12話
翌日、お昼ごろにユリアンさんと出かけて、まずは王都の広場とお店通りでお買い物や食べ歩きを楽しんだ後、夕方になったら魔物討伐隊の皆さんと一緒に小鴉亭に行くことになった。
広場では飾り物を売っている屋台なんかもあって、見ているだけで楽しい。
服は普通の町娘の服を用意してもらった。亜麻色のワンピースに、クリーム色のエプロンである。茶色のブーツは編み上げの紐が赤色に染められていて、それがワンポイントになっていてかわいい。
ユリアンさんも町歩きに合わせたラフな格好だけれど、見た目が上品な美丈夫だからすごく目立っている。
見ているだけでも楽しくお店巡りをしていると気づいたのだけど、この国、玉ねぎを模した飾りがものすごく多い。どうも聖女の象徴としてお守りがわりになっているみたいだ。
玉ねぎ模様の髪留めに、玉ねぎ模様のスカート、玉ねぎ模様のカップと、ありとあらゆるところに玉ねぎが侵食している。正直意匠としてどうなんだろうと思ったりもするのだけれど、これはこれで面白い。
中に飴色玉ねぎ色の髪飾りがあって、つい目を引かれてしまう。出会った時にユリアンさんが作ってくれたスープと同じ色だ。あのスープは私の中ではちょっと特別なものになっている。今でもたまにユリアンさんが作ってくれるのだけれど、あれを飲むとなんだかとても安心するのだ。
「これ、気に入りましたか?」
「ええ、意匠は花の形ですけど、色はなんだかユリアンさんのスープみたいで、美味しそうですよね」
「あはは、フィオラ様もこの国に染まってきましたね。すみません、店主さん、これください」
「え、そんな、自分で買いますよ。褒賞金もいただいていますし」
「いえ、ここは俺にプレゼントさせてください。今日の記念に、ね?」
ユリアンさんはイタズラっぽくウィンクした。あんまり綺麗な顔でそんなことをされてしまうと、ドギマギしてしまう。
動揺を振り払うように私は大きな声をあげた。
「じゃ、じゃあ私からも何かプレゼントさせてください!」
「そんな、それこそ申し訳ないですよ」
「今日の記念にですよ、ユリアンさん」
「うーん、そう言われちゃうとな。じゃあ、俺もこの飴色玉ねぎみたいな石がついた飾り紐をください。剣の飾りに使わせていただきます」
「わあ、これも美味しそうですねっ!」
私はなんだか楽しくなってしまい、はしゃいで振り返ると、ユリアンさんはやけに眩しそうな目でこちらを見ていた。今日は日差しが強いからかな?
たくさんお店を見て回って、おやつにはたっぷりの蜂蜜をかけたワッフルを食べた。こんなに甘くて美味しいもの、久しぶりに食べたな。
パン屋の頃は、たまに甘いものを食べたりしていたけれど。
——家族は、元気かな。
甘いものが好きな私のために、時折母はあまり物のパンでラスクを作ってくれていた。
たっぷりのバターに、砂糖を振りかけたラスクは私の大好物だったのだ。
「どうされましたか、フィオラ様」
ワッフルを食べながら感慨に浸る私に、少し心配そうな顔でユリアンさんが声をかけてくれた。
「いえ、家族のことを少し思い出してしまった。みんな無事かなと」
「心配ですよね。我が国の難民村にはおられませんでしたけど、シャッセの方の難民村にはもっと大勢のかたが避難しているはずです。俺たちも探すのには協力しますから、きっと無事で見つかりますよ」
ユリアンさんは柔らかく微笑んだ。
その穏やかな眼差しに、不安だった心がほっとほどけていく。
どうしてユリアンさんは、こんなにも人を安心させる力があるのだろうと、時折不思議にさえ思った。
その後も楽しい時間は続き、夕暮れに小鴉亭を訪れる。国境魔物討伐隊で旅についてきてくれた人たちは、先に集まっていた。
「ユリアンたいちょぉ〜、デートは楽しかったっすかー?」
「楽しかったっすかぁ?」
「わ、フィオラ様が見慣れない髪飾りをしてる! まさかユリアンたいちょーのプレゼントっすか!?」
集まっているというか、大盛り上がりだった。もう、一体どんな噂をしてるの!
「こら、お前たち、フィオラ様に失礼なことを言うんじゃない。ほら、さっさと入るぞ」
赤くなる私と違ってユリアンさんは全く相手にせず、さっさとお店の中に入っていく。
「たいちょぉ〜、耳が赤いっすよ、照れてるんすか? さては照れてるんすか?」
「レオ! いい加減にしろ!」
「イデデデデ! すみませんっす! 謝るっす!」
ユリアンさんがレオくんのことを掴んで頭をぐりぐりやってお仕置きした。もう、レオくんったら、懲りないなぁ。
でも、そっか。ユリアンさんもちょっと照れてるのかな? だとしたらなんだか嬉しいような気がする。何がってわけじゃないけど。
私が一人百面相しながら赤くなっていると、こっちを見たレオくんが何故かガッツポーズをした。
「俺は隊長に幸せになってほしーんすよ。それだけっす。じゃ、早速乾杯といきましょー! フィオラ様、ご挨拶をどうぞ!」
「え!? ええと。あの、褒賞金も出たので、今日は私の奢りです! ここまで旅に付き合っていただきありがとうございました! 乾杯!」
「うおおおお! 乾杯!」
「いいんすか!? まじで奢りでいいんすか!?」
「よっしゃ! 聖女様バンザイ!」
みんな大盛り上がりだ。そうやって喜んでくれてすごく嬉しい。砦に残った人たちに不公平になっちゃうから、残存組には王都で何かお土産を買っていこうかな。
お土産は何がいいと思うか聞くと、何故かみんな異口同音に「今日のユリアン隊長とのデート話」と言った。
デートじゃないんだけれど、なんでそれがお土産になるんだろう?
聖女としての褒賞金も出たことだし、せっかくなら何か買ってあげたいのだけれど。そう言うと、「酒を一杯奢って、ユリアン隊長との楽しかった出来事の話」と言われた。
「ユリアンさんとの楽しかった出来事って、ユリアンさんと一緒にいる時はいつも楽しいけれど……」
私が困っていると、何故かみんなは大盛り上がりになった。
「ユリアン隊長! おめでとうございますっす。もうコレは確実にコレですよ!」
「聖女様バンザイ!」
「ばんざーい!」
何に盛り上がっているのかはよくわからないけれど、みんなが喜んでくれたので、まあよかった。