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万年Cランクのおっさん冒険者、伝説の成り上がり~がきんちょを拾っただけなのに……~  作者: 赤坂しぐれ
第二章 Cランクのおっさん、親になる

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第二十話 Cランクのおっさん、お手伝いをする


 ここ、サースフライは田舎街だ。

 というか、ククル王国が第一次産業主体の国で、そこまで大きく発展した国ではない。

 と言っても、それは決してククル王国が寂れているというわけではない。広大な国土を持ち、周囲に海があって国の南西部には豊かな資源の宝庫であるボルティモア大森林が広がっている。

 正直、ボルティモア大森林を挟んで向こう側に位置するグリモワール大陸最大の大帝国アドラステアや、海の向こう側にある魔導機械大国オースティアの様な、見る者に高揚感を与えるような華やかさは無い。こちらの世界でそれを知って、がっかりしなかったと言えば嘘になる。


 だが、俺は割りとこのククル王国という所が好きだ。

 飯は旨いし、空気がいい。他国との戦争もほとんど起きないし。飯が旨いと言えば、ククル王国には米がある。しかも、ジャポニカ米だ。

 なんか妙に農業関係が発展しているし、恐らく過去に米農家が米と共に転移してきたんじゃないかと、俺は睨んでいる。まぁ、それを調べようとも発展させようとも思わんが。つうか、農業の知識なんてまったくねえな。なんか学校で習ったものはうろ覚えでかすかにあるが、そんなもん役に立たねえ。


 前世でサブカルチャーに傾倒していた同僚が、『知識は金よりも重いですぞ! もし異世界に飛ばされても、知識チートで成りがりでござる!』とか言ってたが、だいたいそいつの知識は電子百科時点のなんちゃらペディアさんを見ながらだったし、それがなければフワッとしたうろ覚え知識しかなかった。まぁ、そいつは異世界に飛ばされる前に、仕事のこと覚えなさすぎてド田舎の過疎支店に飛ばされてしまったが。


 俺も一応大学まで出たが、専門分野はこっちの世界であまり活かせそうにないので、大人しく生きることを選んだ。というか、過去にいた転移者か転生者かしらんが、その人たちが結構頑張ったせいか、田舎ではあるがそこまで生活しづらいとかはない。そも、こっちの世界も専門の学習機関や研究所があるくらいだ。文明レベルで言えばそこまで大差があるとも思えん。

 この間知り合った新人学者のエミーなんか、俺の数倍は頭良いぞ。大森林の話をしていたが、途中から何を言っているのかわからなくなった。


 その辺りの発展具合は、この国の法律や制度からみてもわかる。

 弱者救済は貴族の勤めという考え方がある。そして、それを裏付けるのが法律や制度の所々に『公共の福祉』を感じる部分があるからだ。

 どうしても働けなくなった者や、働き手を失った寡婦、親を失くした子どもなど、社会的弱者をそのままにしないよう、随所に整備が施されている。実はククル王国における冒険者制度もその一環なのだが、それはまた別の機会に。

 

 そんで、今日訪れた教会ってやつも、そんな弱者救済帰還の一つだ。国はある程度の大きさのコミュニティには、必ず教会を置くことを決めている。どうにもならなくなった者が駆け込める場所として、その門扉を開いているのだ。


「つうわけで、やって来ましたよ、シスター・アンナ」

「あぁ?」

「……前々から思ってはいましたが、もう少しこう……シスターらしさって出来ないんですか?」


 チルと二人で教会を訪れ、またくしゃみ祭りにならないよう布で鼻と口を覆い中に入ると、相変わらず長椅子に横になったシスター・アンナの姿があった。

 だが、俺たちが近づいても起き上がろうとしない。どうしたのかと声をかけると、この有り様だ。開口一番でチンピラみたいな声出さんでくれ。俺は基本ビビリなんだ。


「あんまり大きい声を出さんでおくれ。腰に響いて、あいたたた……」

「お、おい、大丈夫かシスター」

「アンナ婆ちゃん、だいじょうぶ?」

「チルや。アンナ婆ちゃんはお止め。シスター・アンナか、アンナお姉さんとお呼び」

「あい! わかった! アンナ婆ちゃん!」

「グレン……お前、どういう教育してんだい?」

「俺のせいじゃねえですって。それより、腰。痛めたんです?」


 聞けば、三日前に街を管理するオクレイマン男爵から、近々モンクレール伯爵が街の視察に来られるからそろそろ教会をちゃんと綺麗にしてくれ(意訳)との通達があったそうな。それには流石のシスター・アンナも重い腰をあげ、埃まみれになった教会を綺麗に掃除しようとしたのだが……その際に腰がギックリと昇天したそうな。

 普段からちゃんと綺麗にしておけよ……とは、いちサースフライ住人として思わんでもないが、そもそも結構ちゃんと立派なこんな教会を、元冒険者で元気ではあるが年老いたシスターひとりで管理するのはなかなか無茶な話だ。


「誰が年老いたババアだい」

「頭の中の考えに突っ込むのやめてくれません? んで、今回は期限内に教会の掃除とかをすればいいんですかい?」

「それに加えて、祭事以外の御勤めさね。一応、これでもシスターやってんだ。街の中で生活に困ってる人を助けるのお役目さ」

「えぇ? そう言われても、俺まったくそんなのわかりませんよ?」

「その辺りは私がちゃーんと教えてやるさね。お、もうだいぶ日が昇っちまったねぇ。とりあえず、奥の調理場へ行くよ。チルや、ちょいと手を貸してくれるかい?」

「あいあいー!」


 腰の調子がだいぶ悪そうだ。杖をつき、もう片方の手をチルに引かれながら、シスターはゆっくりと歩き始める。その後ろ姿は、いつもの元気に瓶を振り回す酒カスなシスターのものより、少しだけ小さく見えた。


「まずは芋の皮剥きだよ! とっとと始めなっ!」


「皮が剥き終わった? じゃあさっさと切るんだよ! あぁ、チルや。そこそこ……もう少し左を、そうそう。いい踏み具合だね」


「なにをぼさっとしてんだい! 豆を入れて、調味料もくわえな!!」


「できたかい? じゃぁ、その大鍋をあと三つ仕込みなッ!!!」



 ……こんの糞ババア。俺が大人しく話を聞いてれば、次から次へと!!

 くっ……我慢、我慢だグレン。ここで投げ出せば、オルセンさんが『むむ、これしきの依頼も達成できんのかぁ。やっぱりCランクはそこまでじゃのう~。引退して職員からやり直した方がいいぞぉ? ほれほれ』と煽ってくるのが目に見える。

 これでも、元日本人。我慢と仕事っぷりに定評があるんだい!! 悪い癖とも言うがな!!


 そうして、なんとか糞ババ……シスター・アンナの指示に従って炊き出しの鍋が完成すると、ちょうど時間を測っていたかのように数名の男女が教会に入ってきた。


「こんにちは、シスター。本日分の炊き出しを受け取りに参りました」

「あぁ、こんにちは。こっちにいるのがグレンで、こっちの子どもがチルだよ。今日からしばらくは炊き出しの調理はこのグレンが担当するからね。グレン、この方たちは教会の手伝いを御厚意でしてくださっている方たちだよ。挨拶しな」

「どうも、グレンです。えっと、一応シスターの手伝いというか、なんというか……今日の炊き出しを作った者です」

「はじめまして、ニールです。普段は南町の飲食店をやっているのですが、週の二日ほどは教会のお手伝いをさせていただいております。こっちが妻のレーナで、こっちが弟夫婦のフィンとミレ。後からまた何名か来ます」


 メガネをかけた爽やかな青年は、そういいながら握手を求めてきた。こちとらボランティアじゃなく金銭を介した手伝いなので、なんというか後ろめたさは感じるが、わざわざそれを言う必要もあるまい。握手を返して、少し話したあと鍋の搬入を手伝った。この後、東街の広場で炊き出しを行うらしい。まぁ、俺の役目はここまでだ。


 少し話をした感じ、別にニールたちは過去に教会に世話になった立場でもないらしい。ただ、子どもの頃からの友人が、教会の孤児院出身だったことから手伝いをしはじめ、いまもそれが習慣に残っているだけだそうな。


 うーん……なんつうか、人間としての徳の違いと言うか、別に悪いことしてるわけじゃねえのに、自分が小さな人間におもえちまう。不思議なもんだ。

 だが、それはそれ。俺は無償でシスターの手伝いをするつもりもないし、この仕事が終わったからと言ってたまにボランティアをするかといわれたら、しないだろう。

 世のため人の為に働くことは美徳に感じる。その気持ちは確かにある。ぶらぶらと生きている俺でも、やはり誰かが困っていればなんとかならんかと思わんわけでもないしな。

 けど、それならまた違う形で……例えば寄付なんてかたちでも、人助けはできるのだ。


 今日の仕事だってそうだ。依頼料は教会の維持費……つまり、街から出たお金で税金から賄われている。いわば公共事業だ。それを担って働く俺は、間違いなく街の為になっているだろう。

 なにも後ろ暗い想いをしなくてもよいのだ。俺は、俺の出来ることをするまでだ。

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