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聖女の涙は至高の秘薬  作者: 野生のイエネコ


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11話

 国王との謁見が終わったら、次の目標は第三王子殿下の説得である。まさか遊学先で祖国相手に革命を起こせと隣国に言われるなんて、青天の霹靂だろう。

 普通に考えたら他国からの侵略行為、内政干渉に加担するようなものだし、故郷に弓引く行為だから簡単には頷いてもらえないかもしれない、とユリアンさんに説明された。


  私はそんなに高い教育を受けてはいないから、内政干渉とか細かいことはあまりわからないのだけれども、自国の王侯貴族より隣国の王侯貴族の言うことを優先するって考えたらまあ大問題だよね。

 でも、そこで間に入るのが私だ。


 私はシャッセの聖女である。シャッセでの聖女の扱いは極めて不当なもので、涙を採取するための奴隷か家畜みたいな扱いではあったけれど、本来聖女は尊ばれる存在だ。だからこそ聖女を監禁して不当に扱っていることをシャッセは隠し通していた訳だし。

 それに何より、聖女を蔑ろに扱って滅んだ亡国ナールの事例もある。まともに考える頭があれば、今回の申し出を無碍にされることはないはずだ、とのことだった。


 第三王子との謁見は、宰相さんが調整してくれて、五日後に決まった。それまではお城の文官さんたちが話を詰めておいてくれるそうだから、今日明日くらいはゆっくり長旅の疲れを癒していいと言ってもらえた。


 本当に、疲れた。緊張はするし、ドレスは着慣れないし……。何より、ここまで目まぐるしく自体が動いて流されるように来たけれど、今までのことを思い返すとやっぱり辛さが押し寄せてしまう。


 お茶を飲みながら窓辺でぼーっとしていると、とりとめもない思考がぐるぐると渦巻き出す。


 お父さんとお母さんは無事かな、弟のロルフは元気しているだろうか。私がロルフと離れた時は、彼はまだ15歳だった。今はもう18歳だ。気にしていた身長も伸びているかな。

 ……会いたい、な。


 心配も不安も、どこまでも無くならない。だって、たとえ家族が生きていたとしても、私が起こす革命戦争のせいで亡くなる可能性だってない訳じゃないんだ。

 それでも、今の事態を放置するわけにはいかないから。やらなきゃ、どんどん人の命が失われることも、故郷のロゲンブロートみたいに国ごと滅びることだってあり得るから。

 だから、私は覚悟を決めるんだ。


 あの尖塔に閉じ込められていた頃の苦しみだって耐え抜いたくらい、私は強いはずなんだから。


 コンコン。


 そうやって考えに耽っていると、間借りしている王城の部屋の扉が叩かれた。


 「フィオラ様、俺です、ユリアンです。失礼してもよろしいでしょうか」

 「あ、はい。どうぞ」

 

 ついてくれていた侍女の方が扉を開けてくれる。


 「今日はお疲れ様でした。国王陛下に謁見など、随分気疲れしたでしょう」

 「はい、それはもう。でも、次は第三王子殿下との謁見ですからね。この先いちいち気疲れしていたらやってけないでしょうから、慣れるしかないです」

 「はは、頼りになりますね。それで、用件なんですが、もしよかったら明日王都の観光に行きませんか?」

 「観光ですか? いいですね! ぜひ行きたいです! ユリアンさんはどこに行きたいですか?」

 「俺はいいんです。この先は革命の件もありなかなかのんびりしている暇もないでしょうし、聖女様がシャッセの不正を告発すれば、御身を狙われることになりますから、この機会にフィオラ様が思いっきりお好きなところを巡りましょう」

 「わあ! じゃあ行きたいところを考えておきますね! 王都の観光場所をたくさん調べなきゃ」

 「王城勤めの侍女の方々が女性の好きそうなところには詳しいと思うので、聞いてみるとよろしいかと」


 ユリアンさんがそういうと、控えていた侍女の方が、にこりと微笑んだ。


 「任せてくださいませ。我が国にいらしてくださった聖女様のためにも、可能な限りお楽しみいただける場所を考案させていただきますとも」


 侍女のアマーリエさんは、一応まだ機密事項である聖女や革命の件も把握した上で私の護衛についている、国王陛下が手配してくださった人材だ。


 「ありがとうございます。アマーリエさん。あの、魔物討伐部隊の皆さんはここまで本当にお世話になったんです。何かお礼がしたくて」


 ユリアンさんが辞去した後に、こっそりと聞く。

 一応先立つものとしては、これまで涙を提供した分の対価をリヒト国から頂いているから、金銭的には問題ないのだ。


 「まあ、フィオラ様は本当にお優しいんですね。通りでユリアン様が肩入れなさるわけです。そうですね、魔物討伐部隊の皆さんが喜ぶとなると、酒場で一杯奢るのが一番お喜びになるとは思いますけれど、聖女様にそのような場はいかがかとも思いますし」

 「あ、それなら気にしないでください。私は元々下町のパン屋の娘ですから、酒場くらいはどうってことないです」

 「それでしたら、一番通りの小鴉亭というところがおすすめですね。ここの奥様が毎年仕込んでらっしゃるエールは質がいいと評判なのです。料理も美味しくてそこそこ上品ですから、皆さんで行かれるのにもちょうどいいかと。もしよろしければ私の方で予約してまいりますが」

 「本当ですか? それならお願いしたいです」


 ユリアンさんたちは、喜んでくれるかな。

 先への不安は拭いきれないものがあるけれど、少し楽しみができて、その日はよく眠れた。

 

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