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20話 ユリアン視点

 フィオラ様が誘拐された。


 焦りと不安で空転する思考を無理やり引きずり戻すべく、自分の太ももに拳を打ちつける。


 十分警戒はしていたつもりだった。道中の警護も、フィオラ様には賊など指一本触れさせないように整えてきた。


 だが、まさか俺たちが到着する前に、フィオラ様の家族の方が身柄を押さえられているとは。


 フィオラ様は聖女の力があるから、殺されるようなことはない。だが、身体の方より心の方が心配だ。


 フィオラ様は今でも夜中にうなされていることがある。ここまでの旅の途中でも、夜遅く、フィオラ様の悲鳴が馬車から聞こえることがあった。


 その度に俺は湯を沸かして、心を落ち着ける作用の干した薬草で茶を作ってフィオラ様に運んでいた。 

 いつも申し訳なさそうに、少し照れたように微笑むフィオラ様。

 頻繁にうなされるほど陰惨な目に遭わされながらも、民のために立ち上がり、聖女としての務めを果たそうとする姿は高潔そのものだ。


 そんなフィオラ様を見て、生涯守り通そうと思ったはずなのに、このザマだ。


 まったく、俺は何をやっているんだろうな。今まで魔物相手に最前線で戦って来たはずなのに、しっかりしろ、ユリアン・フォークナス。


 跡を追えばフィオラ様の家族を殺すと脅された以上、すぐさま追跡を開始することはできない。

 なんとか方角と轍の跡を見ながら追っていくが、最悪なことに雨が降ってしまい、車輪の跡はかき消された。


 「クソったれ。神よ、あなたのご寵愛をフィオラ様にお与えならば、どうかフィオラ様をお助けください!」

 

 轍の跡が消滅した今、闇雲に探さざるを得ない。その上、聖女様の身柄がこちら側にないと知れれば、せっかく成った革命が水泡に帰す危険性まである。大っぴらに捜査するわけにもいかなかった。

 それでも必死に捜査を進めていると、王となったギルベルト陛下から連絡があった。


 曰く、聖女様の搾取を行った黒幕に等しい『トイフェル』という神官が、革命前から雲隠れしているとのことだ。

 フィオラ様を痛めつけていた張本人でもある存在。そいつが、今回の誘拐事件に一枚噛んでいるのではないか、というのがギルベルト陛下の考察であった。


 ギルベルト陛下は、トイフェルにゆかりのある地を調査してくれている。


 元々トイフェルは、先先代の神官長の息子だったという。弟に比べて神官としての才覚がなく、無茶な修行を繰り返していたが、ついぞ30も後半になるまで出世はできなかった。だが、ある時から目覚ましい勢いで出世し始めたという。


 それが、聖女様の涙を若返りに悪用するということ。

 最初は少量ずつの横流しから始まった。神罰を恐れる王侯貴族も、わずか一滴なら、神官が言うなら大丈夫なんじゃないか、と試し始め、ズブズブとハマっていった。

 そうして王侯貴族を掌握したトイフェルは、聖女搾取の機構(システム)を構築したというのだ。


 確かに、聖女様を使って今まで甘い汁を啜ってきた人物なら、誘拐事件を引き起こすだけの動機は十分にある。

 何より、最初にリヒトの王都に向かった際出てきた怪しげな盗賊達。

 ギルベルト陛下いわく、奥歯に仕込んだ毒で自害を果たすのは高位神官の用いる密偵と特徴が合致しているという。

 

 外れる可能性もあるが、トイフェルが主犯である可能性に俺たちは賭けた。いや、それ以外に手がかりがなかったのだ。

 トイフェルにゆかりのある地を、片っ端から調査した。自宅、友人の家、妻の実家。全てを探し尽くしても、トイフェルの痕跡は見当たらない。

 焦りが募る中、トイフェルが修行していた頃に利用していた山小屋があるという情報が入った。そちらの方角は、途中まで追えた轍の跡と一致する。

 

 俺たちは、武装を整えてその山小屋へ向かった。

 

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