女王とメイドと秘密の地下道:第四話~女王の異変~
閉じ込められたことで、精神的に息苦しさを感じたフレイジアとメルは、白いハンカチのマスクを外した。少しカビ臭い地下の空気を感じながら、たわいもない会話で時間を潰そうとしていた2人であった・・・
「フレイジア様、明かりの魔法を使い続けていて疲れたりしてないですか?」
「この魔法は、ほとんど魔力を消耗しないから大丈夫よ、心配してくれてありがとう。」
「まぎあ?ですか?・・・よくはわかりませんが無理はしないで下さい。」
「ですが・・・それよりも動けずに立ったままでいるのは、少し辛いわね。」
気遣うように訊ねたメルにフレイジアは、挟まってしまったスカートの裾を軽く引っ張りながら答えた。
「えと、な、なら破いてしまっても・・・でもこれ、破けるのかな?」
メルは、自分のスカートの生地を手で引っ張り破けるか確かめながら言った。メイド服といえど作業着の一種、それなりに丈夫な布で出来ているようであった。
「本当?本当に破いてしまってもいいの?」
「えっ?は、はい!給仕の控え室に余っていたものですし。たしか、前の持ち主の方は、辞めてしまいましたから。」
「そう、可愛らしい服だから勿体ないけど・・・破かせて頂きましょうか。」
フレイジアは、すうっー!息を深く吸い込むと思いっ切りスカートを引っ張った。フレイジアは、少し顔を赤く染め、ふんっ!とさらに渾身の力を込めて引っ張るとスカートはやっとビッ!と布地が裂ける小さな音を立てた。メルにも手伝ってもらい2人がかりで必死に引っ張るとようやくビリッ!ビィィィー!と裂け始め、スカートは勢いよく破けた。
「ちょっと力を入れすぎたかしら・・・少し、破きすぎてしまったわね・・・」
「すみません・・・加減が難しくて・・・」
「まぁ、気にしても仕方ないわ!それより、どこか座って休めそうなとこは ___」
フレイジアのスカートは右足側がスリットのように大きく裂け、長くしなやかな美脚とそれを包む黒いニーハイソックスと白いドロワーズが露になってしまった。
「メル、階段のところで座って待ちましょうか?」
「はい、早く助けが来るといいんですが・・・」
フレイジアとメルは、隠し通路の階段に2人並んで座った。フレイジアは、少し寒そうにしているメルに気が付きそっと体をよせた。
「少し、地下は寒いからこうしてていいかしら?」
「はい、どうぞ。あの・・・あったかいです///」
「ふふっ、それはよかったわ!」
メルも、嬉しそうにフレイジアの方へ体をよせてきた。お互いのぬくもりを感じながら早く誰か気が付いてくれないかと、助けを心待ちにしていた。
「あの、フレイジア様?この娘って名前とかあるんですか?」
「えっ、この娘って?明かりの魔法のこと?魔法の名前はルクステルだけど・・・」
メルは、空中をフワフワと浮かんで明るく照らす妖精の形をした発光体を指さして訊ねてきた。
「じゃあ!私が名前付けあげてもいいですか?えっと・・・ルクス・・・!ルクルです!よろしくねルクル!へへっ!」
メルは妖精の形をした発光体に名前をつけて楽しそうに自己紹介まで始めていた。
「あの・・・メル、なんというか、夢を壊すようで悪いのだけど・・・妖精みたいな形してるだけで意思とかはないわよ。」
「へっ?そうなんですか?でも、私が壁を探したとき側に来たり、付いて来たりしましたよ。」
「それは、私が魔力を使って操作していたから・・・それに、本来なら発光する魔力を球体にすればいいだけの魔法なの。」
「そうなんですか?それは・・・ちょっと残念です。でも何でこんな可愛らしい妖精さんの形にしてるんですか?」
メルは、本当にがっかりしたような顔をしてながら、疑問を口にした。
「う~ん、なんでって・・・趣味かしら?それに、光って浮いてる玉なんて人魂みたいで不気味じゃない?」
「たしかに、夜の暗い廊下とかで見たら不気味というか恐いですね・・・私なら、びっくりして気を失うかもです!」
「そうでしょ!幼い頃、夜中トイレに起きたときに育ての母が使っているのを始めてみた時は、人魂と幽霊が歩いていると勘違いして恥ずかしけど驚いておもっ、いえ、大泣きしたもの・・・」
「えへへっ!フレイジア様も恐がりなとこがあるんですね!」
「そ、そなこと!まだ10歳ぐらいの頃のことですし!あっ!そうでした・・・それが切っ掛けで、魔力の使い方を習ったとき、わざわざ妖精のようにしたんでしたわね。ふふっ!」
フレイジアは、危うく幼い時の恥ずかしい思い出を暴露しそうになったが、同時に明かりの魔法を妖精の形にした理由を思い出し懐かしさに笑みがこぼれた。メルもフレイジアの様子にニコニコと笑っていた。
「あの、フレイジア様・・・そう言えば、"まぎあ"ってなんですか?」
メルが、急に真剣な顔で聞いてきた。
「マギア?マギアは、簡単に言うと魔法の源となる力ね。メルは、私達アリジアナードの人間は、誰でも魔力と生命力という力を持っているって聞いたことないかしら?」
「ご、ごめんなさい・・・聞いたことないです。」
「もう、謝らなくていいのよ!誰でも持っているけど、誰もが習ったり、使いこなしているわけじゃないから気にしないで。一部の人しか習ってないから・・・そう、騎士とか兵士、それに冒険者などね。」
「そうなんですね・・・皆さん魔法使いなんですか?」
「すこし、違うわ。騎士に代表される武器を扱う戦士は、ほどんど生命力による身体能力の強化を習得しているけど魔力を扱える者は少ないわ。」
「どうしてですか?」
「そうね、生命力の方が簡単に習得が出来きて戦闘力も十分に上るからかしら。だから難しい魔力の扱いを習熟して魔法を行使する者は、特に魔術士と呼ばれるのよ。」
「へぇ~!じゃあ、フレイジア様は魔術士なんですね!凄いです!あれ?・・・えと」
少し興奮するように聞き入っていたメルであったが、ふとある疑問が浮かんできた。
「どうしたの?メル?」
「えと・・・上手く言えないのですけど、生命力だけで強くなれるなら・・・あの、あの・・・」
「どうして、私みたいな魔術士がいて、わざわざ魔力をつかうのか?てこと?」
「そ、そう・・・です。」
「少し説明しにくいわね・・・得手不得手といった面もあるけど、魔力と生命力という力の性質の差からしら。」
「せいしつ・・・ですか?」
「専門的な話しは、省くけど。まず魔力の性質・・・特徴から話すわね。魔力は最初に言ったように魔法の源となる力よ。一言で言うと高い汎用性・・・つまり色々な状況に対応して使えて便利ってことね。」
フレイジアは、出来る限り簡単な言葉にして説明したつもりであったがメルは、少し難しそうに顔をしかめていた。
「どう言ったらいいのかしら・・・生命力で出来るのは、身体能力の強化、普段より早く走ったり、重いもの持ち上げたりする事だけど、魔力は先ほどの明かりの魔法だけじゃなくて炎や風、氷なんかを創り出す事が出来るわ。」
そういってフッレイジアは、ボッ!と人差し指の先に小さな炎を灯した。
「わっ!あ、熱くないんですか?」
「ふふっ、熱くないわ。触ってみる?」
「い、いくらフレイジア様でも、む、無茶言わないで下さい〜火傷しちゃいますよ!」
フレイジアは、必死で顔を横に振るメルの頬に炎を灯た指先を近づけた。
「大丈夫よほら!」
「きゃ!あつっ・・・あれ、ホント熱くないです。」
メルは、目を丸くしながら不思議そうにフレイジアの指先の炎をツンツンと指で突いていた。
「驚かせてごめんなさいね、これは、魔力を炎の形にしただけ、本物の炎のような熱という性質は加えてないの。」
「もう、びっくりさせないでください!でも、何となく魔力の方が色々なことが出来るのがわかりました。」
「そう?こんな事も出来るのよ!」
フレイジア、そう言うと指先の炎の性質を操作した。
「わぁ〜!暖かくなりました!え・・・きゃっ!いきなり冷たく!わ!また!暖かく!」
そのたびに、大袈裟に驚くメルが面白くて、フレイジアは何回も炎の温度を上げ下げしていた。
「ふふっ、でもメルごめんなさい、魔力や生命力を普段から使い慣れてはいるけど、言葉で説明しようとすると上手くいかなくて・・・今度、解りやすく話をまとめておくわね。」
「いえ、そんな!あれ、フレイジア様は、生命力も使えるんですか?なら、スカート破くときなぜ?」
「意外と、メルは鋭いのよね。魔力と生命力は同時に使えないのよ。魔力を操作して魔法を詠唱や発動している最中に生命力で身体能力を強化するとか、逆に身体能力を向上させた状態で魔力を操作して魔法を放つとかは無理なの。魔法を発動し終えた後、魔力を使って無い状態で、生命力で身体能力を上げて敵と距離を取ったり攻撃を回避したりとか、どちらかに切り替えて使う事は出来るけどね。」
「あ!なら生命力で本棚を動かせませんか!」
「無理ね!本棚が閉まりかけてたのを押し返すよう咄嗟に生命力を全身に循環させたけど・・・ダメ全くびくともしなかったわ。あまりアニマの扱いは得意ではないけど、それでも普段の2倍くらいの力は出せるのですが・・・」
「そうなんですね・・・」
即答した、フレイジアの答えに、メル表情が一瞬、少し曇った。
「生命力は、習得するのが簡単でも極めるのが難しいのよね。大体の人が2から3倍程度まで身体能力を強化するのが関の山なのよ。騎士団長のガウェインみたいな達人になれば、オーガやトロルのような鬼とか巨人みたいな魔物並みの力を簡単に出す事が出来るそうよ。なにせ、”歩く攻城槌”とか異名があるほどですし・・・」
「何だか、凄いですね!ねえ・・・フレイジア様、魔力は私も持ってるんですよね?魔法って私でも出来るんですか?」
「難しいけど、練習次第で誰でも出来るわよ!今度、教えてあげる、明りの魔法が練習に最適な・・・ううっ、ぅん、最適なのよね。」
「ありがとうございます!楽しみにしてって、フレイジア様?どうされました?寒いですか、震えて?」
メルが気が付いたフレイジアの様子は、太ももを摺り合わせるるように、ソワソワと震えて・・・いやモジモジしてるという表現が適切のような状態であった。
「え?えぇ・・・だ、大丈夫よ。(先ほど、お手洗いに行こうとしていたのを・・・すっかり忘れたましたわ!)」
平静を装うフレイジアであったが、朝からトイレにいっていなかったことに加え、地下の肌寒さの為か急激に尿意が増していくような感覚に襲われていた。隠し通路に閉じ込められて、まだ1時間も経つていない、フレイジアが予想した救助までは、まだ少なくとも2時間はかかる見込みであった。