女王陛下と誘拐事件:第五話:~女王誘拐事件~
コン、コン・・・コン、コン・・・・
「・・・んっ・・・は、はい?・・・どなたですか?」
フレイジアは、扉を叩く様な音に目をさました。そして、ゆっくりと私室の扉へと向い歩いていった。
コンコン・・・
「あら、このノックの音って隣りかしら?もしかして、買い出しに行ったメイド達かしら?」
フレイジアは、メイド達がようやく戻って来たと考えた。メル達とは行き違いになってしまったようだと・・・
しかし、私室の扉を開けて廊下に立っていたのは予想外の人物であった。
「ガウェイン?どうしたのメルの、メイドの部屋の前で?」
「おお、陛下!メイドは、もう15時過ぎですが戻ってなようですな・・・今朝、メイドに後宮の鍵を渡しておくと言ったのですが遅くなってしまいましてな・・・公務を邪魔してはと思ったのですが陛下がいらっしゃるなら、直接お渡しいたしましょうかな・・・では、陛下この鍵を。」
「そう、ありがとうガウェイン!・・・15時過ぎ、結構眠ってしまってたのね。」
そういって、ガウエインはフレイジアに金属の輪に通された10本ほどの鍵の束を渡した。
「執務室にいると思っていたのですが公務の方は、いかがで御座いますか?おや?そう言えばアイギスはどうされました?」
「ごめんなさい、こういう風にアイギスを使うのは悪い事と思ったのですが____」
フレイジアは、アイギスとメルが外出した経緯を申し分けなさそうにガウェインに説明した。
「なるほど・・・メイド3名が街へ行ったきり行方知れずとは穏やかではありませんな、騎士団からも何名か捜索に出しましょうか?」
「いえ、大事にするにはまだ・・・もうすぐアイギス達が・・・・」
その時、ガウェインの名前を叫びなら1人の騎士が大慌てで走ってきた。
「ガ、ガウェイン団長ぉぉぉ!一大事です!!これ、こんな物が、正門に打ち込まれてまして・・・陛下が!!フレイジア女王陛下が誘拐されたとの事です!!!」
「落ち着け馬鹿者!!陛下ならお主の前で御健在ではないか!!」
「あ・・・・えあぁぁぁーーーー!!よ・・・よかったぁ・・・・はぁ~」
叫んでいた騎士は、安堵したのかその場に崩れ落ちるように座り込んでゼェゼェと荒い呼吸を整えようとしていた。ガウェインは、騎士の手に握られていたボウガンの矢とそれに巻かれていたと思しき手紙を奪い取ると、そのシワクチャな手紙を開き目を通した。
「なんでしょうなこの矢文は?内容は、陛下と2人の使用人を預かっているので今晩9時に200万リーヴェラ相当の金塊を用意して騎士や兵士でなく女性給仕に持たせて指定場所へ持ってくるよう書かれてますな・・・承諾したなら矢が打ち込まれて1時間以内に城下から見えるよう赤い旗を立てろと・・・旗を確認したら花火で合図するですか・・・あとは典型的な残忍な脅し文句と受渡場所の地図ですか?おや、この指定場所は!?」
「どうしたのガウェイン?あ、この場所って・・・後宮、離れの屋敷じゃない!」
「そうですな・・・しかし、幸い陛下は無事ですし狂言でしょうかな?まぁ、他に考えられる事は、不届きにも陛下の名っを騙った罰当たり共が拐かされ、天罰が下ったとかでしょうが・・・・はははっ!」
「そうね、イタズラと無視するのが妥当ね。ただ、使用してないとはいっても離れの屋敷が悪党の住処にされては困りますので・・・ガウェイン念のため今晩、騎士を率いて向かって頂けますか?」
「はい、騎士団の中でも選りすぐりの精鋭を率いて一網打尽にしたしますのでご安心を!」
フレイジアとガウェインは、手紙をイタズラと判断した。なにせ女王えあるフレイジア自身無事なのだから・・・念のため、受け渡し場所である後宮へ騎士師団を派遣し犯人一味がいれば捕縛するよう手配するに留めることとした。あまり騒ぎを大きくする必要もないだろう2人は考えていた。
「少し、遅くなってしまいましたねアイギス様、フレイジア様が心配して無いかな?」
「そうですね・・・でも、まさかメイドの1人が貴族風の服に着替えて外出したなんて・・・灯台下暗しというか秘事は睫というか・・・城を出る前に聞いておけば・・・」
「仕方がありませんよアイギス様・・・わざわざ着替えて行くなんて思いませんでしたし・・・」
「くっ、遅くなった上に陛下に頂いた貴重な時間を無駄にしてしまった・・・なんとお詫びすれば・・・」
「だから、気にしないでくださいってアイギス様!」
丁度、フレイジアとガウェインが手紙の件の処遇を決めた頃、メルとアイギスが話しながらフレイジアの私室へと戻ってきた。
「アイキス!メル!戻ったのね、どう見つかった!」
「アイギス、陛下より話しは聞いた。方知れずのメイド達は見つかったか?」
「フレイジア陛下、ガウェイン団長・・・それが____」
アイギスは、まるで自身の責任でメイドたちが行方不明なつてしまったかのように商店街での事を報告した。
「アイギスご苦労様でした。それと、そんなに自分を責めないで・・・貴女のせいではないのですよ。」
「その通りだぞアイギス、ご苦労だったな。あとは騎士団の方で捜索を引き継ぐ。おぬしは引き続き陛下の護衛を頼むぞ!」
「はっ!了解いたしました。・・・あの、ところで、この腰を抜かしたような騎士は、いったい何を?」
報告を終え、陛下と団長に労いの言葉をかけられアイギスは、少しホッとしたようであった。そして、団長の足元で腰をぬかしたように座っている騎士を気にする余裕がでてきた。
「はぁ・・・いつまで呆けているつもりだ貴様は!・・・じつわな、陛下と付き人2人を誘拐したという悪質な悪戯があったのでな・・・その手紙を見て泡を食ってここまで駆け上ってきたのだがな陛下は、このとおり御健在、一気に気が抜けてしまったと・・・」
「それは・・・私でもそうなると思いますね・・・・大丈夫ですか?」
「あぁ・・・いま、立ち上がるよ・・・みっともない姿をみせてしまって申し訳ありません・・・」
そう言って、誘拐を報告した騎士は、よろよろと立上がった。
「あ、あのもしかして、誘拐されたのって!!」
突然、声を上げたのは、メルであった。メルは、商店街で出会った老婦人の先輩メイドの一人を女王陛下と見間違えたという話を思い出していた。
「アイギス様・・・先輩たち服装のせいで貴族とかフレイジア陛下に勘違いされてましたよね?誘拐した人も同じように勘違いしているんじゃないでしょうか?」
「まさか・・・でも、あり得ない話とは言い切れませんね・・・確実に貴族とは思われてたようですし。」
アイギスとメルは、詳しい事情をフレイジアとガウェインに説明した。
「なんと!・・・そのような事が!!」
「まさか・・・そんな事って・・・まって、もしそうなら私でないと・・・彼女たちの素性がバレてしまったら!大変、せめて身代金を払う事に同意したと伝えないといけないわ、赤い旗ですよね?何か用意しないと!」
「そうですな、万が一の可能性もありますから。確か矢が撃ち込まれてから1時間以内とか・・・ところでこの矢はいつから刺さっていたのだ?」
「えっと、門番の兵が矢に気が付いたの午後3時頃と聞いてますから・・・」
腰を抜かしていた騎士の呑気な物言いに一同は、慌て始めた。午後3時に刺さったとして4時までもう10分、15分ほどしか時間がなかったのだ。
「ちょっと、もうずぐ4時になるじゃない!!メルなにか赤いタオルとかないかしら?」
「陛下、城下から見えないといけなので、ある程度の大きさがないといかんですな!」
「え、えっと!えっと!!大きな赤い布ですか・・・アイギス様なにか無いですか!?」
「そ、そんな急に・・・陛下のドレスとかで赤いの無いですか?」
「それだと、洗濯物と間違われるかもしれないわ!赤い布・・・最近どこかで見たような・・・・」
「陛下!それは何処でございましょう?このガウェイン直ぐ取りにいってまいりますが!」
「そうよ!ガウェイン貴方が持っているでしょ!!ほら、あれ!!あれよ!!」
「えっ!?ワシがですか?」
「革命のときに持ってたじゃない!あれよ!!」
「えっと、そんなものワシ持ってたっけ?」
「ガウェインさん、何か口調が変ですよ・・・でもお願いです思い出して下さい!」
「えっと、あぁ、あれですね?団長が甲冑を着込んだときに身につけてましたよね真紅の外套!」
「お、おおっ!あれか!!待っててくだされ今取ってきますぞ!!」
ガウェインは、60代とは思えない・・・いや、人とも思えない程の速度で真紅の外套をとりに全力で駆けていった。それは、生命力による身体能力の操作に熟達した者のなせる業であった。
あっという間に、ガウェインは外套と訓練用の長槍をもって戻ってきた。あれだけの速度を出しなら息切れ一つしていないのは流石である。
「これに、結び付ければ立派な巨大な旗でございましょう?して、どこへ掲げましょうか?」
「私の私室のバルコニーが良いわ!城下を一望出来るし!ガウェイン急いで!!」
「陛下、申し訳ありません!陛下の私室に男の私が入ることはなりませぬ!」
「今は、そんな事を言ってる場合では!もう、貸して下さい!!」
「・・・あっ、お待ち下さいフレイジア陛下!この私を!アイギスをお忘れですか!!」
フレイジアは、ガウエィンが外套を長槍に結びつけ急造した旗を奪い取ると私室のバルコニーへと急いだ。そして、バルコニーに立ち旗を掲げたフレイジアであったが風がなく旗を広げることが難しかった。なかなか上手くなびかない旗に業を煮やしたフレイジアは、生命力を全開にして応援団如く全力で巨大な旗をブンブンと振り回し始めたのだった。少し遅れてバルコニーに駆け込んだアイギスは、真紅の大旗を振るフレイジアの迫力ある雄姿に見惚れてしまっていた。しばらくしてハッと気が付いたアイギスは、息を切らしながら旗を振り続けるフレイジアに慌てて交代を申し出たのだった。
その頃、城下では3人のメイドたちを誘拐した一味のピルゲと10名の子分が撃ち込んだ矢文の通り赤い旗が上がるのを今か今かと心待ちにしていた。しかし、予定時刻の午後4時が迫りピルゲにも子分にも少し焦りの色が見え始めていた。その時、城の最上階のあたりで、景気よく大きな紅の旗が振られ始めたのに気が付き部下たちから喜びの歓声が湧き上がった。彼らが歓喜とともに眺めている紅の旗を振り回していたのが、数分間とはいえ女王陛下本人であると知ったならどのような顔をするのだろうか・・・それは、この世界を創造した女神にすら想像もつかないことであろう。
ピルゲは、合図の花火を一発打ち上げパンッ!という乾いた破裂音が街に響いた。王室が身代金を払うこと承諾したとニヤニヤ嬉しそうな顔してピルゲは、バルトスとマッディーが待つ幽霊屋敷と呼ばれるアジトへ2人の子分を連れて報告に向かった。残った子分たは、ピルゲの指示通り城の騎士団や兵士達に不穏な動きが無いかなどを監視し、逐一報告できるように見張りを続けていた。
ここで、時系列は少し戻って・・・
誘拐された3人のメイド達は、見知らぬ大きな屋敷の一室に担ぎ込まれていた。長年使われいないと思われるその部屋は、床も天井も厚く堆積した埃にまみれて、あちこちに蜘蛛の巣が張っていた。室内の広さや内装から家の主やその家族のが使うような感じではなく、使用人か何かの為の部屋のようであった。窓から差し込む日差しの具合から正午ぐらと思われる。そんな部屋の中でミュールは、腕を後ろ手に縛られ足も踝とスカートの裾より少し上の膝辺りを二箇所を縛られた状態でN字のような三角座りで座っていた。少し離れたとろで意識を取り戻していたジェーンが同しように手を後ろ手にされ足は、踝と膝の中程ほどの丈がある黒いロングスカートごと二箇所を縛られていた。ミュール同じように座っているジェーンは、俯き少し震えてた。そして、まだ気を失ったままのモカも、ミュールの足の先で同様に手足を縛られ芋虫のような状態で寝転がっていた。幸い3人とも猿ぐつわは、付けれていないが大声を上げられる雰囲気でもなかった。ミュールは、モカの様子が心配で殴り倒されたまま一向に目を覚まさない彼女の体をつま先でツンツンと突いて意識を回復させようとしていた。
「((モカッ!モカッ!起きて!しっかりして!!))」
ミュールは、小声で呼びかけながらモカの背中に靴を押し当てるようにして揺すってみた。
「うみゅ・・・・う~ん・・・あと5分・・・おやすみ・・・」
「((モカ!?おやすみじゃありませんわ!・・・もう、寝惚けてないで起きなさいって!!))」
ミュールは、意識を回復しかけたが拍子抜けするような寝言ともに再び意識を手放そうするモカに少しイラッとし、出来る限るの力を込めてモカの背中を蹴り飛ばした。
「うぎゃい!?痛っう~・・・誰よもう!!痛いじゃないか!!」
「((モカ!しーーーですわ!大声ださないで!!))」
「今、おもっきり叩いたのってミュール?酷いじゃ・・・あれ?ここは?」
「((だから!声が大きいですわ!!静かにしないと、あの男達が来てしまいますわ!))」
「((えっ?あ、そうだったった・・・いきなり恐そうな男達に囲まれて殴られて・・・とこでジェーンは!?))」
「((大丈夫、無事よ・・・ほら、隣りにいるわ・・・))」
「((よかった~!ジェーン!ジェーン!大丈夫ケガとかしてない?・・・あれ?ジェーン?))」
意識を取り戻したモカは、少し離れたとこに座っているジェーンに小声で話しかけたが無言で返事すらなかった。モカは、心配になりモゾモゾとジェーンの側へ必死に這って近づいた。
「((ねえ?ジェ・・・))」
再び話しかけようとしたモカは、ジェーンの俯いて少し震えながら啜り泣く深刻な様子に言葉を詰らせた。
「ううっ・・・ひぅ・・・この・・・しで・・・ひぅ・・・うぅ・・・らしなんて・・・うぅ・・・もう・・・およめ・・・ひぅ・・けない・・・ううぅ・・・おも・・・しちゃ・・・て・・・うっ・・・ひぅぅ・・・」
ジェーンは、何か小声で呟きながら啜り泣いていた。その顔は、涙と鼻水でグシャグシャであった。
慌てたモカは、体を捩り器用にミュールの前にゴロンと転がって来た。
「((ちょ!?ミュールってば!ジェーンどうしちゃったのさ?お嫁行けないみたいなこと言って泣いてるけど?ヤバいよ普通じゃないしょ絶対!!))」
「((・・・その、実はね・・・でも、言っていいのしら・・・))」
「((まさか、ジェーン・・・アイツらに襲わッ・・・ゴクッ・・・・無理矢理そのレ、レイプされたってこと!?ゆるざん!!ジェーンになんでごどをッ!!))」
モカは、ジェーンの尋常ではない姿の原因をミュールに求めたのだが・・・ミュールは、何か知っているようであったが口に出す事を躊躇うような雰囲気だった。その、感じからジェーンが強姦でもされてたと考えたモカは、怒りを露にして縛られた体のまま今にも大声で暴れ出しそうであった。
「((ちょっと、落ち着いてモカ・・・貴女の想像しているような強姦とかそういうエ、エッチな事ではないですわ!))」
「((レイプじゃなきゃなんなのさ!こんな泣き方普通しゃないっしょ!!ジェーンに何があったのさ!!!))」
「((わかったわ・・・話すから一旦落ち着いてモカ・・・あまり大きな声で言えないの耳を貸して))」
「((うん・・・))」
モカは、モゾモゾと体を動かしミュールに近づいた。ミュールは、モカの耳元に顔をよせてジェーンの涙の理由を非常に小さな声で話し始めたのだった。
「(((実は、モカ・・・貴女が殴り倒されて気を失った後、ジェーンが貴女を助けようと必死で抵抗したの・・・でも、人相の悪い小男が切り刻むと脅して鋭利なナイフをジェーンの顔に押し当てて・・・ジェーンは、恐ろしさのあまり失禁してしまったみたいで・・・それを、男たちに笑われてしまって・・・)))」
「((失禁って・・・そか、オシッコ漏らしちゃんだね・・・ジェーン可哀想ぅ・・・仕方ないよ怖かったんだし・・・それにレイプされるとかよりはマシかな・・・でも今は、そっとしておいてあげた方が良いよね?))」
「((そうね・・・それが一番だと思うわ。))」
「((ところでさ、これってどういう状況なの?監禁されてて、なんか誘拐っぽいけど・・・なんで私達なの?))」
「((私も良くわからないのだけど・・・何故かアノ男達、私の事を女王陛下と呼ぶのよねぇ・・・どうやら勘違いで誘拐されたみたいですわ・・・))」
「((なんで、違いますって正直に言わないの!!))」
「((言ったら殺されますわ!それに、驚きと恐怖で声も出せませんでしたし・・・そしたら、ますます・・・流石は、女王陛下だとか言って感心し始める始末で・・・))」
「((でも・・・それ、不味いじゃん・・・女王じゃないてバレたら!てか、すぐバレるじゃんそれ!お城に身代金ていうの要求したら即じゃん!陛下は、御無事ですってさ!絶対、メイドなんかに払わないでしょ身代金・・・あぁ、終わった・・・最後にビアンネールのジャンボパフェとクレープ食べたかったな・・・))」
そうして、諦めたように会話が途切れたミュールとモカの横でジェーンが、いつまでも啜り泣き続けていた。