表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万年Cランクのおっさん冒険者、伝説の成り上がり~がきんちょを拾っただけなのに……~  作者: 赤坂しぐれ
第一章 Cランクのおっさん、子どもを拾う

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/65

第十二話 Cランクのおっさん、探す


「どこだ! チル!!」


 馬で来た道を引き返しながら、俺は必死にチルを探し回った。

 確かに俺は逃げる時、チルを荷物に入れたはずだ。それからは逃げるのに必死だったから、後ろを見ていなかったが、もし落ちていたのであればチルも声をあげるはずだ。だが、それも無かった。


 いったい、どこではぐれたのか。もし街に着いたときに荷物から飛び出し、騒ぎに紛れて入場したのであれば、まだ良い。最悪、街ならなんとかなる可能性もある。少しは顔見知りもいるし、ギルドか宿に行ってくれれば保護もされる。

 だが、仮に街までの道中で落ちてしまえば。流石に身軽なチルとて、怪我をしてしまう。もしかすれば、致命傷をおっているかもしれない。

 さらに言えば、森ではぐれたのなら。いまの森は強力な魔物であるスケイルグリズリーが跋扈する危険地帯だ。チルは自身で『危険な獣は寄ってこない』と豪語していたが、その真偽は不明だし、魔物がその範囲に入っているかは更に未知だ。


「くっ、だからガキは……嫌いなんだ!! あんな想いは、もう沢山だ!!」


 こんな時に……いや、こんな場面だからこそ、前世()の事が頭に浮かんでしまう。あれはもう、過ぎ去ってしまった話。いまは記憶の底でじっとしててくれ。

 俺は目をさらにしながら、馬を走らせる。本来であれば領兵の方々を案内しなければならないが、チルとはぐれたことをモンドに伝えると血相を変えて先に行けと言われた。俺は一瞬躊躇ったが、他の兵士の方も『道案内は不要。現場につけば巡回の者から話は聞ける』と、出発を促された。

 しかし、探せど探せどチルの影はない。夏草の背が高く、小柄なチルだと落ちたときに紛れてしまうと思ったが、草が折れているところを探しても見つからなかった。そうしているうちに、俺は森の入り口付近まで着いていた。


 入り口付近には森の中で活動していたであろうC以下の低ランク帯の冒険者や、行きの馬車で見かけた学者の爺さんたちがいた。どうやらウェルたちが避難を促し、街にいく馬車の順番待ちをしているのだろう。先程から引っ切り無しに馬車が次々と発車している。

 そんな中で俺の姿を見つけた学者の爺さん……たしか、ヴィクターとかいったか。ヴィクターさんが手を挙げながら近づいてきた。


「グレンさん! グレンさん!!」

「ヴィクターさん、ご無事で何よりです。皆さん、避難の列に並んでいるのでは?」

「それなのですが……まだ一人、新人の研究員が森から出てきていないのです」

「何? それは、間違いないんですか?」

「えぇ……入り口の方々にお聞きしても、彼女……エミー君の姿を見ていないそうです」


 マジかよ……こちとらチルも探さないといけないってのに。


「俺もチルとはぐれちまったんだ。見てないですよね?」

「なんと! チルちゃんも」

「とにかく、俺は今からもう一度森に入る。森は道もあるが、そこ以外からも出入りしようと思えば出来なくはない。ヴィクターさん、よかったらチルたちが出てこないか、頼んでもいいですか?」

「承知した。他の研究員たちは先に帰らせるが、私はここに残ろう」

「お願いします。ただ、危険が迫った場合は構わず逃げてください。では」


 ヴィクターさんに後を託すと、俺は入り口へと向かう。入り口は森から獣たちが飛び出さないよう、バリケードと複数の冒険者、兵士で固められている。俺はその中で指揮をとっていた顔馴染みの兵士に声をかけた。


「アントンさん、お疲れさまです」

「おぉ、グレンか。ん? 森に潜っていたのか?」

「いえ、伝令で街に戻って、トンボ返りしてきました」

「あぁ、街に早馬で戻った冒険者はグレンだったか。ん? だが、領兵の姿がないが……」


 俺はアントンさんに事情を話し、チルとついでにエミーという学者の捜索をさせて欲しいと持ちかけた。だが、アントンさんの表情は渋いものだった。


「行かせてやりたいのはやまやまだが……Cランクの冒険者は今は単独で中に入れないようにしている。街からBランクの者が駆けつければ同行は許可出来るが……」

「……なら、俺たちと一緒であれば問題ないと言うことか」

「話しは聞かせてもらったぜ、グレンさん」

「アスター、ウェル! 無事だったか」

「一旦外に出て休憩をとっていたんです。そろそろ、もう一度中に入って取り残されている人がいないか、捜索に向かおうと思っていたんです」

「うーむ……Bランクが二人か。もう少し人が欲しいところだが」

「なら、俺が行こう。いいだろ? グレン」


 そう言ってバリケードの防衛に回っていた冒険者の中から出てきたのは、クリフであった。


「お前……今日も酒場に行くって行ってなかったか?」

「いや、なんつうか……あの時は酒の勢いで教えたけど、その……俺も(金が)惜しくなった」

「この野郎……感動を返せ。いや、いい。今は居てくれたことに感謝だ。クリフも一緒なら十分だろ?」

「同じくベテランのクリフなら足を引っ張ることもないか。良いだろう、では四人には森の中に取り残された人がいないか、捜索を頼む。いまのところ、入退場者の一覧で行方がわからないのはエミーという学者……のみになっているが、無断で森に入った者もいるかもしれない。魔物の対処は考えず、捜索に尽力して欲しい」

『ハイっ!!』


 俺たち四人は直ぐに装備などを整え、森へと向かう。その姿を見た他の冒険者たちは「ここは任せろ!」だとか「熊の餌になるなよ!!」と檄を飛ばしてくれる。

 逸る気持ちを抑えながら、それでも出来るだけ速く、広く捜索をするために俺たちの足はぐんぐんと進んでいく。そんな中で、俺のは後ろの配置についていたウェルが足を止める。


「一度、探索の魔術を使います。少しだけ周囲の警戒を頼みます」


 探索の魔術はその名の通り、『目的の物、者を探す』魔術だ。その精度や広さは個人差が大きく、斥候役を担う者は必須の魔術の一つである。


「ウェルはどれくらい広いんだ?」

「円形にやく80マトルほどです。今回のように、人と中・大型の獣で分けるくらいならですが。この範囲だと短時間では二回くらいしか使えませんが」

「そんなに広いのか……流石はBランクだ」


 1マトルあたり地球で言うところの3メートル弱。ざっくり230メートルくらいの円周で周囲を探れるのはかなりでかい。特にこういった森などの視界が悪い場所であれば、その有用性は恐ろしく高い。だが、それ故に消費魔力量は多い。

 それもそのはずだ。その範囲上に魔力を流し、触れる物すべての判別をしているのだ。俺の様に魔力量の低いものがやれば一発で使い物にならなくなる。というか、そんな広範囲に魔力を流せない。せいぜい体のすぐ近く30メートルくらいが限度だ。


「この辺りには人はいませんね。大型の獣の反応もなし。進みましょう」

「あぁ……ん?」


 歩みを進めようとした俺の目に何かチラッと光るものが見えたような気がした。が、まぁ人間がよく入る森だ。落とし物や使い捨ての金属道具なんてものはいくらでもある。気のせいだろう。


「なんて事を言ってると、足元を文字通り掬われるってな。皆、チルはこの辺りを通っている。そして、学者も一緒にいる可能性が高い」


 俺がその光る物に近づいてみると、それはペンだった。インクをつけて使うタイプの、ペン先を交換できるやつだ。だが、そんな物をチルに持たせた覚えはない。俺がチルがここを通った事を確信したのは、そこに一緒に落ちていた物だ。

 確か、俺と一緒にキノコ探しをしていた時には、アニキと遊ぶのに夢中で開けなかったもんな。


「それは……菓子屑ですか?」

「あぁ。どうせガキなんて直ぐに飽きてギャーギャー騒ぐ。だから、街を出るときにチルに菓子を買って渡していたんだ。まぁ、おんなじものを誰かが持ち込んでた可能性もあるが……こんな場所に菓子を持ち込む酔狂な奴はいない。その分他の装備を持ち込むからな。そして、このペン。 ほら、これ」


 ペン先を交換出来るタイプのそのペンの本体。軸は高級木材で出来た、王立動植物研究所の印がついたものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ