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万年Cランクのおっさん冒険者、伝説の成り上がり~がきんちょを拾っただけなのに……~  作者: 赤坂しぐれ
第二章 Cランクのおっさん、親になる

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第二十四話 Cランクのおっさん、祭りの終わり


 祭りとは終わりを迎えれば寂しいもので、あれだけ賑わっていたサースフライも、いまでは静寂に……包まれるわけがなかった。


 なんといっても、街にとって本当の祭りはこれからだ。収穫されたジャガイモムシは個人で必要な分を除いて、街で貯蔵する為の大樽に保存される。これに関しては義務なんてものはないが、そもそも個人で貯蔵しようにも消費しようにも、あまりにも量が多すぎるのだ。

 活動を終えたジャガイモムシは、毒を発することはない。が、腐るのは腐る。冷暗所で保管して、およそ一ヶ月程度は大丈夫だが、二ヶ月はもたないと言われている。なので、ジャガイモムシは皮をつけたまま天日干しをし、干しジャガイモムシにして保管するのだ。もちろん、個人でこれを行ってもいいが、結構管理が大変なのだ。

 それに対し、街で干しジャガイモムシを作るのは、一種の公共事業である。作業自体は単純作業なので老人や子どもでも出きるし、天日干しの管理は冒険者の食いぶちとなる。緊急時に開放される食料としても重要なものだ。


 なので、街の中央広場には超巨大な樽がいくつも並べられており、皆列を成して次々と樽にジャガイモムシを入れていく。そして、この集められたジャガイモムシは、まずこの後に住人全員に振る舞われ、夏の終わりの風物詩となるのだ。


「はーい、こちら二列でお並びくださーい! じゃがバターは一人二個、羽根チップスは一籠までですよー」

「こっちは揚げジャガだよ! 揚げたてほっくほく! ほら、そこの旦那も持っていっておくれよ!」


 元気な声があちらこちらから聞こえてくる。収穫の際、女性も参加していいのだが、いかんせん見た目は虫っぽいこともあり、あまり参加したがらないのが実情だ。だが、収穫されてしまえばもうほとんどジャガイモそのものなので、調理は任せなと、街の女性たちは大いに腕を振るってくれる。

 調理されたジャガイモムシは、無料で振る舞われるとあって、皆腹一杯になるまで堪能する。無料と言っても、一応調理代として寸志が街から出るのだが、それよりも街全体としてのお祭りだからと、女性たちを主に、調理が出来る男も皆住人の腹を満たしてくれるのだ。


「も、もう、食べられないでしゅ……」

「その小せぇ体に、よく入ったもんだわ。ひぃ、ふぅ、みぃ……三匹半も食ってるじゃねぇか」

「だって……おいしーんでしゅもん……げぷ」

「おい、またいつかみてぇに俺に吐くなよ? ったく……クリフも潰れちまったし」


 腹をポンポコリンにさせて横になっているチルの隣では、木の帽子を枕にしていびきをかくクリフの姿がある。まぁ、収穫の途中から飲んでたし、さもありなん。

 俺も結構食ったなぁと、ぼんやりと広場の様子を見ていると、やはりもう皆だいぶ腹が張ってるのか、食休みをしている人が多く見られる。っと、そんな中でこちらに近づいてくる人影があった。


「あら、もう食べ終わっちゃったの? せっかく持ってきたのに」

「おー、ソアラか。調理、お疲れさま。マーサさんとこはもういいのか?」

「うん、割り当てのジャガイモムシも無くなったし、もう終わりね。これ、お母さんが持っていけって」


 そういってソアラが差し出してきたのは、細切りにされてカラッと揚がったフライドジャガイモムシだった。


「あー……うん、ちょっと貰うわ……うん、旨いな。この大きさっつうか、細さが絶妙だ。これ以上細いと食べ応えがないし、太すぎるとカリッと感がなくなりそうだ。いい太さ加減だぜ。ソアラが切ったのか?」

「うん! 去年、グレンさんがそんなこと言ってたな~って、思い出してね。美味しかったのなら、よかったわ」


 去年そんな事言ったかな? まぁ、ソアラがそう言うのなら、言ったんだろうな。たぶん。

 まぁそれで旨いフライドジャガイモムシが食えたのなら、良いこった。俺が褒めたのがそんなに嬉しかったのか、ソアラも少し頬を染めてはにかんでいる。


「…………チルよ。これでまだこいつら結婚しねえんだから、おかしな話だよなぁ?」

「そうなんでしゅか? チルにはよくわかんないでしゅねぇ……けぷぅ」

「やい、クリフ。いつの間に起きてたんだてめぇ。あっ、さっきモンドが通りかかって、起きたら詰め所に来いって言ってたぞ。たぶん、火の魔術使ったことのお小言だ」

「……グー、グー」

「タヌキ娘の隣でタヌキじじいがタヌキ寝入りしてやがる」


 ちょっとした一幕もあったが、今年のジャガイモムシ収穫も大きな問題もなく、終わりを迎えた。

 この祭りが終われば、夏は終わりを告げて段々と秋になっていく。ボルティモア大森林の木々は紅に染まり、木の実が溢れ、それを食べる動物も増える。


 猛暑が厳しかった夏だって、いつもまでも続くわけではないってこった。


 そんな秋の足音が、夕暮れに鳴く虫の声と共に聞こえてくるような、そんな気がした。



∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇



 それは、いつか見た光景であり、もうどうすることも出来ない過去だ。


 共に笑い、共に泣き、時に投げ掛けられる心ない言葉に共に怒った。そんな兄弟姉妹とも、親友とも呼べる者が、次々と力尽きて倒れ伏す。


「すまない……すまない……君たちを助けられなかった」


 苦楽を共にしてきた仲間の山に自らも加わったところで、その人は泣きながらひたすらに謝ってきた。

 その人が悪いことなんて、何一つないのに。それどころか、この人がいなければ、自分達はもっと早くに焔に身を焼かれ、こうやって仲間と共に最期を迎えることなんて出来なかった。


 あやまらないで。


 そう声にしたかったが、黒煙と焔に焼かれた喉はもう喘鳴しか発することができない。そして、それも長くは続かないだろう。


 だから、僕は心のなかで祈った。いつもは『ほんとうに神様なんているのかな?』なんて思いながら、食事の前に祈りを捧げていた神様に。



 どうか、この人が助かりますように。




 ボルティモア大森林の奥。一頭の熊が目を覚ます。

 隣にはツガイの熊と、三頭の子ども達がすやすやと寝息をたてている。まだ残暑が厳しいなかであるが、自分達の周りはひんやりとした空気が漂っている。


 あの日出会ったエミーと呼ばれる女が作った、猿の頭を使って出来た即席の冷房装置。なぜそんな物を作れたのかわからないが、それらに助けられた事は間違いないことである。


 八千留(やちる)は……ちゃんとあの人のところに行けたんだね。


 熊はその事がとても嬉しく、それでいて少しだけ寂しかった。そして、それは自分とツガイとなった隣の熊も一緒だろう。

 どうして。なぜ。そう何度自問自答したか、もうわからない。だが、自分達は確かにあの日、その命を終えた。だのに、今はこうやって別の形で生を授かっている。永遠に別たれたと思っていた幼馴染みと、こういう形で一緒にもなれた。


 いまは、ただそれが嬉しくて、でも、もうあの人は自分を高い高いと持ち上げてくれたり、玩具で遊んでくれることもないのだと。


 その寂しさに、少しだけ視界が潤んだ。

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