100万の大軍に攻め込まれそうな小国の国王ですが、我が国で戦えそうなのは“たった10人”らしく絶望しとります
人口1000人ほどの超がつくほどの小国、レニア王国。
国王であるストロムは玉座で頭を抱えていた。
「なんで我が国に100万もの軍勢が……!」
軍事大国のグリードクス帝国が、100万の軍勢で世界征服に乗り出した。
そして不幸にも、その最初のターゲットに選ばれた国家がレニア王国であった。
帝国は「降伏しようがしまいがその国は滅ぼす」と宣言しており、あまりにも絶望的な状況。
この国はあまりに小国で特に資源もないということで、あらゆる戦乱と無縁で平和な国だったが、いきなり存亡の危機に立たされてしまった。
小国だけあって兵士も少ない。というか一人しかない。
その唯一の兵士であるマシューが、ストロムに報告に来た。
「陛下、帝国軍が迫っているとの情報が!」
「ぐぬぬ……なぜ我が国が狙われねばならんのだ……!」
「帝国としては、この国を滅ぼして世界征服にはずみをつけたいのでしょうね」
「そんな準備体操のようなノリで滅ぼされるとは……」
ストロムは悲鳴のような声を上げる。
「マシュー、何か手はないのか!?」
「とりあえず、私の知り合いに声をかけました。“一緒に戦ってくれないか”と。そうしたら、協力してもらえることになりました」
「おおっ、素晴らしい! ちなみに何人だ?」
マシューはやや言いにくそうに言った。
「えーと、10人ほど……」
「10人!?」
ストロムは「絶対勝てないじゃないか」と確信したが、帝国には降伏も通用しない以上、戦うしかない。
「とにかく集まった10人と話をしたい。連れてきてくれ」
「分かりました!」
マシューの背中を見ながら、ストロムは深くため息をついた。
(奇跡でも起こらねばこの国は終わりだ……!)
……
マシューが一人目を連れてくる。
「大魔王のダグニールさんです」
頭に角を生やし、長い黒髪を持ち、赤い瞳と青い肌を持つ大男であった。
背中には紫色のマントを羽織っている。
「吾輩は魔界を制覇した大魔王ダグニールである。マシューの頼みということでこのたび援軍に参った。この国のために力を尽くす所存だ」
「うむ、よろしく頼む……」
ダグニールの挨拶に、ストロムは不安を覚える。
(“魔界”ってなんだ? おそらくどこかの田舎の村か何かのことで、このダグニールさんは村一番の喧嘩自慢というところだろう……。悪いけどほとんど期待はできんな……)
ストロムが愛想笑いを浮かべると、ダグニールは戦闘の準備にかかるとして玉座の前から立ち去った。
……
二人目は先ほどよりさらに巨体であった。
「ドラゴン一族の皇帝ヴァドスだ。人間に力を貸すなどまっぴらだが、マシューのためならばと一肌脱ぐこととした。よろしく頼む」
ヴァドスは巨大なドラゴン。
口には鋭い牙が生え、全身が黄金の鱗で覆われ、尻尾が鞭のようにしなっている。
「うむ、期待しておるぞ!」
こう言いつつ、ストロムは内心でため息をついた。
(ドラゴンって……なんだろう? ようするに大きなトカゲだろう? 残念だが、戦力にはなりそうにないな……)
……
マシューが三人目を連れてきた。
「エルフのセレニーさんです」
三人目は尖った耳と長い金髪を持つ美女であった。
長寿であるエルフ族で、なんと数千年の時を生きており、その頭脳にはあらゆる知恵が詰まっているという。
「セレニーと申す。私が軍師をすれば、どのような軍勢もたちまち打ち崩せるであろう」
「うむ、頼もしい! おぬしのような援軍を待っていた!」
と言いつつ、ストロムはガッカリしていた。
(数千年も生きてるなら多分ボケとるだろ。どこか施設に入れた方がいいのでは……)
……
四人目は獅子の頭をした獣人ライゴーン。
全身が毛皮で覆われており、猛々しい気迫を発している。
「グハハハハ! マシューの頼みで来た! 帝国の連中なんぞこの俺にかかればいい餌だぜ!」
ストロムはにっこりとうなずく。
「ぜひとも君の獣人パワーで帝国を蹴散らしてくれたまえ」
しかし、内心では――
(動物を戦わせていいのだろうか……? 余の動物愛護の精神に反するなぁ……)
……
古の大魔術師イグナムも参戦してくれることになった。
灰色のローブを纏った、髭の長い老人である。
魔力を高めるため、全身には無数の呪文が刻まれているという。
「世俗の争いにはもう関わらぬつもりでいたが……マシューには借りがありますのでな。力をお貸しいたそう」
「ふふ、あなたのような経験豊富そうな方に来て頂けると心強い」
言葉とは裏腹に、ストロムはげんなりしていた。
(こんなおじいちゃんに何ができるっていうんだ! 家でお茶でも飲んでなさい!)
……
マシューが鎧をつけた壮年の剣士を連れてきた。
「オレグさんです」
「剣豪オレグと申す。得意技は地平の彼方まで大地を斬る“アーススラッシュ”である」
ストロムは感激の声を上げる。
「あなたのような剣豪の協力を得られて頼もしいぞ!」
もちろん、内心は全然違う。
(地面なんか斬ってどうするんだ。頼むから敵を斬ってくれ!)
……
薄手の白い衣をまとった銀髪の女性がやってきた。
「わらわは創造の女神アルティア。わらわが味方についたからには、この国の平和は守られたも同然じゃ」
「まさか、女神様にお越し頂けるなんて……!」
ストロムは笑顔で出迎えるが、本心では全く期待していない。
(想像の女神? 想像力だけ凄くてもなぁ……余も妄想力だけなら凄いし……)
……
マシューが異形の生命体を玉座まで連れてきた。
「銀河を滅ぼしたこともあるゾルク星人の方です」
「マシューノタメ、ココキタ、ガンバル」
「わたし、国王のストロム。頑張ってクダサーイ」
相手につられて、片言になるストロム。
(銀河ってなんだよ。冷やかしなら帰ってくれ!)
……
竜皇帝ヴァドスよりも巨大なロボが、どうにか城の中に入ってきた。
「戦闘ロボの機甲魔神ギガクロスさんです」
『マシューの頼みは聞くようプログラミングされている。ワタシのミサイルとレーザーで、帝国軍を焼き払ってみせよう!』
ストロムはただただ困惑している。
(ミサイルってなに? レーザーってなに? てかそもそもロボってなに?)
……
十人目は――
「アルティメット村人のトーマスさんです。多分、10人の中で一番強いです」
「トーマスです。どうぞよろしく」
トーマスは至って平凡そうな若者であった。
ストロムはもはや全く当てにしていない。
(村人かよぉ……。余より弱そうだよぉ……)
……
これでマシューが連れてきた援軍十名が揃った。
大魔王ダグニール。
竜皇帝ヴァドス。
エルフのセレニー。
獣人ライゴーン。
古の大魔術師イグナム。
剣豪オレグ。
創造の女神アルティア。
ゾルク星人。
機甲魔神ギガクロス。
アルティメット村人のトーマス。
彼らに微塵も期待していないストロムは言う。
「えーと、どうか無理はせんようにな。最悪、余が帝国に首を差し出すつもりなので。危なくなったら逃げて欲しい」
本心からの言葉であった。
これに10人はいずれもストロムに好印象を抱いた。
(マシューのために仕方なくやってきたが、この王のためにもしっかり働いてやろう)
――こんな気分になった。
***
帝国軍100万とマシューの援軍10人が激突し、戦闘が始まった。
ストロムは玉座で合掌する。
(神様、どうかあの10人を死なせないであげて下さい! やっぱり自分のために人が死ぬってのは嫌なので! でも……できれば彼らに勝たせてあげて下さい!)
目を閉じ、玉座で祈り続けるストロム。
そして、10分後にはマシューが報告に来た。
「陛下、戦いが終わりました!」
「終わったか……」
ストロムは諦めの笑みを浮かべる。
「彼らの勝利です! 帝国軍100万は一人残らず壊滅しました!」
「えええええ!?」
グリードクス帝国は再起不能なほどに叩きのめされ、10人は意気揚々と仲良く城まで戻ってくるという。
ストロムは心の底から思った。
(あんなよく分からない10人が勝っちゃうなんて、奇跡ってあるんだなぁ……)
完
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