サースフライが開催される日だ。同時開催でミスター・サースフライもあるのだが、そちらは別に興味がない。野郎の顔を眺めて喜ぶ趣味はないからな。まぁ、ミスコンの前に開催されるから、結局見る事にはなるのだが。


「しっかし、懐かしいなぁ、おい。お前も昔はあそこで若い娘達からキャーキャー言われてたのに……どうしてそうなった」

「うるせぇ、ほっとけ。別に俺は自分の事を格好いいだとか、モテるなんて思ったこたぁねえよ」


 隣の席でエールをちびちび飲んでいるクリフは、そう溢して少し顔をしかめる。まだ首が治りきっていないのか、ふとした時に痛むそうな。

 クリフは今でこそハゲでデブな野郎だが、俺がサースフライにやって来た頃は、それはそれはめっちゃイケメンだった。それでいて、魔術の腕もたつってんで、クリフのファンというか追っかけは結構いた記憶がある。あのままちゃんと頑張っていれば、今ごろBランクに上がっていたと言われる位には、才能があったらしい。


 じゃあ、いまは何故こうなったかって?


 いやぁ……なんでだろうなぁ。心当たりか。強いていえば、俺が変な遊びに巻き込んだり、変な遊びに巻き込んだり、当時は飲み慣れてなかった酒を勧めまくって酒漬けにしたり、変な遊びに巻き込んだり……。うん、それくらいかな。

 残念ながら、俺と出会ったのが運の尽きだぜ! これ、友人に掛ける言葉じゃねえな?


 まぁ、結局いまの道を選んだのはクリフ自身だし、いまはいまで幸せそうだし、なんかしらんがヨシッ!!


「ところで、さっきからグレンの隣でチル坊に餌付けしているご老人は誰だぁ? 知り合いか?」

「いや、お前サースフライの出身だろ。知っとけよ、このじい様くらいは」

「俺にジジイの知り合いなんざいねえからなぁ。で、誰よ? ソアラの爺さんじゃねえだろ? 確かあの爺さん、一昨年ポックリ逝っちまったからなぁ」

「そのソアラの爺さんの友人で、オズワルド商会の前会頭だったじい様だよ。じい様、こいつはクリフ。俺の連れで呑兵衛のアホだ」

「ほっほっほっ。あのサースフライの貴公子と呼ばれていた男か。……見る影もないのう。私の名前はグリッドル。グリッドル・オズワルドだ。まぁ、いまは郊外で静かに余生を過ごすただの爺だ。よろしくのう」

「……まじか。そんな大物がなんでこんな一般席にいんだよ」


 先程から焼き菓子をチルにあげていた隣の老人の正体が、かつてこの街の経済を回していた傑物のグリッドルじい様と知って、クリフは愕然とした表情でエールを呷る。

 まぁ、俺も初めて会った時は同じ様な表情をしたから、気持ちはわかる。このじい様、アクティブな人っつうか、けっこう気さくにそこいらに出没してくるからな。それで、俺もボルティモア大森林で出会って、いまの関係があるんだけど。


「まぁ、そんなに気にしなくていいぜ。なぁ、じい様」

「左様。私は友人と共に、ただ可愛い孫娘の晴れ舞台を見に来た、ただの爺だからね」

「いや、そうは言ってもよ……まぁ、本人が気にせんのなら、別にいいか」


 そう言ったクリフは、本当にどうでも良さそうに興味なく、舞台の方に視線を戻した。この適当さが、クリフの良いところなんだよなぁ。普通、流石にこんな大物が近くにいれば、話のひとつでもしてみたくなるのが人間だ。なんなら、媚を売るやつもいるだろう。過去に本当にいたし。

 そんなクリフの様子に、グリッドルじい様も何処か満足げだ。よかったな、気に入られたみてえだぞクリフ。


「おっ、ミスターの方が終わったみたいだぞ。優勝は……誰だ、あれ? クリフ知ってるか?」

「誰だろうな……俺もあんまり人付き合いが広い方じゃないから知らんぞ。爺さんは知ってるんじゃねえの?」

「ほっほっ、あれは王都から来とる騎士団の若者だね。今年は衛兵達との合同訓練の年だからね」

「あー、そういえばそんな話もあったな。こないだ会った時にモンドが張り切ってたわ。王都の軟弱者どもを鍛えてやるって」


 ボルティモア大森林での奥地訓練はかなり過酷であると聞く。基本的に鍛えている騎士たちとはいえ、あくまでも貴族階級の次男以降の男がなるもの。根性や価値観が現場で叩き上げの衛兵とは、根本的に違う。厳しい訓練の末にリタイアが続出。その後、だいたい合同訓練がある度に、どこかの地方貴族の抗議が飛んでくるとかなんとか。そんな事で親がでしゃばんな、親が。


 まぁ、そんなわけで眉目も良い貴族の坊っちゃん達が来る合同訓練のある年は、だいたいこのミスター・サースフライはあいつらにかっさらわれていく。まぁ、別に野郎に興味はないし、女性陣もいい顔の兄さん方を見れてWin-Winってやつだろう。


「よし、そろそろミスコン始まるぞ。チルも、こっちにこい」

「あい!」


 グリッドルじい様からチルを受けとると、膝に乗せて舞台を見る。流石に知り合いが出るとあれば、ちゃんと見てやらんといかんだろう。それに、毎年出るのを断っていたソアラが出るのだ。今年見なければ、次は見られないかもしれない。

 同じことを考える男衆は多いのだろう。例年に比べ、若者たちの姿が多いように思える。


「ほー、やっぱりみんな気合い入ってんなぁ。そういえば、今年の審査員のあれ、なんだろうな? グレン、知り合いじゃねえか?」

「知るかよ、あんな彫像みたいな人。しかし、やっぱ気になるよな、あの男か女かわからん人。名前はアンジェリカだっけか?」

「おや? 二人ともご存じないのかい? 彼女はアンジェリカ・バードマン。王都の美容研究家であり、冒険者でもある人だよ。ちなみに、ムキムキで男性の様に見えるが歴とした女性だね」


 今年の審査員の中に、一際目立つ存在がいる。筋肉ムキムキの体だが、無駄に大きくついているわけではない細マッチョで整った体躯。長い金髪は美の女神であるソーラを想わせる煌めきで、顔の彫りが深くまるで前世の美術室にあった石膏像の様だ。一目みて男性か?と思ってしまうのは許してほしい。それくらい、精悍な顔つきなのだ。

 そんな彼女の事をグリッドルじい様が解説をしてくれた。なんでも、王都で男性女性関わらず、究極の美を追い求める人だそうな。彼女がプロデュースする化粧品や健康器具は、王都の流行となることも多いんだとか。冒険者としては、必要な素材を自分で取りに行くためのライセンスの様なもので、ランクはDまでしかあげていないそうだ。その代わり、彼女の二人の妹は高ランク冒険者で、姉を支えているとか。


「いろんな人がいるもんだなぁ……おっ、グリッドルじい様。次はベロニカの番みたいだぞ。ここ数年会ってなかったが、すっかり美人さんになったんだろうなぁ」


 最後に会ったのはもう三、四年前か? たしか、ベロニカが初等学校を卒業する時だったか。あの頃からすでに美少女というか、将来絶対美人になるなぁと思った。ソアラとベロニカが歩いていると、だいたい高確率で絡まれると聞いたことがあるな。


 番号が呼ばれ、舞台袖からベロニカが登場した。それと同時に、会場からは様々な反応が聞こえてきた。


「おぉ、あれがオズワルド商会の次女か。姉に似て、やはり美人だな」

「流石、ベロニカさんですわ~。今日も素敵な御召し物で、見てみて! あのブローチも、王都で流行り始めたと聞く黒真珠をふんだんにあしらったものね。落ち着いた色がベロニカさんを引き立ててて~」

「…………少しばかり目つきが鋭いが、それが逆に…………良い」


 そのほとんどが、ベロニカを讃えるものである。俺も久しぶりに顔を見たが、やはりというか美人になった。


 育ちのせいというか、昔から大人たちの期待に応えようと、必死に頑張っていたベロニカは、やや目つきが鋭いというかキツい印象を持たれやすい。が、あの娘は決して人に対して厳しいような性格じゃなく、むしろ自分に厳しすぎて追い込みをかけてしまうタイプだ。それで悩んでいたこともあったみたいだし、俺も二、三ばかし言葉をかけてやったこともある。

 だがまぁ、結局はほとんど自分で困難を解決していけたみたいだけどな。ああいう子は大人が心配せんでも勝手に育つ。まぁ、だからといって放置するのは違うがな。人並みに悩むし、困ることもある。そういう時に、大人はそっと手助けをしてやるのが良いのさ。


 今日の衣装は全体的に黒と白を基調にしたもので、少しだけ差し色に彼女の髪の色と同じ赤が含まれている。俺はファッションとやらに詳しくないからコメントは難しいが、あのフレアマキシスカートの一部がレース生地になっているのとか、この世界ではあまり見ないし、攻めてる衣装なのではないだろうか。


「すっかり娘さんになっちゃって、まぁ。グリッドルじい様も鼻高々だな」

「ほっほっ、そうじゃのう……じゃが、どうしたものか」


 グリッドルじい様は何か考え事でもあるのだろうか。長いアゴヒゲを擦りながら、舞台上のベロニカを眺めていた。


「チル。あれはソアラの友達のベロニカってんだ。美人さんだろ?」

「そうでしゅねぇ……うーん」

「ん? チルはあんな感じのお姉さんは好きじゃないのか?」

「おっぱいがちっちゃいでしゅ! ショアラの勝ちでしゅね!」

「ばっか! 大声でなに言ってやがるんだ!」


 チルの爆弾発言に、周りの観客はぎょっとした目でこちらを見てくる。

 そんな隣にいたクリフは、冷静な声でチルに注意する。


「そうだぞ、チル坊。おっぱいってのはな、大きい小さいで勝ち負けが決まるわけじゃねえ。おっきいおっぱいも、ちっさいおっぱいも、等しくおっぱいだ。おっぱいの大きさに、貴賤なし」


 キメ顔でそう言うクリフを、チルは「おぉ~!」と感心し、キラキラした目で見つめる。


 しかし、俺含めて周りの人間は、『こいつは、子どもに何を言っているんだ』と、極寒の北大陸の温度よりも冷めた視線を送るのであった。

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