女王陛下と誘拐事件:第一話:~女王陛下の近衛騎士~
~ここまでのあらすじ~
女王への就任を宣言する演説から一夜明け、ヴァレンシア王国の若き女王となったフレイジアを待っていたいたのは、予想以上の財政難と山積する国政の問題であった。経済学者の財務大臣ミルケネスと長い協議の末に大まかな今後の方針が決まる。その際、ミルケネスより手渡された父の日誌の続きを探しにフレイジアは、メイドのメルを連れ地下書庫へと向かった。地下書庫で日誌を探すフレイジアは、メイドのメルが偶然発見した隠し通路に閉じ込められてしまった。閉じ込められたフレイジアは、その場で救助を待とうとしたが尿意に襲われ始めた。その時、通路の奥から小さな物音が聞こえ、フレイジアは、その正体と用を足せる場所を求めメルと共に奥へと進む事を決意する。隠し通路の先の広い空間でフレイジア達は、ダンジョンにしか生息しないはずの魔物の群れに襲われる。フレイジアは、魔術士としての腕前を発揮し何とか尿意に耐え10頭の魔物を魔法で撃退する事に成功した。フレイジアとメルが安堵したのも束の間、新手の魔物が現れて襲いかかった。フレイジアは、魔法で一掃しようとするものの激しい尿意に魔法を放つ事に失敗する。死をを覚悟したフレイジアは、間一髪の所で駆けつけた女騎士に救われたのだが・・・フレイジアは、女騎士の前で限界を超えた尿意に耐えきれず”おもらし”をしてしまった。こうして、フレイジアの女王としての最初の長い1日が過ぎていったのだった。
「お、おはようございます。お待たせして申し訳ありません。さぁ、中へ入って下さい。」
「おはようございます。フレイジア陛下。」
執務室の前で、フレイジアを待っていたガウェインとミルケネス、そして昨日の女騎士は口を揃えてフレイジアに挨拶を返した。
「フレイジア陛下、少し顔色が優れませんが大丈夫ですか?」
そう口に出したのは、女騎士であった。フレイジアは、顔に出したつもりは無かったのだが、やはり女同士なにかと気が付かれてしまうものね・・・そう思いぎこちないく微笑んで返答する。
「ありがとう、心配ないわ大丈夫よ。貴女も、そういう日が来るでしょう?さぁ、廊下で立ち話もなんですし執務室へ入りましょう。」
フレイジアは”あの日”である事を暗に伝えると執務室の扉を開けた。
「ガウェイン、昨日は心配をかけて申し訳ありません。女王として軽率な行動でした。そして助けに来ていたいた事、大変感謝しています。本当にありがとうございました。」
執務室の木製両袖机の前に立ったフレイジアは、真っ先に昨日の事をガウェインと女騎士に向い深く頭を下げ謝罪し、感謝の言葉を伝えた。
「勿体ないお言葉です陛下。それと、女王なのですから我々に軽々しく謝罪などしてはいけませんぞ。陛下が如何なる行動をしようともそれは、陛下の自由なのです。それを全力で対応しお守りするのが我ら騎士の使命ですからな。ただ、陛下の行動には大きな責任が伴う事だけは、努々お忘れ無きようお願い致しますぞ。」
「はい、肝に銘じておきます。」
フレイジアは、ガウェインに酷く怒られると思っていた。しかし、真剣な眼差しで発せれたガウエィンの言葉は、叱られる以上にフレイジアに自身の軽率さや無責任さを反省させた。そして、フレイジアは、まだ馴染めない木製両袖机の椅子に感触を確かめるようにゆっくりと腰をおろした。
「ところで、陛下?何故、地下などへ?隠し通路へ閉じ込められたあらましは聞いておりますが・・・」
「それは・・・父の日誌を探して・・・」
「日誌・・・とな?」
「私が調査の際、地下書庫で1冊見つけましたので・・・お渡ししたのです。それで陛下は続きを探しに行ったようです・・・私も軽率でした。」
フレイジアが地下書庫へ向った理由をガウェインに打ち明けると、ミルケネスが申し訳なさそうにガウェインに補足するように話しかけた。
「そう言えばガウェインは、父の代から仕えているのよね?私は、ほどんど父を知らないから、どんな方だったのを知りたくて・・・」
「そうですか・・・お父上ヴァレンスト13世陛下は、為政者としてだけでなく、剣士としても非常に才覚がありましてな。私も、武術を良く教えておったのですが・・・私より、お父上と親しかった騎士のライルに・・・ライルフィルト=デンメルングに話しが聞ければよいのですが・・・」
そう言った、ガウェインは少し表情を暗くした。
「その方は?」
「亡くっております。8年ほど前に・・・屋敷の火災で・・・」
「そう・・・ですか。今度、時間があるときにガウェインの知ってる父のことを話して下さいね。」
期待していたフレイジアは、落胆したもののガウェインの知る父の話しも聞いて見たいと思った。
「承知しました。日誌、お父上の遺品ですな・・・おぉ、そういえば今は使用していない後宮の方が物置状態でして乱雑に色々な品で溢れていると報告を受けておりました。お父上の時代の物もあるかと思われます。いつか、調査と整理をせねばと考えていたのですが・・・」
「え!そうなのですか!後宮って私が幼少期を過ごした郊外にある森に囲まれた屋敷のことよね?」
「そうでございます。早くに報告すれば良かったのですが・・・」
「いえ、ありがとうガウェイン。懐かしさもありますが、物品の調査と整理もかねて今度、予定を立てて行ってみても良いかしら。」
フレイジアは、今度と言っているがその表情は今すぐにでも行きたそうであった。
「もちろんでございます。それで本日、伺ったのはフレイジア陛下の近衛騎士の件でして・・・」
「その件は、必要無いと申しましたが?」
ガウェインが、思い出したように今日、執務室へ来た用件を話し始めた。それは、女王の身辺警護をする専属騎士である近衛騎士の件であった。フレイジアは、予算と必要性を考慮し不要であると事前に申し伝えていたのだが。
「いえ、昨日のような事が再びあっては、困ります。そこで、このアイギスだけえも御側に置いて頂けませんでしょうか?新米の騎士ではありますが実力に関しては、このガウェインが保証いたします。若手騎士など言わずもがな、ベテラン騎士ですら右にでるものが少ないほどで・・・。なにせ、王立士官学校を優秀な成績で出ておりますし、事務方の経験もありますぞ。」
「アイギス=リーベントと申します。どうか近衛騎士として御側に仕えさせて下さい。」
ガウェインに紹介された女騎士アイギスは、フレイジアの前に跪くと深く頭を垂れ懇願した。
「はぁ、わかりました。彼女だけですよ。ところで、あの地下闘技場のようなものは何だったの?」
フレイジアは、しぶしぶ近衛騎士の件を承諾した。そして、気になっていた隠し通路の施設について訊ねた。
「まだ、詳しくは調査中ですが・・・あまり良い物ではない事は確かですぞ。牛や豚などの家畜の骨に混じって人骨も数体ほど確認しておりまて・・・良からぬ目的でガルムと呼ばれる魔物を飼っていたのは間違いないでしょうな。餌を与える者が居なくなり飢えていたところに、獲物の・・・いえ、陛下達の匂いを感じたので暴れ檻を壊して出て来たものと思われますが・・・魔物の出て来たという通路の先を調べたところ陛下が放ったという魔法が直撃したようで、通路の奥にあった檻は、見事に破壊されておりました。残っていたと思われる8頭のガルムが巻き込まれ檻の残骸とともに絶命しておりましたぞ。その先は、王都の下水道に繋がっておりましたが頑丈な鉄格子で仕切られ魔物が下水道の方へ浸入した形跡はありませなんだな。それと、隠し通路の入り口、動く本棚の仕掛けですが・・・開閉の際、何らかの負荷で歯車の一部が破損して作動しなくなったようでしたな。アイギスめが見事にバラバラに破壊してしまったので詳しくは、解りかねますが・・・まぁ、元が相当古い物ですから無理もありませんがな。」
フレイジアとミルケネスがアイギスの方に目をやると、少し気恥ずかしそうな顔をして申し訳なさそうに顔を俯かせた。
「(それって、私が慌てて無理に押し返そうとした事が原因てこと・・・)はぁ、まさかそんな・・・」
報告を聞いた、フレイジアは本棚の仕掛の破損理由に心当たりがあった。自分のせいで閉じ込められアノ失恥ずかしい失態の原因になったのだと考えると溜息が自然と漏れてしまった。
「どうされました陛下?」
「いえ、何でもありません。ただ、人骨に関してなのですが・・・前女王に仕えた使用人が多数行方知れずなっているという囁があるそうです。メイドの間で囁かれている噂話しですから、彼女達の恐怖心を煽らぬよう不用意に口外しないで下さい。それと、下水道に繋がっていたと言いましたが、行方を眩ました異父兄達はこの隠し通路を使って逃げたのではないかしら?」
「はい、その可能性も含め鉄格子の先、下水道を専門部隊に調査させおるところです。」
「そうですか、引き続き宜しくお願い致しますね。」
有益な情報は、無かったもののガウェイン率いる騎士団の対応の早さに関心したフレイジアであった。
「はっ、承知しました。では私は、これで失礼させて頂きますぞ。アイギス、陛下の護衛くれぐれも宜しく頼むぞ!」
「はっ!お任せ下さい。」
フレイジアにの報告と用件を伝え終えたガウェインからフレイジア陛下の警護を託されたアイギスは、ビッシ!と凜々しく敬礼し、それに答えた。
「そうでした陛下、後宮の鍵ですが後ほど専属のメイドに渡ておきますぞ。しばらくは、公務と言っても打ち合せと書類の類いばかりと聞いておりますので時間が空いたら気晴らしに行って見たらいかですかな?無論、アイギスが同行の上でありますが・・・では、改めて失礼させて頂きますぞ。」
そう言って、ガウエインは優しそうな笑みを浮かべ執務室を出て行った。
「早速で申し訳ないのですが・・・陛下こちらの書類に目を通しておいて下さい。」
そういってミルケネスは、パンパンに膨らんだ手提げ鞄の中にギュウギュウ詰めにされていた書類の束をドサッと机の上に置いた。
「こ・・・これは?」
「昨日、決めました政策方針の詳細な実行計画をまとめたものです。更に、有効とおもわれるプラン、提案などの原案もあります。早急に実行に移せるものは、既に始動していますが・・・念のため確認と許可をお願い致します。」
「ミルケネス・・・貴方まさか、これを一晩でまとめたと言うの・・・」
「学生の論文など採点するより楽な作業でしたが、いささか骨がおれました。はははっ!」
「・・・急ぎとは言ったかもですが・・・なにも全部一変に・・・いえ、ありがとうございます。」
髭をいじって笑うミルケネスにフレイジアは、驚きよりも少し呆れたような感じであった。
「ところで、陛下。ヒルダレイアに与していた不正貴族と悪徳商人どものことなのですが、どうする御積ですか?」
「そうね・・・今は、騎士団監視のもと軟禁状態ですが、そろそろ処分を決めないといけないわね。でも、裁判をするにしても人数も多いし・・・民衆は、厳罰・・・出来れば死罪に課すことを強く望んでいる者も少なくないとか・・・だからといって、母の・・・いえ、前女王のように裁判も無しに全員を処刑という訳にはいきませんし・・・」
「そうですね・・・民衆の強い望みとはいえ、あれだけの人数を処刑したとなれば・・・前女王以上の恐怖心を陛下に抱き民の心は離れていくでしょう。そして、再び、今回と同じような事態の遠因になりかねません・・・」
「そうですね・・・余談ですけど・・・そうなれば、きっと後世の歴史家にもヒルダレイア以上に酷評されて・・・まるで悪鬼の如く残酷な逸話を創作されて長く語り継がれるのでしょうね・・・」
「ははっ・・それは、避けたいですね。ところで陛下、貴族と商人は、何を失うのが一番辛いと思いますか?」
「えっ?そ・・・それは・・・」
フレイジアは、ヒルダレイア派の貴族と商人の処遇については頭を悩ませていた。前女王の庇護の元、権力を笠に甘い汁を吸い、不正を堂々と行ない民衆を虐げていた彼らを檻の中へ生涯閉じ込めよと命じることは簡単であったが、なにせ関与していた人数が多すぎる。芋づる式に末端まで、とまではいかないが多くの頭目とみられる主要な人物と関連する組織を騎士団の監視下に置くことには成功していたが・・・投獄するとなれば人数は、貴族と商人だけで少なくとも数百人規模になる・・・収容所の増築は、必須であるが施設に回す予算が不足しているのが現状であった。それに結局、収容したところで民衆の大切な税金で民衆を苦しめた元凶を檻の中で飼うなどという馬鹿らし事態になってしまうのだ。だから、ひと思いにに全員を断頭台へ送ることを考えないでもなかったが・・・死罪を望む民衆の声も一時の感情によるもの理解しているし、ましてや数百人の死刑を断行した者の末路など火を見るより明らかであった。
そんな、事を考えながらフレイジアは、ミルケネスと話していたが突然の質問に少し戸惑った。
「財産と名誉・・・地位かしら?」
フレイジアは、しばらく考えて確信のなさそうな声でミルケネスの質問に答えた。
「そうでございます。ですから貴族としての爵位、商人としての特権を剥奪たうえ私財を普通に慎ましく生活出来る程度を残し没収し、それで手打ちとしましょう。彼らはすでに、国全土に広く名前と顔を報じられしまっておりますし貴族や商人として今後も振る舞う事は難しいでしょう・・・それに、改心すれば汚名返上の機会を与えてもよいでしょう。やっている事は最悪ですが政治や商売といった観点から見れば無能な者ばかりというわけではないですから。」
「では、関連組織のほうはどうします?」
「元々がこの国の地下で暗躍していた犯罪組織ばかりですから、派手に断罪しても問題ないでしょう。治安の維持回復という大義が立ちますから。」
「そうですか・・・しかし、彼らの資産規模などわかりますか?巧みに隠されてしまうのでは?」
「その点は、お任せ下さい。騎士団にとも協力しましてある作戦を計画しております。先ほど陛下がお見えになる前にガウェイン殿とも簡単に話し陛下のご承諾しだいと返事を頂いております。」
「わかりました。この件は、ミルケネスに一任します。よい報告を期待していますよ。」
「はい、お任せ下さい。では、失礼させて頂きます。」
ミルケネスは、意気揚々と執務室を後にした。そして、山のような書類の束だけがフレイジアの目の前に残された。
「では、とっとと片付けますか!・・・と言ったものの凄い量ね。はぁ~・・・」
「陛下、とりあえずお茶をどうぞ。見たところ急ぎの書類とそうでないも物が乱雑に混ざってますね?」
大きな溜め息を吐いたフレイジアにアイギスは、いつの間にか用意した紅茶を差し出しながら話しかけた。
「そうね・・・まずは、それを仕分けないと。仕事は早いし優秀だけど、こういったとこに彼は、欠点があるのね・・・」
「よろしければ、私の方で精査して仕分けますが?」
「そう?悪いわね、では、とりあえず半分お願いするわ。」
フレイジアは、申し訳なさそうに書類の山を半分に分けアイギスに渡した。フレイジアが書類と睨めっこを始めた横でアイギスは、まるで精密機械のような速度で書類を仕分け始めた。
「ちょ・・ちょっと!それで目を通しているの!?」
「え?はい、速読は得意ですので心配無用です。これは、内容が急ぎですので至急ですね。これは・・・」
「そ、そう、それは・・・凄い特技ね・・・」
「お褒め頂き光栄です。陛下よろしければ、この仕分けた方を処理して下さい。」
貴女のそれは、すでに速読とかいうレベルではないわ!と心の中で突っ込み完全に呆れ返っていたフレイジアであった。そんな、フレイジアの心の突っ込みなど知るよしもないアイギスは、涼しげな顔で今仕分け終わった分の”至急”と判断した書類の束をフレイジアに手渡し、フレイジアが睨みつけていた書類の束を奪うように持っていってしまった。
「ホント、何者なの?このアイギスとかいう騎士は・・・」
フレイジアは、小さな声を漏らした。アイギスの能力もあり、取りあえず本日中にも処理が必要な至急の書類だけは、このペースなら半日で終わりそうであった。