↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧民街のネクロマンサー 〜妹たちとの幸せな生活を夢見て〜  作者: ひとえ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/121

54話 打ち上げ2


「あんたらかい? ダンジョンのボスを倒してくれたっていうのは」


 ようやく俺の胃の調子が戻ってきたところで、中年の男がそわそわしながらテーブルに近づいてきた。何とも間が悪い。何かトラブルを持ってきたような気配は無さそうだが。


 俺は口の中に残ったものを水で流し込み、男の様子をうかがう。


「そうれすよ。主にわ・た・し・の活躍れすけどね」


 メロはコクコクと偉そうにうなずきながら語る。口元には赤茶色のソースが付着していた。


「やっぱりそうなのか。いやー、私はダンジョンが見つかった森の近くで農業を営んでいてね。魔物が出てこないかとずっとヒヤヒヤしていたんだ」


 そういえばキサラが言っていたか。ダンジョンとは魔物の巣みたいなところで、放っておくと中から魔物が出てくると。最悪、村や街が襲われることもあるらしい。


「ギルドにダンジョン攻略を依頼していたんだが、冒険者たちは北にあるルナール湖を目指すばかりで困っていたんだ」


 中年の男は深々と頭を下げる。


「本当にありがとう」


「そ、そんな。気にしないでください……」


 俺は思わず立ち上がるも、ぼそぼそとしか言葉が出てこなかった。


 冒険者になったのも、クエストをこなしているのも自分のためでしかない。妹たちと幸せに暮らすという自分の理想に、お金が必要だからだ。誰かにお礼を言われるなんて考えたこともなかった。


 だけど、この男の薄い頭頂部を見せつける行為は、間違いなく感謝のそれだ。ただ、煮えきらない返事をしてしまったのは、男の気持ちを受け取るのは申し訳ないというか、筋違いに思えたのだ。


「そんな顔しないの、これがわたしたちの仕事よ」


 キサラが俺の尻をパンと叩く。ハッとしてテーブルを見回すと、アシュード、メロ、フレンは俺を見て笑顔を作り、優しくうなずいた。みんなから胸を張れと言われているような気がした。


「どういたしまして……」


「何照れてんだよ、ダレス」


「う、うるさいな」


 アシュードの茶化すような視線。自分の感情を隠すように発した声は裏返ってしまう。


「そうだ! あんた達に一杯奢らせてくれ。なぁ? いいだろ?」


「いいの、おっちゃん!?」


 キサラがパァッと目を輝かせる。


「もちろんだとも」


 中年の男の手を握りしめるキサラ。その距離の詰め方に、男は若干鼻の下を伸ばしている。誰にでもこんな感じなのかキサラは。


「おい! 抜け駆けするんじゃねぇぞ、俺にも一杯奢らせろ」


 奥で座っていた若い男性が立ち上がって声を張り上げた。


 「俺達からも奢らせてくれ、たんまり飲んでくれよ」「私からもお願い! まさか、飲めないなんて言わないよね?」


 中年の男を口火に、他の席の客も続々と名乗りを上げる。奢らせろという声で、酒場がどっと沸いた。


 皆一様に眩しいほどの笑顔で、俺たちに感謝を伝えようとしてくれている。


「抜け駆けする気なんてなかったんだが」


 中年の男は頭をかきながら、強張った笑みで周囲を見回す。そして、真っ直ぐに俺を見つめる。


「ここにいる奴だけじゃない、村の全員が感謝してるさ。あんたらは、それだけの事をやったんだ」


「はい…… ありがとうございます」


「それはこっちのセリフだっての」


 中年の男は愉快そうに笑いながら俺の肩を叩く。


 心の中がすーっと満たされていくような、不思議な気持ち。慣れないこの感情に違和感を覚えつつも、決して悪くはないものだなと、俺の胸は少しだけ高鳴っていた。


「はーい! お待たせしました!」


 両手にジョッキの花を咲かせ、ウェイトレスがいそいそとこちらに向かってくる。あの細腕で、なぜ軽々と十杯以上を持てるのか不思議でならない。何かスキルを使っているのだろうか。


 テーブルのわずかなスペースを見つけると、ウェイトレスは片手分のジョッキを置く。それを土台に、反対の手で持つジョッキを上に重ねた。絶妙なバランス感覚だ。


「なかなかの量だね……」


 さっきまでの勢いはどこへ行ったのやら。キサラは眉をひそめ、積み上げられたジョッキを凝視している。


「どうしたキサラ? まさか村人たちの気持ちを無下にすることはないよな?」


「当然だよ、わたしたちは冒険者なんだから。まだまだ余裕よ」


 アシュードはニヤリと微笑みながらキサラを見る。キサラは勇ましく胸に手を当て、強がっていたのだが――


「すみません、一度にこれだけしか運べなくて。残り、持ってきます!」


 白いエプロンで手を拭い、足早に厨房へと向かうウェイトレス。息つく暇もなく、またジョッキの花を両手に咲かせて戻ってきた。その様子を、キサラとアシュードは口をあんぐり開けて見ている。


「これがさっきの残りで、こっちが店からの奢りです」


 二段重ねで置かれたジョッキが、三段、四段と高さを上げていく。もうここまでいけば曲芸の域だ。ウェイトレスが額の汗を払うと、周囲の席から拍手が巻き起こった。俺の隣でサリーも立ち上がり、かわいらしく手を叩いている。


「村を救ってくれてありがとうございます。冒険者さん!」


「まぁ…… そのなんだ、当たり前のことしただけさ。なぁ? キサラ」


「そうそう、その通りだよアシュード……」


 ウェイトレスは感極まったようで、ほんのり目を赤くしながらも満面の笑みを浮かべる。キサラとアシュードは、目の前に出来たジョッキの壁からひょっこり顔を出し、苦々しい笑みで向き合った。


「もうこうなったら勝負しよう! 一番飲んだ人が一番冒険者ってことで、今日の支払いで出たお釣りを総取りね」


「待ってくれ、俺は酒飲めないんだけど」


「ダレスはちょっと黙っといて」


「お、おう」


 キサラは眉間にしわを寄せて俺を睨みつける。普通に怖い。


「のぞむところれすよー」


「メロ、あなたも静かにしといて」


「へっ? ヒック……」


 キサラは額に指を当て、ため息混じりに言う。


 ジョッキ一杯で声も目も完全にとろけてしまったメロ。ついには体までとろけ出して、背もたれに身を預け出した。威勢よく拳を天に向けてはいるが、これ以上飲めばどうなるかは言うまでもない。メロよ、戦力外同士おとなしくしておこう。


「その勝負乗ったぜキサラ。後で後悔するなよ」


「そうこなくっちゃ。っていうより、このぐらい発破かけないと飲めないでしょ」


 キサラとアシュードの視線がバチバチと交わる。これ本当に全部飲むのか? 他人事で申し訳ない気もするが、どうなるのか興味がわいてきたぞ。


「あのー」


「あっ、ごめんね、フレンには強制しないから。ちゃんとフレンの分のお釣りは返すし」


 小さく手を挙げるフレンに、キサラは軽く目を伏せながら両手を顔の前で合わせる。


「いえいえ、参加させていただきます。私もパーティーメンバーですし」


「ほんと! あっ、でも無理はしないでいいからね」


「はい」


 首を傾げながらフレンはにっこりと微笑む。断るものと思っていたのだが、フレンにも仲間意識が芽生えているようだ。さっそく立ち上がってジョッキを手にとっている。


 キサラとアシュードは息を大きく吐き出して立ち上がり、ジョッキの山の最上段に手を伸ばす。


「みなさーん! ありがとうございます。それじゃあ、わたしたちとみなさんの幸せを願って乾杯!」


 元気ハツラツ。本日二度目のキサラの音頭に、酒場の客やウェイトレス、この場の全員が声を張り上げて続いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。