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女王とメイドと秘密の地下道:第二話~父の日誌~

フレイジアは、朝食を手早く済ませ身なりを整えると足早に執務室へ向った。時刻は午前8時前、すでに2人の人物が室の前でフレイジアを待っていた。


1人は、フレイジアより少し背が低く少しお腹がでっぷりとしいるが筋骨隆々とても60代とは思えない体つきの男性、騎士団長のガウェインであった。革命時から、ほとんど甲冑を着込んだ姿しか見たことがなかったが今日は、珍しく騎士団の制服を着ていた。改めて見ると赤茶色いオールドダッチ風の顎髭にソフトモヒカンのような髪型、優しくも厳しいといった風貌が印象的であった。


もう1人は、白髪の混じる黒髪をオールバックにした左目の片眼鏡(モノクル)と鼻下のカイゼル髭が特徴の細身で長身の中年の男性で書類の束やノートが無造作に詰め込まれた手さげ袋を抱えている。執事のようにも見える風貌だが、王立魔法学院で数学と経済学を教授する学者ミルケネスであった。王立魔法学院は、魔法技術の研究教育を目的に約200年前に設立されたが、ダンジョンから産出される魔法鉱石の研究やそれに伴う科学研究などをへて様々な学問の研究教育機関となっていた。フレイジアは彼に革命が成功した時より、ヴァレンシア王国の財政状況の詳細な調査と国の財務担当大臣への就任を依頼していたのだった。


フレイジアは、2人と挨拶を交わすと執務室に招き入れ、立派な装飾の施された木製両袖机(レゾリュートデスク)の椅子に腰を掛けた。


「フレイジア陛下、まず私から報告させて頂いてもよろしいかな?」


フレイジアが椅子に座るとタイミングを見てガウエインが話しかけてきた。


「ええ、お願い致します。」

「革命の際、城内での戦闘による混乱のさなか、行方を眩ました王と騎士団の団長兼総帥の件なのですが・・・」

「私の2人の異父兄(あに)のことですね・・・たしか・・・バカニートとアホニートでしたわね?」

「バッ・・・バルカナードとアホ・・・ゴホッ!失礼、アフリードでございます陛下!」

「ガウェインもそう思っているのでしょう?ふふっ、特に元騎士団総帥のアフリードなどは?」

「まぁたし・・・あ、いえ!けして、そのようなことは断じて!」

「ふふっ冗談です。話しの腰を折ってしまいましたね、ガウェイン続けて下さい。」

「からかわんで下され陛下・・・で、では、その彼らの行方なのですが___」


そんな、冗談を言うフレイジアと本気で慌てるガウェインの様子をミルケネスは、笑いを堪えて見ていた。


長兄のバルカナードは、革命前までヴァレンシア国王であったが実権は母であるヒルダレイアが握っていている形だけの王であった。次兄のアフリードにいたっては、騎士団総帥という立場であったが戦闘技能はもとより作戦指揮能力など皆無で、そもそも自身の職務に対する興味も責務もない有様であった。実質、副団長が総帥としての業務のほぼ全てを委任(丸投げ)されているような状態であった。そのおかげで、革命がスムーズに成功したと言っても過言ではない。

決起した革命軍と貴族出身の騎士団を中心とする女王ヒルダレイア側王国軍の勢力の対立は、数日の睨み合いの末と小競り合いの末に王都ヴァレエイドで大規模な武力衝突へと発展する。この時、アフリードは母と兄のいるヴァンシア城に避難しており副団長が前線で指揮をとっていたのだが副団長ハサード卿は、この戦いの趨勢(すうせい)が革命軍側に傾くことを予期していた。だが、ヒルダレイア女王へ一応の忠義を示し、万が一女王側が勝利しても配下の騎士達に咎の及ばぬよう積極的に攻勢に出ている様に見えるが大きな損害がでぬよう絶妙な指揮を行なっていた。


そんな、王国軍の意図を察した反乱軍側の指揮官ガウェインは、密かに使者をハサード卿へ送った。お互いの意思を確認した両者は、王国軍有利を演じることとなる。王都での大規模戦闘は、実際には軍事演習のようなものであり両軍ともに多少の怪我人はでたものの、犠牲者は皆無であった。城から傍観している王女ヒルダレイア達の目を誤魔化すため市街のあちらこちらで上がった火災と黒煙は廃材や馬車の荷台、樽などを掻き集め油を掛け火を付けただけであった。

王国軍有利の報告を聞き油断しているヴァレンシア城内へ反乱軍のフレイジア率いる別働隊が突入した。

城内での戦闘は、王女ヒルダレイアの近衛騎士(ロイヤルガード)の奮戦で予想以上に手間取りフレイジアと冒険者ギルドの手練れ達が精鋭の騎士で構成された近衛騎士(ロイヤルガード)を引き受けている間に、どうにか女王ヒルダレイアを捕らえることには成功したのだが、そのごたごたの間に異父兄(あに)は姿を眩ましてしまったのだった。


「結局、ヴァレンシアの主要都市だけでなく小さな村までも隈無く捜索したけれと異父兄(あに)達は発見できなかったと・・・」

「はい、申し上げにくいのですが、目撃情報はおろか噂話の一つも上がってこない状況でしてな・・・」

「無能な異父兄(あに)達が自活出来るとは到底思えませんし・・・これ以上時間と労力を割く必はないでしょう。」

「と言いますと・・・」

「一端、大規模な捜索は打ち切ります。手配書を用意して多少の賞金を懸けて配って下さい。無駄に顔だけは、良いので目立つはずです。生きていれば、そのうち見つかるでしょう・・・」

「わかり申した。早速、そのように手配したします。では、これにて失礼致します。」

「宜しくお願いしますねガウェイン。」

「はっ!」


フレイジアは、敬礼をして執務室を出て行くガウェインを見送ると国の財政状況をミルケネスに尋ねた。


「お待たせして申し訳ありませんミルケネス教授。こちらの椅子にお掛け下さい。」

「いえ、お気になさらないで下さい。さて、財政状況なのですが・・・言葉です説明するより、こちらの資料をご覧下さい。大まかではありますが現状をまとめてあります。」


フレイジアは、ミルケネスから手渡された資料に目を通した。二十数ページの資料の内容にフレイジアの顔がみるみると曇っていく。


「はぁ・・・叩けばホコリが出るとは思っていたけれど、これほどとわね・・・あれだけの重税を課していてどうして、これだけの財政難になるのかしら・・・そして、それを理由に孤児院や学校などの支援を打ち切ってしまうなんて・・・」

「ホコリを叩いているので、ホコリが更に飛び散らかってしまったような状態ですかな・・・ははっ」

「確かに、そんな感じですが・・・笑えない冗談ですわ」

「コホン!しかしながら、参りましたよ。前女王の財務担当から提出された資料など、それは杜撰(ずさん)なもので・・・赤字の補填に不正を見逃した見返りに商人から得た賄賂を当てているような有様で・・・]

「・・・頭が痛いわ。取りあえず不当な重税は適正な水準に戻すとして・・・他の問題は____」


フレイジアとミルケネスの財政問題に関する議論は、問題点の洗い出しから始まった。


「やはり、少し人手不足ですが・・・城の使用人をこれ以上、増やすのは無理そうですね・・・ただ騎士と兵士の数は必要以上に多い・・・いえ、多すぎる気がしますわ。」

「そうですが、解雇という訳にもかないでしょう・・・革命に賛同した騎士達は無論ですが、前女王側の者を首にしたところで・・・ほとんど再就職先もなく、野盗かなにかに身を崩すのがオチでしょう・・・」

「そうですわ!最近、ダンジョンから溢れた魔物の被害が多発していましたね?自警団しかいないような村だけではなく、冒険者ギルドも冒険者がイタズラに魔物を刺激して被害が出るのを恐れて手付かずのダンジョンが幾つもあります。そういった現場へ駐留または派遣させましょう。地方出身の者には、希望があれば出身地でも許可します。」

「なるほど、村からは税を納める対価として、冒険者ギルドには未踏のダンジョン探索時のリスク回避として、その対価を納めて貰うのですね。税を納めることが目に見えて意義のあることと理解できるようにするのは、良い考えですな、十分なサービスが受けられるのであれば多少高い税でも払って頂けるでしょう。では、この点をもう少し深く考えて___」


フレイジアとミルケネスの議論は、盛り上がりを見せていたが執務室の扉をコンコン!と優しくノック擦る音に中断させられた。


「はい、どうぞ。」

「あ、あのフレイジア様、昼食のご用意ができました。いかが致しますか?」


返事をしたフレイジアに、扉越しに尋ねてきたのはメイドのメルであった。


「もうそんな時間なのね・・・ミルケネス教授は、どうします?」

「わたしは、どちらでも結構ですが・・・出来ればもう少しキリの良いところまで煮詰めたいですな。」


フレイジアには、ミルケネスの意見に同意し、メルに昼食は、後ほど遅れてとる旨を伝えた。


「わかりました。あの、フレイジア様、せめて、お飲み物だけでもお持ち致しますので、少しお待ち頂いても良いですか?」

「ええ、お願いしますねメル!」

「はいっ!すぐに用意します!」


執務室に用意してあった紅茶も底をつき、のどの乾きを感じていたフレイジアにメルの気遣いは嬉しかった。メルの明るい返事に、お願いされたのが嬉しいようで足早に準備に向う様子が扉越しにも感じとれた。


10分ほどたった頃、執務室にサービスワゴンを押したメルが入ってきた。


「も、申し訳ありません。お待たせ致しました。コーヒーとサンドイッチを用意しました。宜しかったらお召し上がり下さい。」


少し、息を切らしたようにメルは言うと、サービスワゴンの上に置かれた大きな皿に被さったクロッシュを持ち上げた。皿の上には、3cm角ほどの大きさにカットされたサンドイッチが綺麗に盛り付られていた。


「ほぉ、これはありがたい!実に美味しそうですな!フレイジア陛下、これをつまみながら議論のまとめに入りましょうか。」

「そうですわね、教授!でもメル、よくこんな短時間で用意しましたね?種類も色々ありますし、丁度、食べやすい大きさに綺麗に切り揃えて・・・大変だったでしょう?本当にありがとう!」

「いえ、お役に立てて嬉しいです!具材は昼食に出される予定のものを利用して・・・あっ!あまりお邪魔をしてはいけませんよね?何かありましたら呼んで下さい。あの、失礼致しました。」


フレイジアとミルケネスが感謝の言葉を口にするとメルの声は嬉しそうに弾んでいたが、そう言うと慌てたように執務室から出て行ってしまった。


「随分、可愛らしメイドでしたな、しかしあのように幼い者まで働かせるのは・・・保留にした使用人増員の件は再考の必要が___」

「大丈夫ですよ教授、メルは20歳、立派な大人です。本人が容姿を気にしているので、くれぐれも“幼い”とは口に出さないようお願い致します。」

「そうなのですか・・・わかりました。」

少し、機嫌を損ねたようなフレイジアの口調にミルケネスは苦笑いをしながら答えた。


それから数時間後___


「今後の大まかな方針は、以上ですミルケネス教授、早急に取りかかれる事案から進めて下さい。」

「わかりました、フレイジア陛下、すぐにも精査し実行に移します。」


国の財政立て直しの方針がまとまり議論を終えたのは午後2時を過ぎもうすぐ3時になる頃であった。


「本日は、ご苦労様でしたミルケネス教授・・・いえ、ミルケネス財務大臣。」

「はは、その呼び名は少しこそばゆいですな・・・教授ほうが慣れていますから。しかし陛下がこれほど経済学に博識とは、失礼ながらお見逸れいたしました。私の教え子でも、陛下ほどの理解力と知識を持つ者はなかなか・・・」

「お、おだてないで下さい・・・///」


褒められ、顔を赤らめるフレイジアにミルケネスはカイゼル髭をいじりながら微笑んでいた。


「あ、そうでした・・・うっかり忘れる所でした陛下これを・・・」


ミルケネスは、一冊の古い本を手渡した。装丁はシンプルだが上質な皮で作られ隅金は装飾のある銀細工であった。


「これは?」

「秘匿された帳簿がないかと城の地下書庫を探した際、発見したものです。どうやらバレンスト13世の日誌のようでして・・・」

「お父様の?・・・王国歴980年から985年と背表紙に書かれていますね。続きは無いのかしら?」

「はい、それが・・・地下書庫は、文学書や学術書などばかりでしたので奥の方は調査が手付かずになっておりまして・・・もしかしたら、そちらの方に・・・」

「そうですか・・・いえ、ありがとうございます。後ほど、拝見させて頂くことにしますわ。」


受け取ったフレイジアが調べるように数ページめくると、日誌と言うよりメモ書きのような感じで、亡き父がその日感じたり考えたことが簡素な文章で綴られていた。


「では、陛下。本日はこれで失礼いたします。」


フレイジアはミルケネスを見送り、私室へと戻どると改めて日誌を開いた。


「最初のページの日付は30年前・・・お父様、前妻のユミリア王妃と結婚を機に日誌を付け始めたのね。」


フレイジアが、パラパラと日誌をめくっていくと簡素な文章からも王妃との幸せな生活が読み取れた。


「最後のページは・・・」


フレイジアが、最後のページを開くとインクの文字は、所々何かで濡れたように滲んでいた。数ページ戻るようにめくると25年前の日付で、最愛のユミリア王妃が亡くなったことが震えたような文字で綴られていた。


「お父様・・・そういえば私お父様がどういう方だったのかあまり知らなかった・・・そして私のことをどう思っていたのかも・・・まだ、日誌の続きがあるのかしら?」


そう思ったフレイジアは、メルを呼び出すと事情を説明し地下書庫で日誌を探すのを手伝ってほしいと頼んだのだった。


「わりましたフレイジア様、早速書庫へ向いましょう!あっ、でもお召し物が汚れてしまいますよね?少し待って頂けますか?」


そういって、どこかへ走っていったメルをフレイジアはキョトンとした顔でみていた。


暫くして、何着かのメイド服一式を抱えこんだメルが戻ってきた。


「ドレスが汚れてしますといけませんので、申し訳ないですがこちらに着替えて頂けますか?」

「そんな、気を遣わなくても・・・でも、これ可愛いらしいから一度着て見たかったのよね~♪ふふっ」


楽しそうな微笑みをこぼしながらフリージアはドレスを脱ぎ、メイド服に袖を通していった。


「これは、少しダボダボ・・・これは小さいですね、あっ、これが丁度よさそうですわね!」


くるぶしの少し上ほどまで丈がある黒いロングスカートのメイド服を身にまとい、同色のニーハイソックスで足を包むと、ホワイトブリムを頭に乗せた。フレイジアは白いフリルの付いたエプロンを広げながら、鏡に向いポーズをきめた。


「すこし胸がキツイけど大丈夫ですね!どうかしらメル?」

「はい・・・よく似合ってますよ」


少しムッとして目を逸らしたメルが素っ気なく答えた。フレイジアは胸のことも禁句だったと反省した。


「と、ところで、メルこれは下着?それともズボンかしら?」

「えっと、ドロワーズですか?お仕事のときにうっかり、少し見えてしまっても平気なズボンの代わりのような下着ですね。基本は下着ですので、そのまま下着として履いてもいいですし、気になるのであれば下着の上に履いても大丈夫ですよ。」

「へぇ~そういうものなのね!・・・では、このまま履かせてもらいましょう。」


ドロワーズを広げて持ち、メルに訊ねたフレイジアは、少し考えると昨日メルがショーツの上から身につけていた事を思い出し、同じように履くことにした。


「あの、フレイジア様・・・なにも全部身につけなくても、女給の服にだけ着替えて頂ければ良かったのですが・・・」

「ふふっ、気にしないの!折角メルが一式持ってきてくれたんだから、さぁ地下書庫への冒険に出発!」

「あぅ、そうですけど・・・あ、置いて行かないでください~」


そういって、スタスタと歩いて行ってしまったフレイジアを、メルは追いかけていったのだった。

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