6 コシオリ先生にお会いしますわ
「ようこそ、シロのお嬢さん」
嗄れた声が迎えてくれる。確か、コシオリ先生。本名ではないでしょうね。鍔広の三角帽子をかぶった、腰の曲がった老婆。部屋の中でも帽子なのね。
「まあ掛けて掛けて。薬藻茶は嗜むかね?」
部屋の中は薄暗くて、薬のにおいが籠もっていて、いかにも魔女の部屋といった趣だわ。
「いただきますわ」
本当は薬藻茶はあまり得意ではないのだけど、ここは断れるタイミングではないわね。
この先生とは直接お会いするのは初めてだけど、ゲームで少しだけ知ってる。国内屈指の魔女。世界の終わりを願う裏ボス。そして王子ルートでは先生が王妹……じゃないわ、王の姉であることが明かされるわ。
「魔術は誰にでも開かれておるよ」
こちらを見ずにコシオリ先生がぼそっと言った。お茶から視線をあげるが、先生とは目が合わない。
「何があったのかは知らないが……いや違うね……」
目にはいるのは、しわの多く刻まれた指と、いくつもの指輪。
「何かを知った、という顔をしている」
お茶に再び目を戻して、次の言葉を待つ。きっと先生は私に何かを聞きたいのだと思う。授業の選択で担当の先生に呼ばれるという話は聞いたことがないもの。
「何故かを聞いても?」
聞かなくてもわかるはずだ、とは言わない。先生は私の意志を確認しようとしている。なので、私もそれに応えるわ。
「戦う力が欲しいのです」
「戦う……?爵位を持つ家の次期当主が?」
「当主としてではなく……そうですね、ヒトとして」
シナリオに抗う力が欲しい。生きた人間として、自分として生きたい。でもそのためにレベル上げという、ヒトの理から外れた、システムの理を利用しようとしている私は果たして何なのでしょうね。
「ふぅん、ヒトとして、ねぇ」
コシオリ先生の、皺の奥の深く黒い目がこちらを見る。
「そうすると、それはちょっと邪魔だろう?」
先生には何が見えているのだろう。
「どうせ目覚めてないんだし、今のうちに抑えさせてもらうよ」
そう言うと先生は指輪のたくさんついた手を私の頭の上にかざした。私からは見えない位置にあるはずの石がいくつも明滅するのがわかる。そして自分の中の何かが、別の力に包み込まれるのも。
「あの」
「このまま行けばいつか目覚めるはずだった属性。お嬢さんには心当たりがあるんだろう?」