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第4話 豊穣の剣

 カフェに入ってきた美女四人組。

 それは『豊穣の剣(ロスメルタ)』と呼ばれる高ランクパーティーだ。


 全員が金級というえげつない強さを持つ冒険者だ。

 美しさも強さも両方併せ持っているなんて、前世でどんな徳を積んだのやら。


 見ると『豊穣の剣』のメンバーは金髪、赤髪、青髪、緑髪と髪色もクレヨンのようにカラフルだった。

 全員が華やかだ。


「あ、あそこの席空いてるー! 四人座れるよ!」

「そうみたいね。ならそこにしましょう」

「お腹空いたー! 早く食べたい」

「朝食食べなかったから余計にペコペコだよ〜」


 話を聞いていると、『豊穣の剣』のメンバーは朝食を食べられなかったらしい。

 朝食抜きの昼食ということだが、彼女たちは全員が私服だった。つまり昨日には既に到着していたとわかる。

 それにしても私服姿でも『豊穣の剣』だと知られているとは、相当な知名度があるらしい。


「わー、皆かわいい子〜」

「お前でもそう思うのか?」

「そうだよ。なんか、髪もトゥルトゥルだし、絶対良いケアしてるよ」

「稼いでる金額も別格だろうしな。確かに良いもん使ってるだろうな」


 この世界では、高いものは良い製品だとおおよそ決まっている。

 人を騙すような高額商品は基本的にはなく、そのため、高ければ高いほど高品質で満足感を得られる。


 ロッティの話から考えるとおそらく彼女たちは使っている香油などが高級なのだろう。


『豊穣の剣』は、俺たちのすぐ近くのテーブルに腰を降ろすと、すぐに食べ物を注文した。

 俺たち同様にハンバーガーを注文していた。そもそも、このカフェの名物はハンバーガーらしいからな。


『豊穣の剣』はなんとハンバーガーにセットのポテトや甘いジュースなどもつけている。

 ちなみに俺とロッティはセットではなくハンバーガーのみ。そんなにバンバンお金は使えないのだ。まあ今回はロッティの奢りだけどな。


 と、そんな時だった。

 店員が『豊穣の剣』四人分の料理を一人で運んできた。しかし一度に持ちすぎたせいか、俺たちと『豊穣の剣』のテーブルの間あたりでバランスを崩してしまった。


 トレーごと宙に浮かぶハンバーガーやポテト。さらに液体であるジュースまでもが空を舞う。

 このままでは『豊穣の剣』やロッティまでもが食べ物と飲み物が頭から被ってしまう位置だった。


「おっ、ととと」


 そこで俺は瞬時に動き、そして、その全てをギリギリでキャッチ。

 なんとか、食べ物も飲み物もぶち撒けることなく済んだ。


「デッド、ナイス〜っ」


 目の前で見ていたロッティからの褒め言葉。ぱちぱちと拍手をする。


「わ、すみません! 助かりましたっ!」


 女性店員にペコペコと頭を下げられお礼を言われる。俺はトレーを店員に渡し、自分の食事へと戻った。


 その後、俺がキャッチしたものはそのまま『豊穣の剣』のメンバーたちの前に置かれていった。


「君、先程はありがとう」


 少しした後、『豊穣の剣』の一人である金髪の女性が話しかけてきた。


「ああ、気にすんな」

「ちょちょちょ! デッドォ!? 言葉遣いっ!」

「二年も俺と一緒にいたならわかるだろ。俺に言葉遣いは期待するな」

「はは、大丈夫だ。それくらいで怒りはしないよ」


『豊穣の剣』の女性は優しいようだ。

 高ランクでしかも性格も良いとは非の打ち所がないらしい。


「うちのデッドがすみませんっ!」

「いつから、その『うちの』になったんだよ」

「うるさい! 良いから頭下げて!」

「ブヘァ!?」


 ロッティが俺の頭を掴んで無理やり下げさせた。しかし俺はハンバーガーにかぶりつこうとした途中だった。つまり、なす術もなく彼女の剛腕によりハンバーガーごとテーブルに顔が叩きつけられたのだ。

 その結果、顔がバンズと肉とケチャップまみれになってしまった。


「おい……」

「ごめんねデッド……てへっ」

「男女平等主義の俺にそんなんが通じると思ってんのかこらぁ!」


 ロッティが舌を出して謝るも、俺は許す気がなかった。そして、ロッティのハンバーガーをぶんどってやろうと立ち上がった時だった。


「君たちは仲が良いのだな。よければ私のポテトをあげようか?」

「良いのか!?」


 再び話しかけてくれた『豊穣の剣』の金髪。残り半分もあったハンバーガーがお釈迦になり、空腹を満たすことのできなかった俺に救いの女神が手を差し伸べてくれた。


「ああ、私には少し多いみたいだからな。君はたくさん食べそうだ」

「わかってるじゃねぇか。『うちの』ロッティとは大違いだ」


 わざとらしくロッティを見ながら言ってやった。


「嘘はいけないな〜、イレーナはダイエット中なんだよ〜。だからポテトはカロリーを押さえるために渡したの」

「おいリルタ、何を言う。私はダイエットなど……」

「昨日だってお風呂入る前にお腹つまんでたじゃんねっ」

「いつも食べてた夜食に手を出さないと思ってたら、そういうことだったの〜」

「ユルファにマリアンまで……」


 俺に最初に話しかけてくれた金髪の女性はイレーナという名前らしい。

 ポテトを分けてくれた本当の理由はダイエットとのことだが、クールで凛々しい見た目をしていながら、やることが可愛いじゃないか。


 切れ長の目が特徴的で言葉遣いも綺麗な長い金髪がイレーナ。短髪赤髪でこの中では一番活発な雰囲気を感じるのがリルタ。ミディアムボブの緑髪に細めの体型をしているのがユルファ。そして雰囲気がおっとりしていて腰まで伸びた青髪を持つのがマリアン。それぞれ見た目や性格には特徴があるようだ。


「とりあえずポテトはありがたくいただくぜー」

「あ、あぁ……デッド、だったか。私はイレーナだ。また、何かあればよろしく頼む」

「銅級の俺なんて、皆さんの役には立たないと思うけどな〜」


 そう言いながら、服の内側に入れたネックレスのように装飾したタグプレートを見せる。


「銅級……4……だと? まさか」

「金級からすれば竜と蟻のような関係だろ?」

「そういう意味では言ったわけではないのだが……」


 イレーナは俺のタグプレートを見て、眉を顰めた。何を思ったのかわからないが、金級からすれば、俺など雑魚同然だ。


 その後、ポテトをいただいた俺は「私にも分けて」と言ったロッティに少しだけ分け、食べきった。

 食事を終えると『豊穣の剣』を残し、俺たちはカフェから出た。








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