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女王陛下と誘拐事件:第二話:~メルと3人の先輩メイド~

少し時間は、戻って朝の7時を少し過ぎメルが慌ただしく着替えを済ませ朝食に向うフレイジアを見送った頃。

メルは、フレイジアがうっかり”月のもの”で汚してしまったシーツのカバーを外していた。


「よかったぁ~マットレスは無事みたい!よっ、よいしょと!」


メルは、少し安堵したような表情で可愛らしい掛け声を上げ、シーツカバーを畳むようにして持ち上げた。そしてフレイジアの私室の隣にある自身が最近、寝泊まりしているメイドの控え室へ向った。


控え室といっても、かなり充実した造りである。まず、扉を開けると10畳ほどの休憩室となぅていて装飾は質素ではあるが立派なソファーとテーブルが置かれている。その先にメイド用の寝室兼用の更衣室があり同じく10畳ほどに二段ベッドが3台置かれている。二段ベッドといってもかなりしっかりとした高級そうな物で寝心地はメルも気に入っていた。休憩室の隣には、本格的なキッチンといっても差し支えない設備の給湯室があり、お茶や菓子などをを用意できる。そして、寝室の隣にトイレとバスルーム、奥には広い業務用のまるでクリーニングの専門店といった感じの洗濯場があった。

メルは、この洗濯場にシーツカバーを持ち込んだ。この洗濯場は、フレイジア私室にある広大な浴室の脱衣所のちょうど裏手に位置している。

メルは、一端、シーツカバーを洗い場に置くと壁の60センチ角の扉を開けた。私室側の脱衣所で出された洗濯する衣類がダストシュートのように洗濯場へ送られる仕組みになっていた。無論、ドレスなど繊細な衣類は、念のためメイドが直接回収するのだが。


「フレイジア様・・・慌ててたけどちゃんと畳んでくれてる。」


扉を開けたメルの前には、綺麗に畳まれたフレイジアのパジャマと下着が洗濯籠に入れられ置かれていた。


「私のこと、石鹸の香りで安心するって褒めてくれるけどフレイジア様も・・・すごく良い匂いがするんだよね・・」


フレイジアのパジャマの上着を思わず取り出したメルは、鼻先をくすぐる薔薇の花のような香りのするパジャマの上着をスンスンとその匂いを嗅いでしまった。メルは、ハッとしたような表情をすると、何かを振り払うかのように首を左右にブンブンと激しく振った。


「な、なにしてるんだろ・・・私ったら・・・恥ずかし・・・」


メルは、少し顔を赤くし慌ててパジャマの上着を洗濯籠に戻し洗い場の方へ持っていった。


「パジャマのズボンとショーツ、それとシーツカバーは、血が付いてるから少し冷たいくらいのぬるま湯に浸けて・・・たしか重曹と・・・あとディーカンの汁で・・・両方とも厨房にあるかな?」


メルは、以前にマザー・シゼリアに教わった血液の染み抜き方法を思い出すように一人ごとを呟いていた。ディーカンとは、こ世界の根菜一種で絞り汁は血液などの汚れを溶かす作用がある事が知られている。


「でも、もしフレイジア様が本当に”おねしょ”してしまってたなら・・・はぁ・・・」


メルは、何か悩んでいるかのように溜め息をつくと、再び何かを振り払うかのように首を左右にブンブンと激しく振った。


「・・・さぁ!料理長に分けて貰えるか聞きにいかないとっ!」


メルは、気持ちを切り替えたかのように明るいな声を上げた。そして、元気よく控え室を出て厨房を目指した。


「あら、メルリアナ?・・・ちょっと、聞きましたわよ!貴女、女王陛下の専属を引き受けたんですてね?」

「そう、そう大丈夫なのメルリアナ?新米ちゃんだし陛下を怒らせてない?ちゃんと勤まって居る?」

「そうよ!そもそも、なぜメルリアナなの!女王陛下がメルリアナを選ばれるなんて・・・なぜ、そんなことに・・・」


1階の厨房へ向う為、階段を降りていたメルに、掃除の傍ら世間話をしていた三人の先輩メイドが話しかけてきた。3人ともメルに話しかける顔色は、少し曇り険悪な雰囲気に思えた。

女王陛下専属のメイドは通称”ロイヤルメイド”と呼ばれ大変名誉なことであり、メイド達の中から選抜された容姿能力とも特に優れた者だけがなれる存在であると聞いていた。だからメルは、自分が選ばれてしまったことに後ろめたさを感じていた。


「あ、あの・・・おはようございます。えっと・・・その・・・も、申し訳ありません私なんかが・・・」


メルは、戸惑ったように先輩メイドに挨拶をし、自分なんかが偶然とはいえ専属メイドになってしまったこと謝ろうとした。


「なにを謝ろうとしているのです!!私達は、貴女のお陰で・・・」

「ひぅ!ご、ごめんなさい・・・ううっ・・・」


突然、3人のうち一番背が高く黒髪を肩の上で切り揃えたショートボブにし、眼鏡を掛けた鼻の辺りに少しある雀卵斑(そばかす)が特徴的なメイドが強い口調でメルの謝罪を途中で遮った。少しつり上がった目が気の強そうな印象を与える反面、几帳面そうで知的な美しさもあるスレンダーな女性であった。だがメルには、その表情が怒っているかのように見えて今にも泣きそうな声で”ごめんなさい”とだけ言うのが精一杯であった。


「ジェーン、そんな風に声を上げたら・・・ほら、メルリアナが怯えてしまったじゃない!」

「ミュール、私はそんなつもりじゃ・・・・」

「そう、そう!ジェーンは、少し顔と物言いがキッイんだからね!まるで、メルリアナをイジメている様に見えちゃうよ!もう!」

「そ、そんなモカまで・・・私はただ・・・」


ジェーンと呼ばれた黒髪でスレンダーなメイドを止めるように最初に声を掛けたのはミュールという2番目に背の高キャラメルブロンドの髪を少し長めのセミロングにした物腰の柔らかそうな色白のメイドであった。メイド服で無ければ何処か高貴な良家の令嬢の様な雰囲気を放つ綺麗な女性あった。次に、話しかけたのは、モカと呼ばれるメルより少し背が高い少しポッチャリした体型で両肩の辺りで結ばれたライトブラウンのおさげ髪、そして少し小麦色の肌が印象的で健康的な可愛さのあるメイドであった。


「泣かないでメルリアナ。謝りたいのは、私達の方・・・貴女が専属に決まったと知ったとき私達が代わりにと陛下に申し出れたなら・・・・でも」

「そんな、勇気なかったのよね。後輩の、しかも新人のメルが大変な目に会うだろうってこと分っているのに・・・先輩として恥ずかいよね・・・」

「ごめんなさい、メルリアナ。女王陛下の専属になったメイドは、多くが失踪したかような不審な辞め方をしてるでしょ?それに、陛下の気分を少しでも害したら・・・いえ、陛下の気分次第で噂のようにされてしまうかと思うと恐くて・・・自分が選ばれなくて良かったとどこか思ってしまったの。」

「「「本当にごめんなさいメルリアナ!」」」

まず、ミュールが優しげな声でメルに話し始め続くように、モカ、ジェーンも順に申し訳なさそうな感じで話しかけると最後は、3人同時に頭を下げて謝った。


「えっ・・・と?・・な、なんのことで・・・しょう?」


メルは、事態が飲み込めず目をまん丸にして、しばらく為すがまま先輩メイドに必死で謝られたり、気遣われたり、心配されたりしていた。そんな、メルであったが3人の先輩メイドがフレイジアと前女王を同じように畏れていて誤解しているのだと段々とわかってきた。


「あの、先輩達は・・・フレイジア様を誤解してます!フレイジア様は、とてもお優しい方です!みなさんが前の女王様と同じだと思っていて、同じように怖がられいるなんて!!そんなことを知ったら悲しまれます!!!」


段々と語気を強めながら大声を上げたメルの普段からは想像できない剣幕に3人の先輩メイドは、驚いて固まっていた。


「あの、すみません。急に声を上げてしまって・・・・えと、用事があるので失礼します!」


メルは、大声を出してしまったことが少し恥ずかしくなり、逃げる様に階段を下り厨房へ向って行った。

厨房にたどり着いたメルであったが、それに気が付いた料理長に待ってました!と言わんばかりの勢いで急に迫られ驚きの声を上げた。


「きゃっ!料理長さん!?ど、どうされたんですか?」

「陛下専属の・・・ロイアルメイドのメルリアナ様・・・でしたよね?ちょうどよかった・・・」

「は、はい?そうですけど・・・」


料理長は、酷く深刻そうな顔をメルに近づけてきた。メルは、そんな料理長にただただ困惑するばかりであった。


「あの、女王陛下は・・・やはり昨晩の事何か?・・・今日は、朝食をやけに手短に済まされて・・・普段は、その、ほとんど残されないのに・・・」

「えっ!?あ・・・そのことなら大丈夫ですよ。少し寝坊をされて急いでいたのと、たぶん残されたのは、つきの・・・あの、えと、つきのっじゃなくて・・・つ、つ、疲れが残っているのか気分が少し優れないと聞いてましたから!」


メルの話しに、料理長は少しホッとしたような表情を見せた。


「そ、そんなに心配しなくてもフレイジア様は昨晩の事なんて、もう気にしてないですよ。それより夜食ありがとうございました。とても美味しかったです。部屋に戻るまでフレイジア様も美味しかったってずっと言ってましたよ!」

「そうですか!よかった・・・ホントよかった・・・」

「あ、そうだ!料理長さん、あの重曹とディーカンってあります?よければ、分けてもらえませんか?」


ようやく安心した様子を見せた料理長にメルは、少し唐突にお願いした。


「重曹とディーカンですか?重曹は良く使いますっあるのですが・・・ディーカンは、使う予定が無く今日は、仕入れてないんですよ。ごめんなさい、取りあえず重曹を持ってきますね。どのくらい必要です?」


「えと、あの・・・使ってみないと・・・」

「そうですか・・・業務用なんで一袋が5キロなんですが?あれば、色々使えるから一袋もっていきますか?」


そういって、メルは重曹5キログラムの入った紙袋を渡された。


「あ、ありがとうございます。(重曹って他にもお菓子作りとかお掃除とかでも使えるし多い分にはいいよね!)」


御礼を言ったメルは、厨房を後にして一端、洗い場のある専属メイドの控え室へ戻ることにした。

戻る道中メルは、城下へディーカンを買い出しに行こうと考えたが、仮にも専属メイドの自分がフレイジア様の許可無しで勝手に居なくなる訳にも行かないし・・・・許可を取ろうにも今頃は、もう公務が始まってしまうだろうし・・・


「重曹だけで・・・落ちるかな?とりあえやってみよ。」

「メルリアナ!探したわ!」


そう、呟いていたメルは、誰かに後から話しかけられた。メルが振り返ると先ほどの先輩メイドの一人ミュールが少し慌てた様な表情で立っていた。


「ミュール、駄目でした。こっちにの方は、見当たりません・・・」

「あっち方にも、いなかったのよね!」


ジェーンとモカも慌てたように小走りで戻ってきた。


「あの、ど、どうなさったんです?」

「メルリアナが、あんなに声を荒げて怒るなんて珍しことだったので・・・心配になってしまって・・・」

「そう、心配したのもあるけどね。メルリアナは、女王様が優しい人っていってたじゃない?詳しく聞きたいかなって?」

「メルリアナが、あそこまで強く言ったので・・・よければ、陛下とお話ができる機会を設けてもらえないかと・・・私の誤解なら謝りたいですし。」

「そうだったんですね・・・ありがとうございます。心配かけてごめんなさい。」


メルは、またもすぐに事情が良く飲み込めなかったが心配されていた事は理解できたのでお礼と謝罪を口にした。


「あら?重曹なんて抱えてどうなさったの?」

「あ、なんかお菓子でも作るんでしょ?手伝うよ!!」

「メルリアナ・・・モカに料理は、手伝わせないほうがいいわ。大半をつまみ食いされるから・・・それとモカ、あの量を見なさい掃除か染み抜き用に使うと考えるのが妥当です!ほんと食い意地だけは・・・」

「ひどい、ジェーンひどい!」

「モカ!わくしは、焼き上げたクッキーを包むのを手伝うといって食尽くされた恨み忘れてませんわ!」

「それ、半年も前の事だし・・・しかも、料理が下手なミュールが生み出したクッキーと言い張る何かを味見したら、ひどく苦くて不味くて・・・でも、捨てるの勿体無いから頑張って食べたんだもん!そのあと、ちゃんと美味しいクッキーを一緒に作ったじゃん!恨まないで感謝してよ!」

「なんですって!モカ!!」


先輩メイドのやり取りが、面白くクスクスと笑い始めてしまったメルであったが、ふとダメ元でディーカンの事を聞いてみた。


「え?ディーカン?ごめん、無いけど何に使うの?」

「モカ、貴女もメイドなら察しなさい・・・」

「え?え?ミュール、何のこと?重曹とディーカンの料理なんてある?ねぇジェーン?」

「本気で、言ってるのモカ・・・重曹とディーカンといったら血の染み抜きでしょ!」

「えっ!!ケガしてるの女王様!それとも、メルが?」

「モカ・・・あのね、たぶん・・・ごにょごにょごにょ・・・というわけよ。たぶんメルリアナがじゃないと思うけど・・・」

「そうね、メルリアナ自身のことなら、少し恥じらっても率直に理由をいってディーカンの事きくでしょうから。」

「あの・・・ごめん、なら買いに行けばいいのに、城下で普通に売ってるしょ?」


ミュールとジェーンに説明されディーカンの使い道をようやく理解したモカの提案はもっともであった。


「あの、仮にも専属なので無許可で外出するわけにも___」


メルは、そうしたいが出来ない理由を3人の先輩メイドに打ち明けた。


「なら、私が買ってきてあげる。それまで、30度以下くらいのぬるま湯につけて揉み出して、染みに重曹を適量かけてブラシで軽く叩くように擦っているといいわ。」

「ジェーン、私も行くね!お菓子の在庫が切れてきてるし!」

「モカも、行くの?わたくしも、行こうかしら化粧品も買いたかったし。」

「はい、はい・・・という訳だからメルリアナ、少し待っていなさい。」


そう言って3人の先輩メイドは、メルの代わりに買い出しに行くこととなった。


「ありがとうございます。ジェーン先輩、モカ先輩、ミュール先輩も!えへへっ!あの今度、フレイジア様を招いてお茶会をしましょう。きっとフレイジア様も喜びますから!」


ようやく可愛い笑顔を見せ、明るくお礼を言ったメルの様子に3人の先輩メイドは、どこか嬉しそうであった。


「((メルリアナは、なんと言いますか・・・幼い妹のようで放っておけないわ・・・))」

「((三つ、四つ年下なだけなのに容姿のせいでしょうか、不思議です。なんでしょう庇護欲をそそるというか・・・))」

「((そうそう、できれば、先輩じゃなくてお姉ちゃんて呼でほしいみたいな。))」

「((きっと、陛下もメルリアナのそんな所を気に入られたのでしょうね・・・))」

「((お茶会を開くと言ってましたね。メルリアナの事だけは、確実に陛下と話しが合う気がします。))」

「((それ、絶対に盛り上がるしょ!))」

「((その前に貴女の、口調を矯正しないといけないわ。それで、機嫌を損られて巻き添えで・・・なんて嫌よ!))」


3人のメイドは、ヒソヒソとそんな事を話ながら買い出しへと向かって行った。

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