交渉
「実は、我がリブレ国はエスカーダの乗っ取りを考えている」
「……何?」
クロエの、いや、ジャンヌの体の負担を考えて、寝台で半身だけ起こして話を聞くことになった。
しかし寝台の傍らに腰かけたカルバの言葉に、クロエは眉を顰めた。そんなクロエに微笑んで、カルバは話の先を続ける。
「戦争を起こすのではないぞ? 実は、我が国にはエスカーダ王族の血を引く者がいる。その者を、王位につければ我が国が優位に立てるだろう? そんな訳で、ジャンヌ嬢をその者の妻に、と思ったのだが。オーペルに聞いてはいたが、君はジャンヌ嬢ではないね? 彼女はどこに?」
「……ここにいる。だけど傷ついて、引きこもっている状態だ。そのタイミングで、前世の記憶を思い出して俺が出てきた。この子が目覚めるまでは、俺が守る」
自分の胸に手を置いて、クロエは答えた。エスカーダにはない考え方だが、ジャンヌの知識からリブレでは『輪廻転生』の考えがあると知っていたからだ。まあ、クロエの前世はこの世界ではなく、異世界なのだが。
そんなクロエに、不思議そうにカルバが尋ねてくる。
「何故、そこまでジャンヌ嬢に入れ込む? 体は一つだが、ほぼ別人だろう?」
「……この子の記憶も、俺は知ってる。家族だけじゃなく、周り全てから虐げられて……だが、祖父母が迎えに来て幸せになるところだったんだ。父親に殺された、俺とは違う」
助けられたので、クロエは正直に話した。元々、腹芸は苦手なのだ。
しかし逆に腹芸が得意そうなカルバが、挑発するようにクロエに言ってきた。
「いや、同じだよ。あのならず者を手配して、ジャンヌ嬢達を襲ったのはジャンヌ嬢の父親だ」
「……だったら尚更、俺は……俺だけは、この子を守る。あのクソ親父からも、意地悪ババァからも。この子を虐めた性悪妹からも、頭がお花畑な元婚約者からも」
腹立たしいことをわざわざ教えてきたカルバを、怒りのままに睨みつけてクロエが宣言すると、何故だが笑みを返された。それに困惑していると、笑いながらカルバは口を開いた。
「攻撃は、最大の防御だと知っているかい?」
「? ああ、まあ」
「ジャンヌ嬢を守る為に、君が代わりに奴らに復讐しないか? 金や勉強する環境、あと復讐対象に近づく為の名前や身分は、私が用意しよう」
「……俺も、聞いていいか? 何で、俺に……ジャンヌと別人だって解ってる俺に、それこそ入れ込む?」
「体は令嬢だが、なかなか動けるとオーベルから聞いた。それなら、ジャンヌ嬢が目覚めるまで働いて貰おうと思ってね」
カルバの説明に、ふむ、とクロエは考えた。
復讐をすること自体には抵抗はない。むしろ、ジャンヌのことを考えたら今のうちに、自分が動く方がいいだろう。そして相手は貴族や王族なので、協力して貰えるなら乗っかった方がいいのも解る。
しかし、クロエはあることに引っかかった。