女王陛下と誘拐事件:第四話:~先輩メイドたちの行方~
フレイジアの後に続いたメルとアイギスであったが、たどり着いた場所に脅いた様な顔をしていた。
「あの、フレイジア陛下この部屋は・・・・」
「フレイジア様、ここって・・・王家の方が使用される食堂ですよね?」
「そうよ、広いし私しか使わないなんて少し寂しいし、勿体ないわ!」
フレイジア達は、私室から1つ階を降りた3階の王族専用ダイニングルームにいた。唖然としているメルとアイギスをよそにフレイジアは、配膳の仕度をしていた年配の女性給仕に話しかけ事情を説明していた。
「かしこまりました。料理長へお伝えし御用意いたします。」
年配給仕は、顔色1つ変えず承諾するとフレイジアの用件を伝えに厨房へ向かおうとしていた。
「あ、あのメイド長様、えと、申し訳ありません・・・ジェーンさん達を、ミュールさんとモカさんを見かけてないでしょうか?」
「3人なら、午前中に3時間の外出申請を出してますが・・・そういえば、まだ戻ってないようね。どこで油を売っているのかしら?それと、メルリアナさん、貴女は、もうロイヤルなのですから私に気を遣う必要はないのですよ。大変でしょうけど、しっかりと頑張るのよ。でも、何かあれば、ちゃんと話して下さいね。私も、他のメイド達も貴女の味方だということを忘れないでね。」
「はい!ありがとうございますメイド長様。」
唖然としていたメルであったがしっかり、年配女性給仕のメイド長に3人の先輩メイドの事を訊ねていた。
メイド長は、メルと話すと厨房へ急ぎ向かって行った。
「アイギスでも驚くのね?そんな顔をするなんて・・・なというか、してやったりって感じかしらね!」
「陛下・・・お戯れを申されては・・・その・・・」
「そんなに、気を遣わないでアイギス。フレイとかフレイジアとか気軽によんで頂いてもいいのよ?ふふっ!」
「フレイジア様、アイギス様が困ってますよ!それが簡単に出来ないことってわかってて言ってますか?」
「メル・・・そうね、ごめんなさいアイギス。」
「そ、そういえば、あの失礼ですけど・・・アイギス様っておいくつですか?大人びていて、お綺麗な雰囲気ですけどその・・・少女みたいな感じも少しありますし・・・」
「私がですか?今年、18歳になります。そ、そういうメルさんは?」
お互いの年齢を聞いたメルとアイギスは、なにか同じような表情で驚いていた。それを、見ていたフレイジアも少し驚きを隠せなかった。18歳で騎士いうことは、王国騎士の登竜門であるヴァレンシア王立士官学校を3年間・・・入学許可年齢の下限で入学しストレートで卒業した才女という事だ。入学すら難しい王立士官学は、多くの優秀な騎士を輩出している名門として有名であるが卒業資格を得るのは、非常に困難で3年間で卒業した者の少ないことでも有名であった。余談であるが、騎士団長ガウェインは何とか補欠合格して卒業まで6年かかったと話していた・・・それでも早い方と言われている事も。3年で卒業した著名な者といえば元は、ヒルダレイア側指揮官でもあった騎士団の副団長ハサード卿であった。「相手側の指揮官を務めるハサードのやつは、入学したのは後だが卒業は同時でして・・・」と革命時にガウェインから士官学校の話しも含め聞いたのをフレイジアは思い出していた。
ようやく、打ち解けた始めた3人が談笑を始めた頃、ダイニングルームの扉をコンコン!と軽くノックする音が聞こえた。フレイジアが入室を許可するとダイニングにサービスワゴンを押したメイド長ともう二人のメイド・・・そして、なぜか料理長も入ってきた。
「申し訳ありません。フレイジア陛下・・・料理長が直接と言って聞かないもので・・・」
「大丈夫です。気にしませんよ。料理長、昨晩は、ご迷惑をおかけしましたね。夜食とてもおしかったわ!ありがとう。それで今日は、どうされたのです?」
メイド長は、申し分けなさそうな口で料理長が来た経緯を説明しようとしていたがフレイジアは、気にしないと伝え、料理長の昨晩の夜食への礼を伝えていた。
「いえ、陛下が少し食欲が無く体調不良とメルリアナ様から伺ったので・・・特別メニューを作ったのです。お口に合えば良いのですが?それと、何かお好きな食べ物でもあればお伺いしようかと・・・」
少し、言い訳がましい料理長の様子にメルは、きっと直接フレイジア様の様子を確かめないと不安がぬぐい去れなかったんだなと思っていた。そんな、メルに慌てた様な感じでフレイジアは、小声で話しかけた。
「((ちょっと、メル!まさか私が”あの日”って伝えちゃったの?))」
「((ち、違います!料理長さんは、フレイジア様が朝食を食べ残されたのを心配していて、だから少し疲れてるだけだから心配ないって伝えただけです!))」
フレイジアとメルがヒソヒソと話していることに料理長は、その様子に明かに不安を覚えたかのような顔をしていた。それに気が付いた2人は、昨晩同様に必死で笑顔で取り繕って料理長の機嫌を回復しようとしていた。
なんとか料理長の不安を取り払うことに成功した2人であったが料理長は、上機嫌で料理の説明を始めようとしていた。だが、メイド長が2人のメイドに無言のまま目で合図をすると、料理長を連行するようにダイニングルームから連れ出していってしまった。
「フレイジア陛下、お食事前に騒がしくしてしまい大変申し訳ありません。ごゆっくり昼食をお楽しみ下さい。では、失礼いたします。」
メイド長は、そう何事も無かったような穏やかな声で3人の前に料理を配膳すると謝罪しダイニングルームから退室していった。
メイド長が扉を静かに閉めた瞬間、フレイジアとメルが同時に酷い疲れに襲われたかのように深い溜め息を吐いた。そんな、2人の様子を少し笑いを堪えるように眺めていたアイギスであった。
「そういえばメルさんは、先ほど何かメイド長へ訊ねていたみたいでしたが?」
ようやく食事を開始した3人は、料理長のアッサリとしながらも、しっかりと旨味のある出汁のきいたリゾットというよりは中華粥に近い様な体に染みる味の料理を堪能していた。それを、食べながらアイギスがメルに話しかけた。
「は、はい。その、実は____」
メルは、フレイジアとアイギスに3人の先輩メイドにディーカンの買い出しをお願いした事と先輩達が中々買い物から帰ってこないので心配していることを話した。
「たしかに、すこし変ですね・・・メルさん、失礼ですけど・・・先輩達から嫌がらせや騙されたりという事は?」
「だ、騙すなんて!?アイギス様、なぜそんな酷いこと・・・先輩達は、とても親切な方なんです!!私も最初、少し誤解しましたけど・・・そんな事絶対にないです!」
話しを聞いてアイギスは、まるで自身にそういった経験が有るかのようにメルに訊ねたがメルは、少し強い語気でそれを否定した。
「そうよ、アイギス。そもそも騙す理由も無いでわ。メルの話しでは、先輩メイドの方からメルの代わりに買いに行くと言い出したようですしお金を渡してもいないでしょ?・・・でも、ディーカンって一般的な野菜よね?今の時期、手に入り難いのかしら?だとしたら・・・」
「そんなことなですよフレイジア様、季節や天候で少なくなることもありますけど、概ね通年、普通に売られてますし。」
フレイジアもメルの意見に同意した。ただフレジアは、自分が不注意で汚してしまった為に時期的に無いディーカンを求めてメイド達が探し回っているのではと思い申し訳ない気分になった。だが、メルの返した言葉に少し気が楽になった。
「たしか、3時間の外出申請でしたよね?買う物が決まってますから、城から商店街へ行って戻るなら1時間少々あれば十分ですし・・・メルさんが言われたように、私物の買い出しをしてるとしても3時間以内に戻ってくるのが妥当な気がします。」
「そうよね、わざわざ3時間の外出申請を提出してるのだから、一応の余裕も考慮して3時間以内に戻る気だったのでしょうね?」
「はい・・・なので、なにかあったんじゃないかと少し心配なんです・・・」
メルは、少しと言ったもののその表情は、非常に不安そうで暗かった。
「なら、見にいってきたらどう?商店街に行くなら正門を出て中央広場に向かう大通りを歩くはずよね?その3人が城へ戻ろうとしてるなら途中、すれ違うでしょうから。だからメル、昼食の後で商店街を見てくるといいわ。」
「フレイジア様!いいんですか!?あ、ありがとうございます!」
フレイシアは、心配を隠しきれない様子のメルに先輩メイド達を探しに行くよう勧めた。メルの顔は、今までの暗い表情が嘘のようにパァッと明るくなった。
「そんなに嬉しそうな顔をしてメルったら!ふふっ!それと、アイギスにお願いなのですが・・・万が一ですが何かトラブルに合った可能性もあります。メルの護衛を頼めませんか?」
「陛下の御命令とあれば・・・ですがフレイジア陛下の警護と公務の方も疎かにするわけには・・・」
「私は、私室で大人しくしておりますから、お願い出来ませんか?商店街を一通り見て何事なけれは2時間ほどの事ですし。今からですとそうね・・・少し余裕をみて16時頃から、また書類の処理を再開しましょうか。」
「・・・はっ!承知したしました。」
普段の元気な笑顔を取り戻したメルの様子にフレイジアも嬉しくて少し顔が緩んだが、すぐに真剣な顔を取り戻し何らかの事件の可能性も考えメルまで危険に巻き込まれないようアイギスに同行をお願いしたのだった。実を言えば、フレイジアも一緒に行きたかったのだが・・・
食事を終えたフレイジア達がダイニングルームを後にしようとするとタイミング良くメイド長と2人のメイドが片付けに入ってきた。メイドであるメルは、少し気まずそうな感じであったが、メイド長に気にしないよう諭されていた。フレイジア達は、メイド長達に御礼を言いダイニングルームを出た。その際、フレイジアは、メイド長へ料理長に美味しい昼食と体調を気遣った料理を用意して頂いたことへの感謝を宜しく伝えて欲しいとお願いした。
フレイジア達は、再びフレイジア私室前に戻って来た。そして、私室へと入っていったフレイジアを見送りメルとアイギスの2人が廊下に立っていた。
「あの、アイギス様・・・ごめんなさい私の為に大切なお仕事を邪魔してしまって・・・」
「いえ、気になさらないでメルさん。陛下の御要望に応えるのも騎士の大切な務めですから。でも、それ以上にメルさんと親しくなれたのですから、私が力になれるなら喜ばしいことです。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。アイギス様、急いで済ませましょうか?あまり、フレイジア様を待たせる訳にもいきませんし!」
「はい!行きましょう!」
「あ、そうだ!黒板に『外出中15時頃までに戻ります~メルリアナ~』っと!」
フレイジアは、そんなメルとアイギスの様子を私室の扉の陰から覗っていた。そして、少しホッとしたように笑みをこぼした。
「ふふっ!よかった、2人とも馴染んでるみたいね!」
フレイジアは、いったん化粧室へよった後で私室のバルコニーに向かい城の正門から出てくる2人を待った。そして、2人が大通りを並んで歩いていく姿が豆粒のようになるまで見送っていた。しばらく2人と街並みを眺めていたフレイジアは、バルコニーの椅子に腰掛け雲1つ浮かんでいない吸い込まれそうな蒼空を見上げた。
「昼食のあの料理は、なんという名前かしら、確かに少し食欲が無かったけどすんなりと体に染みこむようで完食出来てしまったわ。味はアッサリでしたが薄味というわけでもないし・・・少し満腹感で眠いわね。少し疲れましたしアイギスが帰るまで休ませもらいましょうか・・・」
そう言うとフレイジアは、バルコニーの椅子でウトウトと眠りに落ちた。心地よい陽気に”すぅーすぅー”と気持ちよさそうな寝息を静かに立ていたフレイジアであった。
場所は、変わって大通りにある2つの防壁の門のうち城に近い側をメルとアイギスの2人は通過しようとしていた。
「警備ご苦労さまです。少し訊ねたい事があるのですが宜しいでしょうか?」
アイギスが、近くに居た少しボーッとしている門番の兵士に話しかけた。
「あん?何だ?・・・あっ!?し、失礼しました!!な、何でありましょうか!?」
門番の兵士は、話しかけたアイギスの制服から騎士だと気が付いたようで急にビシッと敬礼し態度を改めた。そんな兵士の様子など、気にもせずにアイギスが3人のメイドのことを訊ね始めた。
「人を探していまして、この門を3人のメイドが通ったはずなのですが見ていないでしょうか?」
「メイドでありますか?自分は、見ておりません。今、門にいる兵達も先ほど昼に交代した者ばかりですので・・・午前に警備していた者が、まだ近くの詰め所にいるかもしれませんので呼んで来ましょうか?」
「お願いしても宜しいですか?」
「はい!少々、お待ち下さい!!」
メイドの姿を見ていないという門番の兵士は、交代前に門を警備していた者を呼びに全力で詰め所へ走っていった。その兵士が戻るまでメルとアイギスは、念のため他の門番の兵士にも聞いて見たが返答は先の門番の兵と同様だった。
「お、お待たせしました!午前に門の警備をしていた者が2名残っておりましたので連れてきました!」
「ありがとうございます。早速でわるいのですが貴方達2人は___」
すぐに門番の兵は、2人の兵を連れて走って戻ってきた。午前の警備を担当していたという2人の兵士に3人のメイドについて問いかけたアイギスであったが・・・その返答は、以外なものであった。
「えっ!?見ていないんですか?本当ですか!!」
メルは、その返答に思わず驚きの声を上げた。
「ああ、見てないんだメイド服の3人組ってのは。メイドって君みたいな服だろ?時々、お城からお使いかなにかで通るのを見かけるけど・・・恥ずかしい話し可愛い服をきた若い娘が多いから、ついつい目で追っちゃって・・・」
「そうだな、希に挨拶なんかしてくれた日なんて一日中、幸せな気分で過ごせるもんな!あ、そう言えばさぁ~お前、覚えてるか?朝に通って行った貴族のお嬢さんは、素敵な人だったなぁ~俺たち兵士なんかに『おはよう、ご苦労様です。』って言って会釈してさぁ~」
「忘れるわけないだろ!連れてる使用人の2人も礼儀正しかったっけ、同じように挨拶して労ってくれて・・・俺、感動して貴族のイメージ激変したからな!あ、その使用人がメイドみたいな格好だったっけってくらいかな・・・」
「・・・どういうことでしょうか?メルさん?」
「わかりません。急いで買いに行ってくれたようですし、メイドが仕事中にお使いで外出するときは、普通メイド服のままのはずなのですが・・・あの、兵士さん達は、他に若い3人組の女性も見てないですか?」
「う~ん・・・見なかったと思うけど、流石に目立つ格好とかでないとなぁ・・・」
「俺も・・・同じだなぁ~・・・」
「そうですか・・・」
「とにかく、商店街の方へ行ってみましょうか?」
「そうですね、ディーカンを買いに行った事だけは間違いないはずですし・・・」
メルとアイギスは、不思議に思いつつも門番の兵士達へ丁寧に御礼を言い商店街へと急いだのだった。
中央広場を抜けた先の商店街では朝市の露天など影も無く、すっかり片づいていたがそれでもまだ多くの人で賑わいを見せていた。朝市のことなど知るよしも無いメルとアイギスは、3人の先輩メイドの姿を探しながら歩いていた。
2人は、先輩メイド達が商店街の奥まで行ったとは考え難いと思い入り口付近にある目星い何軒かの青果店や菓子店、日用品店などで3人の行方を聞き回っていた。しかし、やはり不思議なことに3人のメイド服を着た女性を見たという話しは、まったく聞くことが出来なかった。ただ、ある店舗にいたお客の老人が今朝の朝市でフレイジア陛下を見たということを話し始めて顔を見合わせ驚いていた。
「本当なのですか?その話しは?・・・陛下は、午前中ずっと執務室にいたのですよ!」
「いや、まぁ、ワシが見たわけじゃないんじゃが、連れ合いがな・・・おい、婆さん、婆さんや!!」
アイギスが問い詰めるような感じで老人に聞き返すと老人は、一緒に買い物に来ていた老婦人を呼んだ。
「あら、あら、どうしたんですか大きい声だして?」
「婆さんお前、朝市で女王陛下を見たって話してたじゃろ?この、お嬢さんたちが詳しく聞きたいそうじゃから呼んだのじゃ。」
「いや、ですよお爺さん・・・見間違えたって言ったないですか。珍しく貴族の娘さんが朝市にいらしてて・・・とてもお綺麗で気品のある佇まいでしたから一瞬、女王様でもお見えになっのたかと勘違いしたって話しですよ。ごめんなさいね、お嬢さんたち・・・」
老婦人は、そういって申し訳なさそうに苦笑いをして原因となった旦那である老人に文句を言っていた。
「あの、その貴族の方って2人のメイドを連れてましたか?」
「えぇ、そう!そうでしたわね!2人ともお若い女性で・・・確か背が高いかたと、少し膨よかな方でしたわね。あまり、じろじろと見みるのも失礼ですし印象に残ったのはそんな所かしら・・・」
「そうですか、ありがとうございます。」
メルは、老婦人に尋ねると少し考え込んだような顔して黙ってしまった。老夫婦は、お辞儀をして店を出で行きアイギスは、御礼をいって店舗の外まで見送った。アイギスが戻るとメルは、まだ考え事をしているようであった。
「どうされたんですか?メルさん?」
「いえ、なんとなくなんですけど・・・特徴が先輩達に似てる気がして・・・」
「貴族の方がですか?」
「はい、先輩の・・・ミュールさんなんですけど・・・どことなく良家のご令嬢みたいな雰囲気の方なんです。背が高いというのはジェーンさん、失礼かもですが膨よかというのはモカさんの印象にピッタリな感じで・・・」
「それにしても・・・なぜ3人のメイドではなく、貴族の令嬢と2人のメイドなのでしょか?」
「そうですね・・・」
メルとアイギスは、この後も数店舗で聞き込みをしたもの門番や老婦人同じ貴族の令嬢を見たという話しが聞けただけで3人のメイドの行方は不明のままであった。その話しも、朝市が催されていたという商店街の入り口付近だけのことであった。結局、メルとアイギスが得たものと言えば疑門ばかりであり仕方なく一度、城へと戻ることにしたのだった。