愛する猫の恋物語
作者の別作品、「せっかくヒロインに転生したから、攻略してハーレム作る気満々だったのに、まさかの隠しキャラの宰相に溺愛された」にでてきた小説を書いてみました。
この短編だけ読んでも、楽しめるように書いています。
よろしくお願いします。
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私はルイーゼ=レッツェル。
赤髪に碧眼の美少女で、十歳。
この国では、十歳になると皆が魔法を授かるの。
私の魔法は、変身(猫)だったわ。
真っ赤な毛並みの美しい猫になれるのが自慢よ。
猫になると身体が軽いし、動きも早くなってとても素敵。
元々木登りは好きだったけれど、猫になってもっと好きになったわ。
ただ、今少しだけ、困ってるの。
「……降りられなくなっちゃった。どうしよう。」
王宮の中庭に大きい木があって、上の方に登ったら、眺めが良いだろうなと思ったから、猫になって登ったの。
登る時は、早かったわ。
てっぺんの近くまで登って、遠くの景色を眺めて、満足したから降りようと思って下を見たら、思ったより地面が遠かったの。
怖くはないわ。
嘘よ、ちょっとだけ怖い。
足が震えるわ。
何とか一つだけ枝を降りたけど、これ以上は自分じゃ降りられない。
「誰か、助けて。」
「あれ、木の上に赤い何かがいる?」
茶髪に緑の瞳の男の子が、私を見つけた。
嬉しくて手を振る。
私はここにいるわ。
「もしかして、赤い猫?降りられなくなったのかな?」
そうよ。
早く助けてほしいの。
スルっ。
あ、足が滑ったわ。
「きゃー。」
身体が落下していく。
怖いわ。
私は目を瞑ってしまった。
「大丈夫?」
身体が柔らかく受け止められた。
私、助かったの?
目を開けるとそこには、王子様がいた。
目が大きくて、鼻が高くて、色白で少しだけそばかすがあって、緑色の瞳が宝石みたいに光っている。
私の王子様が、助けに来てくれたんだわ。
私は魔法を解いた。
腕の中からはみ出して、地面に足をつく。
「初めまして、王子様。私と結婚して欲しいの。」
「猫が裸の女の子に!?」
王子様の悲鳴が響き渡った。
そうだったわ。
猫の時は服が着れないから、戻る時は気をつける様、侍女のサリアにも言われていたのに、忘れていたの。
殿方の前で裸なんて、恥ずかしいわ。
「姫様、どうされましたか?誰ですか、貴方は。裸の姫様に何をしているのですか?」
「ご、誤解です!」
「サリア、この方は私の王子様よ。」
「僕が王子様?」
「姫様、とりあえず、こちらに来て服を着ましょう。」
私は、サリアにタオルを巻きつけた。
「何があったのですか?」
「猫になって木登りしてたら、枝から落ちちゃって王子様が助けてくれたの!」
「姫様、なんて危ないことをしたのですか!あれ程、木登りはやめて下さいと普段から言っていましたのに。」
「ごめんなさい、サリア。次からは気をつけるわ。まさか、落ちると思わなかったの。」
「姫さま。反省なさっているなら、良いのです。怪我もなさそうで何よりですわ。それに、其処の貴方、姫さまを助けて頂き、ありがとうございます。ただし、王族のプライベートルームの中庭で一体何をしていたのですか?」
サリアが凄く警戒している。
「僕はエイル=ニャニャです。カタール王太子殿下の側近候補として、王宮に来ました。この中庭で待っている様に、カタール王太子殿下の指示があってきています。」
「ニャニャ伯爵のご子息ですか。確かにカタール王太子殿下の側近候補に名があがっていましたね。成程、納得致しました。ただ、申し訳ないのですが、今あった事は、ありのまま報告させていただきます。本当に申し訳ないのですが。」
「おーい。エイル、準備出来たから、部屋に入っていいぞ。どうしたのだ?」
王太子殿下の護衛の騎士も来て、大事になった。
私はきちんとドレスを着せられて、王子様と一緒にお父様の仕事部屋に行く事になった。
「マルマーン=レッツェルと言う。ここに居るルイーゼの父親だ。エイル、君が何で呼ばれたかわかっているかな?」
「わかりません。一体何故ですか?」
「エイルは、ルイーゼの裸を見てしまっただろう?男性に裸を見られる事は、女性にとって大きな醜聞で傷つく事なんだ。これを防ぐには、エイルの両目を潰すしかない。」
「目が潰される?」
「そうだ。見られた事を無かったことにするんだよ。目が見えなければ、裸は見れないだろう?」
「目が潰されるのは、嫌です。」
「そうだよね。そうなったら、もう一つの方法しかないんだ。ルイーゼと結婚する事だよ。今回は、ルイーゼを助けてくれた事もあるし、私としてはこちらを選ぼうと思っている。エイルは、ルイーゼを幸せにしてくれるかな?」
「僕がルイーゼ様と結婚……。」
「お父様、私のエイルをいじめないで。彼は木から落ちた私を優しく受け止めてくれたの。きっと運命の人よ。」
「ルイーゼはすっかり君のことが好きみたいだ。今、君のお家へ手紙をだしたから、お父さんが来るはずだ。来てから、相談すれば良いよ。」
その後、急いでニャニャ伯爵がやって来た。
「この馬鹿息子が。」
エイルが殴られた。
「ルイーゼ王女の裸を覗くなんて、そんな育て方をした覚えはない。」
エイルは、床に倒れ込んだ。
私はエイルにかけ寄る。
「ニャニャ伯爵、それは違うよ。」
「国王陛下。しかし。」
「ルイーゼの魔法は猫でね。猫から人間に戻る時、裸になってしまう。裸を見たのは、不可抗力だよ。しかも、エイル君は、木から落ちたルイーゼを助けたから、むしろ良いことをした。悪いのは、うちのおてんば姫だよ。でも、本人はエイル君を凄く気に入っていて、結婚する気満々なんだ。」
「そうだったのですか。エイル、殴ってすまなかった。」
「いえ、お父様。」
エイルのほっぺが真っ赤になっている。
「おじさん、エイルを殴っちゃダメ!」
「ルイーゼ王女、もう殴りません。それよりも、本当にうちの息子で良いのですか?」
「うん。エイルがいいの。私の王子様だもの。」
こうして、私とエイルは婚約者になった。
それから、月に一回のエイルと会えるお茶会が楽しみだった。
「エイルは、何の食べ物が好き?」
「僕は肉が好きだよ。」
「エイルは、何色が好き?」
「青色が好きだよ。」
「どんな女の子が好き?」
「……可愛い子かな。」
たくさんエイルの事がわかる様に、色々質問したわ。
お茶会にお肉を出してもらう様にお願いして、お花は青いものを飾ってもらおう。
可愛い女の子は、美少女の私がいるから大丈夫ね。
「嫌いな食べ物は?」
「辛いものだよ。」
「嫌いな色は?」
「ピンク色かな。」
「嫌いな女の子は?」
「悪口言う子。」
「わかったわ。私、悪口は絶対言わない。」
辛い物は出さない様にして、ピンク色は無くすようにしよう。
「ルイーゼ様は、何の食べ物が好きなの?」
「私は甘い物が好きよ。」
「お菓子とかが好きなの?」
「そうよ。特に苺ののったケーキが好きなの。」
「好きな色は?」
「緑よ。エイルの瞳がキラキラしていて綺麗だから。」
「好きな男の子は?」
「勿論、エイルよ。目が大きくて、鼻が高くて、色白で少しだけそばかすがある所も全部好き。」
「……そばかすが好きなんて始めて言われたよ。」
「そう?そこが、チャームポイントじゃない!」
「ルイーゼ様にとっては、そうなのか。ありがとう。」
「何で?」
「いや、良いんだ。」
賑やかに何回も何年もお茶会を続けた。
エイルも私もどんどん大きくなっていったわ。
毎月花束や手紙が届くの。
エイルは、そういう所が丁寧な所も好きよ。
ただ、エイルが十五歳になってからは、魔法学園に入学したから、長期休暇しか会えなくなったの。
すれ違いで私も魔法学園に入学したから、六年は、殆ど会えなかったわ。
寂しかった。
でも、今日は私の卒業式。
これからは、もっと沢山エイルと会えるわ。
「ルイーゼ、おめでとう。」
「エイル、ありがとう。」
会場から外に出ると、大きな薔薇の花束を持って、エイルが立っていた。
いや、私の前に跪いた。
「ルイーゼ王女。私が絶対に幸せにします。どうか、エイル=ニャニャと結婚して頂けませんか?」
差し出された花束を受け取る。
「勿論、喜んで!」
私がエイルに抱きつくと周りから拍手と歓声の声が上がった。
そうだったわ。
卒業式の会場の出入り口だから、人が多かったの忘れていた。
次の日の新聞に、私たちの事が大きくのっていたわ。
「ついにこの日が来たわ。」
卒業式から半年後、私達の結婚式だ。
私達の仲が良好な事は、卒業式の日に知れ渡ったらしくて、王族と伯爵の結婚で爵位の差が二つにも関わらず、周りからの祝福の声が大きい。
白いウェディングドレスに身を包み、タキシードに身を包んだエイルの隣に立つ。
「凄く幸せよ。」
「僕もだよ。」
誓いの口付けは、甘かったわ。
エイルが苺の飴を口の中に入れてたの。
ケーキは流石にいれておけないけれど、飴ならこっそり入れられたからって。
私が、苺のケーキが好きだから、ファーストキスも甘くしてくれたの。
エイルは、最高だわ。
「新居にようこそ。」
「凄いわ。この部屋、私が好きな物ばかり。」
「ルイーゼの好きなものは、沢山知っているからね。」
「そうね。今まで、沢山話をしたものね。」
「ねえ。魔法が進化したって本当?」
「そうよ。学生時代に手紙で書いた通りよ。人間の姿のまま、猫耳と猫の尻尾だけ生やすことが出来たの。」
「僕にも見せて。」
「勿論、良いわよ。」
私は魔法を使おうとした。
「違うよ。場所はこっちで。」
エイルはベッドを指差した。
「……ええ、勿論よ。」
その後、二人で朝まで過ごしたわ。
今までお茶会だけだったから、こんなに一緒にいたのは、初めてだったけれど、幸せだったわ。
これからも、幸せな人生が続く事は間違いないわ。
だって私は、運命の王子様と結ばれたから。
後日、女性の作家さんが来て、私とエイルの話を本にしたいと言ったの。
私達は、勿論はいと言ったわ。
女性の人から質問されたから、ついつい色々な事まで話ちゃったわ。
「小説の題名は、何が良いですか?」
「ひとめぼれとか初恋とかかしら。」
「僕の愛する子猫とかかな?」
「それなら、これはどうでしょうか?」
『愛する猫の恋物語』
こうして、小説となって、社交界のオシドリ夫婦として有名になったわ。
私達の娘もまた大恋愛をしたのだけれども、それはまた別のお話よね。
お姫様は、運命の王子様と結婚して、幸せに暮らしました。
おしまい。
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読んで頂き、ありがとうございました。
ルイーゼとエイルと娘の話も、その内書けたらと思っています。
よろしくお願いします。