23話
その日の夜遅く、ユリアンさんたちは村に帰ってきた。嬉しいことに、私の家族を連れての帰還である。
山道を彷徨っている家族を発見し、彼らを休ませるために一時下山することにしたらしい。
そしたら村の中に私がいた、というわけだ。
「驚きましたよ。先に村にフィオラ様が来ているだなんて。あなたが囮としてご家族を逃したと聞いた時は肝が冷えたんですから」
「ごめんなさい。でも、人質が取られていると、いくらユリアンさんたちが助けに来てくれても手も足も出ないんじゃないかと思ったの」
「確かにそれはそうですが。無茶をして……」
擦り切れて汚れた私の服をユリアンさんはそっと撫でた。傷はできてもすぐに聖女の力で治るから、ボロボロなのは服だけなんだけれどね。
そう言うと、ユリアンさんは「そういう問題じゃないんです!」と形のいい眉を釣り上げた。
でも、本当に私は元気なのだ。何より家族が見つかったことで、気持ちの面でもゆとりができている。
けれども、山道を走り回って、私や家族を探してくれたユリアンさんたちのために、これから玉ねぎをみじん切りにしようとしたら、余計に怒られた。
「ようやく落ち着いて再会できたのですから、今日はご家族でゆっくりしてください」
「フィオラ、ユリアンさんの言う通りよ。今日はゆっくり休みなさい。あなたは囮になって逃げるだなんて無茶をしたのだから、休息も必要よ」
そう母に諭されて、今日は休むことにした。
その日の夜、部屋で両親と弟とゆっくりしていると、母が難しげな顔で口を開いた。
「フィオラ、再会してからあなたの言動をずっと見ていたけれど、あなた、自分を大切にする能力が低くなっているわね」
「え? 自分を大切にする能力?」
「そうよ。あなたが今までどんな目に遭っていたのかは聞き及んでいるわ。それに関しては、聖女として神殿に送り出した私たちにも責任があることだし、とても悔しく思っている。けれど、そのような扱いはもう終わって、きちんと告発もされて革命も成ったのに、あなたは囮になったり、休みをきちんと取ろうとしなかったり、自分を大切にできていないように見えるわ」
「それはだって……聖女だから無茶をしても死なないもの」
「そういう問題じゃないぞ、フィオラ」
私たちの話を聞いていた父も口を開いた。
「お前が自分を大切にしないと、お前を大事に思っている周囲の人間が悲しい思いをすることになる。例えば、もし母さんに聖女と同じ力があって、死なないから大丈夫だと母さんが囮になっていたらどうだ? 心配だし、悲しいだろう?」
それは……、確かにそうかもしれない。
例え死ななくても、怪我もしてほしくないし、苦労もしてほしくない。ましてトイフェルに捕まるだなんてもっての外だ。
「フィオラ、あなたがそういう考え方になってしまう環境にいたのはわかっているわ。でももう今は違うでしょう? どうか、これからは自分を大切にして、大切にされて過ごしてちょうだい」
「うん……」
そうだ、お母さんたちに、ユリアンさんのことが好きだって、打ち明けようかな。
とっても優しくて素敵な人なんだよ。いつも大切にしてくれて、励ましてくれるんだよ、って。
少し恥ずかしいけれど、ようやく再会できたのだから、積もる話だってしたいのだ。
「あのね……お母さん……」
その話をした後の母は、とんでもなく大盛り上がりだった。父はちょっと寂しそうにしていて、ロルフは生意気にも「姉ちゃん。やるなー。すっげーイケメンじゃん」などと言っていた。