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カワイイの中毒

 ゾンビ映画、カワイイ。パニックホラー、カワイイ。死体、血、内臓、全部カワイイ。

 ああ、もう、我慢できない。

 いいのかな? いいよね? だってこんなに我慢したんだもの。

 いっぱい隠して、学校も行って、優等生になって、1年なのに大学受験の勉強もやってる。偉すぎる。じゃあさ、もういいじゃん。ちょっとくらい。

 ワタシ、頑張ったよ。


 包丁を持って外に出る。深夜の2時は、家族も誰も起きていない。外に出て深呼吸。

 ……そう、ひとりだけ。一番死に顔がカワイイ人を選ぶんだ。


 まずはコンビニに行ってみよう。コンビニなら人がいるかもしれない。

 できれば、そう、コンビニにたむろしているような人の方が死に顔が似合うかもしれない。

 ワタシはアメリカホラーで、筋肉質な男の人が殺されているのを見るのが好きだ。

 だって強そうな男の人がボロボロになって死んでいる。そのアンバランスさがゲージュツ的にカワイイ。


 もうすぐコンビニに着くよって時、目の前を筋肉質な男の人が歩いて行った。コンビニの袋を大事そうに抱えて、頬を緩ませて歩いている。

 ああ、なんて幸せそうな顔。あの顔が歪んだら、血にまみれてぐったりしたら、キラキラの目から光が消えたら……。なんてカワイイんだろう。

 健康そうな肉体が不健康な色になっていくところ。見たい。

 ワタシはまだ、ホンモノを見たことが無い。こんなにスキなのに。こんなに愛しているのに。

 それってなんか、ズルくない?


 だから。

 ワタシは包丁を持ってその人の方に走った。




 「うわっ」

男の人の驚きの声。いい。とってもいい。カワイイ。でも次の瞬間。ワタシの右腕は掴まれ、包丁は力なく地面に落ちた。夜道には大きな音が響く。

「なっえっ何!?」

あーあ、殺せなかった。カワイクできなかった。まぁ、そうよね。ワタシはただの女の子だもん。悔しい。

「あの、どこかで会いましたか……?」

右腕はそのまま、でも力を緩めながら男の人が尋ねてきた。恨んでなんかない。こんなに優しい人。ああ、死に顔カワイかっただろうなー……。

「ハジメマシテだよ、ワタシたち。」

「じゃあ、どうして……」

戸惑った声。そんなの決まってる。

「アナタの死に顔がカワイイと思ったから! ワタシの日常にはカワイイが足りないの!」

「し、死に顔が!?」

はじめて言われたなー、なんて呑気な人。アナタ、ワタシに殺されかけたのに。

「こんなにカワイイがスキなのに、誰も分かってくれないの。」

分かってくれないのは当たり前なの。

「ワタシのまわりにはカワイイが無いの。」

ワタシが異常者だから仕方が無いの。

「今まで我慢してきたから。」

当たり前のことだけど。

「今日、カワイイを作って終わりにするの。」

もう我慢できないの。

「アナタはとってもカワイイわ。幸せそうなお顔がキラキラしてた。」

羨ましい。

「だから、死に顔がとっても似合うのよ。」

アナタのカワイイ姿を。

「見たかったの。」

今からでもいい。

「見せてよ!!」


 ワタシはほとんど叫んでいた。男の人が住宅街を見渡す。誰も起きてくる気配は無い。

「かわいいって言われたのは初めてだ。嬉しいよ。」

腕を解放して「家、どっち?」と訊かれたから、遠回りの道を歩いた。包丁は取り上げられた。

「ほら、俺、こんなガタイだから。」

「カワイイのはアナタの死に顔。」

勘違いされては困るので、もう一度訴える。ワタシはカワイイにプライドをかけている。これはたぶん、女の子がデートの時にメイクするような感覚に似ている、んじゃないかな。理解されないのはイヤって思う。その通りに動けないのは息苦しいって思う。

「そうそう、俺の死に顔。」

男の人が笑った。笑い事じゃないと思う。

「ワタシはゾンビ映画で、筋肉質な男の人がゾンビになるシーンがスキ。」

「わぁえぐい。」

「嬉しくない感想。」

「それはごめん。」

素直に謝られて拍子抜けする。ワタシが殺そうとした人なのに。ああ、でも。余計に死に顔が似合ってしまう。

「……そうなれば、アナタもきっとカワイイわ。」

「嬉しくないなぁ。」

「……でしょうね。アナタはワタシが出会った中で一番……俳優よりもよく似合う。」

「どうにか回避しなければ、永遠に命を狙われそうだ。よし、こうしよう。」

男の人が立ち止まった。ワタシも止まって振り返る。男の人はコンビニ袋を掲げて自信満々に笑っていた。

「俺が他の“かわいい”を教えてやる。」



 ティーカップ、かわいい。ぬいぐるみ、かわいい。リボン、小動物のイラスト、それらが似合う女の子、全部かわいい。

 決して自分で纏いたいわけではない。そういうのが似合う女の子に纏ってもらいたい。そういう空間を作りたい。将来はデザイナーとかになりたい。


 コンビニに、緩いキャラクターのコラボグッズを買いに行く途中だった。

 高校生の俺がそういうグッズを買い集めるためには、バイトが必須だ。引っ越しバイトはどんどん筋肉がついて、今ではこんなにごつい身体だ。

 180の伸長と併せて目立つ俺が、万が一にも知り合いに見つからずにこういうグッズを買う方法はただ一つ。深夜に買いに行くことだ。

心配性だった親は、もう俺の心配をしなくなった。堂々「コンビニ行ってくる」と言って家を出て来た。まぁ、みんな寝てたけど。もし起きていても止められることは無い。


 「うわっ」

俺の低い悲鳴、次いで包丁の落ちる音。

「なっえっ何!?」

コンビニの帰り道、女の子が脇道から飛び出してきた。包丁を持って。とっさに腕を掴んで回避したけど……この顔、どこかで見たような。

「あの、どこかで会いましたか……?」

「ハジメマシテだよ、ワタシたち。」

興奮冷めやらぬ声。まぁ確かに、こんな瞳孔が開いて口角の吊り上がった女の子は知らない。

「じゃあ、どうして……」

「あなたの死に顔がカワイイと思ったから! ワタシの日常にはカワイイが足りないの!」

「し、死に顔が!?」

はじめて言われたなー……と呟きが零れる。正常な驚きなんかできるわけがない。はじめてだらけなのだから。

「こんなにカワイイがスキなのに、誰も分かってくれないの。」

女の子がぽつりと零した。

「ワタシのまわりにはカワイイが無いの。」

だろうなと思う。こんな趣味、理解されないだろう。

「今まで我慢してきたから。」

胸の奥がチリチリと痛んだ。

「今日、カワイイを作って終わりにするの。」

紅潮していた頬から色が抜けてゆく。

「アナタはとってもカワイイわ。幸せそうなお顔がキラキラしてた。」

あ……。はじめて、言われた。

「だから、死に顔がとっても似合うのよ。」

なんか、それでもいい気がして来た。

「見たかったの。」

だって、かわいいと言われた。

「見せてよ!!」

この子は俺だ。この叫びは俺に向けられている。

 「かわいいって言われたのは初めてだ。嬉しいよ。」

女の子の腕を解放して、家の方向を聞いた。大人しく歩き出した女の子からはもう、さっきの勢いは消えていた。でも包丁は預かるけど。

「ほら、俺、こんなガタイだから。」

「カワイイのはアナタの死に顔。」

「そうそう、俺の死に顔。」

そこは重要な問題だった。いや、俺にとっては重要ではない。「かわいい」という言葉が俺にかけられたことが重要なのだから。

「ワタシはゾンビ映画で、筋肉質な男の人がゾンビになるシーンがスキ。」

「わぁえぐい。」

その流れで死に顔を……見たくなるものなのか?

「嬉しくない感想。」

女の子の眼光が鋭くなる。きっと大事なことなのだろう。

「それはごめん。」

「……そうなれば、アナタもきっとカワイイわ。」

「嬉しくないなぁ。」

うん、嬉しくない。俺の「かわいい」とは種類が違うのだから。

「……でしょうね。アナタはワタシが出会った中で一番……俳優よりもよく似合う。」

「どうにか回避しなければ、永遠に命を狙われそうだ。よし、こうしよう。」

立ち止まると、女の子も立ち止まった。

「俺が他の“かわいい”を教えてやる。」

似た悩みを持つ者として、この子の苦しみを少しでも和らげられるように。



 ──俺が他の“かわいい”を教えてやる。

 それは、ワタシのカワイイに対する冒涜!? ……という表情になっていたみたい。男の人が手を振って慌てて弁明する。

「ちっ違う違う。他の”かわいい”にもハマって、日常をかわいいで埋め尽くそうって意味!」

なるほど。それはなかなかいいのではないだろうか。カワイイの欲求を満たそうとすれば、毎度ワタシの良心が止めに入る。それが結構苦しくて。もし、ワタシのスキが、万人に受け入れられるものだったら? そうしたら、きっと毎日が楽しいのに。

「そういうわけで、今日はこれ! ファミマのスミぐらコラボマグカップ!」

「スミぐらなら知ってるけど。」

「まぁまぁ、スミぐらは設定がそれなりに重くて……あっキャラ一覧出すから待って。」

鬱陶しいけど、話す姿はキラキラしてて……羨ましい? ずっと見ていられるなって思う。

「捨てられた揚げ物はカワイイと思う。」

「そう! そこが好きだと思ったんだよ。」

ワタシのスキを、分かってくれた。

「あと、擬態してるUMAとかあってさ……ほら、この子!」

「へー……知らなかった。」

「だろ! あとは──」

 勢いに押されっぱなしの時間はしばらく続いて、ワタシはスミぐらにかなり詳しくなった。しかも家にも着いてしまった。

「ごめん、俺が語って楽しいだけだった。」

それでいい。他人の趣味なんかキョーミ無かったけど、楽しそうに話すアナタは、……面白い?

「別にいいよ。面白かった。」

「それはよかった!」

テンション上がったな、この人。

「あんまり他の人に話せないからさ。」

「なんで?」

「こんな男に似合わないだろ、こういうの。」

「別に」

「そう言われるのも初めてだ。」

本当に、心から嬉しそうに笑うな、この人は。笑顔が眩しくて……とてもイイ。

「また聞かせてよ。続き。別のシリーズでも、好きなもの。」

「いいのか……?」

「うん。明日の放課後、公園で。ワタシは夢香。西園寺夢香。」

「ああ……。俺は東野隆二。」

そっと包丁に手を伸ばせば、それはすんなりと解放された。そうしてワタシは何事も起こさず家に帰った。


 少し、だいぶ、かなり寝不足の翌朝。帰ったら4時だった。なんだかんだで寝たのは5時。

「おはよ~夢香。」

「おはよう、ゆい。」

「西園寺さんおはよう。」

「おはようございます。先生。」

「夢香ちゃんおはよ!」

「おはよ、ことかちゃん。」

学校ではいろんな方向から声をかけられる。先生にもクラスメイトにも。だってワタシは委員長の優等生。みんなの人気者でいつもニコニコ。

 あ゛~疲れた。早く隆二くんと話したい。楽を知ってしまったからかな。もうなんかしんどい。スキを語って語られて、自由な表情で笑っていたい。

「西園寺さん、だよな。おはよう。」

「えっ!?」

下駄箱に入れようとしていたローファーがボスンと落ちる。隆二くん!? 固まるワタシを気に留めず、隆二くんはローファーを拾ってくれた。シンデレラの王子様みたいに、手のひらに靴を載せて。隆二くんの手が汚れてしまうから慌てて受け取る。

「あ、ありがとう……。」

「隈ができてる。昨夜は引き留めて悪かったな。」

隆二くんは周囲を見渡して……周りに人がいないことを確認して? ワタシに話しかけてくれた。学校で取り繕いまくってるワタシには、その気遣いはありがたい。え? なに? こんなにできる人だったの!?

「う、ううん……。楽しかったから。さっきも、早く放課後にならないかなって思ってた。」

「……。そうか。」

何、今の間。言い出したのはそっちなのに、アナタは楽しみじゃな──

「まぁ、俺もだ。」

楽しみなんだ!? そっか、そうよね!

「えへへ〜、じゃあ放課後ね!」

「ああ。」

スキップで下駄箱を離れそうになって、ギリギリで思いとどまっていつものワタシに戻る。今日はつまんない日じゃないかもしれない。



 うきうきとした足取りの西園寺さんを見送って、なんだか心配になってくる。品行方正、才色兼備、文武両道、西園寺さんは1年6月時点で隣のクラスの俺が知っているくらいには有名人だ。高値の花みたいな人かと思ったら、それがこんなに無防備な人だったとは。今のは……俺でも勘違いをしてしまいそうになる。学校には必要ない大きな鞄に指が食い込んだ。

 あのサイコパスが素だと知った時には「完璧な人間なんかいない」と悟りを見たが、それ以上に芯から素直すぎる。彼女の性格には裏表が無い。趣味嗜好がやばいだけで。趣味嗜好が、やばいだけで。

「うーん……」

 ああいう女の子は「かわいい」物が好きだと思っていた。俺の好きな「かわいい」に囲まれているものだとばかり。でもきっとこういう考えが、彼女を苦しめる要因なんだろう。彼女は俺の趣味の話を楽しげに聞いてくれた。だから俺は、彼女の「カワイイ」を尊重するために考えを改めなければならない。俺の「かわいい」を押し付けた瞬間に、彼女はきっと傷ついてしまう。せっかく、趣味を隠している者同士で気持ちが分かっているのに。

 その時、玄関から聞きなれた足音が聞こえて来た。テニスラケットと水筒がぶつかる音。

「おはよー」

「ああ、おはよう。今日朝練は?」

中学から付き合いのある高志だ。高校デビューでテニス部に入って、早速辞めたいとぼやいている。帰宅部は気楽だぞ。

「休み。まじラッキー! オミセンがさー、あやべ。」

顧問の愚痴を言おうとした高志が、3年の気配に口をつぐむ。

「そんなに顧問と先輩怖いのかよ。」

「いや怖いっつーか……帰宅部には無かった上下関係がなー。」

高志とは、中学時代は帰宅部仲間だった。あの気楽さからよく運動部に入ろうと思ったものだ。

「辞めろ辞めろ。一緒に帰宅部やろーぜ。」

「お前帰宅してねーじゃん。バイトなんか始めやがって。」

「バイトは良いぞー? 不自由なお小遣い制とはおさらばだ。」

「労働だけはいやだー」

そんなやりとりをしながら、俺たちは慣れて来た教室に入る。

 こういう会話も楽しいし、西園寺さんと違ってこれも素だと思えている。でも今は、心のどこかで西園寺さんと話す放課後を楽しみにしていた。


 そんなこんなで長い1日が終わり、放課後がやってきた。

「お待たせっ! ねぇねっナニ話すっ!?」

公園で再会した西園寺さんはかなりご機嫌だった。

「ワタシはねー、昨日の続き聞くのでもいいよ!」

今日、遠目に西園寺さんを数回見かけた。どの瞬間を切り取っても、人に囲まれて上品に笑っていた。このサイコパスな笑い方が素だとしたら、かなり疲れているだろう。

「裏通りの雑貨店に行かないか? かわいいのに立地のせいで閑古鳥が鳴いているんだ。」

「ふーん?」

「今はハロウィン仕様になっていて、西園寺さんの好きそうなのもある。」

「行く!!」

昨夜で西園寺さんの傾向はよく分かった。店で話しながらもっと絞りたい。

「その後は、同じく廃れたデパートの写真スポットで西園寺さんの写真を撮らせてくれ。」

「ワタシのっ!?」

「インスタントカメラだ。撮ったら差し上げる。」

「……?」

「かわいいものを撮るのが趣味なんだ。」

「かわっ!? い、いい、けど……」

「ありがとう!」

そう。西園寺さんはかわいい。俺が普段持ち歩いている「ふわふわ☆お写真撮影セット~コンパクトバージョン~」がこんなに似合いそうな人は他にいない。

 何故か西園寺さんが押し黙ってしまったので、ゴルバニアファミリーについて話しながら雑貨店に向かった。

「着いたぞ、西園寺さん。」

「へっ!? わっカワイイ!!」

一瞬キョトンとしてから、西園寺さんの目が輝く。ゴルバニアファミリーの話は聞いていなかったようだが、元気そうでよかった。雑貨店の入り口は、ハロウィン仕様のホラーな飾りつけがなされている。

 店内も同様、口元が血まみれのぬいぐるみや骸骨の髪飾りで溢れている。入りたかったが、男だけでは入れなかった店。今日、初めて店内を見られた。

「いいなぁ、こういうの……」

西園寺さんがつぎはぎだらけのぬいぐるみを手に取っている。俺の好みではないが、西園寺さんは好きそうだ。どうせ写真を撮るなら、西園寺さんの好きな物も入れたい。

「撮影用に、西園寺さんの好きな物を買いたい。選んでくれ。」

「え、そんな、」

「かわいいものに使うためにアルバイトをしている。」

「そか、じゃあ半分だけ払ってもらっても……いい?」

「もちろん。どれが欲しい?」

訪ねると、西園寺さんが迷っている商品を指した。

「隆二くんは?」

聞き返されるとは思っていなかった。店内を見渡して、端に追いやられたハロウィンではないコーナーに向かう。初めて他人にこんなことを言う。

「これが好きだ。」

「確かに隆二くんらしい。」

「そうか?」

「うん。え~っとね、こういうのが好き?」

西園寺さんが取ったのは、パステルカラーのうさぎ。

「そう、そういうの。あとは──」

俺はずっと、こういう時間を過ごしてみたかった。



 隆二くんに勧められるまま装飾品まで買って、お店を出たら日が沈みかけていた。夕焼け小焼けの放送が聞こえる。もう6時か……早かったな。イッシュンだった。

「デパートに行こっか。」

「そうだな。……門限とか大丈夫か?」

今日は怒られてもいっか、なんて思ってた。でも聞いてくれたから。

「うん、ダイジョウブ。今日は遅くなるって言ってあるから。」

「そうか。だが早く終わらせよう。今日はリハーサルで、明日本番でもいい。」

 そんなこんなでデパートに行って、広いベンチで荷物を広げる。都会には無いんだろうなー……ベンチだけたくさんあって、人はいないデパート。お店の無い階だから、この空間まるまるワタシたちの貸し切りみたい。ぬいぐるみと装飾品をベンチの上に並べていく。ワタシが好きなものだけじゃなくて、隆二くんの趣味のものも買った。2人の好きなもの、半分半分ってとこかな。

「結構買ったな。」

「うん。お財布の方はダイジョウブ?」

「当然。やっと使い道ができて嬉しいよ。」

ホントに嬉しそうに、隆二くんがワタシと買ったものを眺めている。

「いやーやっぱりいいなぁ。夢だったんだよな。かわいい女の子がかわいい物に囲まれた空間を作ること。」

「かわっ」

「うんうん似合う。ああ、この『似合う』は俺の好みだから気にするな。」

多分全く理解できてないのに、そうやって尊重しようとしてくれるところ……ふわふわする。

「実は、西園寺さんのことは前から気になっていた。」

「へ?」

それって告は──

「こんなにゴルバニアファミリーが似合う女の子は初めてだった。今持ってるから、後でゴルバニアファミリーも入れて撮影会をさせてくれ。」

そっちか……

「そっちか……」

「え? そっちって?」

「なんでもない。」

でも待って待って? 何か引っかかるような……。

「そうだ、撮影セット見るか? いつか西園寺さんに撮らせてもらおうと思ってずっと持ち歩いていたんだ。」

やっぱり!! 昨夜もこの隆二くんはワタシのことを知ってる口ぶりだった。雰囲気が違っていて気付かなかったみたいだけど。

「いつからワタシのコト知ってるの?」

「先月かな。すれ違った時に、脳内モデルにちょうどいいって思って。あっ勝手にごめん。」

「ううん。いいの。」

隆二くんがそんな風に思ってくれてたなら、無理やり作った上品でおしとやかな自分も無駄じゃなかったかも。

「じゃあ、隆二くんが持ってる撮影セットの方から撮ろっか。」

そんなに長い間ワタシを見てくれてたなら。

「あーいや、あれは西園寺さんの趣味を知る前に作ったやつだから。」

「?」

「今日買ったやつを足したら、西園寺さんの良さ……みたいなのを引き出せる気がして。どうせなら西園寺さんも楽しい方がいい。」

そうやって尊重してくれるトコ、ホントに……あ、ワタシ、やっと他のスキなものできたかも。

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― 新着の感想 ―
面白かったです。素敵なお話でしたー!
 面白かったです。  二人の趣味嗜好は違うけど「かわいい、が好き」の共通点から始まる物語だと感じました。確かに一般的には理解されにくい好みの西園寺さんですが、ちゃんと人の気持ちが分かる優しい女の子だ…
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