4 ステータスですわ
このゲーム、おまけ程度とはいえ戦闘要素があった。乙女ゲームにその要素は蛇足だとかなり評判は悪かったようだけど。普通に考えたら学園で見目麗しい男性を好きに選んでくっつきましょうなんていう絵物語の主人公が戦う必要なんてないわよね、特に前世の価値観なら。
そしてレベル上げスポットは学園の内外に存在している……のだけどさすがに脚爵家次期当主でまだ婿も選んでいないご令嬢としては、あまり好き勝手に出歩くわけにもいかないわ。学園への往復も家紋入りの馬車なのだし。
「それに、ねぇ」
目をウインドウに落とす。基本ステータスの部分。
Lv. 1
HP 10/10
MP 1/????
レベルは良いわ。HPもまあいいでしょう。問題はMP。きっとこれが魔力、魔法の源ということよね。1しかないのも、そもそも魔法なんて使ったこともないしそんなものかもしれないけど。その1が赤く見えてて、その右が読めない状態なのは、普通じゃないということぐらいわかるわよ。ただ、何度見てもこの数字や謎の表記が変わるわけでもないし。プレイヤーキャラじゃないので仕方がないのかもしれない。
「選択授業の申請前で良かったわ」
私は右手を振ってウインドウを消す。ゲームのストーリーどおりに進んでもヒロイン転校直前には魔法に目覚めるはずだけど、それじゃあ先手が打てないわ。
「お嬢様」
外から声がかかる。
「ああ、学園についたのね。ありがとう」
外から馬車の扉が開けられる。またありがとうと言ってしまったわ。扉の外だったから反応は見えなかったけれど、驚かせてしまったでしょうね。まあいいわ。これから慣れてもらいましょう。何十年もの前世の記憶を細かく思い出したわけではないけれども、染み着いた癖のようなものは少し私に影響を与えているわ。
学園のシンボルは世界樹と二匹の海老。校舎のそれを見上げながら私は車寄せからまだ慣れない校舎へと向かう。まだ男の子の多い同級生たちと無難に挨拶を交わしながら、ゲームの記憶とみんなの顔を照らし合わせていく。今の私はまだ悪役令嬢、あるいはそのような類の存在だとは認識されていない、と思う。人の心の内まではわからないけれども。
「ノワちゃん!」
「ご機嫌ようシャルロットさん」
シャルは相変わらずね。そういえばゲームでのシャルはどうだったかしら、と記憶をたぐって……
私はとても暗い気持ちになった。