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万年Cランクのおっさん冒険者、伝説の成り上がり~がきんちょを拾っただけなのに……~  作者: 赤坂しぐれ
第二章 Cランクのおっさん、親になる

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第三十六話 Cランクのおっさん、地面ぺろ


 ニタリと笑い、首をコキコキと鳴らしながら、フールはゆっくりとした足取りで俺に近づいてくる。

 その間もモンドたちはフールを捕まえようと武器を構えるが、もはや同じ人間が放っているものではないくらいに、濃厚な魔力の気配を感じて攻めあぐねている。

 俺も戦いに加わりたいが、話の流れで飛び出した為に普段使っているショートソードを持っていない。ふと見ると、先程失くなった衛兵の持っていた棒があったので、ひっぺがしてお借りすることにした。すまんが、緊急事態なので許してくれ。


「やい、人間止めるなんて、随分と卑怯な真似するじゃねえか」

「はっ、卑怯ね。聞いたぜ? お前、Cランクなんだってな。そんな野郎がえらく羽振りがいいじゃねえか。それもあんな女まで侍らして。お前こそ、卑怯な手でも使ってるんだろう?」

「羽振りがいいのは真面目に働いた結果なんだがな。まぁ、少しばかり運が向いてきてたってのは否定せんが。あと、ソアラとはそういうんじゃねえ」

「黙れッ! 神は言っていたんだ……俺みたいな、英雄に相応しい者が認められないのは、世界の方が間違っているとぉ!! お前が幸せにしているのも、俺の仲間が不幸に捕まったのも、全部世界が間違っているんだぁ!!」


 あ、これはあかんやつだ。まったく話が通じる気がしない。つうか、神ってなによ、神って。この国では聖アグリア教が国教として信奉されているけど、こんな狂信的なやつはいないし、そもそも聖アグリア様は農業の神様だ。そんな過激な思想をしていない。


 と、そんな風にフールの気を引いている内に、モンドたちの体勢が立て直し完了したようだ。亡くなってしまった衛兵を除き、他の衛兵が武器を構えてフールを取り囲む。


 それに、驚くことにフールの仲間の二人も加わる。


「……なんのつもりだ、フレッド、ミック」

「もう、やめようぜフール。流石にこれは……やりすぎだ」

「そうだよ。こんなの、俺たちがやりたかった事じゃないじゃないか。俺たちは冒険者として活躍して、金も女も名声も……全部を手に入れようって、その為に都会で頑張ろうっていったじゃないか」

「あぁ、そうだなぁ。だから、こうやって力を手に入れたんじゃないか。二人には言ったろう? 神に祈りを捧げれば、力をいただけると。いまからでも遅くない、共に神に捧げようじゃないか」

「それだ。ミックと話したが、その神ってやつはあの時、路地裏で声をかけてきたやつのことだろう? フールは変な奴に騙されてるんじゃないのか?」


 フレッドと呼ばれた若者がそういうと、フールは青筋を立てて激昂する。


「いくらフレッドと言えど、神を詐欺師呼ばわりとは何事かぁ!! ……お前には、まだお仕置きが足りてなかったか」


 フールがお仕置きという単語を口にしたとき、二人はビクッと肩を揺らし、只でさえいまの状況で悪くなっていた顔色が、さらに悪くなる。

 恐らく、フールは力で仲間達の事を押さえていた……いってしまえば、支配していたのだろう。それでも、まだ仲間だと言ってこの場に残っている二人は、なかなかに根性があると言うか、根はいいやつらなのかもしれない。犯罪は許さんが。


 そうしてフールたちが会話を続けている間に、その後方で魔術使いの衛兵が行動を起こしているのが見えた。魔術使いはしばし目を瞑り集中していたかと思うと、カッと目を見開いて声をあげる。


「モンド兵士長! 『神の目』です! やつの額にある、あの目をどうにかすれば、状況を抑えられるはずです!」

「か、神の目だとぉ!?」


 魔術使いは解析の魔術を使っていた様で、フールの力の根元を探り当てたらしい。その報告にモンドをはじめ、衛兵たちに緊張が走る。そして、それは俺も同じだ。


 『神の目』。

 それは、魔導倶と呼ばれる物の一種で、特定の魔物の素材を元に作られる。

 いまでは世界中で当たり前の常識とされている、スマイリー式呼吸法。この呼吸法の開発により、人は脳内に疑似魔力器官を形成し、魔力を扱うことが出来るようになった。

 しかし、この呼吸法は全ての人が疑似魔力器官を取得できるわけではなく、マーサさんや装飾店の主のカワヅ氏など、やってみたけどダメだったという人は結構な割合で存在する。


 そしてその昔。とある権力者が、得られない魔力器官をどうにか手に入れようと、自分で作れないなら他から持ってくればいいじゃぁんと、研究開発されたのが、この『神の目』だ。

 これを頭部に装着すると、神の目から接続端子と呼ばれる部位が脳に直接接続され、魔力器官としての役割を果たしてくれるというわけだ。外付けタンクみたいなもんだな。


 だが、脳に直接つける。その字面からもわかるように、そんな事をして無事なわけもなく、幻覚や幻聴、性格の変化や記憶の消失・混濁、別人格の形成。果ては廃人化や魔力の暴走による死亡など、もう日常生活に戻れなくなるレベルの副作用が見られた。

 その為、現在では神の目の製造・流通は勿論のこと、製造の知識なども禁忌とされており、もはや現物も存在しない昔話の一種であるとされてきた。


 俺も魔力の低さに悩んで色々と調べ、神の目の存在は知っていたが……まさか、あんな四つ腕になっちまうこともあるのか。

 だが、弱点がわかればなんとかなる。


 俺たちはお互いに頷きあい、一斉にフールに飛びかかった。



「だ、れ、だよ……弱点がわかれば、なんとかなるっていった奴ぁ……」


 僅か数分後。俺たちはフール一人を残し、全員が地面に転がされていた。フールは恍惚の表情でぐるりと俺たちを見下している。

 あまりにも、あまりにも規格が違いすぎる。なんだあの化け物は、ボルティモアの司教でも、もうちょい勝ち目が見えたぞ。

 俺はクソザコナメクジだから分かってはいたが、衛兵たちも含めてフールの方が強いとか、そんなことがあるのか。


 俺は決定打がない自覚があったので、サポートや囮に徹した動きに徹した。それはモンドも理解してくれており、俺をフールとの目眩ましに死角へと回り込み、渾身の一撃をはなったりもした。だが、額にある神の目は常にギョロギョロと周囲を見回しており、そこに四本腕という堅牢な守りが加わり、全て防がれてしまう。

 他の衛兵やフールの仲間の二人も健闘したが、結果は地面と仲良しになっただけだった。俺はまっさきに吹っ飛ばされた。割りと本気で生きてるのが不思議。


「一撃……一撃さえ入れば……」


 近くで倒れていたモンドの、悔しさが滲む声が聞こえる。

 数度の攻防からわかったのは、フールはモンドを警戒しているということだ。俺や他の皆の攻撃は、腕で払ったり拾った武器を使って防ぐ程度だ。しかし、モンドの攻撃だけは最優先に避けようとするし、魔術盾を使用して完璧に防いでいる。

 恐らく、モンドの攻撃が他の皆よりも鋭いということもあるが、一番の要因はモンドの持つ直剣にあると予想する。


 モンドの持つ直剣は、十年ほど前にククル王国の僻地で起こった魔物災害を収めた功績に、国王様から贈られた国の宝物の一つ、魔剣ルプス・マギナと呼ばれる物だ。その詳細は俺も詳しくは知らないが、魔力を喰う能力があると、以前モンドから聞いたことがある。その証拠に、魔術盾で防がれたとき、その魔力を喰らって剣が淡く光り、盾も割れるというより消える様に霧散していた。


 神の目という魔力器官にとって、魔力を喰われるのは不味いということか。


「もう一度、俺が突っ込む。その隙に他の衛兵たちを……いや、俺たち全てを囮にして、一撃をくれてやってくれ」

「だが、グレンももうその体では無理だろう」

「無理を通さなきゃ守れないものがあるなら、通すのが道理ってもんだろうがよ」


 折れて短くなってしまった棒を杖にして、俺は再び立ち上がる。俺たちが倒れているのにトドメを差してこないのは、出来る限り俺に苦痛を味わわせる為か。


 ほう……舐めプですか。なるほどなるほど。だが、いいのかな? 

 

 そうやって舐めプかまして、死んだ奴がいたなぁ! お前も、司教になるんだよぉ!!

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