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後編

ざまあ系ハッピーエンド!!です!

「おい、出来損ない! いつまで寝ているんだ!!」


ボアは目を開き、飛んできた蹴りに対して、自分も蹴り返した。もとよりそんな動きについていけるはずもない衣装がびりりと引き裂けたわけだが、構うわけもない。

蹴り返された男は、あまりにも的確に急所を蹴られて悶絶する。


「うるせえ。黙れ、屑」


ボアは苛立った声を隠さずに言う。周りからすれば、あれだけ無抵抗に暴力を受けていたのだろう娘が、突如反抗したのだから驚きに違いない。


「おれに皆責任をひっ被せて、のうのう生きてる兄上様? ちょうどいいから取り立ててやる。何がいい? 砕かれるならどこがいい?」


「れ、レナ……!?」


レナ。あの娘の名前か。名前など興味のない悪魔は、目を細める。


「全部知ってるのさ。豊穣の祈りが失敗したのは、おれが穢れているからではないって事を。祭儀用の祭壇を、穢したのはお前とお前の入れ込んでいた祈り手の女だろう? 祭儀の前の夜なんかに、あそこでくんずほぐれつなんかしてりゃあ、穢れもいい所だろ」


「な、な、なにを」


「豊穣の祈りは聖なる祈りだ。処女だとかそんなのは関係ないが、一週間は潔斎してにゃならんのは当たり前だろう。祈りを純粋にさせるためにな。それをまあまあ、失敗させて、それの責任は妹におっかぶせて? いい度胸じゃないか」


ボアは軽く、倒れる男の背中に足を乗せているだけだというのに、男はそこから脱する事が出来ず、その事でただならぬ事が起きていると泣き出している。

その男に対して蹴りをまた入れて、ボアは言った。


「さっさとここから出してもらおうか。そして豊穣の祈りの失敗の時にいた祈り手たちを全員呼び出してもらおう」


「あ、ああ……」


涙でぐちゃぐちゃになった男が必死に頷き、ボアはゆうゆうとそこから出て行った。



そしてすぐさま、命は惜しかった男、兄王が祈り手達を招集し、なんだなんだと思っている彼女たちの前に、ボアは汚れ切った姿で現れた。

だれもが眉をひそめている中、ボアは堂々と言った。


「おれは穢れではない。穢れは……お前だろう? あの時慰めの言葉を投げていながら、実際は自分の責任を逃れるために、頭を使っていたらしいが」


言って指さした先にいるのは、兄王の妻である、元公爵家令嬢である。

彼女はわなわなと震えていたが、ぱちん、とボアは指を鳴らし、目を細めていう。


「”真実を話せ。この声から逃れる事は出来ようもない”」


「だ、だってだってだって……!!」


ボアの言葉の後に、公爵家令嬢はぼろぼろと、祭儀の祭壇をないがしろにした行為をした事を激白する。他の祈り手達が引きつって距離を置くほど、なかなかな事をしていた。


「化け物め! 地下牢に二年も閉じ込められていたというのに、まともな思考で生きているとは!!」


その激白を聞きながら、怒りに震えているのは公爵家令嬢の兄である。

その兄が、切りかかってきたため、ボアは体勢を整えて、その兄の横っ面に拳を思い切り打ち付けた。

悪魔の力だ。見事に吹っ飛んだ兄はひくひくと痙攣して動かなくなる。


「さて、この二年受け続けた暴力を、今ここにいる責任から逃れた者たちみんなに返してもいいわけだが」


その言葉を聞き、殴られる恐怖から、我先に許しを請う声が響き渡る。

それらをひと睨みで止め、ボアはにやりと笑った。


「それが皆嫌だという。自分の嫌な事をどうして、おれに背負わせたままにしようとしたのか。解せないが、そうだな。ここにいるすべての人間が、レナと縁を切るならば考えてやろう」


「切る!!」


それだけで済むのか、という調子で、誰もが口々に縁を切ると叫ぶ。それらを耳に聞き入れ、ボアは指を鳴らした。

それだけで、縁を切ると言った人々の首に、光の環が浮かび、消える。


「その言葉を違えないようにしろよ? さて……おれは帰るとしよう」


その場にいた全員が、意味が分からないと思う中、レナの姿をとったボアは真っ黒に染まり、ボアとしての姿を見せつける。


「ほ、豊穣の魔神……!!」


「伝説の中の魔神が実在したのか……!!」


「うそだろおい……!!」


翼を持ち、牙を持ち、光り輝く冠を頭に被せたボアは周りを見回し、こう言った。


「おれに向けられる祈りが生臭すぎるのは、あいにく好みではない。お前達が今後どうしようとも、変わらぬ未来はあるだろうな」


そう宣告し、翼をはためかせると、その風の強さで人々は倒れ伏す。ボアは一気に、自分が契約する王のいる城まで、転移して去っていった。




「ボア、お前の連れて来てくれた彼女は、とても話が合う」


「ボア様、私に素敵な旦那様をくださってありがとうございます」


「お前ら……この部屋にそんなにしょっちゅう来てどうするんだ……」



それから数年、国王と娘は結婚し、非常に仲睦まじく暮らしている。

そして鎖の中に戻ったボアがいる部屋に、しょっちゅう顔を出して、近況報告だの、相手のいい所だのを惚気ているわけで、ボアはいい加減お腹いっぱいになりそうである。





ボアは人造の豊穣の神だ。ゆえに本来の神が悪魔や魔神と名をつけ、自分より格下だと示した。

ゆえにボアは、気に入った人間のためなら国を富ませるし、嫌いな人間のいる国ならば、簡単に見放すのだ。

そのため、娘を無実の罪で虐げたあの国が、人造の神にさえ見放された結果、滅んでも、ボアはまったく心が痛まないのであった。

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