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悲劇

 エスカーダの『真実の愛』は、ジャンヌの親世代から始まっていた。

 ジャンヌの父・ラルフはファーレンハイト侯爵令息であり、宰相の息子だった。

 貴族と、一部の優秀な平民の通う王立学園で、彼は愛する女性と出会った。平民だったが、同級生だった王太子妃・レミーラに気に入られて仲良くし、現在では彼女の側仕えの侍女であるエクラだ。


「許さん! 私は、絶対に認めんぞっ」


 しかし宰相だった祖父は、当然だが息子と平民との結婚を許さなかった。そして貴族ならいいと、子爵令嬢である母・クレアと結婚させた。下位貴族だったのは高位貴族の令嬢には大抵、婚約者がいたからである。

 だがここで父は、祖父の思惑を逆手に取った。


「いや……やめ、やめて下さいっ」

「うるさい!」


 強姦するように母を抱き、ジャンヌをみごもった途端に義理を果たしたとばかりに、エクラとの間にも子供を作った。貴族は、後継ぎを作って家を守る為にと本妻の他に、愛人を持つことが許されているのだ。

 そして祖父が急逝すると、父は恋人とその子であるラウラを本邸へと引き取り、母とジャンヌを離れに追いやった。

 常識的にはおかしい話だが、王族と後を次いで宰相になった父には逆らえない。

 更に、ジャンヌ母子には悪い噂が──愛し合う二人に、強引に割り込んだと言われていた。子供の頃は訳が解らなかったが、成長するにつれ王族と父が噂を流したのだと知った。


「何て厚かましい」

「本当に。下位貴族の分際で、仲睦まじい恋人達を引き裂くなんて」


 その噂があったので、エクラとその子であるラウラは『真実の愛』の証だと好意的に受け入れられたし、使用人は母子を邪魔者として堂々と悪口を言った。衣食住は、本当に最低限の面倒しか見られていなかったので、慣れないながらも母がジャンヌの為にパンとスープの他に、ソーセージや卵を焼いてくれた。少し焦げたそれに母・クレアは恐縮したが、ジャンヌとしては温かい食べ物が嬉しかった。


「ごめんなさいね、ジャンヌ」

「ううん。私は、お母さまのご飯、大好き!」

「ありがとう」


 そうやって母子でひっそりと暮らしていたのだが、何故かジャンヌは王太子であるユージンの婚約者となった。

 最初は離れから出られることを喜んだジャンヌだったが、何故か異母妹であるラウラがついてきた。そして一人で授業を受けるジャンヌを余所に、ラウラはユージンと一緒に授業を受けていた。


(私も、お母様と同じ……)


 母同様、自分も二人の隠れ蓑にされていると知り、ジャンヌは母以外の誰も自分を愛さないのだと痛感した。絶望と諦めが、ジャンヌを支配した。

 そんな彼女を、更なる不幸が襲う。

 離れに監禁状態だった母は、体調を崩して寝たきりになっていた。食事の支度をするのはジャンヌとなったが、パンですら呑み込むのが辛そうで。最後は、スープを飲むのもやっとだった。

 そして十四歳の時、ジャンヌの看病もむなしく母は死んだ。


「君との婚約を破棄する! 君は、王太子妃にはふさわしくないっ」

「えっ……」


 喪に服していたジャンヌだったが、そのタイミングを計っていたようにユージンから婚約破棄された。

 ジャンヌが受けていたのは、最低限の教育でしかなかった。それを逆手に取り、王太子妃教育をサボり、更にラウラを虐めていると言われたのだ。違うと言ったが、誰もジャンヌを信じなかった。いや、嘘だと解っているのに突き放した。母同様に、ジャンヌも『真実の愛』に利用されたのである。


(婚約破棄されて……これから、私はお母様みたいに離れに閉じ込められるの?)


 目の前が真っ暗になったジャンヌだったが、思いがけないことが起こった。母方の祖父母が、ジャンヌを引き取りたいと現れたのだ。


「どうか、娘の代わりに孫を引き取らせて下さい」

「亡き娘の分まで、この子を幸せにしたいのです」


 切々と訴えた祖父母に、父は折れてくれた。

 馬車で連れ出されて、安堵したが──祖父母の領地に向かう途中に、ジャンヌはならず者達に襲撃された。

 祖父母は死に、逃がされたが追い詰められ、ならず者の一人が手を伸ばしてきたところで、ジャンヌは恐怖から逃れるように意識を手放した。


 ……その瞬間、ジャンヌは『クロエ』と、前世の人格と入れ替わった。

 その青い瞳でひた、と男達を見据えてクロエは言った。


「この子に触るな」

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