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女王陛下と誘拐事件:第七話:~メイド達と青年~

窓から差し込む日差しも段々と夕焼けの色を帯び始めた頃・・・

女王と間違われ誘拐されたメイド達は、助かる望みが微塵もないと諦めて虚ろな目をしていた。会話をする気力も失い黙り込んで、いつ自分達の正体が露見し殺されるのかとただ不安になりながら待つだけであった。長い時間、沈黙が続いていたが・・・


「・・・あの時は、ありがたいって思ったけどさ・・・いまは、あれが、この拷問の始まりだったんだって気がしてきたよ・・・」

「ど・・・どうしたのモカ急に?拷問って?」


沈黙を破ったのは、深刻そうな表情のモカであった。聞き返したミュールもどうせ殺されるからとヒソヒソ小声で話すのはやめたようで普通に話し始めた。


「ミュールは、平気なの?」

「平気って何がです?」

「ジェーンは、どう?平気?」

「・・・私は・・・まだ・・・」


長いこと泣いていたジェーンもこの頃には、泣き止んで、だいぶ落ち着いていた。そのジェーンだけは、モカが平気と訊ねた意図を理解していたようだった。


「ほらさぁ、2時間くらい前かな?ほら、人の良さそうな青年が・・・誘拐の犯人に人が良さそうて言うのも変なんだけど・・・ちょっと口下手っていうかで自信なさげで無害そうな感じの顔のさ・・・」

「あら、また喉が乾いたんですのモカ?私は、もう水は、飲みたくないかしら・・・」

「そうじゃなくてミュール・・・そうじゃなくてさ・・・」


それは、今から2時間ほど前、ミュールとモカは、自分達が女王陛下と勘違いされ誘拐され助かる可能性が限りなくゼロであると気が付いて諦めたようにただ静かに会話もなく、ただジェーンの啜り泣く声だけを聞いていた時のことである。


コンコン・・・


3人のメイドが監禁されている部屋の扉をノックする音が響いた。


「!!・・・」

「!?・・・」

「うぅ・・・ひぅぅ・・」


当然、3人が返事など返すはずも無かった。


「あ・・・あの・・・し、失礼します。」


自信のなさそうな声と共に、扉がガチャガチャと鍵を開ける音とともにゆっくりひらいた。

3人が・・・ジェーンは俯いて泣いていたが・・・目にしたのは、水差しとコップを持った若い青年の姿であった。


「の、のどが渇いてない・・・その・・・水を・・・」


そういって青年は、3人に近づいて来た。ジェーンは、それどころでは無いと無視したような感じであったがミュールとモカは、少し怯えたよう青年を見つめて身を寄せ合い、明らかに警戒してた表情をしていた。


「て・・・そうだ・・・手が縛られて・・・飲ませるから・・・まず、へい・・・女王陛下から・・・」


青年は、コップに水を注ぎミュールの口の前に差し出した。


「・・・・ゴクッ!」


警戒して飲もうとしないミュールであったが、緊張や恐怖のためもあってか随分前から喉の激しい乾きを感じていた。そして、目の前のコップの水を眺めて口の中に残っていたなけなしの生唾を飲み込み乾いた喉が音を鳴らした。


「い、いらないわ・・・どく・・・毒がもし入っていたら!」

「・・・し、心配ない・・・ほら・・・」


毒が入っていると指摘された青年は、コップの縁に口が付かないように気を使ってゴクッと一口飲ん見せた。そして、再び、ミュールの口にコップを近づけた。


「わ、わかりました。・・・い、いただきます。ング!ンッ!・・・コクコクコク・・・」


ミュールは、覚悟を決めたように思い切って1口を飲み込んだ。乾いて、へばり付いた食道を強引に押し広げるかのような軽い痛みと共に冷たい水が流れ落ちて行くそんな感覚と、喉が潤う心地よさに一口、もう一口と水を飲み始めたミュールは、一杯の水を飲み終わるともう一杯水を欲しいと懇願し勢いよく飲み干し、最終的にコップ3杯の水を飲んでしまっていた。


「あぁ・・・わ、私にもちょ・・・下さいませんか?」


そんな、美味しそうに水を飲むミュールにモカは、たまらず自分も水が欲しいとお願いした。焦らないでと青年が言い、モカの口に水の入ったコップを近づけると勢い良くゴクゴクと一気に4杯の水を飲み干してしまった。


「ぷぁぁ~ありがとう!ノドが乾いて死にそうだったから美味しかった~!」


モカの無邪気な御礼と笑顔に青年は、照れた様に顔を赤くして頭を搔いていた。


「あ・・・き、君も・・・よかったら・・・」


モカが、水を飲んだあと青年は、俯いているジェーンに水を注いだコップを近づけた。


「・・・」


ジェーンは、無言で俯いたまであった。


「そう言えば、貴方ってジェーンを担ぎ上げて運んだ方よね?」


ミュールは、突然思い出したかのように青年に話しかけた。青年は、黙って頷いた。


「・・・貴方も、笑ったでしょ・・・オシッコを漏らした恥ずかしい女って・・・汚いって言って・・・もう、ほっといて!いい年して子供の様に怯えて、泣いて"おもらし"までしてしまうような・・・そんな・・・私なんて・・・私なんて・・・だれも・・・もう、いっそ殺して!!死にたいの・・・」


急にジェーンが声を荒げて、顔を激しく振り青年の手からコップを弾き落とした。

青年は、静かにコップを拾い、また水を注いだ。


「ち、ちがう笑ってない!き、君は、と、とても綺麗だっ!・・・ほかの・・・ほかの男には、触れて欲しくないって思った。だ、だから君を運びたいって名乗り出た・・・だから、殺してなんて死にたいなんてそんなこと・・・お金さえ手に入れば帰すって言ってた・・・だからもう少し辛抱して・・・無事に帰すって・・・約束する・・・だから水飲んで・・・体に良くないから・・・」


青年は、顔を真っ赤にして、つたない言葉をひねり出すように死にたいと言ったジェーンに声を上げた。


「・・・ごめんなさい・・・いただくわ水・・・・」


そういって、ジェーンは、コップの水に口を付けた。青年は、ジェーンが水を飲んでくれたことがとても嬉しそうであった。


「・・・あの、もう少し頂いてもいい?」


ジェーンは、少しづつゆっくりと水を1杯の水を飲み終わると、もう一杯の水を要求し青年は、嬉しそうに水を注いでいた。2杯目の水を味わう様に飲み終えたジェーンは、啜り泣くこと止めていた。


「あ・・・顔・・・涙で・・・ごめん、少し我慢して・・・」

「きやぁ!な・・・なっ・・・んっ!やっ・・ん!」


そういって、ジェーンの眼鏡を外した青年は、ポケットから出したハンカチの様な布で、まず眼鏡のレンズについた涙を軽く拭くと次にジェーンの顔を拭き始めた。最初は、激しく顔を背け抵抗したジェーンであったが青年が顔を拭き終わった頃には、すっかり大人しくなっていた。青年が、眼鏡をそっとジェーンの顔へ掛けると蚊の鳴くよりも小さな声で『ありがと・・・』と呟いた。ただ、その声に青年は、聞こえていないようだった。


「もう・・・水、大丈夫?」


確認するように言うと青年は、3人の顔を見渡し部屋を出て行った。扉の閉まる音の後でガチャ!という施錠の音が聞こえたのだった。無言で、頷いて青年が出て行くのを見ていたミュールとモカの隣りでジェーンが少し頬を赤く染めポーとしたような表情で青年が出て行った扉を名残惜しそうに眺めていた。


「ねえ・・・ミュール?ジェーンの様子が、またおかしいよ・・・」

「きっとあれですわ・・・たしか、ストッキングホールド現象とかステッキヘルメット症候群とか言いましたっけ?以前に読んだ小説に書いてありましたわ!たしか、恐怖を感じる場所では恋いに落ちやすいとかなんとか・・・」

「ち、違います!・・・こ、恋いだなんてそんな!」

「ジェーンてば動揺しすぎ・・・でかミュールそれ吊り橋効果っていうやつだよね?」

「そうでしたかしら?なんにせよ、あの男の方もジェーンに気がある感じでしたわ!」

「そうだったね、あの男を見つめるジェーンの顔も満更じゃなさそうだし!」

「ば、馬鹿なこと言わないで!か、彼は、誘拐犯の一味なのよ・・・よくそんな心ない冗談が・・・」

「ごめんなさい。(彼・・・って言いましたわね・・・わざわざ?)」

「ご、ごめんね。(アイツとかでイイのに彼ねぇ・・・)」


~そんな事が、2時間前に彼女達3人のメイドに起きた出来事であった。~


「そうじゃなくてミュール・・・そうじゃなくてさ・・・もう、ハッキリ言うね!オシッコしたくなっちゃったの!もう・・・ちょっとヤバいかも・・・」

「モカ・・・じ、実は私も・・・少し我慢してたりしますわ・・・お手洗いにと聞いて見ましょうか?」

「だ、誰に?・・・それに、恥ずかしいから・・・その・・・」

「なら、漏らすといいわ。私はまだ、平気だけど・・・いざとなったら一度も二度も同じよ・・・」

「ジェーン・・・ヤケを起しては、いけませんわ!」

「そうだよジェーン・・・漏らすなんて、そんな小さい子じゃ・・・ごめん・・・」

「なぜ、謝るのモカ?ねえ?なぜ?・・・理由を教えてくれますか?」

「か、顔が怖いよジェーン・・・その顔はやめて・・・」


3人のメイドがそんな会話をしていた頃、ピルゲと2人の子分が酒樽を担いで戻ってきた。屋敷の大広間には、数十人の子分達が雑談などをしながらたむろしていた。


「よう、お前ら~お城の連中は、金を出すって承諾したっすよ!後は、待つだけだから酒でも呑んで楽にしてて良いすよ!オイラは、兄貴たちと話しをしてくるから勝手に始めてくれっす!おい誰か、まだ馬車に酒樽が積んであるから運んでくれっす!」


ピルゲの話しに、一斉に子分達は喜びの声を上げた。そんな、湧き上がる歓声を尻目に酒樽を床に置き屋敷の奥へと消えていったピルゲであった。


「いま、戻ったっす!」

「遅かったじゃねぇかピルゲよぅ・・・で、どうだっだんだ・・・」

「マッディーの兄貴は心配性すね!大丈夫バッチリっす!デカっかい赤旗で承諾したっす!」

「がはは、どうやら本物ってわけか!行き当たりばったりだったが毎度、意外と上手くいくもんだぜ!」

「そ、そうすねバルトスの兄貴・・・貴族の女でもよかったすが丁度、女王がお忍びで出て来て・・・」

「じゃぁ・・・後は手筈通りってわだなぁ・・・お前が用意したアレは、仕掛終わってるからよぉ・・・即席でよく造ったなぁ時限式の発火装置なんてよぉ・・・」

「子分共には悪いが、俺たち3人だけて金塊を頂いて逃げるぜ!お前の計画通り女王様は、この幽霊屋敷で誘拐犯の大半と共に焼死体だ・・・金を運んだ給仕達も行方不明・・・子分の生き残りの捜査と女王の葬儀のゴタゴタの隙に俺たちは、他国で金塊を元手にしてって訳だな!がはは!」

「じゃあ兄貴達は、先に例の場所へ行っていてくれっす!オイラは、ひとっ走り城の方に戻って金塊を連れて来るっすから!それじゃ、またっす!」


ピルゲは、報告を終えると広場へは戻らず慌ただしく館を出て行った。


「しかしよぉ・・・バルトス・・・ピルゲって野郎は、大した奴だよなぁ・・・」

「そうだな、腕っ節は、からっきしだが・・・あのペテンは大したもんだぜ!まさか、俺がちょっと酒呑んで思いつきで話した『金づるだった前の女王は、処刑されちまった・・・3人でどうにか大金を手に入れて他国で一旗あげてぇ・・・今のこの国は色々やりずれぇしなぁ・・・元凶のフレなんとかって女王でも拐かすかぁ・・・』なんて事をこうも短期間で見事にやるてのけるんだからな・・・まぁ、王女のこたぁ運にせよ、ちっと怖えもんがあるな。がはは!」

「じゃあバルトス・・・俺たちも行くか、子分に気が付かれねぇうちによぉ・・・」

「ああ、そうだな!」


そうして、バルトスとマッディーは、自分達が幽霊屋敷と呼ぶ後宮から静かに出て言った。酒盛りを始めていた子分達は、そんな事になっているなど知るよしもなく酒を呑み騒いでいたのだった。

騎士団副団長ハサード率いる精鋭騎士の部隊が後宮へ到着し、周りの森に身を潜めなら屋敷の様子を探り始めた頃には、バルトスとマッディー、ピルゲが屋敷を後にしてから既に1時間近く経っていたのだった。


一方その頃、フレイジアとメルそしてアイギスの3人は、仕事から帰宅する者達で二階の屋根席まで混雑している二頭立ての乗合馬車に揺られていた。始発であるヴァレンシア城正門前から乗車したフレイジア達は、1階の方の座席にすんなり座ることができたのだが、王都を進むにつれ段々と混雑し現在はギュウギュウ詰めの満席、立って乗る者だけでなく馬車の外にしがみつくように乗る者まで現れ始めていた。王都ヴァレンシアの街には、乗合馬車の路線網が縦横に張り巡らされおり、人々の足として活躍していた。ガッシリとした体躯の大型馬2頭が引く車両の1階席は、屋根と窓を備えた雨風を凌げる立派なもので、その屋根の上に設けられた座席が2階席である。こちらの席も雨天時は、雨避けの幌が張れる様になっているが余り風雨を凌げるとは言いがたい為、雨の日に好んで座る人は少ない。かつては、国営で無料運行してい乗合馬車も前女王ヒルダレイアの時代に財政難を理由に民間へ委託され、何名かの商人が乗合馬車の運行会社と組合いを起し連携して運営していた。運賃は有料となったが利用区間の定期券を発行したり、3リーヴェラで1路線終点まで乗り放題など比較的安価に利用できるよう工夫されていた。


市街で後宮とは、関係ない方向の乗合馬車の路線を3回乗り換えたフレイジア達は、旧市街と新市街を隔てる城壁にある門の側で指示の通り乗合馬車を降りた。既に時刻は、夜8時頃となっていた。


「ん~~っ・・・はぁ~こんなに馬車に乗ったの始めてです。すこし疲れてしまいました・・・でも、なんで遠回りというか関係ない方に行く馬車に乗らせたのでしょう?」


メルは背伸びをして体をほぐすような仕草をしてから、フレイジアとアイギスの方を向いて疑問を口に出した。


「おそらく、騎士や兵の尾行を気にしているのでしょう。乗り換えは、尾行を巻く為の行為かと。」

「でも、随分と後宮から離れた所に来てしまったわ。これが最後の乗り換え指示ね・・・渡された乗車賃も、あと1回分・・・本当に、ここから後宮へ向かう馬車があるのかしら・・・」


メルの質問にアイギスが答える側でフレイジアは、後宮とはかけ離れた場所へ来てしまったこへ不安を口にした。そんな会話をしていると。城壁の門の外、新市街側の遠くから乗合馬車に吊された魔素灯(マナランプ)ランタンの明りが近づいてくるのが見えたのだった。

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