女王とメイドと秘密の地下道:第三話~地下書庫の秘密~
「お城の地下なんて初めて来ました!なんだかワクワクしますね!」
「そうね!何だか懐かしい気分!まるで、ダンジョンを冒険した頃のよう・・・」
「フレイジア様のダンジョンを冒険したお話また聞きかせてください。あっ!ありましたよ!書庫です!」
フレイジアとメルは書庫の重い扉を開けると壁に取付られた魔素灯の制御バルブを開いた。書庫内全ての魔素灯は揺らめくように光りだすとオレンジ色の光りが書庫内を照らした。
※魔素灯は、アリジアナードの世界で大気に含まれる魔素と呼ばれる成分に反応し発光するクリスタルを利用した照明器具であり、空気との接触をバルブで制御することで点灯と消灯を切り替えることが出来きる。
「わぁ~!凄い沢山の本ですねフレイジア様!思ったより広いですね、天井も高くて!でも、この中から探すの大変そうですぅ・・・」
メルは書庫を見回すと、驚きと同時に日誌を探す困難さに不安の声を上げた。書庫は幅が25m程あり、奥行きも同等くらいだろうと思われる。先程歩いていた廊下より床面が1mほど下がっており、天井高も5mほどありそうだった。そして、天井と同じの高さの本棚が幾つもズラリと整列している。
「大丈夫よメル。ミルケネスが奥の方以外調べたと言っていましたから・・・ほら見て、この辺りの本棚には、本を動かした形跡があるわ!」
フレイジアとメルは調査の痕跡を確認しながら書庫の奥へ向っていった。
「この辺りから、調査の痕跡が無いわね。ゴホッ!ゴホッ!すごいホコリ・・・何十年もほったらかしのようね。」
「フレイジア様、これで口と鼻を覆ってください。はっ、くちゅん!」
メルは、可愛いくしゃみをしながら、白い大きめのハンカチをフレイジアに手渡した。
「本当、メルは気が利くわ!ありがとう!」
「いえ、そんな、掃除の時の必需品ですし///」
「では、私は、あの乱雑に積み上げられた本の山を調べますから、メルは奥の本棚をお願いね!」
「はい!お任せください!」
白いハンカチをマスクのようにして2人は、書庫で日誌の捜索を開始した。
「そう言えばメルには、幼い妹がいるといっていましたっけ?」
「えっ?はい!妹だけじゃありません弟もいっぱいいます。みんな可愛い良い子たちですよ。」
「(メルみたいに可愛い子供達がいっぱいなんて!)天国ですわね・・・」
フレイジアは、6、7人のメルそっくりの少年と少女と戯れる自分の姿を想像し思わず顔が緩んでいた。
「え?何かいいましたか?・・・えと、出来れば、良くして頂いているフレイジア様に会わせたいな~なんて思うんですけど・・・そんなこと失礼ですし・・・それに・・・」
「そんな遠慮しないで!ぜひ今度、会って見たいわ!!」
遠慮ぎみに話すメルにフレイジアは、嬉しそうに声を上げ少し興奮ぎみに即答した。
「本当ですか!今度、お母様のマザー・シゼリアに相談してみます。なにせ、30人もいますから。」
「そう、30人も〜!メルは、何人いてもいいわ・・・って、多過ぎません!?・・・あっ!マザー・シゼリアといいますと街外れの孤児院の院長でしたわね?メル貴女___」
フレイジアは、メルに似た沢山の子供達に「フレイジアお姉ちゃん!」と呼ばる自分の姿を妄想しニヤニヤしていたが、さすがに数が多過ぎることと、今朝ミルケネスから渡され目を通した資料にも登場していた人物の名前に冷静さを取り戻した。
「はい。私も孤児でカルミア学園の出身です。あの、フレイジア様どうかされましたか?」
言葉に詰った様子のフレイジアにメルが心配そうに話しかけた。
「いえ、大丈夫よ・・・本当にごめんなさい、私の母が支援を打ち切ってしまって・・・苦労したでしょう?支援は再開するように手配したげれど・・・なんとお詫びすれば良いか・・・」
「そんな!気にしないで下さい!それに、支援して下さるなんて!何とお礼を申し上げたらいいのか・・・」
フレイジアは、カルミア学園や子供達の様子をメルに聞きながら山積みの本を、出来るだけホコリが舞わないよう慎重に調べていった。
探し始めてから2、30分程が経った頃フレイジアは、フルッ!とした震えとソワッ!とした感覚を覚えた。それは、少し肌寒い地下書庫のせいばかりではなかった。
「(そういえば、朝から・・・)メル!すぐ戻って来ますから探していて下さい。」
そうメルに言って、フレイジアが書庫を出ようとすると書庫全体が少し振動し始め、ガタゴトと何か重い歯車が回るような音とともに天井からホコリがパラパラと落ちてきた。
「きゃぁぁぁー!!」
その時、ズゴゴゴゴッという重たい物が引きずられるような鈍い音とメルの悲鳴が書庫に響き渡った。
「何っ!メルどうしたの!大丈夫メル!!」
フレイジアは、慌てて書庫の奥に駆け戻った。
フレイジアが目にしたのは、書庫の奥の壁面を埋めるように、横並びで隙間無く置かれていた6台の大きな本棚の右端が壁の奥に引っ込んでいき、残りの5台の本棚が右へゆっくりとスライドしていくという光景だった。
「なんなの・・・これは・・・」
「た、助けてくださいっー!!フレイジア様ぁー!!」
フレイジアが、唖然としていると、メルの悲痛な叫びが聞こえてきた。4m程の脚立にの上って本棚最上部を探していたメルは、突如動き出した本棚に驚き、本棚にしがみ付いてしまったのだろう。メルと脚立は本棚に引っ張られどんどんと右へ傾いていき、頭のホワイトブリムが床に落ちる。ついにガシャーン!と脚立が倒れ、本棚を必死に掴んでいたメルは宙ぶらりんの状態になってしまった。メルのつま先は、フレイジアの頭より少し上、床から2m前後の所で足の掛けられる場所を探すようにバタバタと必死で足掻いる。そのたびにスカート内の白いドロワーズが露になっていた。
「あわわ!おち、落ちるっ!!落ちちゃいます!フレイジア様ぁ!!」
「メル、もう少し頑張って!本棚の動きも収まったし今、脚立を立てるから!」
メルの掴まっている本棚に脚立を立てるとメルは、ゆっくりと降りてきた。
「はわぁ~びっくりしました・・・フレイジア様、ありがとうございます。」
「いったい何があったのメル?」
「えっ・・・と、日誌を探していた時に本棚の最上段に一冊だけ赤い本があるのに気が付いて、気になって近くにあった脚立で上って取ろうとしたら・・・」
フレイジアが本棚を見上げると一冊だけ赤というかエンジ色の分厚い本があった。
「フレイジア様!見て下さい!これ!これっ!」
フレイジアが、本棚に気を取られているとメルが驚きと興奮が混じったように声を上げながら左手の裾を引っ張っぱてきた。
「もう、どうしたの?えっ・・・こんなとこに何で!?これっ、もしかして隠し通路っ!!」
「凄いです、お城ってホントにあるんですね隠し通路!物語の中だけだと思ってました!!」
「そうね、私もそう思ってたわ・・・ってちょっとメル落ち着いて!」
本棚がスライドし、本棚一台の分だけ剥き出しになった壁面にはポッカリと通路の入り口が開いていた。
開口部の幅は1m、高さも2mほどである。
「フレイジア様!フレイジア様!ちょっと入ってみませんか?何か、凄い物が隠されているかも!!」
「そ、そうですね・・・少し覗いてみましょうか。」
目をキラキラ輝かせながらワクワクしているメルの様子に、すこし困惑しているフレイジア自身も、この先に何があるのか興味が湧き上がって来るのを感じていた。
フレイジアとメルは、隠し通路の中を覗いてみた。丁度、大人が両手を広げた位の幅の通路が入って直ぐ左に延びている
「暗いわね、すこし進んでみましょうか?」
「はい!いったい何があるんでしょうか?」
通路は入り口がら5m程の所で階段となっていた。
「階段・・・みたいですけど暗くて先が良く見えませんね。」
「あの、何か灯りを持ってきます!」
通路に魔素灯は設置されておらず、燭台かなにかを置くための窪みが壁面に数ヶ所あるだけだった。
「灯りは、持って来なくても大丈夫よ。今っ___」
フレイジアが言いかけたとき、また振動と重い歯車の回る様な音が聞こえ、本棚が引きずられる様な音を立て閉まり始めた。
「まずいわ!」
フレイジアは、咄嗟に駆け出し、閉まりかけた本棚を手で押し戻そうと押さえたがフレイジアの力でどうこう出来ものでもなく、危うく挟まれそうになり飛び退けるように手を離した。
ガコン!と音を立て完全に閉じてしまった本棚と壁の隙間にフレイジアは、スカートの裾を挟まれてしまった。
「くっ!完全に閉じてしまった・・・」
「真っ暗で、なにも見えません・・・フレイジア様ぁ〜」
「メル、ハサミとか持ってないわよね?」
「ハサミですか?えと、すみません持ってないです。どうされたのですか?」
「スカートの裾が挟まれて、取れないの・・・」
フレイジアは、そう言うとスカートを何度か強く引っ張ってみたものの、全くと取れる気配は無かった。
「思ったより噛み込んでしまってるようね・・・あっ!もう、なんで・・・」
「フレイジア様、ごめんなさい私が入ろう何て言ったばかりに閉じ込められしまって・・・ううっ」
「泣かないでメル、私も慌ててたけどたけど・・・まずは、照らせ!明かりよ!ルクステル!!」
フレイジアが、叫ぶと青白く発光する光の塊が出現した。12cmほどの大きさで、蝶の羽を持つ少女のような型をしているそれは、宙に浮きながら周囲を明るく照らした。。
「うわぁ〜!可愛い〜妖精さんみたいです!これ、魔法ですか?」
「そうよ、明かりを灯すだけの初級魔術だけど。本当は、手のひらサイズの光る球体でいいんだけとね。それよりも・・・どこかに操作レバーとか無いかしら?」
明かりを灯したフレイジアが壁を調べるよう言うとメルは、金属の輪の付いた鎖が燭台を置く窪みより一回り大きな窪みの奥に垂れ下がっているのを見つけた。
「フレイジア様、輪の付いた鎖がありました!これですか?」
「そうね、たぶん本棚を操作するスイッチだと思うわ。普通、こっち側にも無いと困りますよね?冷静になって考えてみれば・・・もう、なんで!こんなことに気が付かなかったの・・・」
「あっ!確かに、そうですね。」
「はぁ、慌たとはいえ ・・・バカな事をしてしまいました。おかげでこの有り様・・・メル、早く鎖を引いてください。」
「はい、わかりました!えいっ!!」
ガチャガチャとメルは、鎖を引いてみたが本棚は動き出す気配がない。
「メル?とうですか?」
「あの、鎖が動くような手応えはあるですけど・・・」
「そうですか・・・もう少し力を込めて引いてみたらどうかしら?」
「わかりました!よーしっ!えいっ!えいっ!!えーいっ!!!」
メルは力いっぱい、何度も鎖をガチャガチャ!と引いてみた。すると・・・ガチャン!という音と共に鎖から手応えが消えてしまった。
「ぴやぁぁぁっー!!大変ですぅー!!!」
突然、叫び声を上げたメルに驚き、フレイジアはビクッ!となった。
「な、なに!?驚かせないないで、急にどうしたの?・・・ねえ、メルどうしたの?」
「あの・・・鎖・・・切れちゃいました・・・ど、ど、ど、ど、どうしましょう!」
「えっ・・・そんな!もう・・・仕方ないわ、助けを待ちましょう。はぁ・・・」
慌てふためくメルの様子にフレイジアは、諦めたように深く溜め息を吐いた。
「え、でも気が付いてくれますか?」
「今、夕方5時頃ですよね?夕食になれば私達がいないことに気が付くでしょうから。」
「で、でもぉ・・・」
「大丈夫よメル心配しないで!普段、明りの灯っていない地下の魔素灯が点灯していますし3、4時間もすれば誰か探しにくるでしょうから・・・少し時間はかかるでしょうけど、待ちましょう。」
フレイジアとメルは、隠し通路の探検を一端、諦めて救助を待つことにしたのだった。