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第12話 魔力操作と魔剣

 赤髪のショート。

 リルタは細身で肌着から見える膨らみはそれほど大きくはないが、丸みを帯びていて形が良いと察することができるものだった。


 そんな彼女が俺の隣に腰を下ろした瞬間だった。

 後ろ手で隠していた逆手持ちのダガーナイフを俺の首へと突きつけてきた。


「…………これはどういうことだ?」


 俺は普通に会話が始まると思っていたのだが、そうではなかったのか。

 殺気を込めた一撃は首元で寸止めされたとはいえ、一歩間違えば俺の首には深々と刃が突き刺さっていただろう。


「あれ、躱さなかった……なんで?」

「なんでって……お前なあ」

「イレーナの時は躱してたじゃん!」

「殺す気なかっただろ」

「これでも結構な殺気を放ってたと思うんだけどな」


 確かにリルタは殺気を込めていた。

 けど、俺にはこいつが俺を殺さないことはわかっていた。ただそれだけだ。


「ふ〜〜〜ん」

「イレーナみたいにいちいち試すようなことすんな。命がいくらあっても足りねえ」

「ごめんごめんっ」


 リルタはダガーナイフを下ろすとニカっと笑顔を見せた。


「それにしてもお前ら、よく普通に寝られるよな。俺がテントの中に入って襲うとは思わないのか?」


 本当に警戒しているのなら、俺ともう一人見張り役につけた方が良い。

 しかし俺に任せてくれているということは、その点は信頼しているということになる。


「君ってそういうことしないでしょ? 私たちも色々な冒険者を見てきたからさ、その人がどんな人なのか大体わかるんだよ。そんで君は私たちのお眼鏡に叶ったってこと」

「じゃあ帰りのキャンプでは遠慮なくテントに入らせてもらうわ」

「…………嘘だよね?」

「お前らだって自分たちのことよくわかってるだろ? 全員が良い容姿をしてる。俺だってちゃんとした男だ。ムラムラくらいはする」

「正直者だね〜、はは……」


 このパーティの元気印と思われるリルタは天真爛漫で笑顔が可愛い。

 しかし、俺が真剣な顔で夜這いする話をすると表情が引きつった。


「俺はショートカットの髪型も結構好きだからな。リルタ——お前なんて結構好みだ」

「は、はあ!? いきなりどうしたの!? さっきまでそんなこと言う雰囲気じゃなかったじゃんっ!」


 すると俺の言葉によって、リルタは動揺を見せ、ついでに肌着の胸元まで隠しだした。


「お、いい顔するね」

「なんで私なのよ! 私なんて四人の中じゃ一番可愛くないし、男勝りなはずなのに……確かに私のことを好きって言ってくれる男はいたにはいたけど……」

「やっぱりモテてきたんじゃないか。なら動揺することもないだろ。俺なんてお前らよりずっと年下のガキだぞ。子供の言葉に揺らぐな」

「揺らいでなんかないっ! あーもう、なんなの君!」


 顔を赤くしたまま怒り出すリルタ。

 彼女はツンデレ属性を持っているようだ。ロッティとはまた違ったツンデレだが、普段は明るいだけの彼女とは別の表情を見れたことに、俺は嬉しく思う。


「はっ。俺はただの銅級冒険者だ。——だからお前にお願いがある」

「お願い? いきなりどうしたのよ」


 色恋を挟んだ会話から一変。俺は明日のための話を持ち出す。


「パーティの中で一番の素早さを持っているお前へのお願いだ。俺が何か合図したらその通りに動いてくれ。もし、最悪な状況になった場合、お前がうまく動けるかでその後の状況は変わってくる」

「何よそれ。私たちは金級なのよ? これまでどれだけの死地を乗り越えてきたと思ってるの」


 俺の忠告に対し、自らのランクを持ち出して慢心する。

 ただ、今回の任務の報酬は高額となるレベルだし、それにあの痴女女神だって色々言っていた。

 想像以上の危険が待っていると思って良いだろう。


「良いから俺の言う事を聞いてくれ。他の三人じゃだめだ。お前さえ助かれば、あとはどうとでもなる……気がする」

「気がするって何よ! それに仲間を見捨てられるわけないじゃない!」

「違う。見捨てるんじゃねえ。ちゃんと後で救う。でも、最初に助かるのはお前だ」

「…………意味わかんない」

「わかんなくて良い。とにかく俺の言葉だけ覚えておけ」


 最悪のパターンになった時の保険だ。

 高ランクのシーフだからこそ、リルタに任せられる。


 俺だって無事じゃ済まないかもしれないからな。最終的にはこいつに託すしかない。


「あとな、これ持っておけ」

「なに、これ」


 俺は小さな瓶を一つリルタに渡した。


「使い時はお前に任せる。中身は————」



 ◇ ◇ ◇



 交代しながら睡眠を取り、そして朝を迎えた。


 ここから半日もかからない場所に闇の組織『ネレウスの海』のアジトがあるらしい。

 俺たちは準備を済ませて、徒歩で進んで行きながら、森の奥を目指した。


「…………なあ、デッド」

「なんだ?」


 光魔法を操り、角から白光を飛ばすシャイニングホーンという鹿型の魔物を斬り伏せ、一息ついたところでイレーナが俺の名を呼んだ。


「そろそろ、君も戦闘に参加しないか?」

「そうだよ〜。ずっと見てるだけじゃん」


 彼女ら『豊穣の剣』が指摘する理由もわかる。

 昨日からこの依頼に同行してから、俺は一度も戦闘に参加していなかった。


 だが、その代わりにこいつらの重い荷物を一人で背負っているのだ。

 だから戦闘に参加しなくても良いだろうと思っていたのだが。


「別に良いだろ。俺はお前らに自分の戦う姿を見せたいと思ってるわけじゃないからな」

「そ、そうかもしれないが……連中のアジトで戦闘になった時に連携ができないと困るじゃないか」

「いや。俺は連携するつもりはない。それに連携する戦い方なんて知らないからな。俺は俺で勝手にやらせてもらう」

「それでも戦い方を知っている、知っていないとでは天と地の差があるだろう」


 イレーナはしつこい。それはこいつが俺の家にやってきた時にもうわかっていた。

 多分これはアジトに到着するまで続くだろう。


「はあ……一体だけだぞ。一体」

「お、おお……。それでは次の魔物が現れた時に頼むよ」


 と、気軽に請け負ってしまったのが運の尽きだった。


「おいおいマジかよ……」


 目の前に現れたのは、体長5mほどのサイクロプス。単眼で巨人の魔物だ。青い体に巨木ほどの腕の太さを持つ。銀級でも倒すことに苦労するような魔物だ。


「デッド、頼んだぞ」

「あはは、手伝わないからね〜!」

「応援してるー!」

「あらら……骨はちゃんと持って帰りますよ〜」


 こいつら勝手なこと言いやがって……。

 イレーナ以外にも悔しい顔をさせてやりてえ。いつか絶対その笑顔を歪ませてやるからな。



 ◇ ◇ ◇



 デッドはサイクロプスを前にすると、腰に携えていた二振りの湾刀を抜いた。


「ふむ。珍しいとは思っていたが……」


 確かに世の中には存在するが……あのククリナイフ、しかも二刀流とは。

 不思議なやつだが、戦い方も不思議ときたか。


 私は後方でいつでも助けに入れるように剣の柄に手を置きながらデッドの戦いを見守ることにした。


 ククリナイフを抜いたデッドはそのまま一直線にサイクロプスへ向かった。

 するとそのまま頭上から剛腕が振り下ろされる。


「あ、危ないぞ!」


 つい声に出してしまった。

 真っ直ぐに走っていくなど殺してくださいと言っているようなものだ。


 しかし私の心配は杞憂だった。


 デッドは軽く横っ飛びすると、ギリギリで攻撃を躱した。

 さらに躱しただけではなく、その攻撃に合わせ湾刀を前に突き出していた。


 指から拳にかけて綺麗に刃が通り、サイクロプスは大量の血が噴出し、その痛みでのたうち回った。


「ねえ、あれって……」


 リルタが何かに気づく。それは私も同じだった。

 デッドの斬撃は通常ではあり得ない切れ味を出していたからだ。


 あの巨躯に対してしかも片腕での斬撃。

 私と同じくらい、もしくはそれ以上の威力でないとあんなに綺麗に刃など入るはずがないのだ。


 考えられないが、それができる可能性が一つだけあった。


 それは魔力操作。

 人には体内で生成される魔力が存在し、その魔力は人によって総量が違い、魔物などを倒すことにより経験が積まれ増えていくと言われている。


 そして、その魔力をコントロールし体の部位へと行き渡らせることで、強い威力の攻撃や体を守る防御効果を生み出してくれる。

 どこの部位に魔力を集めるかは、訓練した冒険者なら誰でもできる芸当。


 ただ、体に纏わせる魔力というのは、全身に纏わせるのが普通。

 流す魔力を振り分けるなかで、偏った部位に集中させてもせいぜい5割程度。そうでもしないと相手から不意のカウンターなどで攻撃を受けてしまった際、大ダメージが入ってしまうからだ。


 魔力は魔法を発動し具現化されるまで目に見えるものではない。

 だからデッドがどこに魔力を纏わせているのかはわからない。

 しかし、彼の斬撃を見て、私もリルタも一つの考えが頭を過っていた。


「剣先に10割全部を振り分けている……?」


 触れている武器にも魔力を纏わせることができるのが魔力操作。

 そして、現在のデッドは体を守る分の魔力をゼロにしているのではないかと予想された。


 そんなの、あり得ない。

 どんなに強い冒険者でも少し攻撃が体にかするだけで、大ダメージを受けてしまう可能性がある。だから、やろうとしてもやる冒険者は存在しない。私が知る限りは見たことがなかった。


 それに10割の魔力を送っていたとしてもだ。そもそも彼自身の魔力総量が多くないと、ここまでの威力は出ないはずだ。


 しかし——、


「ヒャッハー!!」


 目の前には、殺戮の化身——死神が踊るように、サイクロプスの体を次々と斬りつけていくデッドの姿があった。


「あはは〜……そんなことってあり得る?」

「いや、まさかな……」

「あいつならやりかねない気がしてきた……」

「死ぬのが怖くないのかしら〜?」


 このことを共有すると、ユルファもマリアンもさすがに引いていた。

 

 そうして、約一分。

 サイクロプスの足を刈り取り、地面に倒したところでほぼ決着だった。


「——わりいな」


 友達に謝罪するように気軽な言葉を送りながら、最後にサイクロプスの首を斬り落とし、戦いが終わった。



 ◇ ◇ ◇



 サイクロプスをなんとか仕留め、刀身についた血を適当な布で拭い、ククリナイフを鞘に戻した。

 あまり力を見せたくはなかったが、このあとのことを考えると一度くらいは良いかと思い、とりあえずやってみたがこいつらはどう思っただろうか。


 まあ、サイクロプス程度金級なら余裕だろうし、なんとも思わないとは思うのだが。


「デッド。ちょっと君の武器を見せてもらってもいいか?」

「せっかく一人で倒したのにねぎらいの言葉もないんですかねー」

「あ、ああ。そうだな。戦闘ありがとう。良い戦いだった」


 俺よりも武器が見たいって、この人本当に大丈夫?


 ため息を吐きながら片方のククリナイフを抜いてイレーナに渡す。

 それを受け取るとイレーナはまじまじと刀身を眺め、軽く指で触れたりしていた。


 そこに毒が塗ってあったらどうするねん。とも思ったが、多分こいつらにはそれがわかるのだろう。


「刃こぼれがほとんどないのだな」

「ん……? ああ、そういやあんま刃こぼれしてないな」

「ふーむ。……戦いの際、魔力のほとんどを剣に込めてないか?」


 ほう……こいつ良いところに気づきやがったな。

 だから戦いをあまり見せたくなかったということでもあるのだが……まあ、半分は合っている。


「まあな。よくわかったな」


 俺は嘘をついた。


「やはりか……。そうでもないとあの切れ味には説明がつかないだろう」

「指摘してきたのはお前が初めてだけどな」

「そうか。他の人はなんと言っていたんだ?」

「魔剣だとか、ズルしてるとか言ってきたやつもいたな」


 そんなことを言うのは主にロッティだ。

 あいつはアホだから大体の予想が外れる。そこが可愛いとこでもあるけどな。頭が良いロッティなどロッティではない。


「ああ、魔剣か。これでは平等ではないので、私も説明しておこう。私の所持している剣は魔剣だ」

「あ、やっぱり?」


 イレーナの戦闘を見ていて、どこか違和感を感じていた。

 いや、それよりも前に俺の家で剣を振ってきた時からの違和感だ。


「なんだ、気づいていたのか?」

「合ってるかわからねーが、剣が振った場所よりも奥を攻撃してくれるとかそんなんだろ」

「惜しいな。この魔剣は翼剣(よくけん)『ヴァリアシオン』という。風魔法が付与されてあってな。こんなこともできるぞ」


 するとイレーナが俺にククリナイフを返してから、自らの魔剣を鞘から抜き、木が立っているだけの場所へ向かって横薙ぎした。

 次の瞬間、炸裂音が鳴ったかと思えば、木が無惨にも破壊され、そのまま折れてドスンと地面に倒れた。


「うおい! なんだよチート剣じゃねーか!! ズルだズル!」


 見えない風の斬撃が飛んだ。そう思うしかない攻撃が、木に向かって放たれたのだ。


「チート……はよくわからないが、ズルではない。私以外にも魔剣を持っている冒険者は存在するからな。まあ、この剣のお陰で私は金級になれたといってもいいかもしれない」


 でも、よくよく考えれば、俺と一緒に行動してからの戦闘では今の攻撃は使っていなかった。

 それを考えるとやはり魔剣の力だけではなく、イレーナ自身の強さがちゃんと金級に達していると思われる。


「どーせ別のこともできるんだろ?」

「おお、よく気づいたな。ほらこうすると……そよ風が吹いてくれて暑い時は特に助かる」

「魔剣を扇風機代わりに使ってんじゃねえ!」

「扇風機……とな? それもよくわからないが、仲間にも普通に風魔法を使えとは言われているな」


 魔剣はその名の通り、何かしらの能力が宿っている剣ではあるが、その力を使うためには、自分の中にある魔力を使うことになる。結局、手にした人が扱えるかどうかは、その人の魔力量にも依存するということだ。


「とりあえず先に進もう。もうすぐだろ?」

「ああ。そうだな」


 俺たちは『ネレウスの海』のアジトに向かって再び歩き出した。

 



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