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万年Cランクのおっさん冒険者、伝説の成り上がり~がきんちょを拾っただけなのに……~  作者: 赤坂しぐれ
第一章 Cランクのおっさん、子どもを拾う

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第十八話 Cランクのおっさん、帰る場所


「あら、グレンさん。おかえりなさい! 大変だったわねぇ! 色々聞いたわよ」

「ただいまもどりました。それと、チルのことすんません。これ、今月分の宿代とチルが世話になった分の料金です」

「あらぁ、チルちゃんの分はいいわよ。久しぶりに小さい子の面倒がみれて、ソアラが小さいときの事を思い出して楽しかったもの。

 でも、そうね……じゃあ、そのお金はグレンさんがいなくて寂しがっていた分、チルちゃんに美味しいものをたーんと食べさせておやり!」

「マーサさん……重ね重ね、ありがとうございます」


 再度俺が頭を下げると、もうこの話は終わりとばかりに手を振って、仕事に戻るマーサさんの後ろ姿があった。


 森の司教との戦いから一週間が過ぎた。


 怪我と疲労で治療院に入院することとなった俺とクリフは、まぁ特にやることもなく暇だったが、なんか知らんが治療院の料金はギルドが持ってくれるということで、最大限ゆっくりとすごしてやった。

 一週間もひたすら寝ちゃあ食い、食っちゃあ寝ての生活は、万年金なしの貧乏人のCランクには夢の様な時間だったが、まぁ俺もクリフも普段不真面目が服着て歩いてるとはいえ、流石にまったく働かない生活にも飽きは来る。

 そもそも、俺たち冒険者っつうのは、好きに生きたいのだ。その中には確かに働かずに食う飯は旨い!という気持ちもあるが、刺激的な冒険をしたいっつう気持ちもある。なんとも身勝手な話だ。


 あぁ、そう言えばだったが、治療院の帰りにクリフがポケットに隠し持っていたニッポリダケ(かっさかさに乾いていたが)を例の薬屋の婆さん所に持っていったが、店は無くなっていた。

 その辺のおっさんに話を聞いたところ、なにやら禁制の薬物を製作しいたのが発覚し、お縄になったそうな。それを聞いたクリフがポケットから、なんかかっさかさの屑を路地裏に捨てていたが気のせいだろう。旨い話には裏がある。お天道様に背くお金の稼ぎ方なんてしちゃいけねえよなぁ!! オレ、マジメニイキル。ホントウ、ホントウ。


 まぁそんなこんなで、無事俺は日常に帰ってくることが出来た。司教の一件も、表向きにはウェルたち三人が奮闘し、俺とクリフが肉壁で頑張ったことになっていたし、変にこじれることもなかった。なんかしらんが、助かった。流石に熊に憑依して司教を倒しましたなんていった日には、薬物使用者の疑いで薬屋の婆さんの隣の牢屋に入れられかねない。


 ただ、やはり司教討伐に関われた影響はでかい。なんか最初は俺とクリフだけで司教を倒したみたいな噂が先行し、俺たちが英雄みたいに思われていたそうな。だが、ギルドから正式な発表があり、まぁそれでも活躍したんだねと、街の人たちから色々と声をかけられることは多くなった。

 そんでもって、一番嬉しいのが討伐報酬だった。森の司教は別に懸賞金等があるわけではないが、数年に一度くらいのレベルで冒険者達が活動する区域に出現し、多くの犠牲者を出す。Aランク冒険者のロンドグレ達が討伐した個体の時も、低級冒険者が20名以上犠牲になり、討伐の際にはロンドグレの仲間も二人やられた。

 そんな司教を今回は誰も犠牲にせず、討伐できたのだ。偉業といっても過言じゃない。まぁ、その活躍はウェル達が主体だけど。そういや、既になんか吟遊詩人の間で詩が作られているとか。俺とクリフは途中、司教の攻撃からウェルを守って散るそうな。勝手に殺すな、生きとるわい。


 まぁそんな活躍があったかっら、討伐報酬も結構いい額で貰えた。オルセンさんなんかは、『儂はお前のランクが上がることを……』なんて言ってたが、ノーノーセンキュー、ノーセンキュー。確かに若い頃はランクあげて成り上がるぜ!なんて憧れた時期もあったけど、正直もう無理。朝起きたら腰が痛えし、運動すれば膝が痛えし。走れば吐きそうになるし、階段で息切れだ。

 基本的に日常生活で身体強化なんて魔力の無駄遣いしたくないけど、使ってしまいそうになる場面は多々ある。そんな俺がいまさらBランクなんて上がっても、なんの活躍も出来ずにサヨナラ冒険者である。引退に伴ってランク上がったの?とか言われそう。名誉ランクアップなんて制度ないけど。


 なので、今回の様に結構な額の報酬を貰えるのは素直に嬉しい。この間まで心のレッドラインだった財政が一気に黒くなるくらいに貰えたので、またしばらくのんびりと依頼を吟味できる。

 それこそ、この間の侘びじゃないが、チルに旨いものでも食わせてやろう。クリフとも呑みたいし。よし、行くか! どうせあの飲んだくれは酒場にいるだろう。


 思い立ったが吉日。マーサさんから、チルは店の裏でソアラと遊んでいると聞いたので、帰り途中で買ったお菓子を携えて裏口に回った。ドアを開け、そこから顔を覗かせると、どうやらチルはチョークの様なもので、地面に落書きをしているようだった。


「おーい、チル。帰ったぞー。ソアラも、チルの面倒見てくれてありがとうな」

「おー! グレンおじちゃんでしゅ!」

「あら、グレンさん。おかえりなさい」

「はは、なんかいまのソアラの言い方、マーサさんにそっくりだったぞ」

「えー? 嘘でしょ?」


 年頃の娘さんってのは、母親に似ていると言われるのは好きではないのか、ソアラは少し膨れっ面になった。でも、さっき聞いたマーサさんの挨拶とあまりにも似ていたんだから、しょうがない。


「これはチルへのお土産だ。そんでこっちはソアラに……っと!」


 小脇に抱えていた袋から色々と取り出していると、急にどんっと足元に小さな衝撃があった。見てみると、チルが俺の足に抱きつき、涙目になっていた。

 意外な事だが、俺が目を覚ました時にチルは初めて俺の前で泣いた。熱が出てしんどい時も、俺からしこたま怒られた時にも泣かなかったチルがだ。普段からなんかふわふわして、飄々としていることの多いチルだったので、その場にいた知り合い全員が驚いたし、なんか……ほっとした。

 どこか掴み所がなくて、変に聞きけのいいところもあるチルも、ちゃんと子どもだったんだなと。それと同時に、俺の心の中では、少しばかりズキリと痛む棘の様なものを感じた。それは、過去(前世)に置いてきた痛みだ。


 ……やっぱり、俺はガキが嫌いだ。


「……治療院に見舞いに来たときにも、元気だったろう? もう怪我はないよ。ほら」


 チルの脇に手を差し込み、そのまま体をぐんっと持ち上げて高い高いをしてやる。すると、チルは少し困った表情の後、パッと笑顔になり、大きく口をあけた。


「グレンおじちゃ……おじ、お……オロロロロロロ!!!!」

「え!? ぎゃああああああああああ!?」

「まぁ! 大変!」


 チルの吐いたモノを顔面直撃で食らった俺は、しばらく水浴びをする事となった。

 どうやら、マーサさんはチルが可愛くて仕方がないと、あれもこれもと食べさせてくれていたそうな。この時も昼飯をたらふく食って、すぐに動けないからと店の裏で大人しくお絵描きをしていたそうな。

 そこに俺が帰ってきたことで嬉しくなったものの、立ち上がった拍子にリバースしそうになり涙目に。最後に俺が高い高いをしたことがトドメとなり、大惨事となった。


 すっかりとすっきりとしたチルは一緒になって水浴びをしているが……クソぅ、なんか腹立つ。


「食らえ、この!」

「うわっぷ! きゃはは! やめてくだしゃい!!」


 桶に手を突っ込み、水鉄砲を食らわすと、チルは笑い声をあげながら逃げ回る。そうして遊んでいると、ふっと急にチルが立ち止まりこちらを向いた。

 なんだ?と思って俺も止まると、チルは満面の笑みを浮かべて言った。


「グレンおじちゃん、おかえりなさい!!」

これにて第一章は終わりです。明日より第二章が始まります。

ブックマーク、評価、感想など本当にありがとうございます。やる気がでます!

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