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28話

 王宮は不穏な空気に包まれている。


 「ひとまずフィオラ様の部屋へ戻りましょう、何か連絡が来ているかもしれません」


 不安がる私に、ユリアンさんはそう言ってそっと背を押してくれた。


 大丈夫、きっと何があっても私は聖女としての務めを果たすだけだ。幸いこの王宮にはフォークナスから輸入した玉ねぎがたくさんあるんだし。


 部屋にたどり着くと、ギルベルト様からの使いが部屋の前に立っていた。


 「聖女様! ギルベルト陛下がお呼びです。ユリアン様もご一緒に!」


 そう言われて、ギルベルト様の謁見室まで赴く。衣装を整えている時間がないが、緊急時ということで勘弁してもらおう。


 「来たか。すでに耳にしているかもしれないが、魔の大森林より魔物の大暴走の兆しがあると知らされた」

 「それは(まこと)ですか、陛下。フィオラ様の涙によって、瘴気の吹き溜まりは徐々に浄化されていると伺っていましたが」

 

 ギルベルト様は、ふぅと深いため息をついた。


 「残念ながら、真だ。おそらくはロゲンブロートが滅びるまでに膨れ上がった瘴気の吹き溜まりを浄化するまでには、至っていなかったということだろうな。拡大した瘴気溜まり同士が連結し、魔物を大量に生み出している。魔の大森林からは、まもなく魔物が溢れ出るだろうとのことだ」


 そうして、気が重そうにギルベルト様は一瞬口ごもると、覚悟を決めたように口火を切った。


 「フィオラ……聖女殿に依頼する。魔の大深林に臨む尖塔へと赴き、聖騎士及びわが王国軍と共に魔物の大暴走に対して事にあたってもらいたい」

 「はい。謹んで拝命します」

 「フィオラ様! あの尖塔はフィオラ様にとっては」

 「ええ、とても恐ろしい場所です。今でも考えただけで膝が震えるほど。でも、それも私にとっては乗り越えなくちゃならない試練だと思うんです。聖女として、守りたい人たちが私にはいますから」


 あの山の麓で出会った老夫婦を思い出す。それに私の家族や、故郷にいた頃の友人たち。

 それに、フォークナスの砦のみんな。魔の大森林から魔物が溢れ出そうとしているということは、森を挟んで向こう側にある砦だって危険なはずだ。

 こちら側から魔物をしっかり倒していくことができれば、フォークナスの砦のみんなを守ることにもつながるはず。


 私には、ユリアンさんをリヒトから引き抜いてきた責任もある。ユリアンさんの故郷の仲間たち。必ず私の力で救ってみせる。


 私は覚悟を決めて、出陣の準備を願い出た。


 馬車でゆっくりと移動している暇はない。大型の騎馬で、ユリアンさんと二人、駆けていく。

 レオくんや他の騎士さんたちは、鞍にありったけの玉ねぎをくくりつけて着いてきてくれた。


 こんな緊急事態にも玉ねぎ、だなんて、ちょっと笑ってしまう。でもそのくらいで丁度良いのかもしれない。焦ったって事態が好転するわけじゃないのだから。


 街道を駆け抜け、途中にあるミシュブロートにたどり着く。


 「これ以上は馬も潰れる。今夜はここに泊まりましょう」


 気は急くが、無理に夜通しかけても馬が潰れて立ち往生になってしまう。それだったらきちんと休むべき時に休んだほうがいい。


 街にある大型の宿に行き、馬を預ける。


 「王都より魔の大森林への使者だ。赤の緊急令だ、確認を」


 それぞれの街には領主以外にも地域に密着した顔役がいるらしく、上に話を通す時間がない緊急時に、宿を貸したり王家の使者の世話をするようになっているらしい。

 その制度を借りて、私たちは食と宿泊場所、それに代えの馬を用意してもらったのだった。


 「フィオラ様、体は大丈夫ですか? 少々無理をして駆けたので、お辛いでしょう」

 「いえ、気にしないでくださいユリアンさん。こんな時ですから。それに、せっかく復興しつつあるロゲンブロートを守りたいんです」

 「フィオラ様……」


 魔の大森林から魔物が溢れ出せば、真っ先に滅びるのは隣接するロゲンブロートである。せっかく革命軍が瘴気を浄化し、瓦礫の撤去も進んで人々が戻りつつあるのに、これでは前回魔物の襲撃で滅びた時の二の舞だ。

 

 ロゲンブロートには私の家族を難民村から追い出した人たちもいるけれど、幼い頃から育った街でもあるのだ。

 優しかった野菜屋のおばちゃん、いつも飴をくれた粉屋のおじいちゃん。お店の手伝いが終わった後、いつも一緒に遊んだ商店街の幼馴染たち。


 彼らを、彼らの居場所である街を、二度と魔物に奪わせたりはしない。


 私がそう思い詰めていると、ユリアンさんがぎゅ、と抱きしめてきた。


 「あまり気負わないでください、フィオラ様。あなたは一人ではないのですから。俺たちもあなたの故郷を守るために一緒に戦います。それにきっと、フォークナスの砦だって、今頃は戦仕度をしているはずです」


 

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