0.エピローグ
はじめまして。
数年ぶりに書き始めました。
飽き性ですが、何とか完結までさせたいです。
むかしむかしあるところに、お爺さんとお婆さんがおりました。
お爺さんとお婆さんは名誉ある貴族でありました。
既に家督は息子に譲り、二人仲良くご隠居暮らし。
お爺さんは趣味の庭先手入れ、は全て雇った庭師がやってくれますので見てるだけ。
平民育ちのお婆さんは、体裁上任せていた身の回りの世話も、ご隠居してからは全ては自分でやる、ともいかず全てメイドに任せ見てるだけ。
ご隠居してからの数年間。新婚旅行が出来なかったからと各国を巡り。疲れを癒すために温泉を巡り。表舞台に出ない為に、好きなだけご飯を食べ、お酒を飲み、寝たいだけ寝てみました。どれもとても楽しく過ごしましたが、全てをやり終えれば、二人はとても退屈しているのでした。
彼が生まれるまでは。
★
「モモー、モモはどこじゃー」
「お爺さん、モモちゃんはまだ寝ていますよ」
「そうかそうか、もう六つ子となるのにしょうがないのぉ」
「いいじゃないですか。かわいいもの。モモちゃんは一生子供で良いんです」
「そうじゃのぉそうじゃのぉ。おっとでもいかんぞ。今日は教会へ行かねば」
「そうでしたそうでした。今日はモモちゃんの記念すべき洗礼式ですからね」
「それじゃあ、一緒にモモを起こしに行こう」
★
~とある街の教会~
教会には今年六歳となる子供たちが数百人以上集まっていた。僕の住むインフリート領はブドー王国に属する王都に次ぐ二番目に大きな街だ。人口も多く、商業も盛んで活気があるこの地を治めているのは、僕の父であるグリーク・インフリートだ。僕はその一人息子で、今年六歳となるため、この教会に洗礼式を受けに来た。
教会の中には上級貴族から平民までが混ざり合っており、差別がない。これは祖父が領主の際に発令した法律の功績である。当初こそ古き血族を大事にする貴族からの反発もあったが、祖父の手腕によって一つ一つ出る杭を潰していったのである。実際、嫌な者は嫌な者で、隣の国へ引っ越す貴族も居たそうだが。
何はともあれ、僕はこの街が大好きなのだ。平民も貴族も関係がない。みんなが仲良くなり、みんなが幸せになり、笑顔で暮らせるこの街が。
「モモー!」
教会に着いたところで、赤髪の女の子から声をかけられる。
「アカリ、来てたんだね」僕も彼女に声をかける。
「モモを待ってたのよ! 一緒に洗礼を受けましょう」
「じゃあ行こうか。父上と母上、お爺ちゃんにお婆ちゃん、行ってきます」
僕は家族の方へ向き直って言う。ひと際目立つ容姿と服装を纏う僕の家族が後ろに立っていて、それだけでなく横断幕まで用意しているので悪目立ちしている。嬉しいは嬉しいのだけれど、恥ずかしさも勝ってしまう。
「うむ、良いジョブを貰えるといいな」
「頑張ってね、モモ」
「楽しみにしておるぞ」
「モモちゃん、無事に帰ってくるのよ」
家族全員から激励の言葉を頂いて、僕はアカリと手をつなぎながら教皇様のもとへと向かう。
「モモのご両親良い人たちだね」
「家族全員で来てるところは僕のところだけで恥ずかしいけどね」
「いいじゃない、モモが愛されてる証拠よ。私は好きよ、モモの家族」
「ありがとう。それには同意するよ」
アカリは幼少期からの付き合いがる、中級貴族の娘である。祖父の代から信仰の厚い貴族で、僕が物心ついた時には、隣にはアカリがいつもいた。
僕たちは祭壇へと近づいて、順番に洗礼を受けることとなった。
「最初は私ね? いったい何になるんだろう」
「アカリの家は文武に優れているからね、戦闘系でも補助系でもどちらもあり得るな」
この世界でのジョブは、ある程度の遺伝というものはある。武芸に優れた両親から生まれれば戦闘系のジョブになることが多く、商業の両親から生まれれば補助系のジョブに恵まれる。まれに覚醒遺伝によって全く違うジョブを授かることもあるが、1パーセントもない確率である。
通常のジョブと違い、オンリージョブというのもある。これは覚醒遺伝よりも珍しく、同じジョブを持つ者は世界に一人とおらず、名前のごとくオンリーワンのジョブである。このジョブを得るには、その素質の他に方法が二つある。一つはそのジョブを持つ前任者がジョブを手放すこと。これは基本的に前任者が老衰もしくは不慮の事故によって死んだときに起こりうる方法で。席が空席になったと思えばいい。もう一つは、まったくないものからクリエイトする方法。これは今までにない席を作ってしまう方法で、まったくもって自発的には不可能なので、与えられてもその能力の詳細が分からない為に、扱いも難しく。「神様のいたずら」と呼ばれることもある。
「モモはどんなジョブになるか楽しみだなー」
アカリがこちらに振り向きながらに言う。
「まあ僕は、遺伝的には領主向きなジョブになるのかなぁ」
【騎士】【支配者】【政治家】とかそんなとこだろうと思う。
「私は何になろうと、モモを支えていくからね!」とアカリが笑顔で言う。
「ありがとう。とても心強いよ」
そういえば今年は【勇者】の枠が空席になってるって聞いたな。他にも色々なオンリージョブが空いてるって新聞に載っていたような。
まもなくアカリの順番が来た。アカリは司教様の目の前まで移動し跪く。
「主、清き幼き汝に加護を与えたまえ」
司教様がそう言うと、アカリを光が包みこむ。その光が段々と離れていくと【鑑定】のジョブを持っている職員が近づく。
「アカリ・フロスト、鑑定結果が出ました」
アカリの両親が前に来て、皆が聞き耳を立てる。鑑定士が目を見開く。
「こ、これは、せ、【戦神】です! 物理戦闘系の最上級でオンリージョブの、【戦神】が出ました!」
その声と共に教会内で歓声が起きる。
「え、え、なになに⁈」アカリが想定外の出来事に慌てふためき、両親が近寄り抱き着く。
「おめでとう」
まさかオンリージョブを授かるなんて。アカリは昔から優秀だとは思っていたけれどここまでとは。
「モモ、なんかすごいことになったよ」アカリが僕に近寄り言う。
「すごいよことだよモモ! すっかり主役を取られてしまったよ」
「何言ってんの。私が取れたんだから、モモはもっとすごいよ」
僕はアカリを祝福し、前に進みでる。司教様に挨拶し、跪く。
「主、清き幼き汝に加護を与えたまえ」
司教様が唱えると、光が僕を包み込む。視界を覆った光が離れていくと、僕は立ち上がった。すぐさま鑑定士が近寄ってくる。
「モモ・インフリート、鑑定結果が出ました」
ひとつ前で【戦神】が出たせいか、次期領主への期待か、教会全体が静寂に包まれる。
皆がさぁ早くと、煽り立てるように鑑定士を見つめる。が、鑑定士は一向に結果を告げない。それどころか唸るばかりである。
もしや、領主にはふさわしくないような悪いジョブでも出てしまったのだろうか。内心不安になる。
「ん、んん?」
「どうしたのだ。早く言わんか」
「あの、何か良くないジョブだったんでしょうか」
「いや、その、」
余りに言わない為か、家族が祭壇前へと近づいてくる。
「何か問題でもあったか」
「はよ言わんか」
父と祖父が圧をかける。
「僕はどんなジョブが来ても大丈夫です。心の準備は出来てますから」
「い、いえ、何も問題はございません。改めて失礼します」
鑑定士は続けて言う。
「モモ・インフリート、も、もも、【桃太郎】です!」
『ん?』
鑑定士が教会の外にまで響く声で告げるが、その場にいる全員が、はてなマークを浮かべている。
「おそらく、クリエイト系のオンリージョブかと」
「僕の、ジョブは、【桃太郎】・・・」
僕の人生、いったいどうなってしまうのでしょうか。