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26話

 ユリアンさんと思いが通じ合った私だけれど、なかなかそれを表に出すというわけにはいかない。シャッセはまだ革命後の政治的な混乱の最中で、聖女が隣国出身の騎士と結ばれるとなれば、荒れるのは目に見えているからだ。


 亡国ナールの前例があるから、聖女を無理やり政略結婚させようという人は流石にいない。けれど、意思に反してでなければ問題がないので、聖女との婚姻を狙う人は多数いた。


 それに、ギルベルト様と婚姻させようと狙っている人もいるのだ。


 先日のお茶会でのこと。


 なれない貴婦人たちのお茶会に私は四苦八苦しながらもなんとかこなしていた。

 その中で、主催者であり公爵令嬢であるアデリーナ様から、一人残るようにと言われて人払いされた時は震え上がった。アマーリエさんが平然としていたので、物騒なことはないだろうとは思ったのだけれど。


 「フィオラ様、あなたはギルベルト陛下と結ばれるつもりはありませんこと?」

 「えっと、そのつもりはありません。私には、想っている人がおりますので」

 「ですが、あなたは聖女として立つと決められたのでしょう? 民のため、世の平穏のために最もよいのは、王と聖女が結ばれることですわ」


 曰く、いまだに身分の低い側室の子であるギルベルト様に文句を言う貴族は少なからずいるらしい。それにシャッセへ聖女を取り戻し、涙でロゲンブロートを救済した功績で革命後もある程度求心力を維持しているギルベルト様だけれど、私がいることで逆に私の功績と思う人たちもいて、その分ギルベルト様の求心力に翳りが出てしまうのだとか。


 ギルベルト様本人は有能な方だけれども、いくら有能でも革命後の混乱期では多少なりとも宮廷は荒れる。


 ギルベルト様はそれはそれは聡明で素晴らしい方だけれども、だからこそその尊い方を失わないために確固たる地盤を固めることが必要、と。アデリーナ様は熱弁した。


 「あの、何だか聞いていると、アデリーナ様こそがギルベルト様を想っているように聞こえるのですが……。あ、もし失礼だったらすみません。平民出身なもので」


 どう考えても恋バナだよねこれ? 好きな人のことについて熱弁しちゃってる感じだよね? という感覚になってしまい、つい本音が口をついて出てしまう。

 アマーリエさんが鉄壁の表情を固めながらも、ちょっと肩をプルプル震わせていた。


 一方アデリーナ様は真っ赤になって、私を睨んでくる。でもちょっと羞恥で目がうるうるしているのはやっぱりそういうことなんだろうか。


 「わ、わたくしのことはいいのですわ! わたくしは公爵令嬢の身の上。自分の想いなどとは関係なく、民のために婚姻を行う立場です! それにあなただって、聖女として尊ばれ豊かな暮らしを享受する以上、民のために生きる覚悟が必要なはずですわ! それこそが高貴なるものの務めでしてよ!」


 その言い分は、ちょっと……。私がこれまで受けてきた仕打ちは、ご令嬢の耳に入れるにはあまりにも悍ましすぎるから、多分詳細は話されていない。

 だからこそこういう話になっているのだろうけれど、私はまだシャッセの所業を完全に許したわけではない。言いっぱなしにされるつもりはなかった。

 

 「私は特に豊かな暮らしは望んでいません。聖女として尊ばれる立場になることが必要だと言われたので、そのようにしているだけです。それに、その対価は涙で十分に払っているつもりです。それに、私の母は自分を大切にし、大切にされて生きなさいと言いました。私は母の教えに従うつもりです。自分を大切にできるからこそ、民のことも大切にできるのでは?」

 「自分を、大切にするからこそ……ですって?」


 アデリーナ様は、『そんなこと考えたこともなかった』というような表情で混乱している。


 「アデリーナ様は、今まで民のため、高貴なるものの務めのためと考えて生きてこられたのはわかります。でも、変に自分の気持ちを押さえつけては、人のことも大切にできなくなってしまうのではないですか? 例えばギルベルト様への気持ちとか……」


 「そ、それはいいのですわ! もう! あなたがギルベルト陛下と婚姻なさるつもりがないのは十分わかりましたから、やめてくださいまし! 」


 アデリーナ様は混乱した顔のまま頬を赤く染めて叫んだ。


 今気づいたのだけれど、アデリーナ様のお側に控えている侍女のかたが、私の方を見て、「やったれやったれ」という顔をしている。ああ、この侍女の方、きっとアデリーナ様のことを今まで間近で見てきてヤキモキしてたんだろうな。

 なんとなくこのお嬢様のことがわかってきた。アデリーナ様はまだ19歳。私は21歳だから年上として何だか微笑ましく見守ってしまいそう。


 とりあえず帰ったらギルベルト様にアデリーナ様のことを推してみようかな。あの生真面目な方が王妃様になったら、私もシャッセで安心して暮らせそうだし。 


 帰り際、アマーリエさんが、「見事でございました、フィオラ様」と肩を震わせながら讃えてきた。


 庶民出身ながら無事にお茶会を終えられてホッとした。


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